「わかりやすさ」に負けないと決めた夜(あかしゆかさん)

2021年4月15日

誰しも、“うまくいかなかった”経験があるはず。
そんな日の記憶を辿り、いま思うことを、さまざまな筆者が綴ります。

第2回目は、編集者/ライターの、あかしゆかさんの寄稿です。

あかしゆか
1992年生まれ、京都出身、東京在住。 大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者をめざすように。
現在はウェブや紙など媒体を問わず、編集者・ライターとして活動している。最近の興味は食と地方。


───


 交流会のような、大勢の人が集まる場所が苦手だ。

 仲の良い友達であれば大勢でもいいのだけれど、見知らぬ人がたくさんいる場所に行くと、どうしても、呼吸が浅くなってしまう。特にビジネスにおいてのそれは、多くの人が自分(もしくは会社)にとっての「利益」となる繋がりを探していて、誰と、何を話していても、自分の価値が測られているような気持ちがして居心地が悪い。

 今でこそ、交流会のようなものは苦手だと割り切って、あまり出向くことはない(し、このような状況下で、そもそもあまり開催されていないのかもしれない)。けれど数年前までは、私はいろんなイベントや交流会に顔を出していた。

 これは、今から4年ほど前のとある日の、「交流会(飲み会)」でのできごとだ。

 「今度、編集者やライターの人たちが集まる飲み会があるんですが、よかったら行きませんか」。

 そんなお誘いを会社の先輩からもらったのは、社会人2年目の、秋を迎える頃だった。

 社会人最初の1年を終えて迎えた、2度目の季節。私の周りには、社内での仕事に慣れてきて、「自分の会社以外のことも知りたい」「他の会社に勤めている人はどんな仕事をしているんだろう」などと思い始める人が増えていた。私もご多分に漏れず、社外で開催されているセミナーだとか、交流会、イベント、飲み会などに、ちょこちょこと顔を出すようになっていた。

 私はその頃、新卒で入社したIT企業で、主にウェブマーケティングの仕事を担当していた。けれど、大学生の頃からずっと文章に関わる仕事がしたいと思っていたので、上司に相談して、社内の自社メディアを運営する部署とも兼任させてもらっていた。

 飲み会のお誘いをくれた先輩は、その自社メディアの編集長を務める方で、私は、飛び上がるほどにうれしかった。大学時代から憧れていた職業に就いている人たちと一緒に飲めるなんて……。そんなドキドキと浮かれた気持ちを、今でもありありと覚えている。

 楽しみに迎えた当日。あたりまえだけれど、その飲み会には、先輩を除くと知り合いが一人もいなかった。飲み会に来ている人たちは、もともと知り合いだったり、共通の話題があったりするようで、お酒の力も相まって、場はかなりの盛り上がりを見せている。次々と話題に挙がる最近のメディア事情などの話に一切ついていくことができず、私はひとりポツンと会場の隅で、お酒をちびちびと飲んでいた(当時私はまだTwitterをしていないか、始めたての頃で、はてなブログのことすら知らないほどのインターネット音痴だった)。

 気を遣って話しかけてくれた人たちとも、全然話を続けることができない。申し訳ない気持ちが募っていき、当初の楽しみだった気持ちはどこへやら、私は思っていた。「一刻もはやく、帰りたい」。

 ただ、ひとつだけ、どんな人とも盛り上がる瞬間があった。

 それは、勤めている会社の名前、担当している自社メディアの名前を言った時だ。その時だけは、話している相手の顔が、パッと輝く。「わあ、そのメディア知っています!おもしろいですよね!」。そしてそこから、私は「飲み会に来た、何も知らないよくわからない女性」ではなく、「あのメディアに関わっている女性」として見られるようになり、少しだけ話が続くのだった。

 「悔しいな」。

 それが、飲み会の途中に、私の中に急にふとこみ上げてきた感情だった。それは、自分のコミュニケーション能力のなさに対する悔しさというよりも、会社名を言ったとたんに掌を返したように興味を持たれることへの、逆を言えば、会社名を言わなければ興味を持ってもらえないことへの、「肩書きに依存している」自分自身に対する悔しさだったように思う。

 そしてその「悔しさ」を感じた瞬間に、大学で就活をしていた時期の、とある思い出がフラッシュバックした。

 大学3年生の時。男友達と大学からの帰り道のバスに揺られている途中で、「おたがいの長所を言い合おう」という話になった。なぜそういった話になったかは明確には覚えていないけれど、たしか就活で必要な、自己PRを考えるためのヒントになるかもしれないから、といった理由だったと記憶している。

