元祖カリスマ書店員 間室道子さんの語る「仕事の広げ方」  

2022年10月14日

書店のコンシェルジュは「本とお店の門番」  

書籍の品出し、棚づくり、接客などを行う書店の仕事。その中でも、多くのお客さまから支持を集める「カリスマ書店員」と呼ばれる人がいます。代官山 蔦屋書店の間室道子さんもその1人です。 

間室さんはかつて六本木にあった書店に25年勤務し、次々と新刊のヒットやロングセラーを仕掛けてきた元祖・カリスマ書店員。現在は代官山 蔦屋書店で「コンシェルジュ」としてはたらき、2011年12月のオープン時から文学を担当。雑誌ほか多くのメディアで書評の連載や、文庫の巻末解説など執筆活動もしています。 

本屋の「コンシェルジュ」とは、いったいどんな仕事なのでしょうか。書店員の可能性を拡張する、間室さん流の仕事術を伺いました。 

──代官山 蔦屋書店の「コンシェルジュ」は、どんなお仕事をしているのですか?  

私ども代官山 蔦屋書店には、だいたい100人ぐらいのメンバーがはたらいており、その中の約30人が「コンシェルジュ」を名乗っています。  

この言葉で皆さんが連想するのは、ホテルのレセプションの隣にあるデスクにいる人だと思います。「ゴルフ場はどこがいい?」「あの芝居のチケット取ってくれませんか?」といった、お客さまのリクエストに応える仕事がホテルのコンシェルジュさん。  

しかし、代官山 蔦屋書店の意味付けは一味違います。「コンシェルジュ」というフランス語の元々の意味は「門番」。私たちは本とお店の門番なんです。「このお店のドアを開くと、この本のページをめくると、こんな世界が広がっていますよ」と伝えるのが役割です。  

 ──門番、ですか。コンシェルジュは具体的どんなことをするのですか?  

他書店では「書店のソムリエ」なんて表現も耳にしますよね。本のソムリエさんたちが、食事にワインを合わせる「ソムリエ」のごとく、相手の注文どおりの書籍を提供するのを第一とするならば、代官山の文学コンシェルジュとしての私は、「お客さまの思ってもみなかったもの」をおススメすることも。 

もちろんこれは、ご来店者によります。「この人は年に1回とか2回しか書店に来ないんだろうな」という雰囲気の方にはしないんですが、当店には、私がひそかに「本屋のお客さまのプロ」と名付けている百戦錬磨の読書家の皆様がいらっしゃいます。そういう方々には、ひねりをきかせてみる。  

たとえば以前、「マムロさんに泣ける小説をお願いしたのに、全然悲しい話でも寂しい話でもなかった。でもあの本で、私は確かに涙を流した。これって何?!と思ってまた来ちゃった」とおっしゃっていただいたことがあります。書店に限らず、レストランでも雑貨屋さんでも「なんじゃこりゃ!」と思って二度と行かないお店と、「なんじゃこりゃ!」で足しげく通ってしまうお店がありますよね。私は後者を目指しています。 

「尖った」ターゲット設定が思いもよらないファンの獲得につながる  

──店頭に並ぶ本の仕入れや棚づくりはどのように行っているのでしょうか?  

品揃えに関しては、基本的にそのジャンルの担当に一任されています。私が2011年に入社した当時の店長に「この店には理由なくある本はない。理由なく無い本もない。そういう売り場を作ってください」と言われたんです。これは私が代官山にいる限り続く宿題ですね。 

なので、世間でどんなに売れている本でも「これはうちには合わないな」と思ったら、大々的に積むことはしません。書店は巷の情報の窓口でもあるので「今何がキテるのか」は押さえる。でも推さない(笑)。 一般書店では入口にワゴンで山積みされてる本が、うちでは棚に1〜2冊、ということが珍しくないんです。 

当店は「プレミアエイジのための書店」をうたっています。プレミアエイジというのは、お金と時間に余裕がある60代以上の方々。代官山周辺にはそういう人たちがたくさんいらっしゃいます。音楽でいうと、ビートルズやローリング・ストーンズを聞いていた世代。かつて学生運動に参加していた、という方もいるでしょう。つまり彼らはジェネレーション的には「革命」を生きてきた人たちなんです。だから通常の「お年寄り」とはイメージが違うんですよね。 

