社内インフルエンサーが活躍。雑貨ブランド3COINSのインスタ戦略

2024年2月2日

通称『スリコ』で親しまれる『3COINS(スリーコインズ)』は300円(税別)がメイン価格のプチプラ雑貨店。公式Instagramは広告費ゼロで運用にしてるにも関わらず、フォロワー数は170万を誇ります。

その影響力を支えているのが、アルバイトを含む70人の社内インフルエンサーです。それぞれが自身のアカウントで3COINSの商品を発信することで、ブランドフォロワー数の増加に貢献しました。

熱意最優先で、役職や経歴に関わらず登用された社内インフルエンサーたちは、どうしてここまで影響力を高められたのでしょうか。3COINSの店長としてはたらきながら社内インフルエンサーになり、人一倍早くフォロワーを獲得してスタッフインフルエンサーの育成を担当するようになった佐藤さん(@3coins_sato)に、いちスタッフがインフルエンサーとして活躍する秘訣を伺いました。

Instagram であえて小説っぽい写真を投稿し、バズった

――佐藤さんの投稿は白背景に黒のテキストが印象的で、一目で個性が伝わってきます。

SNSにおける雑貨の投稿は、あまり投稿者自身の個性が出されていない傾向があったのですが、それだと味気ない商品紹介になってしまって印象に残りません。誰が見ても「あの人の投稿だ」と分かる個性を表現したいと思い、投稿の1枚目に表示される商品写真は白背景に黒字の文章をドンと載せる形で小説っぽくしました。

デザインスキルはなく、最初は探り探りでしたが、何度も投稿を繰り返しているうちに画像や文字の配置をバランスよく調整できるようになりました。ブラッシュアップするために、ほかの人の投稿も見ながら学習しています。

――あえてシンプルな白背景の写真を多く投稿するのは勇気がいりますね。

きっかけは、3回にわたる傘の投稿です。Instagram のストーリーズに搭載されているアンケート機能で「3COINSが傘を売っていることを知っていますか」とフォロワーに質問したところ、2022年12月は『知らなかった』という回答が57%もあり、その結果を受けて商品認知度を上げるために1回目の傘投稿をしました。

2023年2月に2回目の傘投稿を行って、同年4月にもう一度アンケートを実施したのですが、『知らなかった』が16%とまだ認知が足りていない状態でした。そこで3回目の傘紹介をしようと決めたものの、そもそも3COINSを扱うECサイト『パルクローゼット』では傘を取り扱っていないため使用イメージの写真がなく、素材が足りません。

その状況で「これまでの投稿とは違う見せ方にしなければ」と試行錯誤して「目的は傘の認知だから、投稿では傘を目立たせればいい。白背景に傘を置いて撮影するのが一番目立つのでは?」と思い至り、白背景の傘写真を複数枚撮影して投稿しました。それが一番多くのいいね数・保存数になりフォロワーも一気に増えたことから、最初に投稿した写真以外にも白背景の画像を多く投稿するようになったんです。

――長く投稿を続けていると、伸び悩むこともあるのでは?

2023年8月ごろ、マンネリ化により伸び悩んだことがあります。正直、ぼく自身も自分の投稿に対して「おもしろくない」と感じていました。ある程度の実績を重ねるにつれて投稿の構成や画像背景の型が決まっていたのも、マンネリ化の原因かもしれません。

――マンネリ化による伸び悩みをどう乗り越えたのでしょうか。

よく商品写真に加えて動画も投稿して商品の使用感を伝えているので「より表現の幅が広い動画で、今までにないものを作ろう」と考えました。ユーザーにとって有益な投稿でなければ意味がなく、ただ構成や画像背景を変えればいいわけではありません。どうやって今までにない動画を作ればいいのか方向性が定まらず、しばらく悩みました。

試行錯誤の末、ようやく思いついた切り口が「動画の尺」です。それまでは15秒~30秒の動画を作っていたのですが、人が集中力を維持できるのは8秒までと言われていて、15秒ですら内容によっては「長い」と感じて視聴をやめてしまいます。もっと短く簡潔に伝えられるアイテムであれば、ユーザーが見やすい短尺の動画で有益な情報を届けられるのではと思い、イヤホンを動画で紹介しようと決めました。

いつもと違う場所で動画を撮影し、これまで以上に無駄をカットして、速すぎず遅すぎない目で追えるスピードのテロップをつけました。もともと撮影した動画は4分弱の尺でしたが、完成したのはなんと今までで一番短い11秒の動画。曲も11秒でキリよく終わるものを選び、自分でも驚くほど見やすい動画になりました。無事「今までにない動画」が出来上がり、マンネリ打破ができたんです。

――11秒の商品紹介はかなりコンパクトですね。

この投稿には、もう1つ発見があります。実はイヤホンの投稿をしたのは、一番注目されやすい新発売のタイミングではなく、完売して再入荷したタイミングでした。発売当初も紹介していますが、その時は同シリーズのアイテムと一緒に紹介したので、あまり詳しく説明できていませんでした。「切り口次第で新商品でなくても注目される」と学べた事例です。

ショップ店長から社内インフルエンサーのまとめ役に

――SNSで商品紹介するにあたり、外部ではなく社内にインフルエンサーをつくった理由は?

2014年ごろからアパレル業界でインフルエンサー起用が広まりつつありました。3COINSの運営会社であるパルグループでは「自分たちでできることは自分たちでやる」という主体性を重んじていたことと、「商品をよく知っているスタッフ自身が情報を発信するインフルエンサーになったほうがいい」という考えから、2015年より社内インフルエンサーの育成をスタートしたんです。

当初はグループ内のアパレルブランドで社内インフルエンサーの活用に取り組んでいたのですが、1年後の2016年に「雑貨でも社内インフルエンサーが活躍できるんじゃないか」と声があがり、3COINSでも社内インフルエンサーを起用することになりました。

――社内インフルエンサーの採用基準は?

