「若い時の苦労は買ってでもしろ」には理由がある?レジリエンスの観点から解説

2022年9月14日

仕事の上司や先輩たち、あるいは両親からよく言われるのが、「若い時の苦労は買ってでもしろ」。これって本当に意味あるの?もしかして昭和の根性論なのでは?と疑ったことのある人も多いかもしれません。

はたして、苦労は本当に“買い”なのか?その答えを知るために、『レジリエンスで心が折れない自分になる』などの著者であり、大手企業の人材育成にも関わるポジティブ サイコロジー スクール代表・久世 浩司さんにお話を伺いました。

――「苦労は買ってでもしろ」という言葉がありますが、若い時の苦労って本当に“買い”なんですか?

うーん。みんながみんな「買ってでもすべき」か、というと、そんなことはありません。自己成長への意識がそれほど高くない人、あるいは平穏に生きていきたい人は「買わなくていい」でしょう。

というのも、苦労というのはやっぱりストレスですし、下手をするとうつ病などメンタル疾患にかかるリスクも伴うものだからです。

そもそも若いうちは普通に生活しているだけでもいろんな苦労に直面するもの。わざわざ買わなくても十分です。

――では、「買ってでもするべき」タイプの人とは?

自己の成長を強く求める人、スキルアップしたい人、能力を磨きたい人、キャリアアップしたい人は買ってでも苦労をするべきです。

なぜなら、若いうちからさまざまな困難を経験し、乗り越える体験を積み重ねていくことは、大きな糧になり、将来の成長につながるから。

ではなぜ、そう言えるのか? 心理学でいう「レジリエンス」の考え方を用いてご説明しましょう。

逆境に強いビジネスマンが必ず備えている「レジリエンス」

――「レジリエンス」という言葉、最近よく聞きます。これはどういうものなのでしょうか?

久世さんは大手企業の人材育成に携わりながら、「レジリエンス」の専門家として多数のビジネス書を執筆している

「レジリエンス」とは、もともと環境学で生態系の「復元力」を表す言葉として登場し、最近では人の「精神的な回復力」を示す言葉として使われています。

ざっくりいえば、困難にぶちあたったり、ショックなことがあったりしたとき、卵のように割れてしまうのではなく、テニスボールのように弾み、立ち直っていく力のこと。打たれ強さ、とも言えますね。

レジリエンスの力が強い人は、たとえば、仕事で嫌なことがあっても一晩寝ると忘れて、翌日には元気に仕事ができます。いわゆる“ずぶとい人”ですね。一方で、レジリエンス力が弱い人はずっと気に病んでしまいます。

――その力は養うことができるのでしょうか?

ええ、“レジリエンス・マッスル”は鍛えることができます。「苦労は買ってでもしろ」の教えは、ある意味、この筋トレに近いのかもしれません。ただし、漫然と苦労をしていたのでは意味がないんです。

――と、いうと?

大切なのは、苦労をして、ダメージを負って倒れ、立ち直り、その経験を「振り返る」こと。もがき、奮闘した経緯をもう一度なぞって、「どうして自分は立ち直れたんだろう?」「どうして乗り越えられたんだろう?」とじっくり考えるんです。

すると、「家族に助けられたんだ」「自分にはこんな強みがあったんだ」「このストレス解消法が効いたんだ」など、いろんなことに気付くわけです。

――苦労の乗り越え方の秘訣を、自分なりに分析するんですね。

そうです。そうして得た答えが、自分だけの「知恵」になります。すると、次に同じような壁にぶつかったときに、前回の経験がヒントになって上手に対処できます。そして、その成功体験が「自信」につながっていく。

これを、レジリエンスの心理学では「教訓化」と呼んでいます。

若いうちから、この「知恵」と「自信」の2つがたくさん蓄積されていくと、恐れずにどんどん難易度の高いチャレンジができるようになります。だから、「若いうちの苦労は買ってでもしろ」といわれるんですね。

レジリエンス力を高める3つの習慣
・ネガティブな連鎖を断ち切る
・振り返り、自分の「強み」を認識する
・成功体験を教訓化する

――一方で、ただ苦労しただけで放置していると……?

その場合は何の教訓も得られずに、なんとなく「苦労したのに、うまくいかなかった……」「やっぱり自分はダメなんだ……」という後悔の印象だけが残ってしまいます。これは、成長の観点ではやっぱりマイナスなんです。

苦労を最大限に活用する2つのコツ

――振り返りを行う上でのポイントはありますか?

2つあります。まず1つ目は、振り返る「タイミングを見極める」こと。

苦労している真っ最中に振り返るのはNGです。まずはその修羅場を乗り越えることに全力を注ぎましょう。でないと、冷静にものごとを俯瞰できず、不安や怒りで混乱して、誤った知恵を得てしまいます。

ベストなタイミングは、すべてが完了して、気持ちがクールダウンしてから。1年に1回、2年に1回など、定期的なサイクルで行うのが望ましいですね。

――では、2つ目は?

