大ヒットアニメ『ゆるキャン△』Pに聞く、アニメのプロデューサーってどんな仕事?

2022年7月13日

世界に誇る文化となった日本のアニメは、テレビ番組のほか、漫画、映画、グッズ、各種タイアップなども関わり、ビジネスとしても一大産業。1クールのアニメを作るためには数年を要し、制作費として約3億円近くが投じられると言われています。

原作元、アニメ制作会社、テレビ局、各配信サービスなど……と関係者も大勢おり、それだけのプロジェクトを動かすためには旗振り役が必須です。

そんな一大プロジェクトを牽引するアニメのプロデューサーとは、どんな仕事なのでしょうか? 7月1日より劇場版が公開中の『ゆるキャン△』シリーズでチーフプロデューサーを務めるフリュー株式会社の安藤盛治さんにお話を聞きました。

アニメの「制作会社」と「製作会社」、違いはわかる?

──アニメのプロデューサーは全工程をまとめる立場だとは思うのですが、具体的にどのようなお仕事なのでしょうか?

まず私の仕事についてお話する前に、私たちの会社の役割についてご説明します。実は「アニメの“せいさく”会社」には2つあって、“せい”の漢字に「衣」がつくかどうかで大違いなんです。「衣」がつかない「制作会社」では、発注を受けてフィルム(本編映像)を作るのが仕事。一方、「衣」がつく「製作会社」は、フィルムの道筋をたてつつ、それだけでなくプロジェクト全体として収益を立て、管理も行います。私が所属するフリューは後者にあたります。

──安藤さんは、「製作会社」のプロデューサーというわけですね。

はい。製作会社のプロデューサーが最初に何をするかというと、原作の発掘です。まずは原作元となる出版社やゲーム会社様などに「この作品をアニメ化しませんか」と交渉する事からスタートします。

晴れてアニメ化の許諾を取り、プロジェクトをスタートするために、やることは大きく2つあります。ひとつは、どのようなアニメにするかの道筋を決めて、そこに合致するアニメ制作会社を選定し、オファーをすること。もうひとつは、1クールのアニメを作る資金数億円を集めるべく、出資会社を選定し、製作委員会を組成することです。

制作会社を決めて、お金も集まったら、いよいよフィルムの制作が始まります。クリエイティブの中心となり進めるのは、アニメ制作会社側に所属する、監督をはじめとしたメインスタッフ達です。我々は製作委員会側が想定した道筋から外れないように脚本やキャラクターデザインなどをチェックしながら、スケジュールの管理も一緒に行います。それと同時に製作委員会でのミーティングを定期的に開き、プロジェクトの進捗などの情報共有やビジネスプランや宣伝施策などを立案していきます。

フィルムができたら、今度はオンエア(TV放送)です。ビジネスが本格展開していくわけですから、製作委員会側はここからが本番と言えますね。各配信サービスに納品して視聴回数でマネタイズしたり、グッズを展開したりして収入を稼ぎます。また近年は海外にアニメの権利を販売することも当たり前になりました。そういった展開により、オンエアから半年~1年かけて収益を回収していくイメージです。

実写ドラマだと企画からオンエアまで1年あれば十分ですが、アニメは「最低でも2年」の世界です。最後の投資回収までとなると、企画のスタートから3年はかかるでしょうか。それらの道のりを先導し、まとめるのが、「製作会社のプロデューサー」です。

──お話を聞くだけでも大変そうなお仕事ですね……! 製作会社のプロデューサーは各作品1人しかいないのでしょうか?

全体を統括する立場、つまり幹事プロデューサーとなると基本的に一人ですね。ただ、制作会社にもプロデューサーがいて、製作委員会にも各社のプロデューサーがいて、ほかにも宣伝プロデューサーなど、それぞれの専門分野にプロデューサーがいてと、細かく分担をしています。それらの動きをまとめていくのが『ゆるキャン△』の場合は自分、というだけで。

──製作会社のプロデューサーは、一度に何作品抱えているのでしょうか?