 私がいろいろと相手の長所を挙げたあと、次は相手が私の長所を挙げてくれる番になった。すると、彼はこう言ったのだ。

 「うーん。あかしの長所は、顔かな。顔がいいから、一社くらいは受かるやろ(笑)」。

 私は彼のその言葉を聞いて、ものすごくショックを受けた。もしかすると彼は冗談のつもりで言ったのかもしれないけれど、私はどんな言葉よりも、自分自身が否定されたような気持ちがして、悔しかったし、悲しかった。その言葉は今でも深く心に刺さっていて、思い出すたびにじくりと心が痛む。

 飲み会の時に感じた「悔しさ」は、この就活中に感じた感情とも、どこか似ているような気持ちがした。

 勤めている会社名を言った途端に、相手の顔色や態度が変わること。

 就活生時代に、「顔がいいから、受かるやろ」と言われたこと。

 これらの私の悔しさや違和感の正体を言語化すると、「わかりやすい特徴に、自分自身が消されてしまう感覚」なのだと思う。

 自分の中にある複雑なアイデンティティが、会社名や外見などといったひとつの「わかりやすい特徴」に、しゅるるるるる、と飲み込まれていく。そうした瞬間に、私はとても、虚しさを覚える。「わかりやすい特徴」以外の複雑な自分の存在が、ないがしろにされ、消えていくような気持ちがするからだ。

 もちろん、自分が入った会社や、担当している仕事内容、外見なども、自分を構成する大切な一部分ではある。けれど、そういった一部分だけが切り取られ、それがあたかも自分のすべてであるように見られてしまう時、私はどうしても悲しくなってしまう。

 「自分を端的に、わかりやすく、説明しよう」。

 これは、ビジネスシーンでよく見かける言葉だ。「Twitterのフォロワー数を増やす方法」といったノウハウ記事のようなものにも散見される。自分自身が何者なのか、相手に端的に伝えられること。それが、ビジネスにおいては大切なことなのだ、と、「わかりやすさ」が賛辞されている場面に何度も何度も出くわした。

 もちろん、「わかりやすい特徴」は、自分を助けてくれることもある。それがきっかけとなって新しいお仕事のチャンスをいただけることもたくさんあって、私も以前は「はたらきやすい会社で、新しいはたらき方に挑戦する若手社会人」というわかりやすい特徴を持ってして、さまざまなお仕事をいただいていた。

 けれども今は、「わかりやすい特徴」だけを見てくる人よりも、自分自身をもっとまるっと知ろうとしてくれる人、まるっと知りたいなと思える人と一緒に、仕事をしたいなと思っている。日々どんなことを考えながら生きているのか。なぜ、その特徴を手に入れるまでに至ったのか。そういった、心の通ったコミュニケーションができることも、私は仕事に対して求めているんだな、ということに気づいていった。

 「自分自身のわかりやすい特徴に、自分自身が支配されないこと」。

 これは私が悔しさを覚えたあの日から、ずっと考え続けていることの一つである。「わかりやすさ」は便利だけれど時に自分自身を殺してしまい、「わかりにくさ」は不便だけれど、時に自分自身を生かしてくれる。だからこそ、「わかりやすさ」と「わかりにくさ」のバランスを取っていくことが大切なのだと思っている。

 あの日から比べたら、私は会社を辞めてフリーランスになり、Twitterでの発信もジャンルが雑多になってきて、「わかりやすさ」をどんどん捨てているように思う。人から「何をやっているかわからないよね」と言われることも増えてきた。けれども、わかりやすさを捨てた今の方が、なんだかちゃんと、人と繋がれているような気持ちがしている。

 私自身も、「わかりやすい特徴」を持っている人に対して、ついつい、その特徴だけで人を判断してしまいそうになる瞬間があるけれど、ちゃんと日々の想像力を大切に、人間の裏側にある部分を想像しながら、これからの仕事人生を過ごしていきたいな、と思うのである。

(写真/筆者提供)

あかしゆかさん SNSアカウント・ホームページ
 Twitter @akyska
 note https://note.com/akyska

本連載は、さまざまな筆者の「うまくいかなかった日」に関するエッセイを交代でお届けします。
 第1回目:大平一枝さん「やる気だけでは乗り越えられないと知った日」

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