「校歌」作りのプロに聞く 100年後も歌われる曲はどう作る?

2021年3月8日

それぞれの学校で代々歌い継がれている「校歌」。子どものころや学生時代の記憶はどんどん薄れていくけれど、校歌だけは歌えるよ!という人、少なくないんじゃないでしょうか。

どの校歌も似ている印象がありますが……「いえ、近年は“攻めた”校歌も増えてきましたよ」と教えてくれたのは、オクターブミュージックの取締役である瀬崎 友希さん。同社のディレクターとして、毎年数十校の校歌を手がけている“裏方さん”です。

「特に『作曲』『編曲』の部分で新しさやオリジナリティを出したいという学校が多くなってきました。多様性を認める令和らしいトレンドですね」(瀬崎さん)

では、校歌ってそもそもどうやって作るの?歌詞は誰が?制作の期間は?知っているようで意外と知らない「校歌」の舞台裏を、瀬崎さんにご案内いただきましょう。

──校歌制作といえば、熟練の“作家のセンセイ”なのかと思っていました。

確かに地元で作曲家や作詞家の先生に依頼されることも多いようですから、そのイメージは間違ってはいません。

ぼくらは普段、アーティストの楽曲をはじめ、ゲーム音楽、テーマソング、CM、効果音など、広範囲の音楽制作を行なっています。校歌はその1つなんですよ。

──依頼はどんな方からくるのでしょう?

学校の先生や教育委員会などから直接連絡をいただくことがほとんどです。初めて校歌制作の依頼をいただいたのは2016年。佐賀県唐津市にある高校から、会社のホームページに相談のメールをいただきました。

最初にお話を伺ったときは「まさか」、と思いました!でも、実はぼくたちの会社は「100年先も輝き続ける作品づくり」を理想に掲げ、ずっと目指してきたんです。代々歌いつがれていく校歌は、まさに理想の仕事でした。

同時に、校歌といえば式典などで繰り返し演奏される公的で正統なもの。そんな大切な楽曲を手がけるチャンスをいただけたことがうれしかった。

現在は北海道から沖縄まで、学校や幼稚園からもご依頼いただき、年々増えていますよ。

オクターブミュージック制作の校歌の例。ポップな曲調が現代っぽい……。一方でオーセンティックな曲調のものも多いそう。

──少子化で学校が減っていると聞きますが、まさか依頼が増加中とは。

校歌が必要になるケースは3つあるんです。1つは新しくできた学校の校歌を依頼されるケース。

もう1つは少子化による学校の統廃合。つまり合併が行われる際に、その新設校のために新しい校歌が必要になるケースです。

ほかには、数十年前にテープに入れた校歌の音質が劣化したから「新しい音源が欲しい」というケースや、「軍歌調のメロディを今風にしたい」というような“リアレンジ”のケースです。

学校の見学にも行く!1つの校歌ができるまで

──校歌ってどんなふうに作るのですか?

ものづくりと同じで、まずは「なぜ校歌が必要になりましたか?」という、依頼者の先生や教育委員会などの方へのヒアリングからスタートします。学校の歴史や校訓、教育理念などをここで細かく伺います。

続いて、「どんな校歌にしましょうか」とコンセプトを一緒に決めます。今はコロナで難しいのですが、以前はよく学校を訪ね、景色や空、碑文を見て、校舎や校庭を歩き、先生や生徒にインタビューをしていました! 

──学校の雰囲気を見学するのってやっぱり大切なのでしょうか?

とっても重要です。というのも、ぼくはディレクターとして、その学校のムードに合いそうな作詞家や作曲家を選ぶ必要があるから。弊社に在籍しているアーティストは約100名。みんな個性的で、組み合わせによってはどんな曲もどんな歌詞も無限に作れちゃう。希望があるなら、クラシックでも、ポップスでも、ロックでも。

だから、まずはぼくがいろんな角度から学校を肌で感じて、イメージを膨らませてからメンバーを選びたいんです。

──無限に作れる……。チームならではのパワーですね!作詞・作曲の方向性を決めたら、いよいよ校歌作りに?

はい、学校側とキーワードや曲調をすりあわせてから、各アーティストたちが作詞作曲に入ります。作り方も様々ですが、曲と歌詞を変えながら3〜5パターンのデモを作って、「どれがいいですか?」と学校側に選んでもらうことが多いです。

その際、「メロディはAがいいな、でも歌詞はCがいい」ということがよくあるので、メロディと歌詞には互換性を持たせて作る事が多いです。

──企業の広告制作ともよく似ていますね。校歌もある意味、その学校の広告と言えそうですね。

とくに私学はそうした面があるかもしれないですね。校歌を入学者を獲得するためのマーケティング、あるいは他校との差別化を図るためのブランディングの一部と捉えている学校も多いですよ。

デモを選んだあとは編曲とレコーディングを経て、データやCD、楽譜など必要なものを納品して完了します。制作期間は、ロスタイムがなければ1カ月前後でも制作できます。

渋谷にあるオクターブミュージックのスタジオ。ここにアーティストを呼び校歌の録音をすることも。

時代とともに変わる曲調、変わらない歌詞

──最近は、校歌のトレンドが変化しているそうですね。

そうなんです。現在は通信制高校や専門学校なども増え、求められる曲調にも幅が出てきました。たとえば、フルオーケストラにも関わらず、ドラムはロック調など、従来の校歌からは想像できないジャンルのものも増えています。おそらく平成生まれの先生や親御さんが増えたことも一因ですね。

──作曲のルールはあるのですか?