一概には言えませんが、今オンエアしているもの、フィルムを作っている最中のもの、企画を仕込んでいる段階のもと、常に2、3作品は抱えているかと思います。

原作漫画の連載開始すぐアニメ化の打診をしていた

──原作の発掘もプロデューサーの仕事の1つとのことですが、『ゆるキャン△』を見つけたのも安藤さんですか?

当時の部下にあたる社内のプロデューサーが「この漫画をアニメにしましょう」と提案してきたのが最初です。

彼は『ゆるキャン△』の連載が始まった直後から「『ゆるキャン△』は唯一無二の作品だ」と目をつけ、アニメ化の打診をスタートしていました。普通は単行本の発行後、その部数を元にアニメ化の判断をするんですが、『ゆるキャン△』はちょっと珍しい例でした。

© あfろ・芳文社/野外活動サークル

──原作にそれだけの可能性を感じたんですね。

かわいい女の子同士の掛け合いだけでなく、アウトドアの要素が組み合わさっている。まず、ここが新しいですよね。また、おいしそうな食べ物もあって、モデル地となっている地元の街並みがとても緻密に描かれている。これだけではないのですが、凄い可能性がある原作でした。山梨を舞台にしているので地元の方々から注目される可能性も高い。

ただし原作ファンだけを喜ばせるアニメ化は、ヒットまでには至りません。「原作は知らなかったけど、アニメを観て好きになった」や「普段アニメは観ないけど、この作品は好き」という人が入ってくると、ヒットにつながります。『ゆるキャン△』のヒットの要因は、まずそのポテンシャルの高さが原作にあったことだと思います。

実際、初回放送の直後からモデル地の訪問をするファンが現れて、企業から「グッズを作りたい」などの問い合わせも話数を重ねるごとに増えていきました。放送の折り返し地点、第6話にいくまでに、製作委員会の中で「これは続編を作るべき作品だ」という声が出始めました。

テレビシリーズと映画でプロデューサーの仕事はどう変わる?

──映画『ゆるキャン△』の制作が決まったのはいつごろですか?

© あfろ・芳文社/野外活動委員会

実は『ゆるキャン△ SEASON2』の制作決定と同じタイミングで決まっていました。

──ということは、1作目の放送後にはもう映画『ゆるキャン△』の構想が……。

そうなんですよ。ただ続編を制作したいとなったものの、そんなに簡単に決定しなかったのも事実です。第1作目を超えるためにはどうすればいいのか。核となるメンバーで話し合っていただき、ショートアニメ『へやキャン△』、『ゆるキャン△ SEASON2』、そして映画とセットでやっていく結論に達しました。それぞれの作品のテーマや作る意味までも話し合っていただきました。

──では、映画『ゆるキャン△』を作る意味とは?

たとえば「おなじみのキャラクターたちがいつもと違う場所に遠征してキャンプします」というストーリーだと、テレビシリーズとは違う特別感はあるでしょうが、もともと『ゆるキャン△』が好きな人以外に届くかと言えば微妙ですよね。

監督をはじめとした皆の意見は、主人公たちと同世代の方々はもちろん、その年齢の子どもを持つ方々、家族連れなど、もっと幅広い層に『ゆるキャン△』を届けたいと。その点をきっかけとして、映画ではあえてキャラクターたちの10年後を描くという一つのチャレンジに踏み切りました。

──テレビシリーズと映画で、製作会社のプロデューサーの作業はどのように変わるのでしょうか?

