いよいよ宝は近い? 秘宝を追って50年、トレジャーハンターの知られざる仕事とは

2023年9月12日

古文書に隠された謎を解き、現地に赴いて秘宝のありかを突き止める──。映画のようなこの活動、「トレジャーハンティング」を50年近く続け、日本各地の秘宝や埋蔵金伝説を調査してきたのがトレジャーハンター・作家の八重野 充弘さんです。 

今年76歳を迎える八重野さんに、トレジャーハンティングを始めるきっかけとなった「秘宝伝説」のこと、そして普段の活動内容やこれまでの探索の成果について、お話を伺いました。 

トレジャーハンティングの道を歩むきっかけになった「天草の秘宝伝説」 

──トレジャーハンティングとはどのような活動なのでしょうか?

簡単に言えば、宝探しをやって遊んでいるだけなんです(笑)。文献などの資料を読み込んでターゲットについて調べ、推理をし、大まかな当たりをつけたポイントを実際に探査していく。デスクワークとフィールドワークの地道な繰り返しです。

──そもそも八重野さんは、どういった経緯でトレジャーハンティングを始められたんですか? 

最初に宝探しに興味を持ったのは、約50年前のことです。当時ぼくは出版社で子ども向けの学習雑誌を担当していたのですが、会社の資料室でたまたま、畠山清行さんという方が書かれた、全国各地に流布している埋蔵金伝説にまつわる本を見つけまして。ぼくの故郷である熊本県に伝わる、天草切支丹の秘宝伝説が載っていたこともあり、興味を惹かれたんです。 

入社から4年後の1974年、雑誌の夏休み号のキャンプ特集で天草を訪れることになり、ついでに秘宝伝説についても取材する機会を得ました。けれど、現地の方にいくら取材しても、秘宝伝説についてはもちろん、幕末に発見された文書に書かれていたという「三角池」なる場所についても、誰も聞いたことがないという。

ぼくとしてはそれで終わりだと思っていたんですが、後日、天草で高校の先生をしていた友人の兄がその話をおもしろがり、高校生たちと一緒になって探索した結果、文書に書かれた池が実際に見つかったんです。

──すごい。ロマンがありますね。

それで「もしかしたら」と思いまして、文献を読みあさり、宝探しに興味を持つ仲間たちを集めて天草に通うようになったのが、トレジャーハンティングの始まりでしたね。それ以来、天草に限らず各地の秘宝や埋蔵金伝説を追って全国を巡るようになりました。

実は活動を始めてから数年後に、ぼくが初めて手にとった埋蔵金伝説の本の作者である畠山先生から、探索活動を手伝ってほしいと直々に連絡を受けまして。群馬県みなかみ町を2年かけて一緒に調査したのですが、その際に後継ぎ指名を受けたんです。それから、先生亡きあとも全国さまざまな場所の調査を続け、来年で50年になります。

若かりしころの八重野さんと調査チーム。調査の様子は大切に保管されている。

──トレジャーハンターとしての仕事は、どこかから依頼がくるのでしょうか?

はい。トレジャーハンターの中には一人で孤独に探索を続け、人生をそれだけに費やして破滅していってしまう人もいるのですが、ぼくは最初から仲間たちとワイワイ情報交換をしつつ、宝探しのプロセスそのものを楽しもうと思ってやってきたんです。ですから、そんな活動を嗅ぎつけた新聞やラジオ、テレビといったマスコミへの協力もたくさんしてきましたし、出版社を辞めた40代のころには埋蔵金伝説がブーム化していたこともあって、いろいろなメディアから依頼が殺到しましたよ。

ただ、「番組協力」としてギャラをいただききますが、「探索のための活動資金を出しますよ」という話は受けていません。そんなものを頂いてしまったら、絶対にお宝を見つけなきゃいけないというプレッシャーがかかりますから(笑)。 

古文書に隠された「さげなわさんぼん すずめのさんとび」の謎を解け

──トレジャーハンティングの実際の手順についても詳しくお聞きしたいです。秘宝のありかを突き止めるためには、どのような調査が必要なのでしょうか?

