【医師監修】新現代病?急増する「マウス腱鞘炎」のNG行為と予防法

2021年11月2日

昨今の社会情勢に伴い、生活やはたらく環境が大きく変わったという方も多いのではないでしょうか。連載「はたらくHack!」では、この時代を元気に自分らしく“はたらく”ためのエッセンスをご紹介していきます。

第10回目のテーマは「マウス腱鞘炎」です。

パソコン作業の必需品ともいえるマウス。コロナ禍となり、仕事時間以外でもショッピングやゲームなどでパソコンに向かっている時間がさらに長くなった人も多いよう。マウスを使いすぎて、指や手首が痛くなったり、動かしにくさを感じることはありませんか?もしかしたら、マウス腱鞘炎かもしれません。仕事をストップするわけにはいかないからと、放っておいて悪化すると大変なことになってしまうようです。
なぜ痛みが出たりや動かしにくくなるのか、そのメカニズムから改善法・予防法まで、テレビや雑誌などでも活躍されている、かわかみ整形外科クリニック院長の川上 洋平先生に伺いました。

川上 洋平先生 
かわかみ整形外科クリニック院長 医師・医学博士
神戸大学医学部卒業。米国ピッツバーグ大学に留学し、膝関節外科、再生医療、スポーツ医学を学び、神戸大学病院、新須磨病院勤務を経て、患者さんにやさしく分かりやすい医療を提供することを目的に、かわかみ整形外科クリニック(神戸市垂水区)を開業。日本整形外科学会専門医。日本リウマチ財団登録医。

■トピック

・手や指の酷使、手首が反る状態が腱鞘炎に。特に女性は要注意!

・早期発見を!悪化すれば指が伸びない、物が握れない状態に


・一番の予防法は、疲れをためない、痛んだら休む

手や指の酷使、手首が反る状態が腱鞘炎に。特に女性は要注意!

――マウス腱鞘炎とは、どういうものなのでしょうか?

長時間マウスやキーボードを使うことで、手に負担がかかっておこる腱鞘炎の総称です。「マウス腱鞘炎」という呼び名がつくほど、近年急増している疾患で、主に指や手首に痛みや動かしにくさなどの症状が現れます。

――指を使うといえど、ケガするほど強打しているわけではないのに、なぜ痛みが起こるのですか?

指や手首は、骨と筋肉をつなぐ腱(けん)という紐のようなもののはたらきによって曲げ伸ばしができます。そして腱は、靭帯性腱鞘(以下、腱鞘)と呼ばれる、腱が骨から離れない位置でスムーズに動くことができるようにサポートしているトンネルのようなものの中を通っています。
指や手首を頻繁に動かすなどして負担をかけると、腱と腱鞘がこすれ合い、その摩擦によって炎症が起こって腫れたり、痛みが出たりするというわけです。

――具体的には、パソコン作業中のどのような動作が原因となるのでしょうか?

指の腱鞘炎は、マウスのクリックやスクロールのしすぎ、キーボードを強く打つなどが原因となることが多いようです。手首は、パソコン作業では大きく動かしませんが、キーボードやマウスを使うときに親指が浮いていたり、手首が反った状態が長く続くと手首の腱に大きな負担がかかり、腱鞘炎を引き起こしてしまいます。

手の腱鞘炎は、特に女性がなりやすいと言われていて、指の腱鞘炎では80%程度が女性という報告(*1)もあります。実際に私のクリニックでも、手の腱鞘炎で来院する患者さんの70~80%が女性ですから、ぜひ気を付けていただきたいですね。

――そんなに女性が多いのですね。どうしてなのでしょうか?

女性ホルモンの中のエストロゲンが影響しているようです。エストロゲンは、ダメージを受けた腱組織の修復維持に関与している可能性があり、これが欠乏することで腱鞘の炎症などを抑える物質が減って、腱へのダメージが蓄積しやすくなると考えられています(*2、3、4)。そのため、女性のライフサイクルの中でもエストロゲンが減少する出産後や更年期の女性が特になりやすいと言われています。

早期発見を!悪化すれば指が伸びない、物が握れない状態に

――悪化すると……?

