仕事疲れの社会人に伝えたい、持続可能な自炊生活のススメ

2022年6月23日

単身赴任や一人暮らしなど、ライフステージの節目を迎え「せっかくだから」と自炊にチャレンジしてみる人は多いでしょう。しかし、仕事終わりの自炊は慣れない人にとっては、なかなかハードルが高いものです。

そこで 「自炊料理家」として幅広い年代層の自炊をサポートする山口祐加さんに、忙しい社会人が「はじめての自炊」を楽しむコツをお聞きしました。

まずはこれだけで十分! 自炊料理家が提案する「はじめての自炊メニュー」

まずはじめに、「疲れて帰ってきた日でも簡単に作れる献立」というお題のもと、山口さんに作っていただいたメニューがこちら。

(左から)明太子のせご飯、ネギたっぷりの冷奴、桜エビとアオサのかちゅー湯


「かちゅー湯」とは沖縄で古くから愛される家庭料理。お椀にひとつまみのかつお節と、大さじ一杯の味噌を入れてお湯を注ぐだけ、という即席のお味噌汁(写真では、かつお節の代わりにアオサと桜エビを使用)。

電気ケトルでお湯を沸かしているうちに、冷凍ご飯をレンジで温めなおし、豆腐を皿に盛るとスーパーで売っている薬味ネギをその上にこんもりとのせる山口さん。調理時間は5分もかからず、フライパンもお鍋も不使用。

「本当にこれだけでいいの?」と不安になるほど簡単に出来上がります。

「かちゅー湯は、具と味噌が入ったお椀にお湯を注いでから1分待つことが大事。お味噌が溶きやすくなるんです。鰹節や干した桜エビは、時間をかけずに味の深みを出せることが魅力ですよね」

また、お豆腐が隠れるほどのったネギも自炊料理のポイント、と山口さん。

「居酒屋の冷奴って薬味のネギが少なくないですか?家で食べるときは薬味をたっぷり乗せちゃいます。これも自炊の楽しみですね」

「仕事疲れでコンビニ弁当ばかり」社会人特有の「あるある」な悩み

これらの「かちゅー湯」をはじめとする料理の数々は、山口さんが自炊初心者へ最初にレクチャーするメニューです。山口さんは普段、オンラインやキッチンスタジオ、時には生徒さんの自宅で「自炊レッスン」を開催しています。

自宅を訪問し開催する「パーソナル自炊レッスン」では、冷蔵庫の整理から使っている調理器具へのアドバイスまでレクチャーする。(画像引用元:note

レッスンに申し込むのは、子育てで時間に余裕のないお母さんから、定年退職後、料理に挑戦したいと決心した60代の男性までさまざま。社会人になってから「そろそろ自炊しないと」と門を叩く人も。申し込んできた生徒さんからは、「自炊に手が回らない」「コンビニ弁当ばかりで罪悪感がある」といった悩みをよく耳にするといいます。

「今のコンビニって数百円で十分美味しいものが買えるし、自炊をしなくてもお腹は満足しますよね。それでも『自炊をしたいんだ!』と思う人にまずオススメしたいのは、ご紹介したようなシンプルな料理です。

旬の野菜を焼いて塩をまぶすだけでもびっくりするほど美味しいですし、レトルトのカレーがちょっと味気ないな……と感じる時には、コンビニで買った小さめのトマトを刻んでカレールーに混ぜこめばいいんです。生野菜が入るだけで食感も良くなりますよ。そうやって少し工夫するだけで、物足りなさは解消されます」

しかし山口さんの提案に対し、多くの人はあまりの簡単さから「これって自炊なんですか?」と戸惑うそう。

SNSなどでキラキラした自炊料理を目にするからこそ『手間のかかる料理を作らなきゃ』と肩肘を張ってしまう人は多いと思います。

ただでさえ仕事で頑張っているのに、家でも料理で疲弊するのは嫌ですよね。バテないよう、力の抜きどころを教えることも、私の役目だと思っています。私も納豆ご飯だけで済ませることはありますから(笑)」

山口さんがSNSで記録している毎日のごはん「#今日の一汁一菜」。「準備に20分以上かかる料理はあまりつくりません」。

では「仕事でヘトヘトだけど、自分で作ったご飯を食べたい」と葛藤する人が、無理なく自炊を続けるコツとは?山口さんに自炊初心者として持つべき3つの心得を聞きました。

①失敗していい

レッスンを受講する生徒さんたちの中には「一汁三菜」「栄養バランス」という考え方に縛られ、自炊が億劫になってしまう人もしばしば。最初から自分自身に高いハードルを課してしまうことは「自炊離れ」の原因につながると指摘します。

