大人のADHDとどう向き合う?生きづらさを克服した女性ライターに聞く、自己肯定感高くはたらく秘訣

2022年10月27日

不注意でミスを起こしやすい、物忘れが多い、物事の優先順位をつけられない、マルチタスクが苦手……などの特性があるADHD(注意欠如多動症)。発達障害の概念のひとつで、子どもの20人に1人、大人の40人に1人が生じると言われています※。

※出典:「新宿ストレスクリニック-医療と心の話

ライターで作家のいしかわゆきさんは、社会人3年目でADHDの診断を受けたそうです。それまでは「なぜ普通の人ができていることが、自分にはできないのだろう」と、生きづらさやストレスを感じていました。

早稲田大学文化構想学部 文芸ジャーナリズム論系を卒業後、3年間会社員の道を歩み、2019年にフリーランスライターとして独立したいしかわさん。現在は、自身の「特性」を活かせる環境で、心身ともに健やかにはたらいているといいます。

いしかわさんはなぜ、自身がADHDだと気付き、どのようにしてキャリアを模索してきたのでしょうか?精神科で診断された時のことや、その後の心境の変化を踏まえ、ADHDを持つ人が自己肯定感高くはたらく秘訣を伺います。

大学生で「ADHD」という言葉を知った

──いしかわさんの現在のお仕事について教えてください。

メインとなるのはライター業で、キャリアや人生哲学、フリーランスにまつわる取材やコラム・書籍の執筆、イベント登壇などが主な仕事です。

ライター業のほかにも、声優やグラフィックレコーダーとして活動したり、2022年からは、Z世代向けのマーケティング会社で広報のお仕事もさせていただいています。

──ADHDだと気付いたきっかけはなんだったのでしょうか。

「ADHD」という言葉は、大学時代に友人が「ADHDと診断されて、薬を飲んでいる」と話してくれたことで知りました。

「自分もそうかもしれない」と感じたのは、初めてアルバイトをした時。朝7時にオープンする駅ナカのカフェだったのですが、私は「自宅が近いから」という理由で早番を任され、毎朝6時にシフトインしなければなりませんでした。

今思えば当たり前ですが、案の定、朝どうしても起きられなくて。6時にシフトインするどころか、3日に一度は、開店時間の7時に目が覚めるという大寝坊をしていました。

ただこの時は、はたらくことに対する意識が低く、「まぁ仕方ないよね!」と楽観的に捉えていたこともあり、精神科を受診するには至りませんでしたね。

今思えば何も仕方なくないんですけど、はたらくこと自体が初めてだったもので、社会科見学みたいな感覚だったんですよね……。当時はたらいていたお店には申し訳なさしかないです。

──「遅刻しやすい」ことも、ADHDの特性のひとつなのですか。

はい。私がのちにADHDと診断を受けた精神科の先生いわく、ADHDには「目の前のことに衝動的に取り組んでしまう」「過集中」「完璧主義」という特性があるそうなんです。

たとえば、どんなに翌朝早起きする必要があっても、夜に読みたい本や漫画が目に入ると「早起き」という目標を忘れて読みふけってしまう。

一度やり始めたことを中断するのが苦手なので、1冊読み終えるまで寝られず、朝寝坊する……という悪循環に陥りやすいようで、私もそのタイプでした。

たとえ朝起きられても、「今やるべきこと」の優先順位がつけられないので、家を出る時間に洗い物が目に入ったりすると、衝動的に取り組んでしまう。2分過ぎたらもう完璧ではないので、「あと30分ぐらいいいか」と思ってしまうんです。

もちろんバイト先では、怒られてばかりでした。出勤するころには先輩がすべての業務を終わらせてくれていて、私はただの役立たずでしたね。

──アルバイト先では、ほかにどのような支障を感じましたか?

カフェのお仕事って、レジで注文を受けてすぐにコーヒーマシンのスイッチを押して、モーニングセットを準備し、そんな作業と同時進行で翌日の仕込みもする──という、マルチタスク業務なんです。

私はそれがどうしてもできず、コーヒーを淹れたことを忘れて冷ましてしまったり、パスタの盛り付けが雑になってしまったりして、「仕事ができない自分」に対して次第に負い目を感じていきました。

周囲にもそう思われている気がして、アルバイト先で友達をつくることもできませんでした。仕事ができないという負い目から話しかけるのも怖くって。社会の厳しさを思い知りましたね。

精神科で診断を受け「すごく安心した」

──会社員時代は、どのように対処されていたのですか。

新卒で勤めたのは、30年ほどの歴史がある小さな雑貨メーカーの営業職でした。

電車で各地の雑貨店をまわり、店長さんに商品説明をするのが主なお仕事でしたが、私は商品説明の時、あらかじめ準備しておいた説明はできるけれど、いきなり自分の知らない商品のことを聞かれるとパニックになってしまって。

