BreakingDownを大ヒットさせた仕掛けとは。挫折を成功に変える凄腕起業家の「不屈の精神」

2023年12月19日

総合格闘家・朝倉未来選手が代表を務める格闘技イベント「BreakingDown」。出場選手をオーディションで募集、格闘技経験も不問でさまざまな選手が対戦し「1分間最強」を決めるこのイベントは、今や社会現象にもなっていますが、スタート当初は赤字で経営改革が求められていました。そこで根本からテコ入れし、1大会あたりの売上は約100倍にまで引き上げた立役者が、起業家の溝口勇児さんです。

現在BreakingDown株式会社のCOOを務める溝口さんは、トレーナーから経営者になり、複数の企業を成長させてきた華々しいキャリアを持つ一方で、貧しい母子家庭に育ち、高校在学中からはたらいていたスポーツクラブでは経営不振による担当店舗の閉鎖も経験。その後も創業に携わった会社で代表退任を突き付けられたりと、挫折も多く経験しています。

それでもなお社会的価値を生み出し続ける原動力と、挫折しても熱量を絶やさず再起するマインドについて伺いました。

リーダー自ら細部にこだわり、アンチに負けないビジョンを掲げた

溝口さんが代表を務める株式会社BACKSTAGEは、2022年にBreakingDownの大会運営をサポートすることになりました。当時のBreakingDownは赤字がふくらんでいる状態。経営を見直すため、まずは運営チームのプロジェクトに対するコミットメントを高めようと、一つひとつの作業の細部にまでこだわることから始めたそうです。

「人は、本気のリーダーについていくものです。ラーメン屋の店主が、茹で時間が10秒過ぎただけの麺を捨てたとします。その10秒のこだわりは、一般の人が味の変化を気付けないくらい繊細なものかもしれませんが、そこまで本気でこだわっている姿勢そのものが、麺を茹でる人にも、スープを作る人にも、皿洗いの人にも、接客する人にも伝わって、良いお店ができます。

だから僕も細部にこだわる姿を見せ、全メンバーに対して要求水準を高めました。オーディションの選考を書類選考から動画選考に変え、採点項目を細かくつけて、数千件の動画をくまなくチェックしました」

溝口さんは「数千件も応募動画があると、選考途中でやっつけ仕事になってしまう人もいます。こうしたことが起きないように細心の注意を払っていますが、本来落とすべきでない人を落としてしまった可能性を感じた際は、チーム全体で『なぜ起きてしまったのか』『どういう経緯で落としてしまったのか』を振り返り、原因の解明と対策を行うことで、数千人の中から未来のスターを絶対に引っ張り出せる体制へ改善していきました」と語ります。

さらに、活動の原動力を生み出すため「過去に過ちを犯しても、挑戦する勇気があれば、どんな人でも人生を変えられる」というコンセプトをつくりました。「1分間最強を決める。」というキャッチコピーは決まっていたものの、「なぜやるのか」にあたる「WHY」は定まっていなかったそうです。

「一度過ちを犯した人や失敗した人に不寛容な世の中になっていますが、僕たちぐらいは寛容でいいんじゃないかと思っているんです。もちろん、過ちを犯してしまった人が、簡単に許される社会は正しくないと思います。ただ、一度の失敗で一生立ち上がれない社会も違うのではないかと。だから、せめて僕たちくらいは、再挑戦する勇気さえあればいくらでも自分の未来を切り開けるんだということを、この興行を通じて伝えたいんです。」

これだけ人気が出ると、批判的な意見を述べるアンチも増えます。溝口さんやチームに対して「犯罪者を使って、犯罪予備軍をたくさん排出するのか」といったコメントがぶつけられることもありました。

「批判された時に『自分たちがやっていることには意味があるんだ』と信じられないと、批判を超えてまで頑張ろうとは思えません。反対に、自分の信念に従って行動すれば、批判なんて気にならなくなります。僕たちも先ほどお話ししたWHYの部分を大切にしているからこそ、ここまで興行を成長させることができました。」

溝口さんの生い立ちやこれまでの経験も、BreakingDownのコンセプト「挑戦する勇気があれば、どんな人でも人生を変えられる」にもつながっています。

「僕はずっとベンチャー業界ではたらいてきましたが、周りの経営者はすばらしい家庭で生まれ、すばらしい環境で育ち、いい大学を卒業した人ばかりでした。僕のように複雑な母子家庭で育ち、高校を中退したような人間はほとんどいないんです。そんな経験もあって、自分が携わるからには、BreakingDownぐらいは万人にチャンスを与えられる寛容な存在にしたいと思っています」

言行一致を貫くリーダーシップの土台は、キャリアで培った志

BreakingDownの改革は簡単ではなく、一緒に立ち向かうメンバーを引っ張っていくために意識したことが「言行一致」。 リーダーである溝口さん自身が誰よりもこだわり、掲げた目標を達成する姿を見せることで、チームからの信頼を築いていきました。運営会社代表の朝倉未来さんやスペシャルアドバイザーの朝倉海さんと意見がぶつかっても、遠慮はしなかったそうです。