そしてあの活字世代には、「本屋のお客さまのプロ」のような、本好き、本屋好きが非常に多い。ですからそこにターゲットを決めて、思い切って絞り込んだ選書をしています。  

 ──どんな本も揃っているような、間口の広い書店を目指してはいないんですね。  

そうなんです。けれどそうしたお店作りをしていたら、バリバリのビジネスパーソンや学生さん、アート系、ファッション系の方々など、バラエティに富んだお客さまがいらっしゃるようになりました。休日は親子連れやカップルも多いです。私はこの現象をテレビや雑誌の制作に例えているんですが、「あらゆる世代のためのマガジン」とか「おじいちゃんおばあちゃんからお子様まで全員楽しめる番組」って、結局誰に向けて作っているのかがぼやけてしまい、すぐ打ち切りになる。ターゲットと置くものを絞った構成が逆に、世代・年代を超えたいろんな方々に興味を持っていただけてるのだろうと感じています。 

棚の前で、お客さまにニヤッと笑ってほしい  

──文学を担当するコンシェルジュとして、間室さんが行っている工夫を教えてください。  

私の場合はまず、伊坂幸太郎、宮部みゆき、村上春樹といった、ほうっておいてもばんばん売れてくれる作家についてもきちんと仕掛けるのを喜びとしています。 あと、新人賞もマークします。フレッシュな作品を最前列で積むって、良いですよね。 

 もちろん、誰もが知っている作家や話題作をただ並べるだけかというと違います。何をしているかというと、「読み方の提案」。たとえば、本の中には「作者はこの一言に向かって、500ページを超える作品を書きあげたんだろうなあ」と思えるキラーワード、肝となる場面があります。そこを抜き書きするだけで、1枚のPOPができあがる。また、推理小説の中で犯行のトリック以上に謎であるのが「男と女の心の動き」だったり、登場人物の職業に目を向けると「辞書編集者」「アニメ業界の人々」「地域活性デザイナー」など特定の仕事を精緻に描いた作品に面白いものが増えていたりします。それらを「こういう切り口で読むとこの本は面白い」「このテーマでレアなフェアを組んでみました」と紹介する。それが「読み方提案」です。 

ブックフェアについては、特定のテーマで50冊ぐらいを選書して店頭に並べています。すべての本におすすめのコメントを書き、リーフレットとして無料配布。これを毎月やってるんです。 

すると、このコーナー目当てに通ってくるお客さまがいますし、リーフレットを持って帰って「じゃあ次はこれを読もう」とお店に来てくださる方、つまりリピーターを作ることにもなる。新刊既刊を問わず、私が面白い!と思った作品を紹介する「オールタイム・ベスト」も毎月50冊ほどで展開してるので、ひと月合計100冊の選書&コメント、という鬼のような作業ですが(笑)。これをやっていくのが代官山 蔦屋書店の文学コンシェルジュなんです。 

2022年6月の特集は「流れる」

──2022年6月は「流れる」というフェアを開催していたのですね。「オールタイムベスト」や、「◯◯さんによる選書」というのは、ほかの書店さんでもよく見かけますが、間室さんの仕掛けるフェアは切り口が斬新ですね。  

 「梅雨だから雨の本を置きましょう」というのは全国のどこの書店もやりがち。でも、雨をテーマにした本でのバリエーションは限られてしまいます。そこで、「流れる」なんですよ。  

 梅雨時、外を見やれば窓をつたって雨だれが流れている……じゃあ、「雨」ではなくて「流れる」でやってみようかなって思いついて。  

 雨をテーマにした本ももちろん並べますが、そのほか、流れるものといえばまず涙。そして汗。時間も流れる。スポーツが中止になることを「試合が流れる」とも言いますし、音楽も流れると表現しますよね。血もそうだ。決闘小説を混ぜ込もう! そう考えると、ただ「雨」という切り口のフェアよりも幅広い書籍を紹介することができるんです。また、このひねりのきかせ方が読書好きのプレミアエイジの心をくすぐっているかと。自画自賛ですが(笑)  

リーフレットには毎号40冊以上の書籍の紹介文が掲載されている。無料とは思えないほどの密度と熱量がファンの心を掴む。

そういうフェアをやっていると、本屋のお客さまのプロは「また間室がこんなことやっている」と面白がってくださる。私は、私に会いに来てくださる方、フェア目当てのお客さまに、棚の前でニヤッと笑ってほしいんですよ。  

 書店員の仕事を拡張してきた「綿密なリサーチ」「丁寧な発信」  

──こういった店内の企画の仕事以外に、多くのメディアで執筆や選書のお仕事もされていますよね。  

 かつて、本について何かを語るというのは学者や作家、書評家のお仕事でしたが、本屋大賞が創設された2004年ごろから、書店員がテレビや新聞、雑誌に出て本を紹介することが珍しくなくなりましたね。 

──書店員として、店頭以外のメディアなどにお仕事を広げていくための秘訣はあるのでしょうか?  