指の場合、「ばね指」と呼ばれる狭窄性腱鞘炎(きょうさくせいけんしょうえん)になることもあります。ばね指になると、指の曲げ伸ばしをする際、カクンとばねのように弾かれる感覚があり、カクカクと音がするようになります。やがて曲げ伸ばしをするたびに激痛が走るようになり、さらに悪化すると、反対の手で動かさないと指が伸ばせなくなってしまいます。

手首に痛みが起こる腱鞘炎は「ドケルバン病」と言います。手首には親指を伸ばす腱と、広げる腱の2本が通っていて、炎症を起こすと動かしたときに強い痛みが走り、悪化すると握力が落ちたり、物が握れなくなったりします。
スマホを片手持ちして親指で操作するなど、スマホで親指を酷使して発症することもあり、別名スマートフォンサム(Smartphone thumb)とも呼ばれています。

指も手首も、腱鞘炎が重症化すれば、炎症が生じている部分にステロイド薬の注射をしなければいけなくなったり、手術が必要になる場合もあります。

――重症化したら仕事どころではありませんね。腱鞘炎を早期に発見する術はありますか?

まずは手のひらを見てみましょう。指の場合はMP関節という指の付け根にある関節部分が膨らんできます。指の第一関節や第二関節が痛む場合でも、大元の原因はMP関節にあり、この部分が腫れたり、痛みがでてくるので一つの目安になると思います。

手首の場合は、フィンケルシュタインテストという、診断法があります。親指を内側に入れて握りこぶしを作り、手首を小指側に曲げます。手首に違和感や痛みがあれば、腱鞘炎になりかけている可能性が大!注意が必要です。 

一番の予防法は、疲れをためない、痛んだら休む

――マウス腱鞘炎予防のために、日ごろからどのようなことを心がけるといいでしょうか?

一番の予防法は、手を休ませる時間をできるだけ多くつくること、疲れをためないことです。仕事でパソコン作業をし続けたのであれば、プライベートではあまり使わないようにするなど、意識して手を休めましょう。
また、血行を良くすることも疲労回復の促進になるので予防に有効です。パソコン作業時なら、1時間に1回はマウスやキーボードから手を放し、指を反らせたり手首を曲げるなど、軽いストレッチを行いましょう。こうすることで、血行がよくなります。入浴時にバスタブの中で温めながらセルフマッサージを行うものおすすめです。

ほか、下に挙げることも、パソコン作業時にぜひ心がけてください。

●画面の文字を読んでいるときなどは、マウスやキーボードから手を放す。
●マウスやキーボードは軽いタッチで打つ。
●キーボードが体から遠すぎると手首に負担がかかりやすいので、キーボードの前に書類を置いたりしない。
●リストレストを使うなど、手首が反らないように工夫する。

また、スマートフォンを操作する場合は、親指や手首の負荷を軽減するように、両手で操作をしたり、手首を返す動作を避けるようにしましょう。

――違和感や軽い痛みを覚えたとき、症状を緩和するセルフケア法はありますか?

アイシングと固定が有効です。
痛みや腫れがある場合は炎症を起こしているので、まずはアイシングで炎症を抑えましょう。5~10分を目安に冷やしてください。冷たい湿布をしたり、塗り薬を使うのも良いと思います。
固定は、指の場合なら痛む関節が曲がらないようにテーピングをしましょう。その際、あまり強く巻かないように注意してください。血流が悪くなると、逆に痛みが強くなることがあります。
手首の場合は、テーピングの仕方が難しいので、市販の腱鞘炎用サポーターを利用するのがおすすめです。

腱鞘炎は、症状の具合にもよりますが一度発症すると治るのに2~3週間かかってしまいます。違和感を覚えたら放置しないできちんとケアし、悪化させないようにしましょう。動かすと痛くて、日常生活に支障が出るようなら早めに病院へ行き、受診してください。

***

今後の更新情報は、はたわらワイド公式Twitterアカウントにてお届けします。

<参考文献>
*1 Kareem Hassan et al.,:「De Quervain Tenosynovitis: An Evaluation of the Epidemiology and Utility of Multiple Injections Using a National Database」(『J Hand Surg Am』2021 Jun 16;S0363-5023(21)00242-2.

*2 Roman-Blas JA et al.,:「Osteoarthritis associated with estrogen deficiency」(『Arthritis Res Ther』)2009;11(5):241.

*3 使いすぎだけが原因じゃない!? ホルモンバランスと腱鞘炎の関係
https://www.joshi-karada.jp/wellaging/2141.html

*4 Y Hirase:「Hands and Fingers Disorder as a Women’s Disease- Why My Hands and Fingers Hurt or Grow Numb」( 『Clinics in surgery』)2018

※本記事で提供する情報は、診療行為、治療行為、その他一切の医療行為を目的とするものではなく、特定の効能・効果を保証したり、あるいは否定したりするものではありません。

(文:佐藤美喜)

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編集・ライター佐藤美喜
大手出版社勤務を経て、フリーランスの編集&ライターとなる。女性誌やPR誌、子ども向け雑誌から書籍までを手掛け、“旅” “食” “健康”をはじめとする幅広い分野に携わる。共著あり。海&ダイビングが好き!

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