サウナの熱波を全国へ発信!アウフギーサー・五塔熱子さんの仕事

2022年8月25日

今、世間は空前のサウナブーム。そんな中で、サウナでタオルやうちわを扇ぐ「熱波師」という仕事が注目を集めています。サウナ後の「ととのった〜」という感覚が倍増するのも熱波師の力量によるもの。しかし、私たちが熱波師と出会うのは、サウナ室で熱波を扇いでもらうほんの10分ほど。その裏側は謎に包まれています。 プロの熱波師として活動する五塔熱子さんは、熱波師の中でも、柔らかな熱波を楽しむドイツ式サウナの「アウフグース」をメインにする「アウフギーサー」。五塔さんは、なぜアウフグースの世界に足を踏み入れ、どのような活動をしているのか、お話を伺いました。

サウナで地域起こしをするアウフギーサー

昨年2021年、拠点としていた関東から、鳥取県・琴浦町へと移住した五塔さん。普段の平日は琴浦町の役場に地域おこし協力隊として勤務し、関係人口(定住者や観光客としてではなく地域と関わる人口)を増やす仕事に携わっています。

五塔さんは、町の関係人口創出の業務を担当。仕事の一環として、鳥取県の豊かな自然を体感してもらうサウナイベント「ととのう とっとり」のアドバイザーもしています。鳥取県からは「とっとりサウナCEA(最高経営熱波師)」に任命され、行政と協力しながら地域の魅力を発信しています。

時にはスーツを脱ぎ、Tシャツとハーフパンツ姿に変身。鳥取のサウナ施設「Nature Sauna」で、五塔さん自ら訪れた人々にアウフグースを行います。

Nature Saunaでお客さんをあおぐ五塔さん。今のところアウフギーサーと熱波師に厳密な区別はなく、日本ではタオルを使って一人一人に風を当てる人を熱波師、タオルを使って蒸気をサウナ内で攪拌する人をアウフギーサー、と分類することが多いそう

日本有数のアウフギーサーの一人として、全国区で活躍する五塔さん。なぜ鳥取での「地域おこし協力隊」と「アウフギーサー」との兼業を選んだのでしょうか。

「もともとは神奈川の温浴施設を中心に関東圏でアウフギーサーとして活動していたのですが、2021年から日本海側の温浴施設を巡る『北陸アウフグースツアー』を開催し、全国でも積極的にアウフグースの活動を行うようになったんです。このツアーを通し、開催する施設やお客さん同士が、交流するきっかけになったことに驚きました。たとえば石川県でサウナに通っている人が、福井県のサウナに来てくれたりもしたんです。

県をまたいだ施設同士で交流するようになり、コラボイベントを開催するまでの関係性になっていきました。そこで『サウナを機に交流が生まれる』という新たな文化の魅力に気付いたんです。アウフグースという新しい文化を伝えることを得意としていたので、地域おこしという場面でも力になれることはあるのではと思って志望しました」

2021年にVol.2を開催。継続的にツアーを開催するように

「アウフギーサーの役割とは『アウフグースを通してサウナやその施設の魅力を伝えること』だと思っていて。また、自然が豊かな場所でのサウナ体験はよりその価値が深まると思い、そういった体験ができる場所を探していたときに出会ったのが、琴浦町にあるNature Saunaでした。チームメイトがプロデュースに関わっていたのもありましたが、そこを拠点として活動するにはコロナ禍真っ只中ということもあり、ハードルが高かったので鳥取県の地域を知りながら活動していくために地域おこし協力隊を志望しました。鳥取に行こうと決めてから、移住までの流れはとても早かったのです」