「誰かと一緒に」振り返ること、です。

一人で悶々と自問自答していくと、ただ悩んでしまって「私はダメだ」で終わってしまいがち。その点、信頼できる誰かに向けて話しながら振り返ると、自分を客観視することができ、教訓化が進みやすいのです。

「苦労」を教訓にするための2つのポイント
・苦労が過ぎ去ってから振り返ること
・信頼できる人と一緒に振り返ること

――話す相手はどんな人がいいのでしょう?やっぱり頼れる上司や先輩たち……?

スポーツなどを見ていると、監督に叱られて伸びるような印象があるのですが、レジリエンスの世界では「教えられる・指導される」のではなく「自分で気づく」ことが大切。そういう意味で、指導しがちな上司や先輩は逆効果になることがあります。

また、競争関係や利害関係にある相手も、こちらが素直に心のうちを話せないので避けた方が良いですね。意外と思われるかもしれませんが、家族も利害関係がはたらきやすいんです。たとえば、転職をして収入が下がってしまうと家計に影響が出ますよね。そうしたリスクがある場合には心理的にバイアスがかかってしまうこともあるのです。

では、どんな人が理想的かというと、それは利害関係がなく、「共感力の高い人」です。

同じ目線で話を聞いてくれて、「大変だったね」「よく頑張ったね」「それはこういうことだよね」と、共感してくれる相手が理想的。たとえば、そうした訓練を積んでいるのがコーチングのプロなんです。

とはいえ、プロじゃなくても、自分がオープンに話すことができて、共感してくれる相手なら大丈夫。そういう意味で、社外の親しい友人などは適任かもしれませんね。

――一緒に振り返ってくれるサポーターを見つけておくことも大切なんですね。

そう、ぜひ心のVIP(大切な人)を見つけてください。

お金でつながる人たちではなく、心を支えてくれる存在です。私自身は、“フィンガー・ファイブ・ルール”といって5人のVIPを注意深く選び、その5人が自分を必要としている時はどんなことよりも優先するようルール化し、守るようにしています。

こうして友人や仲間との関係性を大事にし、あらかじめネットワークを築いておけると、若いうちから教訓をたくさん得られるサイクルを築いていきやすいです。

若い時にこうしたサイクルを整えておくと、成長の速度も右肩上がりです。どんどん知恵がついて、さらに自己成長のスピードも高まり、次々とチャレンジに挑み、乗り越えていける。すなわち、ますます大きなことができるような人材になっていきます。

「価値ある苦労」の見分け方

──自分を成長させてくれる「価値ある苦労」と「必要のない苦労」の見分け方ってありますか?

ありますよ。それも心理学に基づいてご説明しましょう。

人には、生まれつき「3つの基本的欲求」が備わっており、それがやる気の源になっているとされています。

「やる気」を生む3つの欲求
1.「自立性」(自分で物事を決められること)
2.「関係性」(周りの人とつながって一緒に何かやっていること)
3.「有能感」(自分には能力があるという自信)

この3つの欲求が満たされた仕事をすると、やる気が高まり、結果的に幸福度も高まるとされているんです。

――たとえば、どんな仕事が当てはまりますか?

自分で目標を立てて挑戦していく仕事です。自分で決めて会社を作ってはたらいている創業者や経営者の仕事にも当てはまりますね。

こうした仕事は自立心が満たされ、多少の苦労やストレスがあったとしても、それを上回るやる気がわいてきて、自然とレジリエンス(回復力)も高まります。

つまり、いくらでも苦労に立ち向かい、乗り越えていける状態になるわけです。

そう考えると、価値ある苦労を味わうためには、「何かを求めていく」主体性が必須です。自分で「こうするぞ!」と決めて、ぶつかっていく。そうすれば、痛い思いをしても自分の成長につながる、乗り越えて自信を得られる、という意味で、その苦労には価値が宿ります。

――逆に、「受け身」の時に直面する苦労には価値があまりないということでしょうか。

そうですね。自分で決めたことじゃないのに、イヤイヤやらされるような苦労は、成長につながりにくい、ストレスしか残らない、次につながらないという意味で価値に乏しいかもしれません。

会社の命令に従いなさい。家業を継ぎなさい。この学校に進学しなさい──というように、誰かに決められる状態ではやる気がわきませんから、心理的にも非常に苦痛に感じます。大変な苦労をしたのに、何も残らない恐れがあります。

まとめると、自分で決めて、チャレンジして、痛い思いをしながらも、そこから知恵を得ていけるのが「価値ある苦労」。苦労はやっぱり自分で買うものであり、買わされるものじゃない、ということですね。

レジリエンスによって苦労を成長に変えていくための条件
1.成長意欲がある人
2.心のVIPを見つけること
3.若手時代から教訓化するためのサイクルを整えること
4.受け身ではなく、自ら挑戦してみること

――なるほど。きっとこれからも挑戦する人の前には困難の壁がつきものですが、心のVIPたちと支え合いながら勇気を出してトライしていきたいですね。久世さん、ありがとうございました!

(文:矢口あやは)

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ライター・編集・イラストレーター矢口あやは
大阪生まれ。雑誌・WEB・書籍を中心に、トラベル、アウトドア、サイエンス、歴史などの分野で活動。2020年に一級船舶免許を取得。

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