池ポチャしたボールを拾い年収1,000万?ゴルフボールダイバーの仕事とは

2022年11月4日

広大なゴルフ場のコース内にある、池や海、湖、川などのウォーターハザードに「池ポチャ」したゴルフボールを回収する「ゴルフボールダイバー」という職業。噂によると、年収を1,000万円近く稼げることもあるといいます。「ボールを回収するだけで、なぜそこまで稼げるのか?」とつい疑問を感じてしまう人も多いのでは。今回は全国各地のゴルフ場でゴルフボールダイバーとして活動する木村洋志さんに、仕事の裏側についてお話を聞きました。

2時間で約2.4万球のロストボールを回収!1,000万円プレイヤーの実力

ゴルフのプレイ中、意図しない方向へボールを飛ばしてしまい、行方が分からなくなってしまう「ロストボール」。ゴルフの経験が浅い人ほど、ボールを紛失してしまいがちです。コース内のウォーターハザードにボールが落ちてしまう「池ポチャ」も、プレイヤーが拾い上げることができなければロストボールとなります。

持ち主不明のロストボールは、すべてが廃棄されるわけではありません。状態の良いボールは洗浄し、ロストボール販売業者の査定を経て、新品よりも安価な「リユースボール」として再びゴルフショップの店頭へ並ぶのです。木村さんは池ポチャしたロストボールを回収し、業者に販売することで収入を得ています。

木村さんは主にゴルフ場からの依頼を受け、池ポチャしたロストボールを数日間〜数週間かけて回収。池の深さや大きさはゴルフ場によって異なり、水深約1メートルから約10メートルまでさまざまです。作業時にはウエットスーツに空気ボンベを背負い、フィンを足に装着します。

「空気ボンベの容量には限度があり、1本の空気ボンベで潜水できる時間は2〜3時間ほど。その限られた時間のなかで拾うボールは平均1万球くらい。しかし、ゴルフ場から報酬を受け取っているわけではないので、ただ回収するだけではお金になりません。洗浄後、ブランドやボールの状態をチェックしながら仕分け作業を行い、業者に買い取ってもらうんです。多くのボールは70〜80円程度で買い取られますが、ブランドによっては1球500円くらいになることもあるんですよ。

もちろん拾ったボールの全てに値がつくわけではないです。4割ほどのボールは水中で劣化が進み、使いものになりません。でも6割はちゃんと買い取られる。例えば2週間、1箇所のゴルフ場に滞在し、1日1万球、週3回のボール拾いを行ったとすれば、平均して100万円〜200万円以上の収入にはなります」

木村さんは年間を通し、全国各地のゴルフ場でボール回収を行います。作業の合間には、他のゴルフ場へ営業をかけることもしばしば。木村さんのスキルを知った新規のゴルフ場から「うちの池でもボールを回収してほしい」と連絡が来ることもあるそうです。

「日本国内だけではなく、海外のゴルフ場から連絡をもらうこともあるんですよ。今、僕のボール拾いの最高記録は2時間で約2万4千球。この数字、業界で活動するゴルフボールダイバーの中では日本一です。ギネス記録の申請もしているところですから。この速さと回収量が、僕の強み。おかげさまでいろんなゴルフ場から声をかけてもらえます」

冷静さを欠くことが命取りに――「池の中」で作業することの過酷さ

年間で5〜7箇所ほどのゴルフ場を渡り歩けば、年収はあっという間に1,000万円。潜水士免許さえ取得していればゴルフボールダイバーを名乗って活動でき、国内では副業としてボール回収作業を行うダイバーも存在します。

「短時間で一気に稼げる」という点では魅力的なゴルフボールダイバーの仕事。しかし、年収1,000万円代のプレイヤーになるためには高度な技術と経験値が求められます。

木村さんがボールを回収する時は、基本的に手探り。池の水は濁っていて、水底がはっきり見えることはありません。2016年、木村さんがゴルフボールダイバーを始めた当初は「今ほどボールを拾うことができなかった」と語ります。

「最初はそりゃあできませんでしたよ。どれだけ頑張っても、ボンベ内の空気を無駄遣いしてしまい、作業できる時間が今よりもっと短かったんです。1日1回の作業で回収できるボールはせいぜい3,000球くらい。右を向いても左を向いても真っ暗な世界だし、拾う動作もしんどかった。でも慣れてくると、徐々に池のどの辺りを探ればボールが転がっているか、分かるようになってくるんです。

作業する上でやっぱり重要なのは、呼吸の使い方ですね。ゆっくりと酸素を吸うことが、空気ボンベの持ち時間を長くする秘訣です。そうすれば一回の作業時間も最大限に確保できるし、水中でも落ち着いて行動できるようになるんです。

それに、慣れてくると息の使い方が体に染みついてきて、水中でも少ない酸素でテキパキ動けるようになります。最近だとテレビで深海の映像が流れるだけで、自然と口呼吸になる(笑)。ある種の職業病ですよね」

ゴルフ場からの「池の中を綺麗にしてほしい」というニーズ、そしてロストボールに対する需要があるからこそ「依頼されれば一年中、どんな池にも潜る」と木村さん。しかし過酷なのは冬場の作業。指先の凍傷を防ぐためにグローブへ唐辛子を詰め込んでから潜水するほどなのだとか。また池の中で思いもよらないものを目にすることも。

