【ブラジルのはたらき方】自分らしくはたらきながら「人のために役に立つ」ことを模索するブラジルの人々

2023年10月3日

連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

今回は、ブラジルのはたらき方をご紹介します!

ブラジル連邦共和国 Data(2022年)
国内総生産ランキング(GDP) :13位/193カ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :38位/146カ国中(日本:54位)

<お話してくれた方>
デニス・マイコン・ロドリゲス・ノリエガ|ブラジル国籍|31歳|ミュージシャン
ブラジル北東部にあるセルジベ州の州都アラカジュ在住。ミュージシャンとして活動しており、パブやバー、結婚式などでアコースティックギターの弾き語りを披露している。 ミュージシャンになって自分の音楽を世界に届けたい、という幼少時からの夢を叶え、フリーランスとしてミュージシャン活動を続けるため、配達などの仕事をしながら専門学校に通い、音楽や会計などの知識を得た。写真が大好きで、ミュージシャンとしての活動が軌道に乗るまではグラフィック系の会社でフォトグラファーとしても活動していた。趣味は歌うことと、写真を撮ること。

Q.あなたはどんな人?

――あなたの仕事について教えてください。

私はミュージシャンとしてパブやバー、結婚式でアコースティックギターの弾き語りを披露して収入を得ています。ミュージシャンとしての活動に必要なことはすべて1人でこなしています。InstagramやYouTube、TikTokなどに自分の作品を投稿し、興味を持ってくれた人とコンタクトをとるという形で宣伝、営業をしています。そこから会場や報酬、どんなテイストの曲を披露してほしいのかなどのやり取りを自分でして、コンサートを開くのです。

ミュージシャンとして活動を始めたのは専門学校で音楽の勉強をしていたころで、友人や先生の伝手で無料コンサートを開いていました。少しずつ活動の幅を増やして実績ができてきたころに、ポートフォリオを作ったんです。

今はSNSが普及しているので、自分の曲を宣伝できるツールが増えました。ミュージシャンとして良い評価をもらえるようになり、仕事も軌道に乗ってきました。

今はブラジル内でミュージシャン活動をしていますが、いつか国外でも活動したいと思っています。

ミュージシャンとして、バーやパブなどでコンサートを行うマイコンさん

――どういう経緯でミュージシャンになったのですか?

子どものころから音楽を聞くことや歌うことが大好きで、ブラジルだけでなく、日本やイタリアの曲なども聞きながら楽しんでいました。ブラジルは陽気な人が多く、みんな歌うのが大好きで、普段から歌やダンスを楽しんでいます。

しかし私は、それだけでは満足できませんでした。ミュージシャンになって自分の思い描く世界を音楽で表現し、多くの人に聞いてほしいと思うようになったのです。

とはいえ、ミュージシャンになるのは大変です。周りからも厳しい道だと言われていましたが、どうしても諦められませんでした。夢を叶えるため、父が経営するバーを手伝ったり、工場の作業員としてはたらいたり、バイクで配達の仕事をしたりしました。そうして貯めたお金で音楽の専門学校に通い、ボーカルトレーニングやポピュラーソングの作曲などを学びました。

音楽を学ぶにはお金がかかるので、一つのカリキュラムを終えると一旦学校を辞めて配達や工場の仕事に専念し、お金が貯まったら学校に復帰して次のカリキュラムを受ける、という風にしていたんです。ミュージシャンとしてやっていくには音楽以外の知識も必要だと感じたので、会計や起業の知識なども学びました。トータルで10年以上の期間、はたらきながら音楽の知識と技術を身につけたのです。

学業と仕事を交互にしていたころ、一度グラフィック会社に勤めてフォトグラファーとしてはたらいたことがありました。ミュージシャンとしての仕事がない時は、フリーのフォトグラファーとしても活動し、収入の足しにしたこともあります。でも今はミュージシャンとしての認知度が上がり、音楽だけで生計を立てられるようになりました。

――仕事のモチベーションはなんですか?

