「仕事できてもつまんないでしょ?」焼き鳥屋での一言がはたらく喜びを教えてくれた

2022年7月26日

はたわらワイド編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。
今回は、はたらくことの喜びや、はたらくなかで笑顔になれたエピソードについて語る「#はたらいて笑顔になれた瞬間」投稿コンテストで、グランプリに輝いた記事をご紹介します。

執筆者は、現在二児の父となった しろさん。大学生の時、恋ヶ窪にある焼き鳥屋さんで生まれて初めてのアルバイトをします。仕事に慣れてきたある日、常連客に「仕事できるようになってもつまんないでしょ?」と言われたしろさんは、はたらき方について見つめ直します。そこからはたらく喜びを実感するまでの話をnoteに投稿しました。

初めてのアルバイト先は個人経営の焼き鳥屋さん

大学生になり上京したばかりのしろさんが、人生で初めて「はたらく」体験をしたのは東京都国分寺市・恋ヶ窪にあった焼き鳥屋さんです。

引っ込み思案でシャイだったというしろさんは、周りの友人たちがはたらいているようなファミレスやファストフード店に応募する勇気が出ず、駅から自宅までの帰り道にあった焼き鳥屋さんのアルバイト募集ポスターに目を留めました。

その焼き鳥屋さんはチェーン店ではなく個人店で、常連客が多く通うような雰囲気です。

きっとこの雰囲気の焼き鳥屋さんなら同年代はいないし、年配の人とならせっすることができるのかもと心のどこかで思った

はたらくことの喜びについては、だいたい恋ヶ窪の焼き鳥屋で学んだより

と、しろさん自身も振り返っています。

その日にアルバイト応募の電話をして、翌日の面接で即採用が決定。トントン拍子に初出勤の日を迎えたしろさんは、大学入試以上に緊張していました。

当時、ご自身にとって「はたらく」は未知の体験。そんなことが自分にできるのか、とても不安でしたが、いざ出勤してエプロンを締めると「いやがおうにもやるしかない」という気持ちになったそうです。

慣れるまでは
「カシラタレで一本、塩で一本。レバータレで二本。ハツ塩で一本」
といった注文が覚えられなかったり、会計を打ち間違えて一桁違う金額を請求してしまったり、飲み物を違う席に持って行ったりと、失敗して落ち込むことも多くありましたが、少しずつ仕事を覚えてミスなく1日を終えられるようになりました。

「今日もバイトめんどくさいな」
と思いながら向かい、
「早くアルバイトが終わる23時にならないかな」
と時計をちらちら見ながらはたらき、淡々と業務をこなす日々。そんな中で
「仕事をそこそここなしている自分はまあまあできる人なのではないか」
という自信も芽生えるようになりました。

ところが、そんなしろさんの小さな自信を揺るがす出来事が起こったのです。

「自分からいく」ことで景色が変わった

すっかり仕事に慣れたしろさんは
「はたらくってこんなもんか」
とある程度満足していましたが、ある常連客から
「にいちゃん、ちょっと仕事できるようになってきてると思ってるけどつまんないでしょ。自分から行けばもっと面白くなるよ」
と言われ、はっとします。

聞いた瞬間は
「アルバイトなんだから十分責任を果たしている。アルバイトなのに『自分から行く』必要があるのか?」
と腹が立ったものの、のちのち冷静になって振り返ってみると「注文を取る」「料理を運ぶ」「お皿やグラスを下げて洗い物をする」という当たり前のことしかやっていないことに気づいたのです。

そこで
「確かに自分は最低限のことをやっているだけで、受け身の仕事しかしていない」
と自覚したしろさんは「自分からいく」とは何かを考えました。

そこで一つ思い当たることがあった。大将は常連のお客さんでいつも一杯目に同じ飲み物を頼む人に対して、暖簾をくぐって入店してきた瞬間に作り始める。まだ注文は取っていないが、きっといつもと同じ飲み物を頼むので、先回りして作るのだ。

はたらくことの喜びについては、だいたい恋ヶ窪の焼き鳥屋で学んだより

そんな大将の先回りしたサービスを参考にして、注文内容が分かり切っている常連客にも「飲み物はどうされますか?」と聞くマニュアル接客をやめました。

ある日そのお客さんが席に座ると同時に「いつも通りウーハイをもう大将が作っちゃってますけどそれでいいですか?」と言ってみた。
ちょっと馴れ馴れし過ぎで怒られるかと思いつつ言ったのだが、常連のお客さんは「大将が作っちゃったなら飲むしかねぇよ、にいちゃんも分かってきたね」と嬉しそうに返してくれたのだ。
大将も私のそんな接客に嫌な顔はしていない。
それがきっかけとなり私はお客さんに「自分からいく」ことができるようになった。

はたらくことの喜びについては、だいたい恋ヶ窪の焼き鳥屋で学んだより

そのほかにも、常連客の好みを覚えて
「大将に内緒でかなり濃いめに作ってきますね」
「今日も皮は塩が多めの良く焼きでいきますね」
と自分から提案すると、お客さんはみんな嬉しそうな笑顔を浮かべます。

ともすればお節介にも思える先回りのサービスは、個人経営のこじんまりした焼き鳥屋さんならではの良さであり、お客さんが求めるサービスでもありました。

受け身の仕事でも、完璧にすればお客さんから怒られることはありません。でも、お客さんを笑顔にすることはできません。
自分から動くようになったことで、お客さんを笑顔にできるようになったのです。

お客さんの笑顔は、自分も笑顔にすると気づいた

しろさんは、お客さんと大将の会話もよく聞くようになりました。

以前「そろそろ孫が産まれそうなんだ」と話していたお客さんが久しぶりに来店した時、
「お孫さん産まれましたか?」
と聞いたところ
「なんでにいちゃん知ってるの?大将のやつなんでも言いやがるな」
と満面の笑みで赤ちゃんの写真を見せてくれ、しろさんも思わず微笑んでしまいます。
お客さんだけでなく、自分自身も笑顔になれた瞬間でした。

私はこの時に働く喜びが分かった。
アルバイトとお客さんという関係であっても、心を通わせることができる。
仕事を介さなければこのお客さんと出会うことはなかったし、赤ちゃんの写真を見て微笑み合うことなんて絶対にない。

歳も生まれた場所も何もかも違う人とでも、働くということを通して知り合い、喜びを共有することができる。
そしてこの喜びが得られるのは受動的ではなく、能動的に仕事をしようとしたからだ。

はたらくことの喜びについては、だいたい恋ヶ窪の焼き鳥屋で学んだより

「ミスなく業務をこなせているから、それでいいや」
「アルバイトだから、決められたことだけやればいいや」
と受け身のはたらき方を続けていたら、こうした笑顔は生まれなかったでしょう。
しろさんが能動的に自分から仕事をしたから、お客さんの笑顔と自分の笑顔を増やすことができ、はたらく喜びを感じられたのです。

もうその焼き鳥屋さんはなくなってしまったそうですが、今でもしろさんの中にはこうした学びが強く息づいています。

しろさんのエピソードからは、どんな仕事でも、どんな立場でも、自分の向き合い方次第で笑顔になれることが分かります。
はたらく喜びを感じられない時は、自分から仕事にもう一歩踏み込む勇気を持って行動してみるのもいいかもしれませんね。

しろ
二児の父。ランニング好き。ロックフェス好き。読書好き。カープ好き。ラーメン好き。

(文:秋カヲリ)

パーソルグループ×note 「#はたらいて笑顔になれた瞬間」投稿コンテスト

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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