人間関係が希薄な今だからこその価値 ヤクルトレディが届け続けるものとは?

2021年7月1日

ヤクルト商品をバイクに積んで、1軒ずつ自宅や会社をまわって商品を届けるヤクルトレディのお仕事。ブルーの制服を着こなし、颯爽とバイクを走らせている通称“ヤクルトさん”を道で見かけることもあるのでは。

でも、お店でも買おうと思えば買えるのに、「わざわざ自宅までヤクルト商品を届けてもらう必要ってあるの?」と思うことも。この時代に、あえて訪問販売という方法をとることに、どんな意味があるのでしょうか。

「お店でも買える商品はあるけれど、ヤクルトレディがお届けすることに意味があるんですよ!」と、くったくのない笑顔で答えてくれたのは、ヤクルトレディの仕事をはじめて4年目の小林 慶子さん。

2人のお子さんのママでもある小林さんが、「ヤクルト」と一緒に届けているものとは?

ヤクルトレディの小林慶子さん

大雨の日も酷暑の日も、「ヤクルト」を届け続ける

──ヤクルトレディは、1日に何軒くらいのお宅を回っているのですか?

私の場合、始めたばかりのころは1日に20軒ほどを訪問していました。

今は週5日、1日40〜50軒のお客さまを訪問しています。朝の9時ごろからまわりはじめて、だいたいお昼過ぎくらいにお届けを終える感じです。その後は翌日お届けする商品の準備をしたり、売上を記録したりといった作業をして、夕方ごろに業務が終了します。

──1日に50軒も!相当大変なのでは?

そうなのかな。普段はつらいと思わないし、楽しくお仕事しているんですが、天候に左右されるお仕事なので、日によっては「しんどい、心が折れる……」って思うこともありますね(笑)。大雨でびしょ濡れになったり、夏は炎天下でじりじり日差しがあたったり……。

でも、お客さまとのお届けの約束があるので、どんな天気でも行かなきゃいけない。その点はちょっと大変かもしれないですね。

くじけそうになることもありますが、うれしいこともあるんです。たとえば、毎年夏が終わるころに、「こんなに暑い中、今年もよく頑張ったねー!」と褒めてくださるお客さまがいて。そんなこと言われたら、暑くてしんどい期間も頑張ろうって思っちゃいますよね。

出会いは、自分で生み出していく

──慣れないうちは大変そうですね。初めて自分でお客さまづくりができたときのことって覚えていますか?

もちろん、忘れられないです! 最初に新しいお客さまを自分で増やせたのは、ヤクルトレディを始めて1週間くらいたったときかな。

基本的にヤクルトレディの仕事は決まったお宅やオフィスへのお届けなので、新規のノルマのようなものもないですし、自分が収入を増やしたかったり、余裕があるときに、自分のペースでお客さまづくりを行います。

私の場合は最初に引き継いだ担当するお客さまの数が少なかったので、「早く増やさなきゃ」っていう焦りもあって。

それで、まず身近なところから活動していこうと思って、うちの子どもが通っている幼稚園バスのお迎えに来ていたご近所のお母さんにおそるおそる声をかけてみたんです。「ヤクルトレディをしているんですけど、よかったらお試ししてみませんか?」って。それで、「ヤクルト」のサンプルを渡しました。

そのときは、「忙しいので」とすぐに帰られたので、「ダメそうかな」と思ったんですが……。翌週にお宅を訪問してみたら、「このあいだのを飲んでみたら、すごくおいしかったから」とお届けのお申し込みをしていただけたんです。

まさか申し込んでいただけると思わなかったので、すごくうれしかったですね。まずは知ってもらうことが大事なんだなというのを、すごく実感しました。

──初対面の方に声をかけたり、おうちに訪問したりするのって、緊張しませんか?

緊張はしないかな。私が、物怖じしないタイプなのかもしれません。お声かけする前から先入観で「お断りされそうだな」とかは考えず、いろいろなところに「まずはお試しいかがですか?」と訪問するようにしています。

お断りされることもありますが、1年後に再訪問してみたら「待っていたのよ」って迎えてくださったこともあって。こればかりはタイミングですよね。たまたま訪問したタイミングで、体調がちょっと気になっていたとか。

あとは、「CMで見て気になっていたんだけど、頼み方がわからなかった。来てくれてよかった」といったお客さまもいらっしゃいます。

──中には1回の訪問でお申し込みにつながらないケースもありますよね?

やっぱり何回か通うケースのほうが多いですね。でも、私はお客さまが納得して選んでいただくことに意味があると思っていて。じゃないと、続かないじゃないですか。

だから、何回か訪問して商品の良さをお客さまにお伝えしています。5回くらい訪問して顔なじみになって、「じゃあ、飲んでみるよ」と言ってくださったときは「やった!」って思います(笑)。

地域の人々の健康に寄り添うことも、ヤクルトレディの役割

──お仕事をしていて、一番楽しいのはどんな瞬間ですか?