秘宝伝説・埋蔵金伝説は全国各地に残されていますが、まず考えるべきは、その宝が実際に存在するかどうかです。トレジャーハンティングのステップを10段階に分けるなら、実際に地面を掘るのは9段階目。そこまでの段階で、伝説が信用に足るものかどうかをあらゆる角度から探っていきます。文献をかき集め、それを読み込むのは当然ですが、複数の資料を比べながら合致点や切り捨てるべき情報も見つけて整理していきます。

資料の信憑性を判断する一つの基準は、5W1H……つまり、「誰が・いつ・どこに・何を・なぜ・どのようにしてお宝を隠したか」というストーリーがしっかりと成り立つかどうか。よくあるのが、地方に古くから伝わるわらべ歌が埋蔵金伝説に結びついているという話ですね。こういったものは調べていくと大抵どこかでストーリーが破綻してしまったり、時代背景からいってありえないと判断せざるをえなかったりすることがほとんどです。

──なるほど。では、信用に足る情報が集まってようやく探査に移るのですね。

そうです。ある程度情報の精度が上がってきたら、今度は当時の歴史も詳しく調べつつ、探査すべき場所と探査方法を考えていきます。探査すべき場所を絞り込むためには、当時の人の目線に立って考えるのが基本です。つまり、自分だったらどこにお宝を隠そうと思うか。たとえば川のすぐ近くのような場所や、わかりやすすぎる場所にはたぶん隠しませんよね?お社の真下とかはほぼありえないわけです(笑)。ですが、伝説の「起点」が目立つものであることは多いんですよ。

──「起点」というのは?

宝を探すときスタート地点の情報のことです。秘宝のありかを突き止めるために必要なのは、「起点」「方角」「距離」の3要素です。その3つの情報がすべて書き込まれた文書は非常に少なく、特に起点がどこかを探すのが大変なんです。

たとえば、岡山県のある旧家に伝わる古い文書の中には「さげなわさんぼん すずめのさんとび(原文ママ)」という文言が残されています。これは「起点」がわからないケースですね。その旧家の庭先には大きな井戸があるそうなんですが、そこから考えると、「下げ縄」というのは井戸水を汲み上げるための縄なのではないかと推理できる。この縄3本分、というのが距離の情報なのではないか。さらに雀は鳥の仲間ですから、干支の「酉」から3つ飛ばすと「子」になることを考えると、井戸を起点に子の方角へ、下げ縄3本分の距離の場所に何かが眠っているのではないかと考えられるわけです。

埋蔵金や秘宝というものは回収する前提で隠しているはずですから、起点を分かりづらすぎる場所にする意味がない。むしろ、神社仏閣や大きな木のように、長い年月が経っても動かないもの・目立つものを起点にしているケースが多いんです。

──まさに謎解きですね。そのようにしておおよその場所を絞り込めたら、実際に現場を発掘していくと。

金属探知機や地中レーダーなども用いつつ、実際に現場を掘っていきます。これも当時の人の目線に立ってみれば、地中深くまで物を埋めるための機械なんてなかったはずですから、自ずとそこまで深くない場所に隠しているだろうとわかってきます。歴史的に見ても、実際に見つかった埋蔵金の中で一番深くに埋められていたものが、わずか地中1.5メートルの深さなんですよ。

──そんなに浅いのですか!

1963年に東京都の茅場町駅の近くでビルの建設工事中に江戸時代の酒問屋の隠し財産が偶然見つかっています。これは当時の時価で6000万円相当だったそうですから、今で言えば8億円ほどでしょうか。それほどのお宝でも1.5メートルの深さに隠されていたわけですから、発掘作業にあまり時間をかけすぎるのは良くないんです。ぼくはたいてい2日から3日かけて手応えがなければ、その場所の探索はいったん打ち切るようにしています。

八重野さん愛用のドイツ製金属探知機。トレジャーハンティング仲間も同アイテムを使用しているという

宝探しを続けて50年。「いよいよ近いぞ」という感触がある

──八重野さんはこれまでさまざまな調査・探索してこられたと思いますが、特に印象に残っている場所はありますか?

