意外な「こだわり」も。私たちはなぜセブンティーンアイスを買ってしまうのか?

2021年7月5日

たとえば、習っていたスイミングスクールの入り口で。高校の部活が終わった帰り道で。仕事で立ち寄った駅のベンチで。遊びに行った観光地で。このセブンティーンアイス(以下17アイス)を見かけたり、食べたりしたことがある人は多いのではないでしょうか?

「発売したのは1985年のこと。かれこれ36年前です。よく質問される『17』は、17歳の女性をターゲットとし、17種類のバラエティがあることにちなんだものなんです。外出先で食べるとハッピーになれるアイスというコンセプトで、自動販売機で販売しているのが特徴ですね」

そう教えてくれたのは、江崎グリコ・アイスクリームマーケティング部、遠藤寿之さんです。

江崎グリコ アイスクリームマーケティング部 遠藤寿之さん

ご自身がとくに好きだというのは「チョコミント」。そんな“好き”がこうじた結果、2019年には渋谷に17アイス史上初の“チョコミント限定自販機”を設置してSNSでも大きな話題に。そんな遠藤さんが、ロングセラーを誇る17アイスのヒットの舞台裏を語ってくれました。

なぜ人は17アイスを買ってしまうのか?

──思えば17アイスの自販機って、「ちょっと甘いもの食べたいな」という気持ちをくすぐる絶妙な場所にありますよね。

それはまさに狙っているところなんです。設置場所は、大きく2つの条件で決めています。1つ目は、人がたくさん集まるところ。これは時代によっても違いがあって、一昔前は「エンタメ系の商業施設」「ホームセンター」でした。やがてインバウンド需要で「観光地」へ移り、コロナ禍の現在は「公園」に人が集まっています。こうした人の流れを常にチェックしています。

もう1つは、お客さまの心を満たせる場所であるということ。お客さまが食べたくなる瞬間はいつなのか?を意識しながら、実際に現地に足を運んで設置場所を探しているんです。

──人の足で探されていたんですね。その点、コンビニも好立地にあるイメージですが、コンビニで売るような計画はなかったのでしょうか?

売店で販売することを検討したことはありましたが、自販機の方が適していました。自販機のいいところはお店をひらきにくい場所でも、コンセントひとつあれば営業できる点。売りたいところで売れる小回りの良さは自販機ならでは、なのです。

さらにいうと、現在の17アイスの自販機は全国に約2万台あって、これは全国のコンビニの約1チェーン分の数に相当するんですよ。

──すでに17アイスの自販機自体がコンビニ並みの普及率だったんですね。ちなみに、売り上げのいい設置場所って?

これまでに売り上げ日本一を記録したことがある意外な場所が「姫路城」です。ロケーションが絶妙で、天守閣までの道のりに売店がなく、なおかつ天守まではるばる上がって、疲れて降りてきた人の目にパッと飛びこむところに置いているんですよ。

──なるほど。私の家の近くでは家電量販店の前に自販機があるんです。家電を見てまわって、疲れて座ったら、目の前に17アイスがあって買わずにはいられなくて。

まさに、そんな方に食べてほしくて置いています(笑)。家電量販店では、基本的にトイレの前やエレベーターホールといったベンチがあるところに置いていますね。ちなみに、こうした場所では、お子さんに人気のソーダフロートなどのフレーバーがよく売れるんですよ。

──意外ですね。子どもが食べている?

両親の買い物に付き合わされたお子さんがストレスを溜めてしまい、パパやママが「ごめんね」と買ってあげて自分も食べる……というパターンも多いようです。現地を視察すると、そんなファミリーの姿をよく見かけますよ。

意外といえば、「プリクラショップ」もよく売れるんです。というのも、小顔効果を発揮出来たり、小物として持っても可愛い。“映え”るのにぴったりのアイテムになっているようです。

──なんと、ご両親のお助けアイテムであるのみならず、プリクラの小道具としても人気でしたか。

意外!? 17アイスの知られざるこだわり

──ところで、自販機の設置場所によって人気のフレーバーもちがうのでしょうか?