私は幸いお声がけが多いんですが、次々出れる人とそうじゃない人の差はどこにあるかというと「出方の研究」だと思います。  

 私はメディアに出るときは、その媒体を綿密にリサーチします。女性ファッション雑誌なら、読者は主婦層なのか、バリキャリがターゲットなのか。20代向けなのか、40代以上か。1カ月にかける洋服代は10万円越えなのか、3万円止まりなのか。ハイブランドの広告が多数載っているのか、通販の紹介ページが多いのか。「見ている人、読んでる人はどんな人?」を知るって、とっても大事。皆メディアの人に「好きな本について、自由にしゃべってください」と言われるとそうしちゃうんだけど、信じちゃだめですよ(笑)。戦略を立てないと。それが出来てる人が、次々声が掛かるんだと思います。 

 ──書評も、コンシェルジュのお仕事の延長にあるんでしょうか。  

代官山 蔦屋書店のホームページで、週に1回書評をアップする「間室道子の本棚」をずっと続けています。毎週木曜日に更新で毎月4本をあげており、まもなく200回。連載当初は、いつか紹介するものがなくなる日が訪れるのではないかと思ったものですが、「この作品の面白さを知らしめたい!」と興奮する本との出会いは途切れることがありません。  

 ──ということは、一週間でどのぐらいの冊数を読んでいらっしゃるんですか?  

 1日1冊、休みの日は5冊、年に720冊が目標だったのですが、今は本当に忙しくなっちゃってなかなかそこまでは。でも「今日は何も読まずに終わったなー」という日はないです。  

雑誌の連載も数本抱えていますが、たとえば「今月は夏休み名作特集」といったお題を出される以外、求められるのは、やはり今どういうものが売れていて、それはなぜなのかを書店員の目で語ってほしいという新刊比評なんです。とりあえず、話題の新作は読んでますね。  

──ネット、雑誌連載のほかにも、文庫本の巻末解説も書いていらっしゃいます。どのような経緯で書くことになったのでしょうか?  

たいていは編集さんからの依頼で、近年は作家の方からじきじきにご指名をいただくようになりました。うれしかったのは、湊かなえさんの『母性』の解説を書いたら、それを読んだ直木賞作家の桜木紫乃さんが「今度『蛇行する月』が文庫になるので、こういう感じのを私にも書いてくれないかな」とおっしゃってます、と編集者さんが連絡を下さったこと。次につながる仕事って、いいですよね。 

──作家さんとの繋がりは、間室さんの今までのお仕事がきっかけで生まれたものなんですね。  

ネットであれリアル雑誌であれ、私は書評を書くと、必ず編集さん、知ってる場合には作家の方に直接ご連絡をしています。するとお礼のメールが来て、そのうち対談相手にご指名されたり、執筆のご依頼をいただいたり。何につながるかわからないので、地道な宣伝は重要です。 

仕事の質を左右する、「面白がる」姿勢  

──世の中に書店員さんは多くいらっしゃいますが、間室さんのように「カリスマ書店員」と呼ばれる方はほんの一握りかと思います。そんな一握りの仕事をするために、どんなことを心がければ良いでしょうか?  

 その差を分けるのは「面白がれるかどうか」ではないでしょうか。  

「面白い」という気持ちはその人次第。たとえば、この人のレジは速いし丁寧と思わせるコンビニ店員さんや、「彼女がいる日はトイレがとってもきれい」とわかる清掃員さん。一見、誰にでもできると思われるような仕事でも、必ず光る腕前の方はいるんです。それはその人が自分のリズムとかクセを把握し、独特のさばき方やこだわりをあみ出している、イコール仕事を面白いと思っているからこそ、出来るんだと思います。  

誰もがあこがれる職業でも、本人がつまんないと思っていれば輝かない。面白がって、続けること。それに尽きるのではないでしょうか。 

(文:阿部洋子 写真:玉村敬太)

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編集/ライター阿部洋子
出版社にて、人文・思想系の書籍、エッセイやコラムの編集を経験後、ファッション雑誌の編集に。2016年よりフリーランス。ジャンルを横断した経歴を生かし、モード誌から週刊誌まで幅広い媒体で活動中。ブックライティングなども行う。
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