監督と俳優の間に立ち、性的なシーンの撮影をサポートする「インティマシー・コーディネーター」の仕事

2022年10月6日

映画やドラマで描かれる、ヌードなどの露出の多いシーンやベッドシーンといった性的な場面。出演する俳優にとっては、負担を感じるような演技や演出が求められることもあります。また、近年、性的なシーンにおける撮影現場でのハラスメントは、特に問題視されるようになってきています。

そんな中、2018年ごろから海外で導入され始めたのが、監督と俳優の間に立ち、性的なシーンの“仲介役”を担う「インティマシー・コーディネーター」という仕事です。日本で活動する数少ないインティマシー・コーディネーターである西山ももこさんに、お仕事の内容や意義について伺いました。

「作品さえおもしろければOK」という価値観に疑問を覚えていた

──インティマシー・コーディネーターとは、どのようなお仕事なのでしょうか?

映画やドラマなどの撮影現場で、ベッドシーンやヌードシーン、未成年同士のキスシーンといったセンシティブなシーン(※これらの性的な表現を含むシーンはインティマシーシーンとも呼ばれる)に立ち会い、監督と俳優の仲介をするコーディネーターです。監督にどんなシーンを撮りたいかを確認した上で、俳優にも不安なことはないか、見せたくないところはないかといったことをヒアリングし、双方の納得の上で撮影が行われるのをサポートします。

もともとはインティマシーディレクターという役職が存在し、アメリカやイギリスの舞台で導入されていた仕事で、映像の世界に入ってきてインティマシーコーディネーターとなったのは2018年と言われています。世界的に見ても非常に新しい職種のため、日本には現在まだ2名しかいません。ただ、ここ数年で社会的な注目と需要が高まってきていることもあって、今も世界中で多くの人たちがインティマシー・コーディネーターになるためのトレーニングを受けています。
私が2年前にオンラインで資格を取得した時は、正直すぐには仕事にならないだろうと思っていて、普及活動から始めていかなきゃと考えていたんです。でも、思った以上に世間からの関心が高く、急激に需要が高まってきていますね。

──なぜ、西山さんはインティマシー・コーディネーターの資格を取得されたのですか?

私は長らく、日本を拠点にアフリカ専門のロケコーディネーターをしていたんです。ロケコーディネーターというのは、テレビ番組などの制作サイドの要望をヒアリングし、現地での撮影に関わる全てをコーディネートする仕事です。やりがいのある仕事ではあったのですが、ある時からふと、制作サイドの望みを叶えさせすれば良いんだろうか、と疑問を持つようになりました。作品さえおもしろければ、現地の人に対して非常識で失礼な振る舞いをしてもいいと考える制作陣も少なくなかったんです。

仕事に対してモヤモヤした思いを抱え始めていたある日、タクシーに乗ったんですよ。運転手さんと話していたら、その方、偶然その日が退職前の最後の勤務だと言うので、「お仕事、楽しかったですか?」って聞いたんです。そうしたら「すごく楽しかったです」って。それを聞いた時に、私はこの仕事を同じスタンスで続けていても楽しいとは絶対に言えないなと気づいて、1度仕事を休むことにしました。

同時期に友人から、インティマシー・コーディネーターという仕事があって、日本で資格取得のためのトレーニングをする人を探しているという情報を教えてもらったので、安全な撮影や現場のパワーバランスの改善に貢献できるなら勉強してみようと思い、トレーニングを始めたんです。

──トレーニングというのは、具体的にどのようなことをするんですか?

トレーニングでは、インティマシー・コーディネーターがどのような仕事かという基礎的な内容に加え、作品の台本の読み方や、メンタルヘルスやジェンダー、ハラスメントについて学びます。通常は6~7カ月をかけて行うものなのですが、当時は日本で早急に育成する必要があり私の場合は週5日、毎日開催される集中講座に参加してトレーニングを受けました。

「仕事上のNG」を正しく把握するためのコミュニケーション術

──インティマシー・コーディネーターは、撮影前に監督と俳優の意見をヒアリングするんですよね。双方とのコミュニケーションにおいて、気をつけていることはありますか。

出来るだけ細かく、先入観なく意見を聞くように努めています。日本の脚本ってものすごく行間を読まなければならないんですよ。たとえば「AとB、一夜を過ごす」と書かれていたら、性行為をすると捉える人もいるし、ただ一緒の部屋で過ごすだけだと捉える人もいる。

なので、まずは監督にどのようなシーンかを確認するんです。「ベッドにいるとしたら、シーツの上ですか? それとも中に入っていて、体は隠れている状態ですか?」とか、「下着の素材はどのようなものですか?」といったように。

──とても細かくヒアリングするんですね。

インティマシー・コーディネーターは俳優の同意を取るだけでなく、監督が望む表現の実現をサポートする仕事です。細かく聞いていくことで、シーンの細部が固まっていくこともあります。

──それは、俳優の方に対しても同様ですか?

