学生で社会人レベルの収入を得て独立。美容系YouTuber・サラさんのセルフブランディング

2023年10月11日

無表情の目だけがかかれているお面がメイクでかわいく激変する「お面メイク」のショート動画がバズり、人気シリーズ化しています。動画を投稿したのは、YouTubeチャンネル「コスメヲタちゃんねるサラ」を運営するYouTuber・サラさん。


コスメガチ勢であり、美容系YouTuberとして根強い人気を誇るサラさんは、大学在学時代にYouTubeの動画投稿で新卒社員レベルの収入を得て、8年間も安定して活躍し続けています。今回は、話題となった「お面メイク」の制作秘話や、YouTuberとして生計を立てるまでのプロセス、YouTube戦国時代に生き残るセルフブランディングの秘訣を伺いました。

YouTuberは路上パフォーマー

──話題になった「お面メイク」を撮影したきっかけは?

中国の通販サイトで出会った、目しかないお面がきっかけです。いろいろな商品を見るのが好きで、ネタ探しがてらチェックしていたらそのお面を見つけました。「これにメイクしたらおもしろいんじゃないかな」と思ってメイクシーンをショート動画にしたら、それがすごく伸びたのでシリーズ化したんです。
お面にメイクするのは一発勝負でもありますが、失敗したらリベンジ動画をつくれるので「失敗してもいいか」と思って楽しくつくっています。

――動画づくりで工夫したポイントは?

1秒目の画面に映る情報の取捨選択です。最初のお面メイク動画では「メイクの偉大さが分かる動画」というテロップを出して、日本製のコスメを机に並べて画面に映るようにしました。ショート動画は海外動画もよく表示されるので、日本人の方に動画を見た瞬間に「日本の動画だ」と気付いてほしかったのと、「このお面がメイクでどれだけ変わるんだろう」と期待するワクワク感を持ってほしいと思ったんです。

――思わず見たくなる仕掛けがありますね。

ショート動画に限らず、すべての動画を「路上パフォーマンスをしている気持ち」でつくっています。路上パフォーマンスって通りがかりに横眼で見た人たちに立ち止まってもらって、目の前に来てもらわないといけないじゃないですか。同じように「タイトルやサムネイル画像が目に入ったときに見たくなるか」という視点で考えています。

――普段はどんなサムネイル画像が多いのでしょうか?

私のチャンネルは、気になるコスメを調べていて辿り着く方が多いので、サムネイル画像では自分の顔よりもコスメを目立たせますね。視聴者が気になるだろう情報を優先して出すようにしています。

サムネイルの一例

――たくさんの美容系YouTuberが商品紹介をしている中で。8年間も見られ続けている理由はなんだと思いますか?

動画を見ていただいている方に、「あ、この人は信用できる』と感じてもらえるように素直なレビューを心掛けているからだと思っています。たとえメーカーさんに送ってもらったコスメだとしても、嘘はつかずにストレートな感想を伝えています。

あと、分かりやすさも意識していますね。商品を紹介している間は、画面の上に商品名と色番と価格をずっと表示しておいて、「買いたい」と思った人がどのタイミングでスクリーンショットを撮ってもメモ代わりに見られるようにしたり、腕にしっかり塗って肌色に乗せるとどんな色になるかを伝えたりと、細かい部分も配慮しています。

肉眼に近い色の見え方に調整するために、照明の当て方はかなり研究しました。動画を何度も撮っては確認して、ライトをどんどん足して、最終的には4台で照らすようになりました。

――4台とはすごいですね。撮影や編集に時間がかかるのでは?

いえ、撮影は1時間ちょっと、編集は2~3時間で終わります。コスメの紹介だと撮る内容はほぼ決まっているし、編集もバラエティ系の動画と違って凝ったテロップや効果音をたくさん入れるわけではないので、あまり難しくないんですよ。ただ現在は、企画と撮影に集中する時間を作るため、編集は委託しています。

学生時代に新卒社員レベルの収入を得られるように

――YouTube活動を始めたのはいつですか?

2015年で、大学3年生のときでした。YouTubeの「好きなことで、生きていく」ってキャッチコピーの広告が出て、YouTuberがようやく職業として認知され始めたころです。日本人の美容系YouTuberは今ほどいなかった印象です。

――そんな時期にYouTube活動を始めようと思ったきっかけは?

私は中高と校則が厳しい女子校に通っていてメイクができなかったので、大学に入ってからメイクに対する興味が爆発して、コスメの情報をたくさん収集していたんですね。お金がないから、とにかく情報を見比べて厳選したかったんです。当時はインスタグラマーなどコスメ情報の発信に特化して活動している人もあまりいなくて、Twitterでコスメ好きの方が粗めの画質でアップロードしている写真を見比べるしかありませんでした。

そんなとき、大学の授業中にYouTuberの動画を見ているクラスメイトがいて「なんで一般人のおじさんを見ているんだ?」と不思議に思って(笑)。それまでYouTubeはアーティストのPVとか企業のプロモーション動画を見る媒体だと思っていたので、一般人の動画も見られていることに驚いたんです。

それでYouTubeを見てみたら、美容系YouTuberの方がコスメの紹介動画を公開していて、Twitterよりずっと詳しい情報を得ることができました。私もTwitterでコスメ情報を発信していて、その時点で600人くらいフォロワーがいたので、YouTubeでも発信してみたらおもしろそうだなと思って始めたんです。

――反響はどうでしたか?

