大盛況。新宿ゴールデン街のスナックはオンラインで何を売る?

2021年1月27日

新型コロナウイルスの第一波により飲食店が営業自粛を要請された2020年春。日本随一のディープスポットとして知られる新宿・ゴールデン街もまた、多くのお店が灯りを消し、街は静まり返っていました。

そんな中、ゴールデン街にある「Snack夜間飛行」はお店からライブ配信を行い、オンラインスナックを開始。お酒はお客さんが自宅で用意し、500円のチャージ代を払い、興が乗れば店長にお酒もおごる。

文字面だけ見ると、なぜお客さんが訪れるのか不思議にさえ感じますが、これが大盛況。初回は100人以上、そして現在も1回の配信に平均60人のお客さんが全国から訪れるそうです。

そこにはマーケティング本には書いていない真理があるのかもしれません。きっと、コロナ禍が続く今だからこそ大切なこと。店長のギャランティーク和恵さんに聞きました。

名店の伝統を受け継ぎはじまった「Snack夜間飛行」

オンラインスナックという新しい試みをはじめた「Snack夜間飛行」。しかし、常に時代の最先端を取り入れてきたお店、というわけではありません。このお店の歴史は、過去とのせめぎあいの中ではじまります。

新宿ゴールデン街と言えば今や国内外から多くの観光客が訪れる場所。しかし、その昔は多くの文化人が集まる「アングラ」な匂いが色濃い飲屋街でした。60年代、70年代にはその場の持つ磁力に引き寄せられ、田中小実昌や中上健次といった文豪や映画・演劇界のスターが足繁く通ったことはよく知られています。

そんな文化人が集まる飲屋街の中で、昭和40年代に開店し、ひときわクセの強い人が集まったというスナックが「桂」というお店。ギャランティーク和恵さんは、前オーナーが病に倒れたのち、知人から声をかけられ、この名店「桂」を引き継ぐかたちで「Snack夜間飛行」をオープンさせました。2007年9月のことです。

ギャランティーク和恵さん。「Snack夜間飛行」の店長であり、昭和歌謡の歌い手として音楽活動をするアーティスト。「夜間飛行」という店名は歌手・ちあきなおみさんの名曲にちなんだもの

和恵さんにお店がオープンした当時の様子を聞くと「大変でしたよ。『桂』はゴールデン街の終着駅と言われているくらいのお店でしたからね」と笑います。

「『桂』は老舗でしたし、大酒呑みで他で出入り禁止になった人が流れ着くような独特なお店。オープン当初はお店の雰囲気を変えるんじゃない!とか怒られたりしましたよ。でもこれは、店を引き継いでいく上での試練だなってね。だって、もう違う店なので来ないでください、とは言えないじゃないですか」

「桂」の頃からまったく変わっていないという内装。リアルな昭和の面影が残る。

お店を引き継いだものの、すぐには「自分のお店とは思えなかった」と語る和恵さん。

しかし、転機が訪れます。

前オーナー・中島さんの一周忌に企画された追悼イベント。「桂」の常連だった映画監督・かわなかのぶひろさんが撮った「桂」の映像を流し、常連のお客さん語り合うというものでした。

和恵さんはそこで初めて当時の様子を知り、お店に対する想いが変化していったそうです。

「お客さんは笑いながら見ているんだけれども、だんだん泣きはじめちゃったりしてね。それを映像の中に映っている中島さんと同じ席に座りながら不思議な気持ちで見ていました。上映会が終わった後はみんなスッキリした顔で『本当に和恵ちゃんありがとうね』と言ってみんな去って行って。

この日まではお店に立っていても、中島さんがまだこの空間にいるなって感じてたんですけど、それがフッといなくなったような気がして、もう大丈夫だって気持ちになって。初めて自分でやっていけるかもって思えたんです」

お店の一角に飾られた「桂」オーナーの中島さんの写真

スナックの世界をそのままオンラインで

オープンから13年が経ち、ようやく「夜間飛行」の看板もすっかり馴染んだ2020年、コロナウイルスの猛威が「Snack夜間飛行」にも訪れます。

3月上旬から客足は減りはじめたものの、政府からの営業自粛要請はなく、不安の中でお店を開ける日々が続きます。そんな中、3月下旬に週末の外出自粛要請が出されました。この様子では長期的に経営は苦しくなる。

そんな状況を打開したのは、和恵さんの思いつきでした。

「最初はね、ちょっとやってみる?という軽いノリだったんですよ。昔、歌手活動の中でライブ配信をやったことがあったので、その機材を使って週末だけオンライン営業したらどうかって。お店には誰もいないから、名前は『配信酒場Snack閑古鳥』。いいじゃん、おもしろそうじゃんって」

初めての配信は3月31日。4月5日の緊急事態宣言に先立ってのスタート。初回の営業ではなんと100人以上がインターネット上の店舗に訪れ、メディアでの紹介も手伝って「配信酒場Snack閑古鳥」は、注目を集めました。

オンラインといえど、システムはあくまでバーをなぞったもの。「チャージ制」の500円、加えてお店と同様にチケットが用意されており、「一杯どうぞ」と和恵さんにお酒をプレゼントすることができます。この仕組みを和恵さんは「オンラインで酒場ごっこ」と表現します。

「スナックで支払っている感覚をそのままスライドさせることで、お客さんも疑似体験ができるんですよ。視聴料ではなくチャージと呼んでいるのもそう。意外と、ごっこ遊びのワクワクする感じがお金を払う動機になったりするんです。