そこまで大きくは変わりません。テレビシリーズと同様、監督を中心とした皆が思い描くビジョンが体現できるように努めました。ただ宣伝に関しては、テレビシリーズと映画でやり方が全然違います。わざわざ映画館まで足を運んでもらうためには、「きっかけ」や「お祭り感」を出していかないといけません。大手企業様とのキャンペーン、来場者プレゼントなど、いろいろ仕掛けを考え、形にしていきます。あとは大きいスクリーンを獲得するために、各劇場の支配人さんへのプレゼンテーションも行いました。

『ゆるキャン△』の大ヒットが仕事観にも影響

© あfろ・芳文社/野外活動委員会

──安藤さんご自身のキャリアについても教えてください。

自分が所属するフリューという会社は、もともとアミューズメント施設にあるクレーンゲームのぬいぐるみなどのグッズを制作する事業をしていました。「ライセンスを受けるのではなく、自社でコンテンツを作れないか」ということでスタートさせたのがアニメ事業で、その流れで僕もプロデューサーの仕事に携わるようになりました。

──ということは、アニメプロデューサーとしての知見が自分にも社内にもないところからスタートになりますよね。

はい。投資予算も今ほどではなかったので、まずはショートアニメを作りました。テレビシリーズと違って、ショートアニメは1年あれば作れます。そこでPDCAを回してノウハウを身につけていきました。幸い、アニメ事業を初めてからヒットにも恵まれました。

──もともとアニメはお好きだったんですか?

それが実はあまり観ていなくて……。

──えっ!

世代的に『SLAM DUNK』や『幽☆遊☆白書』などは好きで観ていましたが、アニメ好きと言えるほどでは全然ありませんでした。

──プロデューサーの仕事において、アニメに対する深い知識は必須ではないのでしょうか?

やっぱりアニメが本当に好きな人のほうがふさわしい業界だとは思います。自分自身「もっと若くて時間があるときからアニメやマンガにたくさん触れていれば、いろんな原作を提案できただろうな」と感じることは未だにあります。それにアニメに対する愛があれば、どんな大変な仕事も乗り越えられるのではないでしょうか。

──では、安藤さんが感じている仕事のやりがいというのは?

アニメ業界に限らない話ではありますが、こちらがリリースしたものに対するユーザーの方々からのリアクションを直接感じる事が出来るのは楽しいですよね。人を驚かせる事が好きなんです。アニメ好きであることは大事な資質ですが、もちろんそれだけでは成立しない仕事です。

1つのアニメを企画して、投資回収するまでの期間のモチベーションを維持できて、トラブルが起きたときに関係者同士で話し合うことができて、スケジュールや予算管理することができて……。製作会社のプロデューサーには、広くさまざまな能力が求められます。

大変なこともありますが、人を驚かせたり巻き込むようなことに楽しみを感じる人にとっては、やりがいを感じる仕事のはずです。なんといってもユーザーの反応がとてもダイレクトに届く業界ですから。

──『ゆるキャン△』で大ヒットを飛ばした経験は、安藤さんの仕事観に何か影響を及ぼしましたか?

アニメって普通は1作目が盛り上がりのピークで、あとはそこで集まったファンの方々に向けて続編などの展開をしていくものなんですよ。でも『ゆるキャン△』公式Twitterアカウントは、今でもフォロワーが増え続けています。アニメや漫画業界を飛び越え、アウトドアとか地方創生とか、思いもよらない方面からお話をいただく機会もたくさんあって、「1つのアニメがここまで届くんだ」というのは大きな発見でした。『ゆるキャン△』を通して、1つのIP(コンテンツ・作品)が持つ影響力や可能性にあらためて驚かされると同時に、それにともなう責任を再確認しました。

──最後に映画『ゆるキャン△』の見どころを教えてください。主人公たちが社会人となり、仕事というのも1つのテーマである作品ですよね。

登場人物たちは、学生時代からぼんやり描いていた好きなことを仕事にしました。でも好きなことを仕事にしたからといって、何もかもが叶うわけではなかったりします。新たな悩みも出てきます。等身大の彼女たちの姿に、「自分ひとりじゃないんだ」と勇気をもらえるような物語になっているはずです。そして、映画を鑑賞した後は、実家に電話しようかな、懐かしい人に会いたくなった!など、

そんなリアクションを聞く事が出来たら、とってもうれしいですね。

(文:原田イチボ 写真:小池大介 )

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編集/ライター原田イチボ
1990年生まれ。編集プロダクション「HEW」所属。アイドル、プロレス、BL、銭湯サウナが好き。

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