25年ほど前でしょうか、ある年配の方がぼくに「何十年もかけて調査を続けてきた場所がある。山奥のトンネルを見つけるところまでは辿り着いているから最後の仕上げを手伝ってほしい」と連絡してきたんです。話を聞くと、場所は福井県敦賀市の山中で、そこに旧日本軍が戦時中に外国から持ち込んだ略奪品が眠っている可能性が高いと言うんですね。始めは聞き流していたんですよ。戦時中の略奪品となれば生き証人の方もいるでしょうし、戦国時代の武将の埋蔵金なんかと比べればあまりにも新しい話ですから、興味も湧かなくて。

ですが、資料を送っていただき、お会いして話を聞いた時点でその真剣さに負けてしまいまして。実際に現場に連れていってもらうと、たしかに人工的にトンネルを掘って埋め戻した跡がある。そのトンネルの中のどこかに隠し部屋を作って、外国の美術工芸品……いまで言えば2,000億円ぐらいの価値があるであろう文化財を埋めたのではないか、と。

──トンネルの中の隠し部屋とは……映画『インディー・ジョーンズ』のような話ですね。

仮に何かが発掘されたらそれを公に発表すること、そして発掘されたものが外国からの略奪品であった場合、きちんと当該国に返還することという条件つきで探索をお引き受けしました。トレジャーハンティングをしている仲間たちも集め、年間に3~4回は現地に足を運びつつ3年ほど調査を続けていたのですが、トンネルの最終地点まで進んだところで、手に持っているろうそくの炎が小さくなってしまうようになったんです。つまり酸素が薄く調査中に酸欠を引き起こす危険性がある。それに加え、山道に熊が出るようになったこともあって、これ以上は難しいと判断し、残念ながら約20年間探索をストップしています。

トレジャーハンティングに必要な道具は自作することも少なくないという。こちらはビーチを発掘調査するために制作したもの

──八重野さんはこれまで実際に秘宝や埋蔵金を見つけられた経験はあるのでしょうか?

ないです。これが本当に、まったくない(笑)。

──そんな中で、50年間トレジャーハンティングを続けてこられたのはどうしてですか?

宝探しのおもしろさと、活動を通して得られる学びをたくさんの人に体感してほしいという思いがあるからですね。たとえば、アメリカのフロリダ半島は古くからトレジャーハンティングの聖地と呼ばれ、沈没船に残された財宝を探すトレジャーハンターが世界各地から集まってくる場所なのですが、日本でも同じようなことができないかという構想があります。戦国時代や江戸時代の歴史を知るきっかけになったり、自然豊かな場所で体を動かす体験をすることができたりと、子どもたちにとってもいい経験になるはずです。

もうひとつは、やっぱり「いよいよ宝は近いぞ」という感触があるからでしょうか(笑)。いま、全国各地の埋蔵金伝説を絞りに絞り、4カ所まで当たりをつけたところなんです。

──もし、そこでついに埋蔵金が見つかったらどうするのですか?

いや、本当に見つかったらどうしようかなあ。冗談で「持ち逃げしよう」なんて言う仲間もいますが、やっぱりたくさんの人に成果を見せたいので、発掘品の全国巡回展をやりたいですね。49年間何も見つかっていないとはいえ、一歩一歩、着実に前に進み続けているとぼくは感じていますよ。もうダメだ、宝探しなんてやめようと思ったことはこれまで一度もありません。これからもそうでしょうね。

(文:生湯葉シホ 写真:下屋敷和文)

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ライター生湯葉シホ
東京都在住。Webメディアや雑誌を中心に、エッセイやインタビュー記事の執筆をおこなう。2022年、『別冊文藝春秋』に初めての小説「わたしです、聞こえています」掲載。『大手小町』にて隔週でエッセイを連載中。

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