老舗食品サンプル会社「いわさき」の工場に潜入。伝統工芸レベルの技術がスゴすぎる

2021年8月19日

進化した食品サンプル、その最高峰をご覧あれ

喫茶店に中華料理店、洋食屋にそば処……、飲食店の軒先にズラーッと並ぶ食品サンプル。実は日本生まれだって知っていましたか?その精巧なつくりには訪日した外国人観光客もびっくり。お土産品として人気なのだとか。

今回は、食品サンプル業界シェアナンバーワンを誇る株式会社いわさきへ訪問。まずはいわさきの誇る最高峰の技術でつくられた食品サンプルをご覧ください。

飾り切りのフルーツが色鮮やかなケーキの食品サンプル。イチゴのツヤやホイップの線まで精巧に再現している
ハンバーガーなど、複数の具材を合わせてつくる食品サンプルはあえて、ダイナミックな仕立てにすることも

写真だとまるで本物と見間違えるほどに“映える”クオリティ。にわかには食品サンプルだとは信じられません。

もはや日本の伝統工芸と言っても差し支えないこれらの食品サンプル。その歴史や、製作工程、つくり手のこだわり……と、身近だけれど意外と知らないハナシを聞くべく、いわさき大阪工場へ潜入。総務本部の向尾 麻里さん、製作本部の北出 真司さん、製作本部の勝田 佳充さんにお聞きしてきました。

写真左から、総務本部の向尾 麻里さん、製作本部の北出 真司さん、製作本部の勝田 佳充さん

──食品サンプル、どれもすごくリアルですね!そもそも、いわさきはどのような経緯で食品サンプルの製作を始めたのですか?

北出さん:もともと食品サンプルは、大正末期から昭和初期に日本で生まれたものです。当時は、洋食文化があまり根付いていない時代でした。だから、メニューにハンバーグやオムライスと書いてあっても「これってどんな料理なんだろう……」と、わからないわけです。

なので見本の料理を軒先に出している店も多かった。でも、今ほど空調設備も整っていませんから、衛生的に良くなかったんですね。そこで、食品サンプルの登場です。

当時仕出し屋で働いていた当社の創業者、岩崎 瀧三が「見本のために料理をこさえなくて済む、それでいて腐らないし、どんな料理なのかが一目瞭然」という食品サンプルの魅力に可能性を感じて、これを日本全国に普及させようと考え、食品サンプルの会社を設立しようと決意したそうです。

はじめは、食品サンプルの試作品を持って、食堂を訪問販売するところからスタートしました。

その後は、得意先ごとのオーダーメイドが基本でした。販路が広がっていくにつれて、地方への出張製作販売を行うようになります。その際、地方でのオーダーメイドはもちろんのこと、「都市部ではこういう料理が流行しているのですよ」と完成済の食品サンプルを規格品として同時に持って行って、紹介して回ったそうです。

──食品サンプルの規格品……?てっきり、店ごとにオーダーを受けてつくっていたのかと。

向尾さん:そう思いますよね。昔は「料理内容がわかればいい」という料理見本としてのサンプルの需要が高い時代でしたし、メニューも食器も今ほど多様化していませんでした。

だから、蕎麦の見本、オムライスの見本といった具合に、1つの料理に対して1つのサンプルをつくる。そして、それを規格品として飲食店の人に貸し付けるということが多くなっていったと聞いています。

オーダーメイドは創業時より当社の特色のひとつなのですが、ひとつひとつ型をつくって仕上げるオーダー品は、完成までに時間がかかり、価格も高くなってしまいます。食品サンプルの需要が高い時代だったので、供給が追いつかなかったという面もあると思います。

また、当時は食品サンプルの素材がロウだったこともあって、耐久性が低く劣化も早かったためメンテナンス込みの貸付でなければ維持できないという側面もありました。

現在は当時より耐久性は上がりましたが、紫外線や気温……と、劣化の原因は常に付いて回るので、今もメンテナンス込みの貸付が主流ですね。

紫外線と温度の耐久性をテストするため、日差しの強い場所に置かれた中華丼の食品サンプル

──ちなみに、食品サンプルはどのような流れで製作されているのでしょうか?

北出さん:今は、食品サンプルづくりの技術が上がり、納期も縮まったため規格品ではなくオーダー品を製作することがメインになりました。やはり規格品だと実際の料理と量や具材も異なるため、オーダーの方が理想的なんですよね。そのため、まずは打ち合わせでメニューや要望を伺って、飲食店の方に見本の料理を用意していただきます。それを写真撮影し、盛り付けの高さや大きさを採寸。それから、料理を食器ごと預かって工場に持ち帰ります。

──料理を食器ごと預かるのですか!?

北出さん:初めて聞くと、びっくりしますよね。持ち帰った器に完成した食品サンプルを盛り付けて納品するので、器も必要なんですよね。

料理を持ち帰ったあとは具材の数やサイズ、盛り付け方などを記した「製作仕様書」を作成します。それから、食品パーツ(規格部品)を使うもの、実物の型取りをするものを選定して、およそ2週間をかけてサンプルをつくります。

……こうして説明をするよりも、見てもらった方が分かりやすいと思うので、工場へ行きましょうか!

