まず全身全霊をかけて一発屋になれ。上司に怒られ続けた新人の企画開発者が、大ヒット商品をつくるまで

2021年1月18日

2007年にバンダイから発売された「∞(むげん)プチプチ」。ついつい押したくなる梱包材のプチプチを再現したこの玩具は累計335万個を売り上げ、大ヒット商品となりました。

そんな「∞プチプチ」の仕掛け人は、当時バンダイの新規商品の開発を担当していた高橋 晋平さん。現在は独立し、おもちゃクリエーターとしてさまざまなゲームやおもちゃを制作し続ける高橋さんですが、入社当初は企画がなかなか通らず、悪戦苦闘の日々を送っていたのだとか。

そんな高橋さんがヒットメーカーになるまでに経験した苦労や、アイデア出しのコツを伺いました。

「人を笑わせたい」という一心でおもちゃメーカーへ。しかし上司から怒られ続ける毎日

株式会社ウサギ代表取締役 おもちゃ開発者・クリエーター 高橋 晋平さん。2004年に株式会社バンダイに入社。「∞プチプチ」をはじめ、「Human Player」や「瞬間決着ゲーム シンペイ」など、数多くのおもちゃ企画開発に携わる。バンダイを退社後、2014年株式会社ウサギを設立。現在はおもちゃ、ゲーム、サービスの企画・開発以外にも、執筆や講演など幅広く活躍。人生を変える企画を作る個人向けセミナー「IDEA of LIFE」主宰。著書に「一生仕事で困らない企画のメモ技」など。

──335万個を超える大ヒット商品「∞プチプチ」を世に送り出されましたが、どのような新入社員時代だったのでしょうか?

いや、それが僕はダメダメな新入社員で、入社3年目くらいまでは、なかなかヒット商品をつくれず、上司に怒られ続けていたんですよ。

──え、そうなんですか?

はい、もうイタい……というか履き違えた新入社員でしたね。大学時代、お笑いサークルに入っていたこともあり、「人を商品で笑わせたい」という想いでバンダイに入社したんです。

その当時の私は、、本来であればお客さんを笑わせなくちゃいけないのに、会議室で笑いを取ることに必死で……。今思えば、上司や先輩に爪痕を残そうとその場でウケるためだけの企画書を提出していたんですよね。

──ウケるためだけ……。ちなみに、その企画書は上司にウケていたのでしょうか。

最初は笑ってくれていました。だけど、それが半年くらい続くと本気で怒られるようになりました。

例えば、覚えているのは「渋谷テレビ」という企画。これは、渋谷の駅前をそのままジオラマで再現して、ビルの大きなモニター部分に液晶テレビをはめ込んだ商品です。今考えると、誰が欲しいんだ、っていう(笑)。

同期はすでにキャラクターもので企画が通って、商品化を進めたりしていたのと比べて、明らかに遅れを取っていましたね。

──当時はそんな状況に悩んだりはしませんでしたか?

どうすればいいのかわからない状況ではありましたね。ただ、当時は任天堂DSが発売された時期だったので「やっぱりおもちゃは衰退産業だよね」とかぶつぶつ言って、時代のせいにしちゃう、やばい奴でした(笑)。

開発者である自分が、消費者でもあることに気付けた

──ダメダメだったという新入社員時代を過ごした高橋さんが、「∞プチプチ」のような大ヒット商品を生みだせたきっかけはなんだったのでしょうか?

ターニングポイントは社会人2年目でした。

海外の商品「20Q(トゥエンティ・キュー)」を自分がいた部署で輸入販売することになり、おもちゃ屋さんで店頭実演販売をする担当になったんです。これは、イエスかノーかを答えていくだけで、頭に思い浮かべたものを当てる、というおもちゃ。

この2000円のおもちゃが、実演であっという間に100個売れたんです。その様子を見てすごく反省したんですよね。「おもちゃは衰退産業だ」とか言って売れないと思ってたけど、目の前で2000円のものが飛ぶように売れている。

そこで自分は社内の会議だけでウケようとしていた、ということにやっと気付きました。

──企画への考え方がガラリと変わった。

そうです。それまでは「我は開発者なり。我の感性を、消費者は楽しむなり」とか思っちゃっていたんですよね。

でも、自分だって会社終わったらスーパーで物を買っているわけで、当たり前ですが、自分も消費者なんです。そう考えたら新入社員時代に出した「渋谷テレビ」は、自分でわざわざお金を出して買おうと思わない。

一方で『20Q』は自分も買いたいと思いましたし、「親に見せたい」って思ったんです。実際に親に買っていったら、すごく喜んで遊んでいて。

そこから、企画を考えるときは自分だったらこの商品をその値段を出して買うか、ということを絶対に忘れないようにしようと思いました。僕はそこでやっと商品開発のスタートラインに立ったんですよね。

勝負したいというものを見つけたら全身全霊で勝負する

──それからどんな企画を出したんですか?