『支援金』だと躊躇するけど、ドリンクだったら気負わず一杯どうぞってコミュニケーションができるじゃないですか。そういう壁をなくすためには『ままごと』をちゃんとやるのが大事ですね。

それに、そもそも水商売で何がお酒の値段を決めるのかと言ったら、飲んでいる時の気持ち良さ、気分なんですよね。同じビールでも居酒屋では500円。でも、お店のムードも含めてここでは700円なんです、というのがこの商売ですから。

だから私へのドリンクもお客さまの気持ちとして支払っていただいているものなんです」

配信を開始すると、和恵さんは最低限の挨拶をすませ、オンラインで訪れた人の名前を読み上げていきます。しかし、オンライン配信らしい振る舞いはここだけ。

和恵さんとスタッフさんは声を張り上げるでもなく、何かにチャレンジするというような企画もなく。まるでカメラがないかのように会話をはじめます。

チャット経由のコメントを拾い2人の会話に自然に加えてあげる様子も、「一杯どうぞ」が送られお礼を言う様子も、よく目にするバーでの光景です。

「閑古鳥」に訪れるのは夜間飛行の常連が多いのかと思いきや、新規のお客さんが全国から訪れるのだといいます。

最初は応援の気持ちで参加する人も多かったのかもしれません。しかし、半年以上経った現在でも、週末の配信には平均して60人ほどの視聴者が集まるそう。

リアル店舗ではたった9席のお店。一度にそれだけの人が集まれるのはオンライン店舗ならでは。緊急事態宣言によりお店が開けなかった2020年4月からの約2カ月間、通常営業の売上をオンライン配信の売上で補填できたといいます。

そして、和恵さんは緊急事態宣言解除後も店舗営業に加えて、オンライン店舗を続けることを決めます。

オンラインでも変わらない、スナックの本質

昭和40年から続いた「桂」を和恵さんが引き継ぎ「Snack夜間飛行」へ。そしてコロナ禍で「Snack閑古鳥」へ。

「桂」の頃から受け継がれてきたもの。そして時代と共に少しずつ変えてきたもの。そんな混沌の妙味が、ここにはあるように感じられます。

「Snack閑古鳥」は言ってしまえば、ライブ配信と投げ銭という、ありふれたビジネスモデル。しかし利用しているシステムは一緒でも、やっぱりここはスナック。そこには和恵さんが考えるスナックやバーの本質があります。

「ライブも飲み屋も、やっぱりリアルには勝てないって言う人も多いんですよ。でもこの小さなスペースには60人も入りきらないし、離れていても一緒に飲めるっていうのは新しいお客さんの参加の仕方だと思ってるんです。

去年4月に休業を余儀なくされた時、飲食店はデリバリーを始めたりしてましたけど、うちらはさすがにお酒を持って行くわけにはいかないじゃないですか(笑)。バーという場所が何を売っている所なのかとずっと考えてたんですよ。お酒は二の次で、1番は人が集う場なんですよね。だから、店舗でもオンラインでも集う場所をつくっているって意味では同じことだと気づいたんです」

昭和40年にこの場所ができてからずっと変わらない「集う場」であること。そして、集うときの作法、空気、人。それらが変わらないからこそ「Snack閑古鳥」はライブ配信ではなく、オンラインスナックなのです。

そして、それを上手くスライドできたのは、エンターテイナーとしても活躍する和恵さんのセンスだったのでしょう。

「オンライン営業は、私の中では特別なことをはじめたっていう感覚ではないんですね。確かに入り口がリアルなのとオンラインなのでは変化があるように見えるけど、私の中では一貫しています。

スナックのママも歌手という仕事も他のことができなくて結果的に行き着いたようなもの。だから自分のできることを続けているだけなんです。今回のオンライン酒場も、違う分野に手をつけて新しいことをしている意識はなく、自分がワクワクしながらできると思える延長線上にあること。

そこの芯はこれからもブレないようにしたいと思っています」

ニューノーマルのはたらき方のヒント

●そのサービスや商品の本質的な価値はどこにあるのか。考えよう。

● 芯はブレないように、新しいことへチャレンジしよう。

●ギャランティーク和恵|歌手、バー経営者
2002年に歌手活動をスタート。以降、昭和40年代〜50年代の歌謡曲を歌い継ぎながら、現在のミュージシャンとのコラボレーションでオリジナル曲も定期的にリリースしている。また、2005年よりミッツ・マングローブとメイリー・ムーとのユニット「星屑スキャット」のメンバーとしても活動している。

(文/高橋直貴 撮影/小池大介)

※ この記事は「グッ!」済みです。もう一度押すと解除されます。

121
  • シェア
  • ツイート
  • シェア
  • lineで送る
編集者/ライターハヤオキナオキ
広く、深く、いろんな現場に出没します。朝の取材が得意です。
  • facebook
  • twitter

同じ特集の記事

人気記事

「営業にだけは、なりたくなかった」(スイスイさん)
元祖YouTuber・MEGWINは燃え尽きて、なぜそれでも世界一を目指すのか?
サウナ王・太田広の手掛ける施設は、なぜヒットするのか?経験が導き出した“成功の二大法則”とは
プライドが打ち砕かれた、あの日の打ち合わせ(山崎あおいさん)
「いのちの電話」相談員に話を聞いたら、「対話」に一番大切なことがわかった
  • バナー