俳優に対しても「このアングルだとお尻が映るけれど、問題ないですか?」とか、「割れ目が映っても大丈夫ですか?」と、細かく言語化して確認するようにしています。日本の方は「どこどこのシーン、大丈夫?」と曖昧な聞き方をすると、つい「大丈夫です」って言ってしまいがちなんですよね。だから、細かすぎるくらいブレイクダウンして聞いていくことが大切だと思っています。

とはいえ、ただ聞くだけではコーディネートにはなりません。ヒアリング時にNG項目があった場合は、できる限り代案を出すことを意識しています。たとえば、胸には触られたくない場合でも、お腹や脇であれば問題ないというケースもある。そういった選択肢をお聞きして監督に伝えます。何がOKか明確になっていた方が、監督にとっても演出に自由度が生まれるからです。

また、NG項目を伝えることで、その俳優に対して起用しにくいイメージを与えてしまう場合もあります。それでは、その場では上手くいっても、長期的に俳優にとっての損になってしまいます。なので、「〇〇さんは、これはNGだけれど代わりにこれは大丈夫と言ってくれています」というコミュニケーションをとることで、監督の作品イメージを尊重しつつ、俳優にとって最大限の演技を引き出せるよう心がけています。

──ただ、キャリアが浅い若手の俳優さんの場合、つい自分の意に沿わない演出を受けてしまうこともあるのではないですか?

おっしゃる通りで、キャリアが浅い方ほど「面倒がられてしまうかも」と思ってしまうんですよね。だからこそ、私も「プロなのだから、やれと言われたら演じられるのはわかります。その上で、〇〇さんがやりたいかどうかを教えてくれますか」という感じで、ゆっくりとヒアリングするようにしています。

また、「どんなことが嫌ですか?」と漠然と聞かれても答えづらいと思うので、「私はこういうことが嫌なんですけど」と、まず自分の情報を具体例として開示することもありますね。そうすることで、本音を言うためのハードルが少し下がりますので。

──そうしたヒアリングの方法は、撮影現場に限らず、ビジネスのシーンでも応用できそうですね。

そうですね。私自身、仕事場におけるパワーバランスは悩んでいるところです。だんだんと周囲の人たちより年上になってきたので、無意識のうちに断れない雰囲気を出してしまってないかな、と考えてしまいます。そうならないよう、飲み会やご飯などは、基本的には自分から一対一では誘わず、誘われるのを待つようになりました。自分から声をかけたい時は、できるだけ全員を誘うようにしています。

──年長者やキャリアのある人こそ、その権力を持っているということを自覚しないといけないんですね。

作品の監督やプロデューサーが「俳優さんとは丁寧にコミュニケーションをとりました」という場合でも、相手からしたら断れない空気だったというケースも少なくありません。

だからこそ、年齢や立場が上になればなるほど、自分にはある種のパワーがあるという前提に立って、それをいかに崩していくかを意識しないといけないと思うんです。私自身も、過去の振る舞いを振り返ると反省することだらけです。人間だから、間違うこともあると思いますが、真摯に謝罪することや、同じ間違いを繰り返さないよう心掛けています。


インティマシー・コーディネーターを「当たり前の仕事」にするために

──インティマシー・コーディネーターのお仕事をされてきた中で印象的だったことはありますか?

作品でご一緒した監督・プロデューサーから「西山さんがいてくれたおかげで安心して進められました」と言っていただけたこと、俳優の方から「最大限演技に集中できました」と言っていただけことは嬉しかったですね。

一方で、この仕事が注目を浴びるようになってから、正義のヒーローのような扱われ方をしたり、インティマシー・コーディネーターを入れさえすればすべてのハラスメントがなくなるかのように思われることがあり、言葉だけが先走ってしまっていないかなと不安を覚えています。

あくまで調整をする「コーディネーター」という立場なので、やはり現場のスタッフの意識が変わらなければ、根本的な改善は見込めません。まだまだ認知は十分ではないですし、「これから」の仕事なのだと思っています。いずれは、ベッドシーンがある作品にはインティマシー・コーディネーターが当たり前に入っている状況を当たり前にしていきたいですね。

──そのために、今後どのようなことが必要だと思いますか。

一番は、映像業界全体のギャラを底上げしていくことだと思うんです。現状、インティマシー・コーディネーターが参加している現場は決して予算が潤沢にあるわけではなく、少ない予算の中で意義を感じて呼んでくださっていることがほとんどです。また、撮影期間のうちの一部にスポットで入る仕事ということもあり、リハや撮影のスケジュールが読みづらい。採算を取るのが非常に難しいのが現状です。まず、ここが改善されなければ、インティマシー・コーディネーターの職だけで生計を立てるのは難しい。 

また、私たちが表現の幅を狭める存在ではなく、作品制作における選択肢を増やす支援をしていると理解していただくことも必要だと考えています。

──インティマシー・コーディネーターが現場に入ることで、作品にどのようなメリットが生まれるのでしょうか?

生々しいシーンに関して明確な話し合いをしないまま撮影が進み、結果的に違和感の残るシーンになってしまうことってよくあるんです。たとえば、気持ちが通じ合っていない2人が正常位で性行為をしているシーンって、画面を通して観ると不自然な時もあるんですよ。そういう関係の場合はバックスタイルのほうが自然だとか、センシティブなシーンにもセオリーがあるんです。

コミュニケーション不足によりそういった違和感が生じるのは、作品にとってももったいないことじゃないですか。インティマシー・コーディネーターが現場に入ることで、表現をブラッシュアップするための話し合いが活発化するという側面は大いにあります。だからこそ、インティマシー・コーディネーターは存在しているということを、声を大にして伝えていきたいですね。

(取材・文:生湯葉シホ 写真:宮本七生)

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ライター生湯葉シホ
東京都在住。Webメディアや雑誌を中心に、エッセイやインタビュー記事の執筆をおこなう。2022年、『別冊文藝春秋』に初めての小説「わたしです、聞こえています」掲載。『大手小町』にて隔週でエッセイを連載中。

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