【ドイツのはたらき方】仕事も休暇もきっちり計画をたてる真面目なドイツ人のはたらき方

2023年9月8日


連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

今回は、ドイツのはたらき方をご紹介します!

ドイツ連邦共和国 Data(2022年)
国内総生産ランキング(GDP) :4位/193カ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :14位/146カ国中(日本:54位)

<お話してくれた方>
イザベラ・フムルさん|ドイツ国籍|49歳|建築コンサルタント
ドイツ南西部に位置する自動車産業が盛んなバーデン・ビュルテンベルク州に愛犬と住んでいる。子どものころ、大工の父と建築現場に行くことが多く、建築学に興味を持つ。高校卒業後に2年間、建築図面の描き方を学んだ後、大学で建築についての学位を取得。 大学卒業後はフリーランスの建築士としての活動を経て、インテリア家具を開発する会社で勤務。オーストリアの建築組合や家具ショップなどで勤務した経験もある。今はドイツに戻って建築コンサルタントの会社ではたらき、建築士としてインテリアのデザインの仕事をしている。趣味は乗馬。

Q.あなたはどんな人?

――あなたの仕事について教えてください。

私は建築会社に、建築コンサルタントとして勤めています。

新型コロナウイルスの流行以降はリモートワークが一般的になり、オフィス以外にも快適なワークスペースが欲しいという需要が増えました。私は公共施設やオフィス、自宅などのワークスペースのデザインやコーディネートを担当しているため、以前より忙しくはたらいています。

――どういう経緯で今の仕事に就いたのですか?

小さいころから大工の父に連れられて建設現場に行く機会があり、建築業界に興味を持ちました。高校卒業後は大学で建築学について学びたかったのですが、当時建築は人気の分野ですぐには入学できず、2年ほどアルバイトをしながら建築図面の描き方について学んでいました。

その後、大学で建築学の学位を取得したものの、なかなか希望する職種に採用されませんでした。ドイツは古い建物を改修して使うのが一般的で、新しい建物を建てる機会が少なく、建築士としてのはたらき先が限られているのです。もちろん新しくビルを建てて都市開発をすることもありますが、需要が少ないんですね。

ほかの仕事をしつつも、自分にできることを模索しながらフリーランスの建築士として建築業界に関わっていました。結婚を機に、プライベートの時間を大切にしながら貯蓄を増やそうと、賃金の高い仕事を探し始めました。ドイツの建築業界は賃金が低いため、賃金の良い会社を求めてメーカー企業の雇用を探すことにしたのです。

結局、その後は照明器具を開発する会社に転職。大きなプロジェクトを任されてやりがいを感じていたものの、建築に携わる仕事がしたいという思いはずっとありました。夫と隣国のオーストリアに移り住んだ時、建築組合ではたらきました。とても楽しく、やりがいがあったことを覚えています。オーストリアでは家具メーカーにも勤めたのですが、お客さまの要望で快適な部屋をつくり上げる手伝いができたのはうれしかったですね。

その後、離婚を経てまたドイツに戻り、いろんな職を経験しながら今の建築コンサルタント会社に入りました。新しく大きな建物を建てる需要は少ないものの、建物を自分好みに改修するという需要が大きいドイツでは、家具や照明メーカーではたらいた私の経験が生きると思い、内装デザイン、コンサルタントの部門に応募したのです。

お客さんの要望を伺いながらさまざまなデザインを模索し、最後に図面を提出。やりきった後はとても疲れますが、達成感を感じます。

古い街並みが残るドイツでは新しい建物と古い建物がうまく共存できるように都市が作られている

――いろんな経験を経て今の仕事をしているんですね。他国ではたらくのはドイツでは一般的なんですか?

ドイツだけでなく、EU諸国の人もそうですが、国をまたいで仕事を探すのはごく一般的です。オーストリアはドイツ語圏なので言葉の壁もなく、ドイツ人にとってはたらきやすい国なのです。フランスやスペイン、デンマークなども同じEUの国なので、そこではたらくのも問題ないんですが、やはり母国語ではたらける方がやりやすいですからね。国をまたいで仕事を探す場合、同じ言語圏の国か、インターナショナルな会社で英語だけで仕事ができる企業を選んでいます。

イザベラさんの職場 念願の建築としての仕事に携わっており、職場には多様なアイデンティティを持つ人がはたらいている

――仕事のモチベーションはなんですか?