土日は各地のサウナ施設を行脚しながら大会の練習

鳥取県内や隣接県を始め、全国のサウナ施設にも引っ張りだこの五塔さん。土日になると拠点にする「Nature Sauna」を離れ、複数の施設を行脚します。

基本的には1日につき1つの施設を担当し、男女それぞれ10分の実演を1〜2回ずつ実施。さらにサウナ施設を回るだけではなく、地域の活動の場でもある公民館に出向いてサウナの良さを伝える活動にも勤しんでいます。サウナの魅力を町内向けに発信すべく、地域の方々にもアウフグースを体験してもらっているといいます。

町内会との交流の様子。タオル捌きをレクチャーする五塔さん

そもそも、五塔さんはアウフギーサーにどんなやりがいを感じているのでしょうか。

「アウフグースでは『表現したいコンセプト』がはっきりしていることが大事。いくら綺麗なタオル捌きで気持ちのいい風を起こしたとしても、心がこもっていないと表現が伝わりづらいんですよね。だから私が始めたころは、お客さんから『もっとこういった風の方が良い』という感想やアドバイスを積極的にヒアリングするようにしていました。

徐々に経験を重ねる中、『今日の風はこういう感じがしたよ』と、自分が考えていたイメージがお客さんに伝わったときはうれしかったです。次第に私のアウフグースを体験して『感動した』と泣いてくださるお客さんも出てきて。お客さんとともに、自分らしいアウフグースを極めていきました」

アウフグースの練習風景

五塔さんは地域おこし協力隊の活動に勤しむ一方で、自らのアウフギーサーとしての道を探求することも続けています。

直近の2022年7月には、アウフグース世界大会への出場権がかかった国内大会・アウフグースチャンピオンシップジャパンにも出場。個人では優勝。団体でも3位に入賞しました。五塔さんは世界大会への出場権を獲得し、個人では本戦が行われるオランダへ。団体ではプレイオフ(敗者復活戦)が行われるスロバキアへ9月に行く予定です。

「世界大会も国内大会と同じで、持ち時間15分間でアウフグースショーを行い、タオルを回す技術や、香り、光や音などの演出、ストーリー構成などの項目で審査されます。平日の役場での勤務が終わったあと、スケジュールの合間を縫って練習していました」

大会ではタオルやアロマの扱い方などの細かな部分も審査の対象となる、と五塔さん。細心の注意を払わなければなりません。

「汗をかいた自分の体に攪拌用のタオルが触れることや、バケツや小物を雑に扱うなどの行為も減点の対象になります。タイムキープや自分の体力をコントロールすることも求められます。今はアウフグースショーを通して、基本的なテクニックや所作、お客さまにより満足してもらうための要素などを学んでいるところです」

「扇がなくていいよ」とお客さんに言われたこともあった

五塔さんがアウフグースと出会ったのは2016年。日本サウナ熱波アウフグース協会が主催し、全国の熱波師が「熱波の強さ」や「タオルを使ったパフォーマンス」などの技術力を競うイベント「熱波甲子園」を機に、興味を持ち始めます。

「私が熱波師としての活動をスタートしたのは2012年なのですが、転機はその4年後。2016年に参加した熱波甲子園で、山梨県・秋山温泉のみなさんがアウフグースを披露していたのです。風の強さにもバリエーションがあり、またタオルを回すなどの見ていても楽しめる演出もあり、興味を持ちました。その後、話を伺ううちにアウフグースと呼ぶのだと知り、秋山温泉まで修行に行きました。2018年にはどうしても本場で体験したくなり、本場のドイツまで行ったんですよ。

本場のアウフグースは、サウナ室中を駆け巡る風がとてつもなく心地よかった。丁寧に蒸気をコントロールすると、風に乗って香りが届くんです。正面だけでなくさまざまな方向から吹いてくる風に包まれて、安心感のような居心地の良さを感じました。サウナという空間を作りあげお客さまと一緒に楽しむことがアウフグースなのかと深く感銘を受けました。そこからみるみるうちに虜になっていきました」

しかし活躍の裏側には、人知れない苦労もありました。五塔さんが熱波師としての活動を始めた2012年ころといえば、サウナブームの黎明期。「ロウリュウ」や「アウフグース」などの言葉は一般的には広く流通していなかったのです。