「未経験なことほど『最初からうまくやるべき』『失敗しちゃいけない』ってハードルを上げてしまいますよね。それでハンバーグのような難易度の高い料理に挑戦し、全然美味しくできなくて挫折する、みたいな。新卒1年目の時の仕事と同様、最初から上手にできる、なんてことはありません。

そもそも料理は仕事と違い『こうしなきゃ』というルールや縛りはありません。毎日同じものを食べても別に誰かに怒られるわけではないし、栄養バランスだって前後3日くらいで帳尻を合わせれば問題ナシ。食材を均等に切ろう、なんて思わなくてもいいんです

②レシピは覚えなくていい

もうひとつ、自炊初心者がつまづいてしまう原因があります。それは「レシピ至上主義」になってしまうことです。料理をする中での「遊び」を楽しむことが継続の秘訣であると山口さん。

「よく『レシピを覚えられない!』という悩みを聞きます。私だって、レシピの内容はなかなか覚えられませんよ。レシピ通りに食材を集め、10分炒め、15分弱火で煮込み……って。歴史の年号を丸暗記している気分になりますよね(笑)。何より仕事以外の場でもマニュアルに沿った作業を求められ続けると、嫌気がさしてしまいます。

料理は『食材×調理法×味付け』の組み合わせで成り立っているんです。今回ご紹介したかちゅー湯も、具材を変えたり味噌の代わりに醤油で味つけしたりすれば、違う風味を楽しめます。自分の得意料理を3つくらい把握しておけば、そこから派生して『今日は豆板醤風味にしよう』『豚じゃなくて鶏でやろう』とどんどんアイデアが湧いてきますよ」

③効率が悪くていい

仕事の進め方に「一点集中型」と「同時平行型」があるように、料理も人によって進め方を変えていい、と山口さん。以前レクチャーした生徒さんの中にも、同時作業が苦手な方がいました。

「一点集中型の人は同時並行で作業することができない。それでもいいんです。効率よく料理することが『料理上手』というわけではないですから。

それでも手際よく料理をしたい場合は、キッチンタイマーを使ってみてください。1分だけ目を離していい時間をとり、タイマーが鳴るまでの間だけ野菜を片付けたり、洗い物をしたりすればいい。『これなら自分もできる』という方法を見つけるだけで、苦手意識は和らぎます」

自炊は日々継続できるクリエイティブなこと

2019年に山口さんが自炊レッスンを始めてから約3年。なぜ山口さんは「料理研究家」ではなく「自炊料理家」という肩書きのもと、人々の自炊をサポートし続けるのでしょうか。

「自炊はすごく面白いんです。新鮮な材料を探すことや、可愛い器を買ったりすることも楽しい。普段よりも200〜300円高い醤油や味噌を買うだけでびっくりするほど幸せになれるんですよ!日々継続できるクリエイティブなことだと思うし、作ったら食べてなくなるので、場所を取らないことも魅力です。

多くの人が自炊に対し苦手意識を持ち続ける中で、『自炊人口』がどんどん減っていく危機感もあります。もちろん『面倒』という気持ちは、すごく分かるんです。でも毎日のことだからこそ、ちょっとの工夫で『毎日向き合える趣味』に昇華してもらいたいんです」

「ハードルを下げる」「基礎から応用を考える」「効率を求めすぎない」という心得は、仕事においても通じる話。今、仕事を「退屈」「しんどい」と感じる人にとっても活かせる考え方かもしれません。

同時に、自炊は自宅でできる最高の息抜きの一つになりえます。山口さんは自炊の可能性について「メンタルのセルフケアにつながるのでは」と期待します。

「コロナ禍でオフラインレッスンができない中、生徒さんから『自炊が日々の癒しになった』という声をいただきました。パソコンと向き合う時間が長くなる中で、自炊がリフレッシュになったんじゃないかな、と。

だからこそ今後は、料理とメンタルの関係性を追究しようと思っています。『お腹を満たして、自分を生かす』という行為によって、間接的にこころの悩みを抱える人をサポートしていければと思っています」

(文:高木望 写真:yoshimi)

山口祐加さんのnote
https://note.com/yucca88

対面開催の自炊レッスンは現在参加者募集中
https://note.com/yucca88/n/n205a5523bc8b

新著「楽しくはじめて、続けるための 自炊入門」購入サイト
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B09WM8J215/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i0

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ライター高木 望
1992年、群馬県出身。広告代理店勤務を経て、2018年よりフリーライターとしての活動を開始。音楽や映画、経済、科学など幅広いテーマにおけるインタビュー企画に携わる。主な執筆媒体は雑誌『BRUTUS』『ケトル』、Webメディア『タイムアウト東京』『Qetic』『DIGLE』など。岩壁音楽祭主催メンバー。
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