ルールというほどのものはないけれど、配慮することはいくつかあります。たとえば、音域は小・中・高でそれぞれ変えています。小学校は高めの音域。男子校か女子校かでも音域は変えていますね。

また、曲はだいたいC・F・Gのキーで作ります。これらのキーは、ピアノでいえば黒鍵の出番が少ない、つまり比較的シンプルな曲に仕上がるんです。

先生や生徒が演奏しやすいように。みんなが歌いやすいように。サラッと覚えやすいように。そういうことを考えながら作っていきます。

──ユニバーサルデザインのような配慮ですね……! ちなみに、作詞のルールはあるのですか?

こちらも特にありません。ただ、「ぼくら」という表現は避けて「我ら」「我々」「私たち」を選ぶようにしています。これは今の時代ならではかもしれませんね。

あっ、作詞といえば、統廃合のときが面白いんですよ。

たとえばABCの3校を合併するとき、新しい校歌では、A校、B校、C校の歌詞をバランスよくミックスして1つの校歌にまとめてほしいとのご要望が多いんです。学校はなくなったとしても、歌詞はちゃんと受け継がれていくんですね。

ほかはイチから作詞しますが、曲とちがって、歌詞はあまり冒険しません。学校名を入れて歌う従来型がほとんどですね。

──なるほど、従来型……。瀬崎さん、校歌でよくある歌詞の特徴って何ですか?

そうですね。富士山とかは、何かと登場しがちかもしれないですね(笑)。

まじめな話、富士山だけでなく、山はよく出てきますよね。その学校のある土地柄が歌の中に反映されているんです。

だから、ぼくたちが作る場合も、その土地でおなじみの山や川、海のこと、学校をめぐる春夏秋冬のことは必ず情報としておさえるようにしています。

あとはやっぱり、広い空に翼を広げて羽ばたいていく、みたいな歌詞は多いですね、全国的に。

100年歌われる音楽を作るために

──ここだけの話、「ずっと歌われる楽曲をつくる」ということにプレッシャーを感じたりはしませんか?

いや、やっぱり今でも緊張しますね!身も引き締まります。でも、依頼する側のプレッシャーも実はハンパじゃないんです。たとえば公立だと、依頼してくれた先生の背後には、教育委員会、PTA、親御さん……と関係者がたくさんいらっしゃるわけです。

いろいろな人が、いろんな理由で、いろんな意見を述べられます。その荒波をうまく乗り越えて、みんなから賛同をいただけるように作らねばなりません。

だから、「こんな質問があった場合は」「もし関係者から学校と異なる方向性の意見が出てしまった場合は」など、いろんなケースを考えて、質疑応答の回答集を作ったりもします。

──なんと、そんなフォローまで。

これも仕事のうちなんです。校歌づくりに限らず、クライアントが迷っているときは、たくさん提案しますし、なんでも相談していただける間柄になれるように努めます。

ディレクターという職は、チームメンバーはもちろん、クライアントとも一番向き合う役なんです。だから、ただ「なんとなく……」ではなく、「こういうニーズをいただいたから、この音を使った、この人に頼んだ」とちゃんと説明できる存在でありたい。

そのためには、いろんな角度からクライアントの希望を徹底的に掘り起こす必要があります。そして、そのニーズに共感しながら作ることで、自分たちも想像しなかったような新しい音楽が生まれてくる。そして、ゆくゆくは喜ばれることにつながっていく。依頼者と密に、しっかりコミュニケーションをとることこそ、ものづくりの要だと思っています。

──では、最後の質問です。校歌を作るというお仕事において“はたらいて笑える”こと、ありますか?

ぼくらの作った校歌が、実際に、全校生徒の声で体育館にこだましていく瞬間。これはもう、たまらないものがあります。

いつも、制作の過程でその学校のことを知れば知るほど、好きになっていくんです。だから、学校の式典に招かれて、大勢の生徒の声で校歌を聞かせてもらえたときは、まるで学校の一員になれたようですごくうれしい。感動します。

よく、体育館の壁の上の方に校歌の歌詞の大きな板が掲げられていますよね。あれは「校歌額」というものです。あれを見た瞬間も、やっぱりジーンとします。

ああ、作家たちの名前がちゃんと出ている。よかった。100年先も200年先もずっとずっと残ってほしいと祈るような気持ちになります。

一般的な音楽は、どうしてもときとともに消費されていく運命にあります。でも、校歌はそうじゃない。世代を跨いで受け継がれる思い出そのもの。OB会でいろんな世代の卒業生が集まったときも「せーの!」で一緒に歌える歌ですよね。だからこそ、価値がある。

最初に校歌を作るためにヒアリングするとき、「この学校はどうありたいのか」「この学校は、生徒と、先生と、地域に暮らす人と、世界と、これからの時代と、どうリンクしていきたいのか」 といったことまで突き詰めて伺い、一緒に考えます。

楽曲の表面的なことよりも、歌の中に託される「想い」や「願い」を大切にしたい。その魂が宿ってこそ、100年先も輝き続ける校歌になると信じています。

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ライター・編集・イラストレーター矢口あやは
大阪生まれ。雑誌・WEB・書籍を中心に、トラベル、アウトドア、サイエンス、歴史などの分野で活動。2020年に一級船舶免許を取得。

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