社内公募をして、役職に関わらず熱意がある人を選んでいきました。日々の業務に加えて発信をしなければならないので、ブランドや商品への愛が強い人が適しています。2年後に大学を卒業する学生アルバイトであっても「3COINSの商品を知ってほしい!」という気持ちを持っていれば社内インフルエンサーに起用しています。

とはいえ、2015年の公募で手を挙げたのは10人未満。社内インフルエンサーとは何なのか、どんな活動をするのかがイメージできなかったようです。そこから各社内インフルエンサーが発信していくにつれて手が挙がるようになり、定期的な募集を経て70人にまで増えました。それまで手が回らなかった新商品の告知も、SNSでしっかり発信できるようになりましたね。

――佐藤さんは、なぜ社内インフルエンサーになったんですか?

もともとクリエイター気質で「SNSで何かを作って発信したい」という思いがあったからです。19歳で3COINSのアルバイトを始め、24歳で店長になり、店舗ブログを運営しながら「いつか発信を仕事にできたら」と思っていたんです。

社内インフルエンサーの公募が発表された2015年は、まだアルバイトでした。念願のインフルエンサー業に挑戦したい気持ちはありましたが、SNS運用の知識が足りなかったのと、最初から自分でやってしまうと客観的に分析できないと考え、店舗のスタッフに「やってみて」と促し、まずは彼女の指導をすることにしました。

指導しながら数字分析することで、主婦層は朝の時間帯に見るなどの傾向が分かり、基本的なノウハウが蓄積されます。ぼく自身が社内インフルエンサーになったのは、それから1年後です。指導を経て学んだノウハウを活かしながら、自分でも冒頭でお伝えしたようなトライ&エラーを積み重ねてブラッシュアップしていきました。

――そこから社内インフルエンサーをまとめるデジタルSVになった経緯は?

店長業務と平行しながらSNSを続けていたのですが、どんどんフォロワーが増えていったので、初めてから3カ月足らずで「本社で社内インフルエンサーのマネジメントをしませんか」と声をかけられ、店長からデジタルスーパーバイザーにキャリアアップしました。

デジタルスーパーバイザーは、インフルエンサーの管理と強化をしていく存在です。主宰している定期的なミーティングや勉強会を通じて、各自が目標やノウハウを共有し、学んだことをすぐに投稿に生かしているのを見るとやりがいを感じます。

継続のコツは「具体的な目標づくり」と「自分自身が楽しむこと」

――スタッフインフルエンサーの育成はどのように行っていますか?

ぼくが常にInstagram のインサイト機能から数字分析をしているので、定期的な個別ミーティングや月1回の勉強会で各々にフィードバックを行い、その人に合った投稿スタイルを提案しています。人によって反響がいい商品は異なっていて、アウトドアグッズに強い人もいれば、インテリアグッズに強い人もいるんですね。得意な商品カテゴリに特化して発信していくほうがフォロワーが増えやすいので、最初は特化してフォロワー数を伸ばしつつ、全商品を紹介できるように幅を広げていくのがベターだと思っています。

――70人もの社内インフルエンサーが日常的に発信しているとなると、管理が難しそうですね。

完全に個人の裁量に任せてしまうと内容に間違いが生まれるリスクがあるため、投稿の内容はマニュアルに沿った指定文言が8割を占め、個人の裁量に委ねられるのは残り2割です。それでも紹介する商品のラインナップや写真に個性が出ますね。中には、10万人を超えるフォロワーを有する社内インフルエンサーもいます。

――社内インフルエンサーとの関わり方で気を付けていることは?

距離感を縮めながら信頼関係をつくることです。地方の社内インフルエンサーには対面で会う機会がないのですが、リモートでも些細な雑談をしながら、日々の投稿に対するフィードバックをしたりすると「ちゃんと見てくれているんだな」と思ってもらえて、関係が深まります。

――日々発信するにあたり、モチベーション維持に悩む社内インフルエンサーも多いのでは?

悩んでいる社内インフルエンサーには、SNSを始めた理由を聞いて掘り下げるようにしています。「有名になりたい」など抽象的な理由であることも多く、「フォロワーを3,000人にする」など目標を数値化するように伝えて、そこに向かって何をすればいいか一緒に棚卸しすることが多いです。

――具体的な目標を立てるのが大事なんですね。

それでもずっと続けていると飽きを感じるタイミングも出てくるので、そんなときは「投稿を少し変えてみたら?」とアドバイスしています。音楽のテイストを変えたり、撮影場所を変えたりと、部分的な変化でもマンネリ化を防げるんですよね。

何よりも大事なのは、自分が見ていて楽しいものを作ること。投稿する前に「本当にこの写真でいいのか」「この文言でいいのか」を再確認し、自分が「おもしろい」と思える投稿を発信して反響が良ければ、それがモチベーションになります。

――佐藤さんの目標は?

男性の社内インフルエンサーで一番有名になりたいので、フォロワー10万人を目指しています。デジタルスーパーバイザーとしては、各社内インフルエンサーが自分の個性を出して、楽しくSNSを更新できる環境を作りたいです。

インフルエンサー自身のモチベーションは投稿を通じて見ている人にも伝わるので、無理に投稿せず楽しく続けてほしいんですよね。悩んだらいったん立ち止まって、ときには休みつつ、ぼくや周りの人にも相談しながら“好きなもの”を“楽しんで”投稿していってほしいです。

(文・秋カヲリ 写真提供・3COINS)

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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