「自分の音楽が人々を楽しませている」と感じることが大好きで、これを達成するために日々努力しています。ブラジルは陽気な人が多いですが、それでも仕事に疲れていたり、単調な生活に飽きたりしている人もいます。そういう人たちを楽しい気持ちにして音楽に対する感動を共有したい、という気持ちがモチベーションにつながります。

また、自分の歌と曲が認められて、それに見合った対価が得られるということも大切ですね。

――オフはどのように過ごしているんですか?

好きな曲を歌ったり聴いたり、作曲やボイストレーニングをすることも多いです。オフの時でも音楽のことで頭がいっぱいで、散歩をしてリフレッシュしたりしています。散歩中に写真を撮ったりもしていますね。

マイコンさんの住む街アラカジュは美しい海岸が有名。時間がある時は散歩を楽しんでいる。

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――ブラジルのはたらき方について教えてください。

勤務時間は1日8時間、1週間44時間以内と法律で決まっており、それ以上はたらく場合は50%の割増賃金が支払われます。残業をする場合も1日2時間以内に抑える必要があります。ランチ休憩も1時間取れるので、ゆっくり同僚と話すことができます。年間で30日の有給休暇を取ることができ、連続で休みをとってバカンスに出かける人も多いですね。

ブラジルは陽気な人が多いラテンの国ですが、労働者の権利はしっかり守られます。はたらき始める時間は職種によってさまざまで、朝7時半からスタートする人もいますし、夜間にはたらく人もいます。

残業すれば割増賃金が支払われますが、ほとんどの人は給料が増えることよりもプライベートを過ごすことを優先するので、定時にきっちり帰る人が多いですね。

――ブラジルではどうやって最初の仕事を探すんですか?

フルタイムの仕事を真面目に探す、という意味では高校卒業後に探すケースが一般的ですが、その前にパートタイムの仕事をする学生も多いです。

ブラジルの学校の多くは、朝7時30分ごろから正午までの午前の部と、13時ごろから17時ごろまでの午後の部に分かれており、生徒はどちらかの時間帯で学校に行きます。義務教育を終えた16歳からはたらけるので、学生の多くは午前か午後に仕事をし、家計の足しにしているのです。高校生の多くは、レストランや配達、工場での作業といった仕事に就きます。

都市部では習い事や塾に行く子どもが多いそうですが、そのほかのエリアでは貧困にまつわる課題も多く残っています。ブラジルは南米トップの経済大国な反面、経済格差がまだまだ大きいという現状があります。私も子どものころは家が貧しくて苦労しました。

こうした背景もあって、学生のうちから卒業後の仕事探しをする人も多くいます。パートタイムとして仕事をしながらスキルや経験を積み、学校を卒業したら、本格的にフルタイムとしてはたらき始めるという具合です。一方、卒業後にパートタイムの仕事をしながら希望する仕事を探す生徒もいるので、はたらき始める年齢は人それぞれですね。

先ほども言いましたが、ブラジルは南米一、経済が発展している国です。雇用機会も多く、大企業ではある程度の学歴やスキルを求められますが、そのほかの仕事は気軽に探せます。はたらきながらお金を貯め、経験や教育を重ねて希望する職に就く、というのがブラジルの仕事の探し方ですね。

南米トップの経済大国であるブラジル。街には高層ビルが立ち並んでいる。

――ブラジルの一般的な職業を教えてください

都市部では医者やエンジニア、建築家が多いみたいですね。ブラジルはオレンジや砂糖、コーヒー産業が盛んで、地方では多くの人が農業に従事しています。

――ブラジルの初任給はどれくらいですか?