池に張られた氷を割って潜水する様子。水温が低くても回収作業は決行する。

「ゴルフ場の池って、ゴムシートを水底に張った人工池が多いんですよ。でも時々、元からその土地にあった自然池を活用しているゴルフ場もあるんです。実は一度、潜ってみた時に『何かが池の中に埋まっているな』と思って調べてみたら、井戸が水底にあって(笑)。

そもそも日本では『隠し田』といって、年貢を納めたくない農村が自分たちの食い扶持を確保するために、こっそり稲を育てる慣習がありました。放置された隠し田が長い年月をかけ、沼や池に変化することもある。そうやって生まれた池を、意図せずコースに活用しているゴルフ場もあるんです。きっと井戸があった自然池も、元々は隠し田だったのだと思います。

それにしても、かなり不気味でしたよ。映画の『貞子』が現れそうな禍々しさがあって、どうしても気になって仕事にならない。だから、まずは井戸の中に頭を突っ込んで潜ってみたんです。池自体の水深は3メートルで、井戸の底まで潜ると5メートルくらい。くまなくチェックして『よし、貞子も出てこなさそうだ』と自分を安心させてから、やっと仕事に取り掛かりました。

先ほども言った通り、水の中は真っ暗なんですよ。冷静さを欠いてしまうことが命取りになる、危険な作業だと思います。だからこそどんな状況であっても落ち着いて作業することは、常に意識するようにしています」

「楽して儲けたい」人はゴルフボールダイバーとの相性が悪い

常に危険と隣り合わせであるゴルフボールダイバーの仕事。しかし知名度が上がるにつれ、木村さんのSNSには「ゴルフボールダイバーになって稼ぎたいから弟子にしてほしい」というダイレクトメッセージが届くようにもなりました。

これまでに数十人に仕事のノウハウを教え、後継者を育てようとした木村さん。しかし、実際に業界に残っているのはたったの2人。「狭き門の職業」だと木村さんは語ります。

「あまりに多いんですよ。『楽して儲けたいから、ゴルフボールダイバーになりたい』っていう人(笑)。誰でもすぐ仕事にできると思ったら大間違い。今、国内ではゴルフ場ごとに受け持ちがなんとなく決まっているんです。よほど突出したスキルや関係値がない限りは、仕事を得ることは難しい。潜水士免許を持っていたとしても、ちゃんと稼げるようになるまでに、相当な営業力と技術力が求められると思います。

そもそも『楽にお金持ちになろう』という発想のもと仕事を探している時点で、ゴルフボールダイバーという仕事との相性は悪い気がしています。コツコツとスキルを身につけ、小さな成長を繰り返しながら徐々に稼げるようになっていく職業だから。『楽して稼ぐ』って、要は『コツコツ成長していく』という過程を吹っ飛ばす考え方なんですよね。求めている理想と現実のギャップがありすぎます」

では、精神的にも肉体的にも過酷なゴルフボールダイバーという仕事を木村さんが続けている理由は?

「やった分だけ目の前で成果に還元されるからです。成功を積み重ね、『日本一の腕を持つ』と他者から認められるようになったからこそ、自分の中でもプライドをもってはたらけている。過酷ではありますが、楽しく仕事ができています。

ゴルフボールダイバーという仕事に限らず、『儲かる』とは小さな成功体験を積み重ねた結果だと思っています。自分との約束を一つずつ守り、達成していくことではじめて『年収』という目に見える成果が出るんです」

近年では地上波テレビのバラエティ番組でも取り上げられるように。

現在の仕事に対しやりがいを感じる木村さん。最後に、はたらくことに対する価値観がどのように培われたのかを聞いてみました。

「ゴルフボールダイバーになる前は焼き鳥屋を営んでいて、3年間で7店舗まで増やしたんですよ。でも離婚を機にうつ病になり、仕事に対するモチベーションがまったく上がらなくなってしまったんです。ついには生きるのも嫌になって、自ら命を絶つために沖縄まで行きました。そしてその時に偶然出会ったのが、ロストボールを販売する会社の社長さん。その会社へ2016年に勤めたあと、2017年から独立し、ゴルフボールダイバーを名乗り始めました。

おそらく僕が『成果が見えることが楽しい』『小さな成功を積み重ねることで成長できる』と考えるようになったのは、一度『死のう』と決意するまで落ちたからだと思うんです。

中卒で勉強も苦手だったのですが、命を救われてロストボール会社に入ってからは、本も読み始めて。『生きる力をつけて、誰よりも強くなろう』と考えていました。周りからも『やけに野心のある奴だ』と思われていたかもしれません。

そのうち『次は認められるようになろう』『次は社会に対し貢献できるようになろう』と、どんどん欲求が加速していくようになりました。まず自分を幸せにできるようになる。次は周りを幸せにできるようになる、次は社会を……と小さなステップから段階を踏んだことが、今の仕事に対する考え方、やりがいにつながっていると思います」

(文:高木望 写真提供:木村洋志)

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ライター高木 望
1992年、群馬県出身。広告代理店勤務を経て、2018年よりフリーライターとしての活動を開始。音楽や映画、経済、科学など幅広いテーマにおけるインタビュー企画に携わる。主な執筆媒体は雑誌『BRUTUS』『ケトル』、Webメディア『タイムアウト東京』『Qetic』『DIGLE』など。岩壁音楽祭主催メンバー。
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