芸人専属のスタイリスト!? 笑いとおしゃれの境界線を横断する“やりすぎない”美学

2022年1月11日

TVや劇場でお客さんを爆笑の渦に巻き込み、華々しく活動するお笑い芸人。ですが、その裏側でも、さまざまな人たちが活躍しています。

今回は、衣装を通してお笑い芸人の魅力を表現するスタイリストにインタビューを行いました。取材を受けてくれた池田黎摩さんは、弱冠24歳ながら、業界の第一線で活躍。『見取り図』や『ニッポンの社長』など、売れっ子芸人のスタイリングを担当しています。

芸人さんが持つイメージを壊さないように作る、池田さんならではのスタイリング、そして仕事をする上でのコミュニケーションの取り方の秘訣を伺いました。

とにかく行動が大切!池田さん流のキャリア作り

──池田さんがスタイリストを目指したきっかけはなんだったんでしょうか。

小さいころから洋服が大好きで、中学校くらいの時には洋服関係の仕事をしたいと漠然と考えていました。洋服に関わる仕事について調べてみた時に、デザイナーという選択肢も浮かんだのですが、どちらかというと洋服のコーディネートを考えるのが好きだったんです。それで、服を通して人の魅力を最大限に引き出すスタイリストが向いてるんじゃないかと考えました。

──将来のことについて早くから考えていたんですね。スタイリストの専門学校で勉強されたんですか?

高校を卒業した後、服飾の専門学校のスタイリスト学科に進学したんですけど、学校の空気感があまり合わなくて……。入学して数カ月で辞めてしまって。スタイリストの仕事にとにかく関わりたかったので、スタイリスト事務所に面接を受けに行って、弟子入りのような形ではたらき始めました。高校卒業してすぐなので、19歳の時ですね。そこが僕のスタイリストとしてのキャリアのスタートです。

──そもそも、スタイリストってどんなお仕事なんでしょうか?

僕らのようなファッションのスタイリストは、衣装のスタイリングをすることがメインです。表舞台で活躍される方をより魅力的に見えるようにコーディネートすることが僕の仕事です。靴や帽子、アクセサリーといった小物も合わせてコーディネートをしていきます。用意されている衣装を組み合わせるのではなく、担当している方の雰囲気や仕事現場に合うようなアイテムを、自分で店に足を運んでリースする。あとは、現場で衣装を直したり、アイロンがけなど洋服がベストの状態であるようケアすることも大事な仕事です。

──アシスタント時代など、下積みがかなりハードなイメージもあります。

そうですね。確かに拘束時間はとても長くて、ドラマ撮影の現場ではたらいた時は早朝から深夜まで仕事。睡眠時間が2時間ほどという時もありました。でも、好きな洋服にたくさん関われて、何よりもスタイリストの仕事を現場で学べたことが、今の自分にとっても大きな財産になっています。座学で得られる知識もとても大切だと思いますが、実際にやってみないと分からないので。とにかく現場に飛び込んでみること大切だと考えています。

休日に服を買いに行く時も、思わず「あの芸人さんに似合いそうだな」と考えてしまうそう。

──池田さんは、芸人さんをメインにスタイリングされるようになったキッカケを教えていただけますか?

弟子入りしたスタイリング事務所が、たまたまお笑い芸人さんを多く担当していたんですね。そこで、個性的な人のイメージを崩さず、それでいてスタイリッシュに見えるコーディネートを考える面白さに気が付いて。今年の4月に独立したのですが、前にはたらいていた会社からお仕事を引き継がせていただきました。今は、大体20人くらいの芸人さんを担当しています。

芸人さんのスタイリングは、サイズを探すのも一苦労。いつでもサイズが測れるように、メジャーは必須アイテムです。

魅力を引き出し、空気を読むスタイリング術

──お笑い芸人さんをスタイリングをするときに、特に気をつけていることはありますか?

一番大切にしているのは、芸人さん自身が持つキャラクターを守ること。単純に、おしゃれすぎるファッションをチョイスすると、その人の芸風だったり、イメージを崩す可能性があるので。それに、あまりに奇抜なスタイリングをしてしまうと、お客さんやお茶の間の皆さんが笑ってくれなくなってしまう可能性もあります。そういうバランスを意識して、一番魅力的に見えるようなスタイリングを心がけています。あとは、コンビで出演される場合であれば、相方さんと色のグラデーションを作ってみたり、2人が並んだときに映えるようなスタイリングをすることもあります。

──単純に、オシャレなだけじゃだめなんですね。

ほかにも、収録する番組のセットの色合いや、番組のコンセプトは細かくチェックして、出演者が引き立つようなスタイリングになっているかも気をつけています。また、番組によって全身映るのか、バストアップで映るのか……で見え方も変わってきます。バストアップで抜かれるシーンが多い番組の場合はトップスにインパクトあるようなものをチョイスするようにしています。あとは、番組から求められている、芸人さんの役柄によってもスタイリングを変えています。

たとえば、MC的な立場であれば、トーンを抑えたスタイリッシュなセットアップを用意したり。ひな壇で盛り上げるポジションの方であれば、オレンジやイエローなど、元気なカラーの入ったスタイリングにしたり。もちろん、共演者さんの衣装の雰囲気も見ながら、全体の調和が取れた衣装にすることも心がけています。

──芸人さんのスタイリングしていて大変なことはありますか?

初めてお仕事させていただく方だと、サイズ感が掴みにくいのが大変なところですね。モデルさんや役者さんと違って、体型の変動が激しい方もいらっしゃるので、用意してきた衣装を着てもらったらイマイチだった。なんてことはしばしばあります。あとは、他の共演者さんと衣装が被ってしまったり。そういう時に備えて、現場には数パターンの衣装を用意して持っていくようにしています。

──スタイリングのヒントって、どういうところから見つけるんですか?

街やネットで、とにかくたくさんのスタイリングを見るようにしています。「オシャレの定義って何?」と聞かれても、正解はないと思うんですよ。それがファッションの難しいところでもあり、面白いところ。日々新しいものを見つけて勉強しています。あとは、芸人さんの普段の服装で好みがわかったり、スタイリングをしている時のふとした雑談から次の衣装のアイデアが生まれたりするんですよね。なので、とにかく積極的にコミュニケーションを取るようにしています。

──円滑なコミュニケーションがいい仕事を作る。これはどの職種でも一緒ですね。最後に、池田さんの今後の目標を教えてください!

最初の自分に比べたら、だいぶスピーディーに仕事ができるようになってきたとは思っています。それでも自分はまだまだ若手で、ベテランのスタイリストさんと比べたらスピードもないし、経験不足。毎日の仕事を謙虚に、丁寧に行って、とにかくたくさんの経験を積みたいです。スタイリングは知識ももちろん大事なんですが、「この組み合わせが正解」っていう裏付けがしづらく、ニュアンスだったり感覚的なものに近いところがあります。とにかくいろいろな分野にアンテナを張って、さらに厚みのあるスタイリストを目指していきたいです。

(文:関戸直広 写真:納谷ロマン)

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編集者/ライター関戸ナオヒロ
さいたま生まれ、さいたま育ちの26歳。居酒屋、ホテルスタッフ、介護施設などで働いていた後、気がついたら大阪に移住。現在は家賃5000円の電気しか通っていないビルの3階に暮らしています。

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