はたらき始めるタイミングが人によって違いますし、すぐにフルタイムの職につくわけでもないので、一言で言うのは難しいですが、最低賃金は月給1,302レアル*です。

国全体の平均賃金は去年だと2,265レアル**程度です。経済が成長している国ですが、2022年は新型コロナウイルスの流行が経済に大きく影響し、平均賃金が5%ほど下がりました。

* 1レアル25.2円計算で、約3万3千円
**1レアル25.2円計算で、約5万7千円 

ブラジルの人は朝が早く、7時30分ごろから仕事を始める人もいるんですけど、私のコンサートはパブやバーで夜に開くことが多いので、朝起きる時間は9時ごろと、少し遅めです。仕事がある日もない日も自宅につくったスタジオにいて、午前中はアコースティックギターの練習やボイストレーニングをしています。あとはコンサートに向けた練習をすることもあれば、空いた時間で作曲をしたり、宣伝用にSNSに曲を投稿したりしています。

活動は夜が多いですが、昼間に結婚式で演奏することもあります。SNSから問い合わせがあった人と、どういうコンサートにするのか打ち合わせもします。

最近はミュージシャンとしての仕事がなんとか軌道に乗ってきて、平均して週に1回以上コンサートを開けるようになりました。3時間のコンサートを開いて300レアル*の報酬をもらっています。ブラジルの最低賃金は日給だと43レアル**なので、今の収入でもなんとか生計を立てられています。まだまだ十分な収入ではないので、もっと頑張ってミュージシャンとしての仕事をたくさんしたいです。

* 1レアル25.2円計算で、約7,600円
**1レアル25.2円計算で、約1,000円

――マイコンさんはミュージシャンとしての仕事を楽しんでいるんですね。

楽しんでいます!長い間仕事をしながら学校に通い、自分を磨いてようやく夢が叶いました。ミュージシャンとしてはまだまだ軌道に乗ったばかりですが、私のコンサートを楽しんで聴いてくれている人の顔を見るととてもうれしくなります。

自分のミュージシャンとしての仕事が、ほかの人たちを楽しい気持ちにできることはとても誇らしいですし、それに見合った報酬も得られています。大好きな歌とギターの腕をもっと磨いて、もっと多くの人を楽しい気持ちにさせたいですね。

大好きな歌で仕事ができてとても満足。自分の歌で多くの人を楽しい気持ちにさせたい

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 ブラジルの順位
※調査結果は、2022年に発表した第2回目調査のデータ。

――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、ブラジル122ヵ国中28位でした。この結果を受けて、どのように思われますか?

まぁまぁ良い結果ですね。ブラジルは陽気な人が多いので「楽しむこと」がとても得意なのだと思います。ただ、なかなか経済格差が埋まらず、貧困問題があるので、「とても良い」結果とはいかないですが……。

私はもちろん自分の仕事を楽しんでいます!新型コロナウイルスの影響で平均収入が下がっても、前年より結果が良くなっているのは素晴らしいと思います。これからもっと上位にいけることを期待しています。

――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は122ヵ国中4位でした。

とても良い結果ですね。私も自分の仕事が人を楽しませていると自負しているので、この質問には自信を持って「Yes」と答えます。

ブラジルの人は何をすれば自分が楽しくなれるのかということを知っています。日常的に歌ったりおしゃべりをしたり美味しいものを食べたり。仕事においてもプレッシャーがかかりすぎないように気を付けていて、プレッシャーが大きくなりすぎたら、その職場から離れることで自分が楽しく過ごせる環境を維持しています。

自分が楽しく過ごせると気持ちに余裕ができるので、良い結果に影響しているのでしょう。自分に余裕がないと「人のために何かしたい」と考えることは難しいですからね。

まだまだ貧困や汚職などの問題が多いブラジルですが、「人の生活を良くしている」と実感している人が多いのは素晴らしいことだと思います。

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は45位でした。

妥当ですね。医者やエンジニア、弁護士など高度な知識や技術が必要な職種はとても一生懸命大学で勉強する必要があります。しかしそのほかの仕事は、高学歴でなくとも就くことができます。経済成長している国なので雇用機会が多く、仕事を探すのはそんなに難しいとではないので、そういう意味で選択肢は多いですね。自分に合わないと思ったら仕事を変えるのも普通ですし、新しい仕事もすぐに見つかることが多いです。

とはいえ、経済的な問題により学校教育の途中でドロップアウトしてしまう人も少なくないので、そのせいで選択肢が狭まることもあります。「とても良い結果」とは言えませんが、多くの課題を少しずつ解決し、良い結果に変えていけると信じています。

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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