それはもう、お客さまとお話しているときですよね。結婚前はアパレルの販売員をしていたこともあり、お客さまとの会話自体は好きだったんです。でも、今はご自宅への定期訪問なので、店舗勤務のときよりも、一人ひとりのお客さまとお話する機会が増えました。

「今日は暑いですねー」といった天気の話だけではなく、その方の趣味や好きなもの、最近あった出来事とか、いろいろなお話をさせてもらって。私、趣味がお花を育てることなんですが、お客さまとお花のトークで盛り上がることもあるんです。「あの種、育ててみたら」ってオススメしていただくこともありますね。

──ご近所友達や趣味仲間みたいな感じなんですね。

そうかもしれません。それに、ヤクルトレディの仕事って、単純に商品を届けるだけではなくて、地域のお客さまの健康をサポートするという側面もあるんです。

「前回の分、飲み残しはないですか?」「最近、体調はいかがですか?」と一人ひとりに寄り添いながら声をかけて、私たちにできるアドバイスをすることもあります。常にお客さまの声を聴くように意識していますね。

商品を買うだけだったらスーパーでもいいんですけど、商品の特長を詳しくご紹介したり、体調のご相談にのったりができるのはヤクルトレディだけ。普段から親密な関係を築いて、何か気になることがあったときに、気軽に相談してもらえる存在になりたいですね。

──とくに仲がいいお客さまもいらっしゃるんですか?

います。すごく印象に残っている出来事が去年あって。

あるお客さまに、コロナの影響で子どもの卒園式や入学式をやるかやらないかわからない、というお話をしたんです。そしたら、「こんな状況になって大変だね」と涙を浮かべて心配してくださって。翌週に伺ったときには、「入学おめでとう」というメッセージの入ったプレゼントまで用意してくれていたんです。

私の気持ちに寄り添ってくれて、娘のようにかわいがってくださって。私もこの方をお母さんのように慕っている部分がありますね。

ほかには、新興住宅地には私と同年代のファミリーのお客さまも多いんですが、数年前は三輪車を走らせていたような子がいつの間にか成長して、ちょっと生意気になっていたりして(笑)。同年代のお母さんたちとは子育ての相談をしたり、時短レシピを教えてもらったり、いろいろと情報交換させてもらって、すごく助かっています。

はたらくお母さんの姿を、子どもたちに見せられる

──そもそも、ヤクルトレディをやってみようと思ったきっかけはなんだったんですか?

家を購入して、引っ越した地域でヤクルトレディの方をよくお見かけしていたんです。実は、私が小さいころに母がヤクルトレディをしていたので、すごく馴染みがあって。

だから、はたらこうと思ったときに、真っ先に頭に浮かんだのがヤクルトレディだったんです。保育所もあるので、子どもの預け先に悩むこともないですし。

──子どものころにお母さまがはたらいていた姿って、覚えているんですか?

記憶はないのですが、ヤクルトの保育所に私も通っていたみたいで、母は当時のことをよく「売れっ子だったのよ〜」と楽しそうに話してくれるんです。

「ヤクルトレディをしてみようかな」って母に相談したときも、「やってみたら?はたらきやすいよ」と言ってくれて。

今でも仕事でうれしいことがあったときは真っ先に母に報告しています。職場内での月間売上1位をとったときはすぐに連絡しましたね。「よかったね、頑張ったね」と、一緒に喜んでくれたのがうれしかったです。

──小林さんの2人のお子さんは、母親がヤクルトレディとしてはたらいていることにどんな反応をしていますか?

今、上の子が8歳で、下の子が年長さんなんですが、小さいころからヤクルトの保育所でヤクルトレディさんがバイクにのってはたらく姿をずっと見ていたせいか、「お母さん、かっこいいね」って言ってくれるんです。「バイクの運転がかっこいい」と、「お仕事を頑張っているお母さんがかっこいい」と。

疲れて帰ったときに「今日ご飯作れない」と言ったら「簡単でいいよ」と言ってくれたり、自分でできることは自分でしようとしてくれたり。「お仕事頑張ってくれてありがとう」って言ってくれたり。

お母さんがはたらく姿を間近で見てきたせいか、どんな仕事をしているかを分かってくれているんだなと思います。

──お子さんからそんなこと言われたら、うれしくなりますね!

家族が応援してくれるから「今日も頑張ろう」っていう気持ちになりますよね。

私自身はまだ中堅だと思っているので、もっとスキルアップしていきたいなと思います。日々のコミュニケーションを楽しみながら、「ヤクルトさんに頼んでよかった」って思っていただけるような対応をしていけるように、まだまだ頑張っていきます!

(文:村上佳代 写真提供:小林慶子)

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編集/ライター村上佳代
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