いい仕事をして、お客さんをポジティブな気分にさせているという実感を持つことです。私のデザインした部屋で、その人らしく健康的に過ごせて、心身ともに快適に生活してもらえるととてもうれしいです。

あとはもちろん、成果に見合った賃金をもらえることですね。

――オフはどのように過ごしているんですか?

やりがいのある仕事ですがとても大変で、休日は疲れ切っているので、愛犬とのんびり過ごしています。趣味の乗馬を楽しむこともありますね。あと、今は私も新しいパートナーがいるんです。同居はしていないものの、お互いの都合がつくときは一緒に過ごしています。

休日は愛犬のマロウとゆっくり過ごしている

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――ドイツのはたらき方について教えてください。

ほかのヨーロッパの国と同じく、労働時間は法律で1日8時間以内に抑えるように法律で決まっています。残業する場合でも1日10時間以内に収める必要があります。私の場合、8時30分から19時ごろまで、休憩を挟みながら9、10時間はたらくことが多いです。やりがいがあるとはいえ、1日の終わりには疲れきっています。

ランチ休憩は大体30分程度で、1日に何回か、5〜10分程度のコーヒー休憩を取ります。

――ドイツのはたらき方について、ほかのヨーロッパの国と何か違いはありますか?

そうですね。オーストリアではたらいていたころ、同僚は上司の言うことをよく聞いて、必要な決断は上司の指示を待つということが多かったです。一方ドイツでは、自分の考えを同僚や上司と共有し、みんなで議論をすることで仕事を進めます。「自分たちで問題を解決する」という意識が強いのか、決断を上司任せにすることは少ないように思います。

ドイツはEUの国々の中でトップクラスの経済力を持っており、GDPも世界第4位の国。特に私の住むバーデン・ビュルテンブルクは自動車産業が盛んで、世界的に有名な自動車メーカー、Audi(アウディ)やBMW(ビーエムダブリュー)の工場が立ち並ぶ工業都市です。自分たちの技術や製品に誇りを持ち、一生懸命仕事をする人が多いですね。

また、完璧主義な人、冷静で感情に左右されない人が多い印象です。仕事の合間のコーヒー休憩も、自前のコーヒー器具を持ってきて自分好みのコーヒーを淹れる人もいるくらいで、こだわりが強い国民性だと思います。

――ドイツの人は真面目で責任感が強いんですね

そうなんです。年に1度、数週間の長期休暇を取るのも、半年以上前から上司に休暇のスケジュールを提出して仕事を調整します。仕事の予定と同じくらい長期休暇の予定が大事なので、多くの人がかなり早い段階から計画を立てて仕事を調整するんです。休暇を申請する半年ほど前からしっかりスケジュールを組んでいます。仕事もプライベートも、しっかり予定を立てて進めるのがドイツ流ですね。

ここ10年で、EU諸国をはじめとして多くの外国人がドイツに住むようになったので、少しずつ変化が起きています。真面目で議論が好きなドイツ人ですが、最近は若い人を中心にオープンマインドで陽気な人が増えてきたように思います。

あと、世界中で知られていることだとは思いますが、ドイツの人はビールが大好きなんです。仕事終わりに友人や家族とビアガーデンに行って乾杯をしてリフレッシュすることも多いです。

仕事終わりにビアガーデンに行くのが大好きなドイツ人
「乾杯してリフレッシュして、また仕事を頑張ります」

――新型コロナウイルスの流行後、はたらき方に変化はありましたか?

ほかの国もそうだと思いますが、リモートワークをする人が増えました。私の会社では、ほとんどの人が家やカフェからリモートではたらいています。必要があれば週に2、3度オフィスに行きますが、週5日間フルでオフィスに出勤する人は私の会社では2%程度しかいません。

リモートワークは出勤時の渋滞などから解放されるのが良いところです。ドイツの建築業界は会議が多いのですが、オンラインミーティングだと少しやりにくい部分もあり、結果として会議時間が長引いて、労働時間が長くなることがあります。みんながオンラインミーティングに慣れたり、テクノロジーの発達でオンラインミーティングのタイムラグがなくなったりすれば問題は解消すると思うので、今後良くなることを期待しています。

――ドイツではどうやって最初の仕事を探すんですか?