買う人の層が変わるので、人気のフレーバーももちろん変わります。データを見ていると面白いですよ!
本当は2万台ある自動販売機それぞれにラインナップを組みたいくらいなのですが、現時点では「駅」や「公園」といった20ほどの業態別に傾向を分析してラインナップを決めています。

──その傾向、ぜひ教えてください。

まず、「観光地」では、開放的な気分で贅沢を楽しむ人も多いことから、アッパーな「スペシャルセレクション」が売れ筋になっています。いわゆるハレの日需要ですね。

一方、「駅」なら、棒が残るスティックタイプより、全部食べてしまえるコーンタイプが売れ筋。移動の真っ最中だから、ゴミを出したくない人が多いのでしょう。

最近の傾向では、コロナ禍で「公園」の自販機が大きく売れ行きを伸ばしています。家電量販店と同様、子どもたちに人気のソーダフロートなどが売れていますね。

──聞いているだけでおいしそうです。“外で食べる”というコンセプトは、味にも影響していますか?

ええ、外で食べてちょうどいい味、おいしく感じられる味を追求しています。外出時は汗をかくことも多く、周りに刺激がある状態なので、味わいを少し強めにしているんです。

たとえばクリームはやや甘めに、チョコは少しパンチを効かせて……というように。室内で食べたら少し強いと感じられるかもしれませんが、外出先で食べるとちょうどいいんですよ。

また、外出先のショートブレイクという観点から、短時間で食べ切れるボリュームにしています。だいたいどれも5分くらいで食べ終わりますね。

──なにげなく食べていたアイスに隠されたこだわりがすごい。

マーケティングの仕事は「楽しい」「苦しい」の連続

──ところで遠藤さん、17アイスのマーケティング部ではどのようなお仕事を?

お客さまに満足いただける価値を提供して売れ続ける仕組みを作ることがマーケティング部の使命。だから、そこにまつわるすべてのことが仕事の範囲になります。

たとえば、営業のサポート、新商品の開発、業態ごとの商品のラインナップ選定、自動販売機開発システム開発なども。まるでサーカスのお手玉のように、いろんなものをポンポンと回していますね。

──広範囲なんですね。遠藤さんが仕事の中でよく苦労される点は?

17アイスには、今、定番の150円のものとは一線を画す200円のスペシャルセレクションというシリーズがあるんです。これは、味も見た目も豪華で満足感のあるスイーツとして作っているのですが、開発するときが大変。手による試作はできるのですが、工場で量産するとなると技術的なイノベーションが必要なのです。ここは毎回、あれこれ工夫をしながら進めていますね。

また、17アイスはみんなに愛される商品を揃えることを目指していて、普通のアイスだけでなく「アレルギー該当なし商品」というジャンルにも注力しています。これを出せば絶対に喜んでくれる人がいる、という実感があるから、開発はとても楽しい作業です。

でも、そのためにはなんとかして工場で量産し、同時にお客さまにも価値をわかってもらいつつ、さらに2万台ある自販機の商品を少しずつ切り替えていかなければならない。思うようにいかないこともあって、そこが苦しい。でも楽しい。やっぱり苦しい。いやいや楽しい。そんな連続です。

新商品アイデアは「顔の見える人」が出発点

──アレルギー該当なし商品といえば、2021年4月に「つぶつぶレモン」が登場しましたね。17アイスの新作ってどのように作るんですか?

新作を作るときに、トレンドなどをながめて「よし、この味だ!」と決めて着手するようなことはまずありません。具体的な人の顔が見えないものは企画にならないんです。たとえば、「つぶつぶレモン」はお付き合いのあった高校の生徒さんたちに悩みをヒアリングをしたのがきっかけでした。

学生の悩みを聞いてみると、アレルギーのことや熱中症予防のことが挙がってきたんです。そこで、それを具現化するにはどうしたらいいだろう? というところからマーケティングチームで協議し、味を開発する研究チームと話し合いを重ねてリリースしました。

マーケティングの調査結果を分析すること、実際に現場で意見をきくことは常に意識していますね。

──徹底的に「人」にもとづいて開発されているんですね。アイス界ではたまに珍妙なフレーバーが話題になることもありますが、そうした企画はしない?