とにかく数を出すということはずっと意識していたので、そこに「自分だったら買うかどうか」という視点を加えて出していって、企画が通って初めて売れたと言える商品が「Human Player」というおもちゃでした。

これは性格診断から自分の分身を生み出せて、その生活を観察することができるというもの。この企画は、それまで怒り続けていた上司が「これ売れそう」ってボソと一言言って、通してくれたんです。

いかに自分の欲しいものを出して、上司を納得させるのが大事かということを実感したんですよね。今振り返ると、ここが「∞プチプチ」につながっていたなと思います。

──「∞プチプチ」はどのような経緯で商品化していったのでしょうか?

「∞プチプチ」は企画会議の前の晩、悩んでいたときに、会社にあった梱包材のプチプチが目について、人がついつい指でつぶしがちなプチプチを、ボタンで再現したおもちゃにするのはどうだろうと思ったんですよね。

当時携帯電話のストラップ売り場に勢いがあったので、ストラップにして売れば、いけそうだなと。ただ、最初にチームメンバーに企画を見せても反応が全然良くなくて、会議にすらかけられませんでした。

──ボツにされてしまったんですね。

そうなんです。でも自分でもやけにプチプチのアイデアが気に入っていて、生産メーカーの人に相談したらサンプルもつくってくれて。これまでだったらボツになったときには、あっさり引き下がっていたんですけど、「この案がなくなるのは絶対にいやだ」と思い、上司に再度懇願したんです。

そしたら、今までなかなか企画が通らなくて、気弱だったやつがそこまでしているのを見て、「わかった。企画会議に出すなら100回に一回『プチ』じゃない音も入れたほうがいい」と企画会議に出していただいた上に、アイデアもプラスしてくれたんです。

──どうしても通したいという高橋さんの想いに押されて、一緒になって考えてくれたんですね。

とはいえプチプチが流行っていたわけでもないし、企画会議に出しても売れる裏付けを示せないんですよ。商品化にはやはりお金がかかるので、ある程度売れるとみんなが信じられないとなかなか難しい。

そこで、少しでも裏付けになるようなデータがないか徹底的に調べていきました。すると、「人はなぜプチプチをつぶすのか」という心理をつく、“アフォーダンス”という心理学の現象に行き着いたんです。人は物体に対して何かしら意味付けをしたくなるらしく、人は突起物があったら押したくなるし、ドアにくぼみがあったら手をかけたくなる、と。

──心理学による裏付けがそこでできたんですね。

そうですね。実際にプレゼンの日にプチプチのシートを企画書に添えて渡したら、案の定、部長も営業の人も、みんな潰していて。「みなさんがそうやって押しているように、この∞プチプチを商品にしたら誰もが押したくなります」と提案していったんです。これをストラップ売り場に置いて、買わないと押せないようにしたら、きっと押したくなって売れるはずだと。

そしたら、部長が「おもしろい」と言ってくれて、企画を通してくれました。「∞プチプチ」はその後、開発だけでなく、自分でプロモーション、販売まで担当しました。

──熱の込もった社内プレゼンテーションが認められたのですね。

やはり適当にものを作って、大ヒットするなんてことはあり得ないんですよね。小手先できれいにまとめてロジックが通っていても、それだけではだめで、自分で考えて、やれることを全部やり尽くさないといけません。

だから、これを読んでいる若い方には「まず、全身全霊で一発屋になれ」ということを伝えたいですね。いろんな仕事がある中で、優先順位はあると思うけど、ここで勝負したいと思えるものがあったら、最後までとことんやり切ることが絶対大事だな、と。

──勝負するタイミングがきっとくるはずだ、と。

とはいえ、僕でいう「∞プチプチ」のようなものを見つけられるかって、ほとんど運だったりするんですよね。でも、僕「計画性偶発性理論」っていう考え方が好きで。これは、起きることすべては偶然だけど、計画的にいい偶然を起こすことはできる、という考え方。

だから、積極的に好きな人としゃべったり、やりたいことがあったらその周辺のことを深く知ろうと学んだりすることが大切。僕だって、「おもちゃは売れない」と言って何もしなかったら「∞プチプチ」は生まれなかったわけですから。

(インタビュー・文/いちじく舞 編集・撮影/高山諒+ヒャクマンボルト)

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フリーライター/編集/企画いちじく舞
小心者だけど羞恥心はあまりない。散らかった経歴を経ています。とうもろこしと大学いもとものづくりが好き。
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