当時の五塔さん。熱波師を始めたばかりの頃は知識や技術が乏しく、見よう見まねで行っていたそう

「熱波師としての活動を始めたころは、お客さんにもよく『テレビが見えないし、扇がなくていいよ』と言われたこともたまにありました。自然と熱波の気持ちよさに気付いてもらえるよう、地道なアプローチを続けていました。

熱波甲子園を通し全国各地の熱波師さんたちと情報交換するようになってからは、徐々に知識や技術も身について。イベントを行う施設も少しずつ増えていきました」

また、2018年にアウフグースを始めた当初も、同様の困難が訪れます。

「サウナブームの加速に伴い、サウナを楽しむ人口は着実に増えていました。でも『我慢して自分に勝つ!』みたいなイメージが、サウナを訪れる人の中にはまだまだ強かったんです。ロウリュウイベントも『熱ければ熱いほど良い!』という風潮があって、お客さんも熱波師もハードな熱波を追求する印象がありました。特に強めの熱波を好むお客さんの前でアウフグースを行なった時は、よく『風が来ないんだけど』『タオルを回すことになんの意味があるの?』といった厳しい言葉をもらったこともありましたね……」

時に傷つきながらも、五塔さんは地道に「攪拌で発生するどこからともなく吹いてくる風を楽しんでください」と、アウフグースの楽しみ方を伝え続けます。「ちゃんと理解してもらった上で風を受けると『案外悪くないな』と気付いてもらえることが多かった」と五塔さん。なぜめげずにサウナ文化を発信し続けたのでしょうか。

「温浴施設の仕事って、すごく忙しくて大変なんですよ。でも、業務は多岐にわたるし、お客さまへの対応は命に関わるものまであり、幅広い知識が必要になります。だからこそ、温浴文化を支えていく人たちが、サウナや温泉のことを好きになり、温浴施設ではたらけることに誇りを持ってもらえるような環境を作りたかったんです。熱波師やアウフギーサーとして活動することで、お客さまから直接、感謝の言葉を頂けるようになるし、個人として知ってもらえるようになる。頑張りを認めてもらえる場所があることで自信をもって仕事に取り組めるのでは。そういった考えが根底にはあります。

また、熱波師を始めた当初は、女性のお客さんや熱波師がまだまだ少なかったんです。熱波師も肩を壊す人が多かったし、熱波が辛くて辞める人もいて。女性のお客さまと熱波師を増やしていくには課題が多いな、と感じていました。

サウナ室に心地よい対流を生み出すアウフグースはサウナの玄人はもちろん熱波が苦手な人でも楽しめますし、風を送るテクニックがいくつもあるので、自分に合ったものを選ぶことができて、従事者の負担も軽い。熱波とは対極の『癒しのサウナ』があっても良いのでは、と思いました」

活動を始めてから10年が経過し、今なお全国のサウナーから求められ、多忙な日々を送る五塔さん。その人気の根底には、「何の意味があるの?」と理解されない時でもめげずに、自身の感じる魅力を信じ続けたエピソードが深く関係していました。最後に、五塔さんの今後の目標について聞きました。

「10年前は『温浴施設のサービスの一環』だった熱波やアウフグースが、気付けばひとつのカルチャーとして評価されるようになりました。これからさらに、より多くの人にとって『なくてはならないもの』になっていけるように努力していきたいと思います。そのためには、アウフグースの心地良さを全国にお届けするとともに、アウフギーサーとして技術や知識を深めていき、お客さまとアウフギーサーがどちらも笑顔になれるように尽力していきたいです」

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編集/ライター桑原大智
1990年生。京都府出身。カルチャーメディア『Qetic』で編集を務めながら、たまにライターとして執筆も。LizzoのJuiceという曲を聞くとどんな時でも元気が出ます。

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