YouTuber・てんちむさん、炎上で5億円返金の末、無期限活動休止した理由。

2024年2月15日

SNSで活躍するインフルエンサーにとって、仕事における最大のリスクは「炎上」でしょう。投稿が炎上して人々の注目を集めると、時に「炎上商法」とも揶揄されますが、そのようなケースでは、インフルエンサー自身のイメージが悪くなり汚名返上できない可能性のほうが高いと言われています。

YouTuberのてんちむさんは「豊胸はしていない」と自身の手術歴を隠してバストアップ商材をプロデュースしたために大炎上し、約5億円もの返金を抱えることに。
それから半年で全額自腹返金し終えた裏側と、29歳で活動休止に至るまでの葛藤を、てんちむさんとの共著『推される力 推された人間の幸福度』(星天出版)で紹介しています。

10歳から29歳まで、子役タレント、ブロガー、YouTuberと転身しながら“自分”を仕事にしてきたてんちむさんに、失敗からの立ち直り方と、約20年も生き残り続けたブランディングについて伺いました。(取材は2023年9月に実施)

ピンチの時こそ即対応。5億円の自腹返金で生き延びた

てんちむさんが大炎上から再起できた最大の理由は、スピード感ある対応です。炎上直後に公開した謝罪動画で、てんちむさんは「返金希望者には自腹で返金する」と公言しました。

「豊胸以外にも、バストアップのためのマッサージやエステ、下着などでのケアを普段からたくさんしていたのと、豊胸したことを隠したい気持ちもあり、嘘をついてしまいました。でもそれは商材(バストアップ下着)を買ってくれた方を騙す行為だったんだと自覚して、せめて返金して償いたいと思ったんです」

大きな失敗をすると落ち込んで立ち止まってしまうものですが、てんちむさんは「挽回するにはすぐ対応しないといけない」と断言します。そうでなければ、悪いイメージが定着してしまうからです。

「炎上すると非難が殺到するので落ち着くまで待つ人が多いんですが、悪いことが起きたらどう切り返すかが大事だと思うんです。炎上がYahoo!ニュースになって注目された時、休止せずにすぐ返金を発表して行動したから、その後の対応までニュースで取り上げてもらえました。あそこで私が逃げていたり長く休んだりしていたら、炎上したことしか話題にならず『てんちむは嘘をついた詐欺師』というだけで終わっていたと思います」

返金額がどれくらいになるか予想がつかない段階で「全額自腹返金」を発表したてんちむさんは、返金するためにもインフルエンサー活動の継続を決め「貯金2億2000万円の支払いを返金に充当」「頭金1億円を支払っていたマンションの解約・アパートへの引っ越し」「ブランド品の売却」といった対応を1カ月以内に実行し、その様子を動画にして公開しました。

当時住んでいたタワーマンションを退去し、アパートへ引っ越し

「2億2000万円の貯金がありましたが、返金希望者数が2万件を超えて慰謝料も上乗せされたことで『貯金だけでは足りない』と分かり、プライドは全部捨てました。稼ぐには注目されないといけないから、世間の笑い者になっても注目されるならいいと思って自分の転落をさらけ出したんです」

最終的な返金額は約5億円。普通なら心が折れてしまう金額ですが、明確な目的設定と達成意欲により、淡々と行動できたと言います。

「何億円だろうと最短で返金するのが私の目標なので、稼ぐための行動をするしかありません。当然YouTubeは毎日更新し、夜は銀座のクラブと六本木のショークラブでトリプルワークをすると決めました。毎日1日2時間睡眠ではたらくトリプルワークは関係者全員に『できるわけない』と反対されたんですけど、最短で返金するにはやるしかないので、悩まなかったです」

「タワマンからの転落」「人気YouTuberが銀座のホステスになる」といった意外性のある行動は次々にニュースになり、ファン以外からも注目されました。

銀座の高級クラブではたらくてんちむさん

100万回以上再生された動画も多く、ホステスの仕事もダンサーの仕事も連日満席になり、わずか半年で約5億円もの支払いを実現しています。

「自腹返金は身から出た錆なので、誇れることでも美談でもないです。でも、人生であそこまでがんばったのは初めてで、逃げずにやり切ったから自分を嫌いにならずにすみました。逃げたくなるような失敗ほど、逃げたらずっと後悔します。失敗したら放置しないですぐに行動し、その行動をきちんと見せることが誠意なんだと思います」

意外なギャップをつくり、自分のポジションを取ってきた

てんちむさんは10歳で『天才てれびくんMAX』にレギュラー出演し、子役タレント、ブロガー、ギャルモデル、YouTuberと、約20年にわたり表舞台での活動を続けてきました。
芸能界からSNSへと活動の場を変え、炎上を経てもずっと影響力を高め続けられたのは、時代に合った新しいコンテンツに自分ならではの独自性を加え、その都度新しいポジションを取ってきたからです。

とはいえ、新しいポジションはそうそう空いていません。てんちむさんがポジションを取るために意識したのがギャップづくり。YouTube投稿を始めたころのてんちむさんのキャラは、“かわいい”のに“口が悪いゲーマー”でした。

ゲーマー時代のてんちむさん

「ゲーマーを選んだのは、廃人になるくらいゲームが好きだったから。登録者数を増やすには、インパクトを与えて爪痕を残さないといけません。かわいい女の子もゲーム実況していたので『かわいい女の子×何か』の掛け合わせでギャップを出そうと思って、かわいいのに口が悪い、それでいて男っぽいゲームをゴリゴリにプレイするキャラクターにしました」