臨機応変な対応ができない自分に落ち込み、よくトイレで泣いていました。電車の乗り間違いでアポに遅れることや、ケアレスミスも多く、自分は社会不適合者だと悩むこともありました。

──精神科を受診されたのは、いつ、何がきっかけだったのでしょうか。

幼いころから絵を描くことや文章を書くことが好きで、実は営業のかたわら、勝手にメールマガジンを作ったり、カタログチームに入ってカタログを作ったりしていたんです。次第に「創作活動をしているほうが楽しい」と思うようになり、約1年はたらいたころ、クリエイティブ職への転職を考えました。

とはいえ、転職でアピールできるような経歴や資格はなく……。「出せるものは全部出そう」と思い、複数の転職サイトに登録して、プロフィールに大学時代に作ったポスターや、趣味で描いたイラストを実績として載せました。

すると、大手広告代理店のクリエイティブ枠に採用いただけたんです。広告ディレクションの仕事だったので営業や接客は一切なく、終始黙ってパソコンに向かっていればよかったこと、フレックスタイム制で出社時間を自分で決められたこともあり、そこではADHDの症状はあまり気になりませんでしたね。

それでも受診を決めたのは、社会人3年目で、広告代理店のWebメディア編集部へ異動してから。Web原稿の編集が主な仕事で、とてもやりがいがあったのですが、せっかく作業に集中していても、会議のたびに作業を中断しなくてはいけないのが辛くて。

恵まれた環境で好きな仕事をしているはずなのに、どうして辛いんだろうと疑問が浮かびました。

その時、大学時代に友人が「精神科でADHDと診断された」と言っていたことを思い出したんです。有給を取って、都内にある精神科を受診しました。

──精神科では、どんな風に診断されるのでしょうか。

平日の日中なのに、クリニックは人で溢れ返っていました。行く前はドキドキしていたけれど、「同じように悩んでいる人がこんなにいるんだ」とほっとしましたね。

診断では、問診票のチェック項目に回答したほか、“木の絵を描く”という簡単なテストがありました。その後、医師のカウンセリングがあり、私は「典型的なADHD」と診断されました。

それまで私は、遅刻も忘れ物グセも「治さなきゃ」と思っていたんです。ケアレスミスが多いのも、言葉どおり自分のケア(注意)がレスしているのが原因だと。でも先生に、「ADHDは前頭葉の血の巡りがよくないこともひとつの原因。治ることはありません」と言われて、すごく安心したのを覚えています。

ADHDは、「ワーキングメモリー」という脳の機能が十分に働いていないこと、前頭葉の血流がやや少ないことが原因だと考えられている(参照:「ゆうメンタルクリニック-生き辛さを感じる方は「ADHD」等が考えられます。~マンガで分かる心療内科~

──具体的には、どのような心境の変化でしたか。

ADHDの特性って、「頑張れば改善できそう」と思われがちなんです。現に私も、幼いころから家族に「5分前に家を出なさい」「忘れ物をきちんとチェックして」と言われてきましたし、自分でも「できないのは努力が足りないからだ」と思っていました。

でも、「前頭葉の血の巡りが悪い」という医学的な理由を聞いて、努力で治せるものじゃないんだと、いい意味で諦められたんです。また、それなら朝に予定を入れなくて済むようにすればいい、タスク量やスケジュールを自分で調整できるようにすればいいと、はたらき方について考えるきっかけにもなりました。

──ADHDの薬は処方されましたか。

薬のことは教えていただいたのですが、私の受診したクリニックで処方している薬の場合、血の巡りを一時的に良くするものなので、根本的な解決にはならないと言われました。めまいや頭痛、疲労感といった重い副作用もあるようでした。

先生に「大事な仕事の前など、スポット的に服用するのはよいが、効かないこともあるし、常時飲むことはおすすめしない」とアドバイスを受けて、副作用が怖かったのもあり、私は薬療法よりも、行動療法を選びましたね。

デジタルツールやメモを駆使、仕事の予定は12時以降に

──社会人4年目で、会社員を辞めて独立されたいしかわさん。なぜ、フリーランスというはたらき方を選んだのでしょうか。

そもそも自分の特性が、会社員に向かないのでは?と気付いたからです。

会社員には、毎月決まった額のお給料が入る、有給や社会保険などの福利厚生がある……といったさまざまなメリットがありますが、一方で「毎朝決まった時間に起きなくてはならない」「自分のペースで仕事を進められない」というのは、ADHDとって辛いことです。

