未確認生物を捕獲してお菓子に?「Qrazy Chocolate」がつくり出す“菓子生物”の世界

2023年12月4日

ツノがバニラでできている「バニラガゼル」や、手のひらの形をした花で獲物を捕獲し、グミのような実を育てる「マンリキソウ」。架空の生物や植物たちが動き回り、最終的には人間に捕獲・調理されてしまう――。そんな、どこかシュールなストップモーション(コマ撮り)アニメを、YouTubeやTikTok上で目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。

これらの動画を制作・投稿しているのは、「Qrazy Chocolate」というチョコレートブランド。動画に登場する未確認生物の一部は、実際に食べられるチョコレートとしてオンライン販売もされています。

Qrazy ChocolateはYouTubeのフォロワー42万人、TikTokのフォロワー33万人(※取材:2023年9月時点)を誇る大人気アカウントですが、動画投稿を本格的にスタートさせたのはわずか2年前。どのようにして独自の世界観と熱心なファンを獲得したのでしょうか?ブランドの「中の人」である平安山昌史さんに、ブランド立ち上げの秘話と、日々の制作背景についてお話を伺いました。

唯一無二のアイデアを生み出した「生き物愛」

もともとは大手お菓子メーカーに新卒入社し、長い歴史を持つ看板商品の研究開発を手がけていたという平安山さん。やりがいはあったものの、すでに完成しているブランドのコンセプトや世界観を守り続ける仕事に対し、フラストレーションを感じることもあったといいます。

今のお菓子の市場には自分がワクワクできるようなものがない。チョコレートのような定番のお菓子を使って、何か新しいものを作り出せないだろうか──。平安山さんが動画投稿を始めたのはそんな思いからでした。2021年、平安山さんはプライベートでSNSアカウントを立ち上げます。

「当初は決まったコンセプトもなく、単純に自分がおもしろいと思えるものをいろいろ試しては、フォロワーの反応を見ていました投稿を続けるうちに『視聴者からのコメントが多く集まるクイズ形式の動画などはバズを生みやすい』などの傾向が分かってきました」

しかし、自分がライフワークとして続けていきたいかどうか、コンテンツとしての将来性があるかどうかをじっくりと考えた結果、自分がしたいのは「新種の生き物をつくり出すこと」だと、平安山さんは思い至ります。

「子どものころから生き物が好きで、『新しい生物種をこの世に生み出したい』という気持ちが強かったんです。大学・大学院でも生物や植物の研究をしていたほど。

もちろん現実では倫理的に許されないことですが、お菓子を通じてならその夢が叶えられるんじゃないかと思ったんですよね。結局、会社は2年半で退職し、ほかの企業で派遣社員としてはたらきながら、お菓子や粘土を使って未確認生物を作り出すQrazy Chocolateというアカウントを新たに開設し直しました」

最初にアップしたショート動画は「ココア鳥のタネ」。粘土を使った作品づくりは幼少期に好きだったものの、動画制作の経験はこれまで一切なく、ストップモーションアニメの撮影や編集はすべて独学で身につけていきました。

Qrazy Chocolateのショート動画に登場する未確認生物たちには「菓子生物」という名前がつけられています。菓子生物たちはかわいらしい見た目のものも多い一方で、ときには人間に捕獲されまいと必死に抵抗したり、またあるときはほかの生物に擬態・寄生したりと、作品内で描かれる世界観は意外にもシビア。その理由を、平安山さんはこう語ります。

「かわいらしいキャラクターを描きたいというよりも、視聴者の方にリアルな生態系や食物連鎖を感じてもらいたいという気持ちのほうが大きいんです。人間以外の生き物って、ただ生きることを目的に生きているという感じがして憧れるんですよね。

体の構造や見た目のすべてに意味があってデザインされているからこそ、かわいいし格好いいだけではなくて、グロテスクだし気持ち悪い部分もある。それを見せられたらいいと思っています」

菓子生物たちの世界観を崩さない作品づくり

 菓子生物たちのアイデアは、実際に動物を観察したり生き物図鑑を読んだりしているときに生まれることもあれば、「こんなお菓子/動画があったらおもしろい」という発想から生まれることもあるそう。

「たとえば『シュガーバタービーバー』は、もしもバターで巣を作る小さいサイズのビーバーがいたらどんな生態だろう?というところから考えましたね。冷蔵庫から盗んだバターを尻尾で切り分けるんだろうか……などと想像していって。
 逆に、生物の捕獲方法は動画のビジュアルを優先することが多いかもしれません。こういう画があると動画としてワクワクするな、というところからアイデアを考えています」

動画を制作する際は、まず菓子生物のアイデアをラフなスケッチやテキストに落とし込み、そこから模型を作っていくといいます。動画の撮影・編集作業が完了するまでは、1本あたり30時間ほどかかるのだとか。