部品だけで1, 000種越え!いざ、食品サンプル製作工場へ!

──すごい!エビフライにオムライス……サンプルとはいえ、こうして食べ物が棚に入っているのがなんだか不思議ですね。

勝田さん:ここは、食品のパーツが置かれている倉庫です。オムライスやエビフライなど料理はもちろんですが、野菜や果物などの食材もズラーッとあって。

すべてのパーツを合わせるとおよそ1, 000種類の食材サンプルがあります。これらを組み合わせて、1つの料理をつくるのがうちの食品サンプルづくりの基本です。

大量の小エビ。とてもサンプルとは思えない精密さ!ちなみにむき海老だけでもサイズ違いで5種近くがスタンバイ

──さきほどおっしゃっていた、実物の型取りも気になります……!

勝田さん:とてもシンプルな工程ですが、お店から持ち帰った料理をシリコンで固めて、型を取る。でき上がった型に樹脂を流し込めば色塗り前の食品サンプルが完成します。

実際の料理から、型取りをした茹でダコ。ベースカラーだけが入った色塗り前だけれど、立派なタコ

北出さん:この段階では、ベースのカラーだけが入った状態です。ここからさらに色を塗って、よりリアルなタコに近づけます。そして、器に盛りつければ完成です。せっかくなので、和食の色塗り工程も見てみますか……?

──ぜひ、お願いします!

細かい部分はスプレーによる吹き付けで着色。色付けの工程は、1つ1つを手作業行っている

北出さん:大阪工場には、和洋中のフードや喫茶のスイーツ・ドリンクなど、各ジャンルごとに専業で製作するスタッフが16名在籍しています。今(取材時は7月末)はおせちのサンプル製作依頼が始まる時期なので、和食の製作担当はみんな、おせちの食材をつくっています。

手前味噌で恐縮ですが、こうして色を吹き付けていくと、もうサンプルと実物の区別がつかないですよね。

──こうした技術を取得するまで、どのくらい時間がかかるものなのでしょうか?

勝田さん:最近は、工芸・芸術系の専門学校を卒業しているスタッフも増えていて。彼らのように手先が器用で素養があると2〜3年でひと通りの技術を覚えてしまいます。僕の場合は、3〜5年くらいかかりましたかね。

──ちなみに、特につくるのが難しい食品サンプルってあるんですか?

思わず箸を伸ばしてしまいそうなクオリティの姿造り

勝田さん:火を通しているものや餡がかかっているものは比較的簡単です。具材の細かい色味やディティールが気にならない分、多少のごまかしがききますからね。

反対に生鮮・活魚や透明感のある食材をつくるのは、難しいです。特に刺身の盛り合わせとか姿造りは細かい色付けやフレッシュ感を出すのに苦労するので、難易度が高いと思います。

今は私は製作の現場から離れてしまっているのですが、納得がいくサンプルがつくれるようになるまで、相当骨を折りましたよ。

販促物づくり、医療用模型への技術応用……いわさきが見据える未来とは?

──工場すごかったです!ただ最近、街で食品サンプルを見かける機会が減っているような……。

北出さん:ひと昔前と比べると、やはり数は減っていますね。

それにコロナ禍で飲食業界はかなりの打撃を受けています。そのため、コスト削減の一環として食品サンプルをポスターパネル等に変えられるお店も出てきています。

ですが、写真や活字が平面なのに対して、食品サンプルは立体という強さがあります。ボリュームに具材、細かなディティールまで視認できます。つまり、単純に情報量が多いんですよ。

この強みがある限り、時代が変わっても食品サンプルは必要とされるのではないかと思います。

──なるほど。

北出さん:あとは、食品サンプルだけでなく、メニューブックやポスター、看板やチラシといった販促物全般を一手につくれるのも当社の強みです。これは約25年前から始めた事業なのですが、今までに10,000件以上を手がけています。

あとは、食品サンプルの型取りの技術を応用して、血管や腫瘍の模型をつくり、医療・看護用を展開している事業もあります。

いわさきが製作した医療用模型

──食品サンプルだけではなく、その技術や培ってきたノウハウを活かした事業展開をしているんですね。最後に、これからやってみたいことがあればお教えください!

北出さん:まずは、飲食店の方やお客さんに喜んでもらうこと。そして、飲食店の売り上げ向上やオペレーションの効率化ができるように、最高の食品サンプルをつくること。大変な時代だからこそ、少しでも飲食店の方の背中を押せればいいなと考えています。

あとは、食品サンプルで培ったものづくりの技術を活かした商品づくりですね。今時点では、これをやる!と、明言ができないのですが、当社の何かを精密に再現する技術はかなり高い。今は医療用の模型づくりだけですが、ほかにも活かせる場所があるはずですから。

(文:納谷ロマン 写真:山元裕人)

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編集/ライター納谷ロマン
伏見生まれ、高円寺育ちの街伏。『MeetsRegional』や『BRUTUS』など紙媒体での執筆や、Webメディア『ディープな船場をディグろう』の編集長など、街をフックに横幅広く活動中。酒場と銭湯と猫がとにかく好き。

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