多くの場合、自分の興味がある分野でインターンシップをしながら実践経験を積むことが重要です。もちろん大学の成績も大切ですので、学期の間は学業に集中し、夏休みの4週間から8週間を利用してインターンシップを経験します。

学業としっかり両立するために、高校卒業後、大学に入るまでの期間や、大学卒業後から大学院に入るまでの間に、1年間の長期インターンシップに行く場合もあります。大学卒業後にいくつかインターンシップを体験して、就業先を探すというケースもありますね。

そういうわけで、一人前の社会人としてはたらき始める時期は人それぞれなのです。希望する職種に就くまでに、ほかの職種を経験することも一般的です。私も今の仕事に巡り合うまでに、たくさんの会社で経験を積みました。遠回りに見えるかもしれませんが、経験が活かせることも多いので、自分のできることを模索しながら挑戦するのが大切だと思います。

――ドイツではどんな職業が一般的なんですか?

ドイツは主要産業が工業なので、エンジニアや工場関係者が多いですね。私の住んでいる南ドイツは建築業界の人も多いです。

――ドイツの初任給はどれくらいですか?

建築業界だと年間€25,000〜€30,000*1くらいで、ほかの業界だと年間€37,000*2ほどです。税金が引かれるので、6割程度が手元に残ります。

先ほども少し言いましたが、ドイツは大きな建物を新たに建てる需要が少なく、建築業界の賃金は低いんです。

*1:1ユーロ144円計算で約360万円〜432万円
*2:1ユーロ144円計算で約533万円

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 ドイツの順位
※調査結果は、2022年に発表した第2回目調査のデータ。

――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合が、ドイツは122ヵ国中43位でした。この結果を受けて、どのように思われますか?

あまり高くない結果ですね。私も仕事にやりがいは感じていますが、100%の気持ちで日々仕事を楽しんでいるとは言えないです。仕事に責任を持って真面目に取り組むのが一般的なドイツ人ですが、一生懸命はたらくことで疲れが溜まってしまうことが多いのかもしれません。

仕事は楽しむものというよりも、やりがいを感じながら一生懸命はたらいて良い成果をだす、ということに集中する人が多いので、この結果は妥当だと思います。仕事に責任とやりがいを持ち、オンとオフをうまく切り替えて自分なりのバランスが取れていれば、必ずしも仕事を楽しむ必要はないのかもしれません。

――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は41位でした。

私は仕事にやりがいを感じていますし、人のためになっていると思っているのでこの質問には100%の気持ちでYesと答えられます。

ドイツでは「自分のことは自分でやるべき」という考え方が浸透しています。また、ほかのEU加入国に比べて労働時間も長いです。「人のために」と考える余裕がないのかもしれません。現に、ドイツより労働時間の短いオーストリアは、この質問の回答結果が13位ですよね。

でも、自分の仕事に満足でき、やりがいを保ち続ければ、徐々に「人々のためになっている」という意識がついてくると思うので、これからは順位が上がると思います。

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は62位でた。

昨年より順位が下がっていますね。

先ほども言いましたが、同じEUの国であればドイツ以外で仕事を探すのは難しくありません。しかもヨーロッパ全体で見ると、ロシア語に次いでドイツ語話者が多いんです。スイスやルクセンブルク、ベルギーなどドイツ語を公用語にしている国も複数あります。

制度的にも言語的にも、国を飛び越えて仕事を探すハードルは低いように思います。そういう意味で、はたらき先の選択肢はほかのEU諸国の中では多い方ではないでしょうか。 転職も普通ですし、最近はいろんな国にルーツを持つ人がドイツに住んでいるので、さまざまな考え方に触れることができます。若い世代を中心に、少しずつ変化していますので、この結果も良くなると期待しています。

多様なアイデンティティを持つ人が多く、街中ではドイツ語以外も良く飛び交っている。
多様な考え方に触れて、よりよく変化していくことを期待している。

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライター伏見碧
大学院で機械工学を専攻し、終了後はメーカー企業の研究所で勤務。
数年働き、北欧アウトドアを体験するために退職し、北欧デンマークに1年間滞在。
現地の学校でアウトドアを学ぶ。
現在は北欧アウトドアライターとして記事を書き、その魅力を発信している。
自身のサイトではデンマーク生活を漫画形式で紹介。
また、デンマークの旅行代理店と提携し、日本人向けに北欧ネイチャーツアーの企画立案も担っている。

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