てんちむさんは順調に登録者数を伸ばしましたが、言葉遣いの荒さゆえ視聴者から叩かれることも多く、武器にしていた容姿に対する誹謗中傷も絶えませんでした。

「YouTuberになるまで、自分をかわいいと思っていたんです。でも毎日『ブス』『老けた?』ってコメントを見ていたら、自分をかわいいと思うことが怖くなってしまって。それに対して私が暴言を吐いて、またさらに叩かれ続けていると、、廃人になるくらい好きだったゲームも楽しめなくなって『稼いでも全然幸せじゃない』って思うようになりました」

すっぴん部屋着でウーバーイーツを食べ、憧れと共感を両立

そこでてんちむさんは「口が悪いけどかわいいゲーマー」というキャラを捨て、推し感情が強い女性ファンを増やすブランディングに舵を切りました。
女性ファンが一気に増えたのは、部屋着でのUber Eats企画です。すっぴんでヘアターバンをつけ、Uber Eatsで頼んだものを食べながらあれこれ語る動画でした。

「Uber Eatsで頼んだ食事を食べながら自分のマインドや哲学を語って、中身を知ってもらう方向に切り替えました。すっぴんの部屋着姿なら容姿にしか興味ない人は見ないから、誹謗中傷を減らせます。
ダラダラした姿を見せることで、てんちむって本当はこんなゆるいところもあるんですよって親近感を伝えつつ、だれでもほっとした気持ちで見られるコンテンツにできます。ゆるキャラの擬人化みたいなイメージで発信したいと思っていました」

すっぴん部屋着ではあるものの、撮影している場所はタワマンであり、映っているのはUber Eats。当時はまだ日本に上陸したばかりだったUber Eatsをタワマンで食べる様子には、憧れの要素も入っています。
てんちむさんはこうした共感と憧れの両方を伝え、そのギャップでファンの熱量を高めていきました。

「憧れと共感の両方を持てたら最強なんです。すっぴん部屋着は共感できるけど、それだけだとだらしない人になっちゃう。Uber Eatsの動画でひたすら家でダラダラしている姿を見せたら、次はモデル撮影でバリバリはたらいている姿を見せたりして、二面性は積極的に出していましたね」

憧れと共感が同居するてんちむさんの人物像は同世代の女性から強く支持され、ゲーム実況をしていたときは視聴者の8割が男性でしたが、このころには女性視聴者が8割を占めるようになり、男女比率が逆転しました。

ハイブランド爆買い企画で、アンチをファンにできた理由

ハイブランド爆買い企画もてんちむさんが先駆けです。今ではハイブランド品を並べてSNSに公開するのは珍しくありませんが、てんちむさんはまだYouTuberがお菓子など庶民的な商品の爆買い企画をやっていた時代に、ハイブランド爆買い企画をスタートしました。

パリコレに招待され、1000万円以上のハイブランド品を爆買い

「『お金を使った分、また仕事をがんばらなきゃ』って思えるように、伊勢丹で一気に100万円分くらい爆買いしていたんです。まだYouTubeでお金持ちブランディングしている女の子はいなかったので、せっかくならコンテンツにしようと思いました」

当初は一部の視聴者から反感を買って叩かれたものの、その場での好感度を捨ててキャラ立ちに振り切ったそうです。
てんちむさんはこれまでの経験から「熱量あるファンを生み出すには、自分の色を強く出さないといけない」と理解していました。

「ハイブランド品を誰かに買ってもらっていると思われたくなかったので、しっかり仕事している姿も見せるようにしていました。あと、買い物の総額は言いますが、1個1個の値段は細かく言いません。自慢っぽくなるので」

こうした配慮をしながらハイブランド品の爆買い企画を続けるうちに「お金持ちの女性YouTuber」というキャラが定着。アンチコメントが減って「憧れる」「かっこいい」といったコメントが増え、チャンネル登録者数は約170万人にまで伸びていきました。

お金や人気を追い求めるはたらき方に限界

徹底したブランディングと人並外れた行動力で成功してきたてんちむさんですが、2023年9月末、29歳で無期限活動休止を決めました。2023年12月末で、YouTube動画もすべて非公開にしています。(書籍『推される力 推された人間の幸福度』で紹介している動画のみ限定公開)

「これまでのインフルエンサー業で、仕事面ではたくさん成長させてもらいました。ただ、0か100かで振り切ってしまう私は、表に立っていると“てんちむ”としての行動を優先してしまって、自分を大切にする生活を送れないんです。
見せたくない姿も、出したくないプライベートも、全部動画にしてきました。それで人気やお金は手に入ったけど、心が荒んでいった気がするんです。いつでも仕事を優先できるように、広く浅い人間関係を守るようになりました。『自分を大切にできない人は他人を大切にできない』って言葉は、意外と真実だと思います」

てんちむさんは「もっと自分や他人を大切にできる人になりたい」と言います。

「YouTuberになって、お金や知名度じゃ、自分は幸せになれないと学びました。30歳を迎える前に活動休止して、自分としっかり向き合って、人としても成長したい。けじめをつける意味で、動画を非公開にすると決めました。」

その言葉どおり、2023年末にYouTube動画を非公開にし、SNSの舞台から降りたてんちむさん。責任感や達成欲に圧し潰されずに自分のペースで生きることを選んだのです。
その先に見据える未来とは。

「極端すぎると言われますが、そうでもしないとここまで必死につくり上げてきた“てんちむ”から離れられない。“てんちむ”だった日々には感謝しているし大切な思い出だけれど、“てんちむじゃない自分”で生きる世界を見てみたいです」

(文:秋カヲリ 写真:倉持涼、本人提供)

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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