「派遣さんをチームに入れないで」と言われて怒った私の社内改革

2022年10月11日

はたわらワイド編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。
今回は、はたらくことの喜びや、はたらくなかで笑顔になれたエピソードについて語る「#はたらいて笑顔になれた瞬間」投稿コンテストでパーソル賞を受賞した記事をご紹介します。

ある企業の人事部ではたらいていた森逸崎 海さんは、雇用形態ごとにはたらき方を線引きする社内の考え方に強い違和感を抱いていました。森逸崎さんはもともとアルバイトとして入社し、契約社員、正社員と雇用形態を変えていった経験から「雇用形態に関係なく、全員が笑顔ではたらける環境」を作ろうと決意します。その環境を作り上げ、笑顔になるまでの話をnoteに投稿しました。

「正社員じゃないから」と線引きされた悔しさ

「派遣さんを今後私のチームに入れるのをやめてほしい」

営業チームのリーダーは、人事部に異動したての森逸崎さんにそう言い放ちました。その言葉に、森逸崎さんはギョッとしたそうです。

当時勤めていた会社のメイン事業は、営業のアウトソーシング。クライアントからの発注に合わせ、派遣社員やアルバイトをチームの一員に迎えることはよくありました。

聞くところによると、出勤予定の派遣社員の方が三日連続で遅刻をし、そしてとうとう無断欠勤をしてしまっているとのことだった。

雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでしたより

その出来事自体は珍しくはなかったものの、森逸崎さんは個人ごとではなく雇用形態ごとに線引きする考え方に違和感を抱きました。

そのリーダーの苛立ちは分からなくもない。でも、「派遣社員」という存在自体にネガティブになる必要がどこにある。

雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでしたより

森逸崎さん自身、アルバイトとして入社し、契約社員、正社員へとはたらき方を変えていった経緯があり、どの雇用形態でも変わらず胸を張って、意欲的に仕事に取り組んできました。だからこそ、「正社員じゃないから」と線引きされることを人一倍悔しく感じたのです。

社内研修でも基本的に「正社員のみ」という参加条件があった。外部講師の場合は予算の関係もあったのだろうけど、自分がすごく興味がある内容に参加できないことに対しても、どこか疎外感を感じてしまっていた。

雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでしたより

確かに雇用形態によって描くキャリアパスは異なることもあるかもしれませんが「成果を出すために必要な情報は平等に得られるべき」と考えた森逸崎さんは、いつでも誰でも自由に学べる環境を整えようと決意します。

「本当は、もっと頑張りたいのに」と言ったAさんが、初めて笑顔になった

人事部の育成担当へ配属されてから、森逸崎さんの怒涛の日々が始まりました。

対面研修からオンライン研修への切り替え、いつでもアーカイブを視聴できる社内研修専用サイト立ち上げ、研修の「正社員のみ」という制限撤廃、上司との1on1セッティング、新人研修の調整、研修コンテンツの制作、社内インタビューに面談……と、ありとあらゆる業務を同時並行で進め、体制を整えていったのです。

本当に色々なことを経験させてもらって、怒涛ってこういうことを言うんだろうな、と思える毎日だった。

雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでしたより

上司にダメ出しされながらの奮闘でしたが、ある日、そんな努力が報われる出来事が──。

人事業務と兼業でアウトソーシングチームに営業企画として参加するようになり、派遣社員のAさんとオンラインで定期面談をしていた時のことです。
Aさんは笑ってこう言いました。

「あのね、私、この会社が初めてなんです。
派遣社員にも差別せずにきちんと研修してくれたり、自走するまでサポートしてくれたりするのって。
今まで割と、何も分からないまま現場に放り出されることもあったし、出たら出たで『できないから』って理由で簡単な事務作業だけしか振られなかったりもしたし。

夫の転勤で引っ越しして、育児から復帰したてなこともあって正規雇用じゃなくて『とりあえず派遣』って形を選んだけど、それを後悔することも多かった。

本当は、もっと頑張りたいのに。

でも今は、派遣の私にもチーム内で役割をくれたり、リーダーにならないかって声をかけてくれたり。
雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでした。
だから、今、ここで働くのがすごく楽しいんです。いつもありがとうございます。」

雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでしたより

その言葉は、森逸崎さんの心に深く沁み込んでいきました。

うわ。うわ。まじか。
嬉しい。素直に嬉しい。
多分、まだ「当たり前」のスタートラインに立てただけに過ぎない。でも。それでも。

雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでしたより

そして、笑顔でAさんにこう返しました。

「Aさん、こっちがありがとう、です。
環境を活用したのも、成果を出したのも、Aさんの力。
Aさんを見て周りの方も刺激を受けるでしょうし、何より、楽しそうに働いてくださっていることが、私は一番嬉しい。
これからも何卒、よろしくお願いします。」

雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでしたより

選択肢が広がっても、選択肢ごとに人間を細分化したら意味がない

Aさんは育児の都合で派遣というはたらき方を選びましたが、雇用形態を選択する理由は人それぞれ。

もちろん働く目的もモチベーションも人それぞれだろうし、給与に紐づいた責任範囲があるのは当然のことだろう。
だけど、それは決して、その雇用形態を選択した人のスタンスを否定したり、チャンスを奪ったりすることとは違う。

雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでしたより

そう語る森逸崎さんは、その人がその人らしくはたらける環境を作るのが目標です。
そして、そうした環境を作ることで「一緒にはたらく人が笑顔なのであれば、私は笑顔になれる」と確信しています。

はたらき方が多様化し、たくさんの選択肢が増えるのはポジティブなことでしょう。
でも、その選択肢ごとに相手のはたらき方を決めつけてしまったら、それは真の意味で多様化とはいえないはず。

どれだけたくさんの選択肢が広がっても選択肢ごとに人を細分化せず、一人ひとりと向き合ってコミュニケーションしていくことが、真の「はたらきやすさ」につながるのかもしれません。

森逸崎 海
書くことが好きなだけの人。エッセイ『ツレは27歳年上で』他 ゆるく更新 | 『無名人インタビュー』インタビュアー | コーチング・認知心理学勉強中 | #我慢に代わるわたしの選択肢(2022ツムラ) 企業賞 #はたらいて笑顔になれた瞬間(2022パーソル) パーソル賞

(文:秋カヲリ)

パーソルグループ×note 「#はたらいて笑顔になれた瞬間」投稿コンテスト

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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