フリーランスなら始業時間を自分で決められるし、何時間でも作業に集中できるので、会社ではたらくうえでは欠点だった特性が、欠点ではなくなります。私は、メリットとデメリットと天秤にかけたうえで、安定より「幸せにはたらくこと」を選ぼうと思いました。

──ご自身の特性を活かすために、どのようなことを意識されていますか。

仕事で意識していることは2つあります。

ひとつは、デジタルツールやメモを駆使して、遅刻や物忘れを防ぐこと。仕事の予定は12時以降に入れるようにし、予定はすべて「Googleカレンダー」に入れて、1時間前と5分前の2回リマインドが来るようにしています。納期も忘れがちなので前日にリマインドを設定したり、メモもこまめに取っています。

寝室のカーテンは自動開閉タイプにし、太陽の光で目が覚めるようにしているそう

もうひとつは、あらかじめ自分の特性を周囲に伝えておくこと。私はTwitterをはじめ、いろいろな記事や書籍で自分がADHDであることを公表しているので、仕事仲間やクライアントさんには事前に理解してくださっている方が多いんです。

先日も集中して原稿を書いていたら打ち合わせに遅刻してしまい、申し訳なさでいっぱいだったのですが、「いしかわさん、きっと遅れるだろうなぁと思っていたので、そのつもりで他の作業をしてました!」と言っていただいてやさしさに救われました。

そのうえで、オンラインミーティングの前日にリマインドいただくようお願いしたり、初めから余裕をもった締め切りを教えてもらったりしています。皆さまに支えられて生きていると感じますね……。

はたらく環境を変えるのも、ひとつの手段

──“他人に手間を掛けさせること”に抵抗がある人も多いのではないでしょうか。

そうですよね。ただ実は、自分が「手間」に感じていることでも、早起きやマルチタスクが得意な人にとっては、それが手間ではないこともあるようです。現に私は、「なぜそこまでしてくれるのか?」と先述の方々に伺った時、「そこまで苦じゃない」「面倒を見るのが好きだから」と仰っていました。

また、これは究極の賭けですが、「合わない人は勝手に離れていく」と思いながら人と接すると、少し気楽になれるのではないでしょうか。得意なことや苦手なこと、考え方は皆違うので、そもそも全員に好かれることはできません。

遅刻が許せない人もきっといるし、いちいちリマインドをしてまで仕事を頼みたくないという人もいると思うんです。それによって失う関係性や仕事のチャンスもあるかもしれないけど、自分を偽っていると、自分の特性に合わない仕事や人とマッチングしてしまうから、結局は周囲も自分も苦しむことになる。必ずしもADHDを公表しなくてもよいと思いますが、弱みも強みも含めて偽りなく発信することが、自分の特性に合った環境を見つける秘訣ではないでしょうか。

いしかわさんは、プロフィールでADHDであることを公表している

──「できない自分」をさらけ出すことも、ADHDの人が自己肯定感高くはたらく秘訣なのですね。

そうですね。得意なことに特化してはたらけるフリーランスは自分の特性に合っていると思いますし、得意なことで価値を提供して、それをきちんと評価してもらえる今のはたらき方のおかげで、自己肯定感が高まったと思います。

「まんべんなくできる人が優秀」という風潮が日本には強くて、学校や塾でも「苦手科目を潰そう」と言われて私たちは育ってきましたが、社会に出て改めて思うのは、何かひとつでも得意なことがあれば活躍できる、ということ。

もちろん、自分の「得意」を磨くこともすごく大切です。わたしの場合、得意かはわからなかったけど、「書くこと」は苦じゃなかったので、ひたすらそれを磨いたことで、遅刻や朝起きられないなどの特性を加味しても「それでも書いてほしい」というお声をいただけていると思っています。

今、一生懸命自分の苦手を克服しようと頑張っている人にメッセージを送るとしたら、苦手を克服しなくても、はたらく環境を変えることで、周囲からの評価が180度変わることもある、と伝えたいですね。

(文・原 由希奈 写真提供:いしかわゆきさん)

【書籍情報】
『ポンコツなわたしで、生きていく。 〜ゆるふわ思考で、ほどよく働きほどよく暮らす〜』 https://www.amazon.co.jp/dp/4297129329/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_64FZ75NN61W51QWZSBJB
発売日:2022 年 8 月 24 日(水)
定価:1,500 円(税抜) 1,650 円(税込)
体裁:232 ページ
発売:技術評論社

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ライター原 由希奈
1986年生まれ、札幌市在住の取材ライター。
北海道武蔵女子短期大学英文科卒、在学中に英国Solihull Collegeへ留学。
はたらき方や教育、テクノロジー、絵本など、興味のあることは幅広い。2児の母。
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