撮影や編集は平安山さんが一人で行っているためハードスケジュールですが、数週間に1回くらいのペースで動画をアップし続けています。

「作品を何本もアップしているとつい忘れそうになってしまうのですが、Qrazy Chocolateというブランド全体の世界観は常に一貫したものにしたいと思っているんです。菓子生物が人間に捕獲されて調理されるという流れの中で、たとえば生物が自ら画面のほうを見て手を振ったりすることはありえない。彼らも本当は食べられたくないはずですからね(笑)。

菓子生物たちが何を考えているか、動画内に出てくる青い手袋の人間の目的は何か、といった細かなストーリーも自分の中では決まっているので、できるだけそれを動画内でぶらさずに描いていきたいと思っています」

その謎めいた世界観も、大いに視聴者を魅了している様子。Qrazy ChocolateのYouTubeチャンネルやInstagramのコメント欄では、「人間は実は寄生されているのでは……?」「これは次回への伏線?」といった視聴者の考察や感想が常に盛り上がりを見せています。

経験ゼロから始めたチョコレート製造

現在は、動画にも登場する「ミルクノミウシのホワイトチョコレート」「カカオマングースの巣」「コサジサンショウウオのミルクチョコレート」の3種類を実際に商品として販売しています。

メーカー時代の経験が活きているのかと思いきや、チョコレート生地を本格的に扱うのは、平安山さんにとって初めての経験だったのだそう。

「やはりQrazy Chocolateというブランドを立ち上げた以上、チョコレートを商品化して販売することは当初から目指していたので、TikTokやYouTubeのフォロワー数がある程度増えたタイミングで満を持して、まず『ミルクノミウシのホワイトチョコレート』の開発・販売を始めました。

メーカー時代の経験が多少は活かせるだろうと最初は思っていたのですが、そんなことはまったくありませんでしたね(笑)。チョコレートはとにかく温度管理が難しいですし、菓子生物は形が複雑なこともあって、型の先端まで綺麗にチョコレートを行き渡らせるのが想像以上に大変でした。チョコレート専門店の方に作り方を教えていただいた上で製造を進めていったのですが、商品として安定生産できるものを作れるようになるまでは失敗の連続でした」

カカオ豆の焙煎から商品の型作りまでを独学で身につけた上で商品販売をスタートさせた平安山さんでしたが、販売開始直後は反響がほとんどなく、知り合いしか購入してくれない日が続きました。

食品の販売には技術力だけではなく、顧客に安心感を抱かせられるようなブランド力も必要不可欠だということを痛感したといいます。

「それでも諦めずに販売を続けられたのは、単純ですが『自分が作っているものはおもしろい』と確信していたからだと思います。当時は生産体制が整っていなかったこともあり、自分の頭の中にある世界の10%も形にできていないというもどかしさがあったので、ここでやめたらもったいないなと」

粘り強く製造・販売を続けた結果、「ミルクノミウシのホワイトチョコレート」の宣伝ショート動画がバズを生んだことがきっかけとなって、YouTubeのフォロワー数が大幅に増加。それ以来、YouTubeの視聴者や熱心なファンを中心に独特な世界観の商品が人気となり、安定して購入されるようになっていったそうです。

得体の知れない生き物を食べているような、不思議な気持ちになってほしい

Bean to Bar(カカオ豆の選定・焙煎からチョコレートができるまでの全工程を一貫しておこなう製法)で作るなど、チョコレートの味や品質にもこだわっているQrazy Chocolate。しかし平安山さんは、「素晴らしいショコラティエの方はたくさんいるので、チョコレートとしての美味しさだけで闘いたい、という気持ちはない」と言い切ります。

「僕がお客さんに届けたいのは、あくまでエンターテインメントとしての商品なんです。動画に登場するマングースの巣やコサジサンショウウオを捕獲網ごと商品パッケージに使っているのも、動画の世界をできるだけリアルに体験していただきたいからこそ。

ただチョコレートを食べているだけのはずなのに、なんだか得体の知れない生き物を口にしてしまっているような高揚感や、不思議な気持ちを味わっていただけたらうれしいなと思っています」

ダークチョコレートを用いた「カカオマングースの巣」

現在はまだ平安山さんの個人事業ではあるものの、チョコレートの型作りなどを担当するメンバーが加わったこともあり、より安定した商品の開発・製造を目指して会社化することを検討している最中だといいます。今後は、Qrazy Chocolateのストーリーをより深く楽しめるような商品展開も構想中なのだとか。

「自分の頭の中の世界を形にするという、会社員時代にはできなかったことが今叶っているのがとてもうれしいんです。もちろん、動画がバズったり商品を購入いただいたりしたときもうれしいですが、自分のイメージしていた生き物が実際にチョコレートになったときの喜びは別格ですね。

とはいえ作品化できていないイメージもまだまだたくさんあるので、これからも自分がおもしろいと感じる世界観を、チョコレートを通して存分に体現していきたいと思っています」

(文:生湯葉シホ)

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ライター生湯葉シホ
東京都在住。Webメディアや雑誌を中心に、エッセイやインタビュー記事の執筆をおこなう。2022年、『別冊文藝春秋』に初めての小説「わたしです、聞こえています」掲載。『大手小町』にて隔週でエッセイを連載中。

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