「社会的な影響力の大きい人に遠慮してしまう人は多いですが、それは自分を守るための行動です。僕だって嫌われたくはないですが、自分が好かれることよりも、BreakingDownを成功させ、一度過ちを犯した人に再挑戦する勇気を与えることを優先しています。そのためには社会に影響を与えるくらいのインパクトを出さないといけなくて、そこにつながる行動を粛々とやるのが僕の役割です。」

「未来くんや海くんが、僕を『面倒だ』とか『しつこいな』とか思ったことはあるかもしれませんが、彼らは遠慮してほしいなんて思っているわけではありません。なぜなら、彼らはBreakingDownのファウンダーであり、プロデューサーであり、BreakingDownを成功させることがぼくたちの目指すゴールだからです。そのために僕は、彼らに対して配慮はしても遠慮はせず、ガンガンお願いします。そこをブレずにやり切ったことが、BreakingDownが成功した理由の1つだと考えています」

溝口さんがここまで強い志を持てるようになった背景には、これまでのキャリアがあるそうです。

「最初の仕事はトレーナーで、一対一でお客さまに接していました。当時のトレーナーの業界は実力や人気がものを言う世界で、まわりの優秀な先輩達に技術で勝るところが何一つ見つからず悪戦苦闘していましたが、負けずにただがむしゃらに目の前の仕事やお客さまに向き合いました。

そうすると次第に仕事が得意になって、得意になると必要とされることが増えて、必要とされるようになったらどんどん好きになって、いつしか一目置かれる存在になり、お客さまから自分の身の丈以上の評価が寄せられるようになりました。その結果、トレーナーの育成や、フィットネスクラブの経営全体を任せられるようになったんです」

しかし、過去20年間でフィットネスクラブの施設数が倍に増えても、利用者数は横ばいのまま。つまり、フィットネスクラブにいく人、もしくは行ける人に限りがあることを知った溝口さんはショックを受けます。不健康な人ほど所得が低く、ジムに行けないという実情がありました。

「であれば、スマートフォンを活用して非対面でも気軽に運動できるサービスを作ろうと考えました。広告ビジネスにすれば、より多くの人が無料で活用できます。こうしてステップアップするうちに、さらに多くの周りの人が僕に期待を寄せてくれるようになって、期待に応えたいって思いが強くなったんです。自分のためだった夢が、人のための志に変化しました」

挫折は幸福の種であり、成功へつながる過程

溝口さんには、インフルエンサーから実績ある経営者まで、幅広い人を巻き込む力があります。BreakingDownにおいても、さまざまな関係者を巻き込んできました。巻き込む力の源泉になっているのはやはりビジョンであり、「大義を持って人を引き寄せている」と語ります。

「僕自身、信じられるビジョンを掲げないと動けないんです。逆に言えば、信じられるビジョンがあればそこに向かってまっすぐ突き進めますし、周りにも思いをストレートに伝えられます。表層的な伝え方ではなく、深く話して理解してもらうことが多いです。

貧しい家庭で育った僕には、『社会のマイナスをできる限りゼロにしたい』という思いがあります。理不尽な状態にいる人を救いたい。これは多くの人が共感できる思いですから、そこを起点としたビジョンには多くの人が共感してくれます。だから多くの人から応援され、同じ方向に歩んでいけるんだと思います」

溝口さんは多くの人を巻き込む一方で、過去のキャリアにおいては周りと衝突することも多くありました。会社の方向性を鑑みて創業企業の代表を退いたり、社内クーデターに遭って代表退任要求を突きつけられたりと、大きな挫折を経験しています。

ただ、こうした挫折経験が「小さなことを幸せだと思える技術」と「自信」の土台になったそうです。

「多くの挫折を経て、幸せって“解釈”なんだと気付けました。貧しい家庭を不幸だと思う人もいれば、幸せだと思う人もいる。どうやったら幸せになれるかを考えるより、小さなことでも幸せだと解釈できる技術を身につけることが大事だと思うんです」

貧しい母子家庭に生まれ、持たざる者から挑戦し、あきらめずに起業し続けた経験が「何があってもあきらめさえしなければ全て乗り越えられる」という自信になっていると語ります。

「成功する上で最も大切なことはあきらめないこと。困難は逃げようとする人を追いかけ、奇跡はあきらめない人に味方をします。僕は『あきらめなければ、その先には成功しかない』と伝えたいです。皆さんが失敗だと思っていることも経験や学びにつながりますが、あきらめてしまうとそれはなにものにもなりません。本当の失敗はあきらめることです」

溝口さんには「なぜそれをやるのか」の答えとなるビジョンがあり、それを心から信じられるからこそ、迷わず自分が信じる道を突き進めるのだそうです。

「ビジョンは、これから歩むキャリアの地図とコンパスになります。地図とコンパスがなければ道に迷ってしまう。だからこそビジョンを持つことが大切です。そして、そのビジョンを持ち続けあきらめなければ、最後は絶対に目指す場所にたどり着く。心から信じられるビジョンを持ち、あきらめずに経験を積んでいく姿勢が大事だと思います」

(文:秋カヲリ 画像提供:株式会社BACKSTAGE)

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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