「奇抜なモノを作ろう」と考えて狙うことはしません。自己満足になってしまいかねないと思っているからです。でも、真剣に作った結果「面白い」といってもらえるのはとてもうれしい! 最近、お客様に喜んで貰えた商品の一つには「カラフルチョコ(ミルク)」があります。

食べ放題のお店にいくと、たまにソフトクリームを自分で作って、カラフルなスプレーチョコを自分で好きなだけかけられるサービスがありますよね。あれを楽しんでいる人を実際にお店で見かけて、そういう人ってたくさんいそうだな、と思って企画したものなんですよ。

──確かに、ありそうでなかったアイスですよね。

ボツ企画の集合の向こうにチャンスが見える

──遠藤さん、新商品のアイデアを考えてボツになることもありますか?

もちろんあります。ありすぎて答えられないくらい。イチローでさえも3割ですから、僕なんか全然打てません(笑)。アイデアレベルから考えたらほとんどモノにはならないといってもいい。

でも、面白いのは、単体だとダメだったアイデアも、たくさん集まるとチャンスが見えることがあるんです。そういう隠れたチャンスを見つけることも私たちの重要な仕事。ボツったアイデアがたくさんあったからこそ、一つの商品が出せることもあります。

──たくさんアイデアを出すことは決してムダじゃないんですね。ほかにも、アイデア出しのときに遠藤さんが意識されていることがあれば。

よく外に出ます! 普通に外を歩いている皆さんが私たちのターゲットなので、外に出たときは周りの人をよく見て、「あの人は何をしてるのかな?」と思いをめぐらすのが日課です。

最近とくに印象に残ったのは、コンビニの駐車場にとめた車の助手席で、画板をおいてパソコンで仕事をしている人がいたこと。たぶん家では仕事がしづらくて、かといってコロナで職場にもいけなくて、工夫して自分のテレワークルームを作られたんだろうな、と。

でも、きっとそういう悩みのある人は多いはず。じゃあ、そういう人はどういうものが欲しいのかしら? と、アイデアの最初のトリガーを引いてくれるんです。

──なるほど、顔の見える人の悩みやニーズを探ることから始まるんですね。

食べている人の姿が見える 17アイスならではの至高の瞬間

──17アイスの話になると目がきらめく遠藤さん。“はたらいて笑える”のはどんなときですか?

いつも「ああ、最高だな!」とつくづく思うのは、おうちの中で食べるのが前提の他のアイスとちがって、17アイスは外で実際に食べている人の姿が見えるということ。ちょっと自販機の隣に立っていれば、買うところ、食べるところ、食べ終わった後の仕草、シーンが全部見えるんです。自分たちが企画したものがどんな形でどう伝わっているのかがダイレクトに見えるというのは至福ですよ。

──じゃあ、私たちが17アイスを買うとき、自販機の影にそっと遠藤さんが立っているかも?

……かもしれません、もちろん見る時間と対象は気を付けていますが(笑)。個人的によく見ているのは、おじさんたちです。駅で「フーッ」ていいながら召し上がったおじさんが、終わったあと「ヨッシャ」と改札に向かっていく姿見ると、思わず「がんばってね!」と言いそうになります。とても冥利に尽きる瞬間ですね。

(文:矢口あやは 写真提供:江崎グリコ株式会社)

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ライター・編集・イラストレーター矢口あやは
大阪生まれ。雑誌・WEB・書籍を中心に、トラベル、アウトドア、サイエンス、歴史などの分野で活動。2020年に一級船舶免許を取得。

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