週1回のペースで投稿していましたが、最初はあまり伸びませんでした。当時から人気だった美容系YouTuberの動画と自分の動画を比較して、何が足りないのか分析しましたね。サムネイルやタイトルのインパクトが弱いと感じて、企画をしっかり考えてみようと思い、試行錯誤しました。

最初に反響があった動画が、プチプラコスメとデパコス(デパートで売っているような高価格帯のコスメ)で半顔ずつメイクして、左右で仕上がりを比較する企画です。正直、近くでよく見ないと分からないくらいの差だったので、それを素直にレビューしました。

YouTubeを始めて1年後くらいに出した動画で、当時の登録者数は約3万人でしたが、30万回ほど再生されたときにようやく手ごたえを感じました。そこからじわじわ伸びていって、3年目くらいで10万人を突破しましたね。

――着実にコツコツ伸ばしたんですね。YouTuberを本業にしたのはいつですか?

大学を卒業してからずっとです。大学を卒業する時点では、YouTubeで食べていけるかいけないかくらいの収入でした。今ほどYouTubeを仕事にしている人もいなかったので、大学を卒業してからは「美容師の資格を取って手に職をつけよう」と美容専門学校に入学して勉強をしながら、YouTube活動を続けていたんです。

23歳のころ、チャンネル登録者数が約30万人に到達して、一般的な新卒社員レベルの生活が送れるくらいは稼げるようになり、一人暮らしを始めました。美容専門学校への通学も通信に切り替えて、YouTube活動に注力するようになってからますます登録者数が増えて、収入も着実に増えていきました。「YouTuberって夢がある職業だな」と驚いたのを覚えていますね。
美容専門学校を卒業してからはYouTubeに専念し、ずっとYouTuberとして活動しています。

美容系YouTuberの逆張りがオリジナリティに

――自分のポジションをつくるために意識したことは?

ほかの美容系YouTuberと被らないように、綺麗な自分を見せるより実用的な情報を発信することを優先しました。美容系YouTuberはコスメで綺麗にメイクした自分を見せる人が多かったんですが、「もともとかわいくて、憧れられる存在のイメージの人が多いな」と思って。
一般人の私が発信するなら、実用的な情報を軸にしつつ、斬新な企画を切り口にして発信にしたほうがいいんじゃないかなって考えたんです。

だから、自分のパーソナリティよりもコスメの情報のほうが大事。サムネイル画像にも、私ではなくコスメを大きく入れて、コスメが実際に使えるか使えないかって視点で動画をつくりました。キャラクターもつくらず、ただただ素を出していますね。

――パーソナリティを出さずにブランディングするのは難しそうですね。

なので、企画のおもしろさを重視しています。よくやっているのが、美容系だけどネタっぽい企画。たとえば紫色のコスメは「透明感が出る」って言われているので、紫系コスメだけでメイクをして「パープル縛りメイクしたらもはや透明になれる説」というタイトルで動画をつくりました(笑)

ネタ企画ですが、みんな「紫系コスメって本当に透明感出るの?」って疑問も持っているのでニーズもあって、178万回(2023年8月時点)も再生されたヒット動画になりました。

――確かに、サラさんはネタっぽいおもしろ企画が多い印象です。

ちょっとオタクっぽいチャンネルにして、ほかの美容系YouTuberと差別化しています。チャンネル名も最初は「サラ」って名前だけだったんですが、登録者数が5万人くらいになったタイミングで「コスメヲタちゃんねるサラ」に変えたんです。

ずーっとステーキ食べているとお味噌汁を飲みたくなるじゃないですか。そんな感じで、疲れたときに
ほっと一息つける存在になれたらいいなと思って、あえて飾らないおもしろ系の企画を考えています。

――美容系YouTuberの逆張りをしていますね。

企画も逆張りが多くて、コスメの情報サイト『アットコスメ』で評価が高い「ベストコスメ」だけでメイクした動画を公開している美容系YouTuberが多かったので、私は評価が低いワーストコスメでメイクした動画を公開しました。サイトでは高評価順に並び替えができても低評価順にはできない仕様なので、高評価順にしてからひたすらページの最後までクリックして、一番評価が低いコスメを探しました(笑)。これも人気で、166万回(2023年8月時点)再生されています。

あえて自分語りや顔を前面に出したサムネイルでパーソナリティを出さなくても、情報×おもしろ企画がセルフブランディングになって、結果的に自分のキャラクターを出せたと思っています。

――引退するYouTuberも多いですが、8年間ずっと続けられている理由は?

単純に好きだからですね。幸い美容系は女性全体がターゲットで、常に新作が出ていてニーズもある強いジャンルで続けやすかったというのがあります。ほかには老若男女問わずニーズがある料理系、男性ニーズが高いゲーム系も強いと言われています。

コスメはどんどん新しい商品が出てくるので、題材にも困らないです。おかげで今は週4回の投稿を続けられています。

――これからやりたいことは?

YouTubeでの動画投稿を軸にしつつ、いろいろなことに挑戦していきたいです。最近は初の書籍『プチプラコスメでつくる ちょっとメイクが楽しくなる本』(宝島社)を出版しました。私自身が企画重視のYouTuberなので、企画をそのまま本に生かしたいなと思って、NGメイクとOKメイクを半顔ずつ見せたり、デートや結婚式などシーン別のメイクを7パターン解説したりと、日常生活で役に立つ実用性の高い本にしています。

YouTuberもできるだけ長く続けたいですね。視聴者さんも私とともに年齢を重ねていきます。若くないからと尻込みせず、そのときの自分に応じたメイクを発信していきたいなと思っています。みんなが取り入れやすいメイクを発信して、親近感が持てる美容系YouTuberでいたいです。

(文:秋カヲリ 写真提供:サラさん)

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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