【フランスのはたらき方】プライベート重視だからこそ「効率」重視!仕事の選び方には、ある特徴も……

2022年2月1日

連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

初回は、フランスのはたらき方をご紹介します!

フランス共和国 Data(2020年)
国内総生産ランキング(GDP) :7位/194ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :21位/149ヵ国中(日本:62位)

<お話してくれた方>
スワン・ドンマークさん
フランス国籍|30歳|カメラメーカー・コマーシャルエンジニア(営業)

フランス南東部のグルノーブル出身。高校を卒業後はアメリカやイギリスに滞在し、帰国後、2年間専門学校に通う。専門学校卒業後は2年かけて日本やオーストラリアなどに滞在、20代の半分を海外で過ごす。その後母国フランスの大学で日本語と英語に特化した国際ビジネスの修士号を取得。 約3年間の日本での職業経験を経て、現在はグルノーブルに戻り、コマーシャルエンジニア(※後述)として世界を舞台に活動中。

Q.あなたはどんな人?

――はじめまして!まずは、スワンさんの現在のお仕事について教えてください。

高校卒業後は世界を巡り、大学卒業後は3年間日本で仕事をしていました。今は地元のグルノーブルにある「Device-Alab」というメーカーで、赤外線カメラなどを扱うコマーシャルエンジニアとしてはたらいています。フランスでは、はたらき始めてまだ約1ヶ月しか経っていないので、毎日学ぶことが多いですね。

――「コマーシャルエンジニア」という職業はあまり聞き慣れないのですが、どんな職業ですか?

日本の「営業」に近いです。赤外線カメラの構造は複雑で、お客さまに商品を説明するにも専門的な知識が求められるため、それを分かりやすくコマーシャル(宣伝)するということで、コマーシャルエンジニアと呼ばれています。

――どのような経緯で今の仕事をはじめましたか?

大学を卒業後、フランス企業の日本支社で約3年間はたらいていました。しかし、2020年にフランスで研修を受けていた際に、コロナの影響で日本に戻れなくなってしまい、仕事を辞めざるを得なくなりました。それならばと、30歳を迎えるにあたって心機一転、自分の故郷で仕事を探すことにしたのです。
今の仕事とは、転職エージェントを通じて出会いました。

――フランスにも、転職エージェントがあるのですね。

昔は少なかったのですが、年々増えてきていると思います。SNSを使った転職サービスもあります。

――20代の大半を海外で過ごされましたが、その後のキャリアに不安はありませんでしたか?

不安はなかったです。僕は高校卒業後、すぐには大学に進学しませんでした。これはフランスではよくあることです。

フランスの大学は世界的に見ても進級率が低いと言われており、約半数の生徒が留年もしくは退学するほどシビアな環境です。大学へ入学するととても忙しくなるので、高校を卒業してもすぐに大学にはいかず、数年間は自分の好きなことに取り組む人は多いですね。その期間に世界を旅することは珍しいことではなく、僕を含め、多くの友人もいろいろな国を訪ねて見聞を広げています。

海外で得た経験は、自分のキャリアにも活かされています。僕は18歳まで地元で過ごしましたが、それまでは日本語はもちろん、英語も話せませんでした。だけど、旅をしたことで母国語以外の言語を習得できましたし、現在の仕事に就くこともできました。

――旅をしながら、どんなことを楽しんでいましたか?

スポーツと旅行です。ダイビングやスノーボードなどアウトドアスポーツが好きで、今もグルノーブル周辺の山によくハイキングに出掛けます。旅行もヨーロッパやアジア、アメリカ、オーストラリアなど、今までで訪れた国は40ヵ国以上になります。

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――スワンさんは日本でもはたらいていましたよね。フランスとは、はたらく上での価値観について、どんなことが違いますか?

僕がそうですが、フランス人の性格として、あまりはたらくことが好きではないと思います(笑)。 それは、家族や友人と過ごす時間や、自然やアートに触れ合う時間など、プライベートな時間を大切に考えているからです。もちろん仕事は生きていく上で大切ですから、労働時間をなるべく短くしようと効率性を重視しています。

――効率性について、たとえばどんなシーンでそれを感じますか?

僕が以前日本ではたらいていた企業では、会議が1日に3~4回もありましたが、フランスの企業は会議が少ないですね。また、メールでのやりとりよりも、電話をかけることの方が多いです。メールを何通も送り返すより、1回の通話の方が早く済みますから。

──なるほど。効率化できれば、仕事にかける時間も減りそうですね。

フランスでは、仕事を「生活のためにはたらく」と捉えている人が多いと思います。

以前、日本から親会社のフランスに電話したとき、現地は午後3時だというのに担当者はすでに退社していました。その日に行うべき仕事が終了したら、何時だろうと帰って良いのがフランスです。

――午後3時に退社してもよいのですか!?

仕事がなければオフィスにいる必要もないですからね。仕事が早く終わった分だけ、早く退社できるからこそ、フランス人は仕事の効率化に積極的です。日本ではたらいていた際、仕事がないときも終業時刻が過ぎるまで帰れなかったので、この点は大きな違いです。

日本語も堪能なSwanさん。日本ではたらいていた際は、日本支社とフランスの親会社との架け橋になっていたそうです。

――ところで、フランスでは、一番はじめの就職先はどのように選ぶのですか?

フランスの大学には「サンドイッチコース」という文化があります。これは学生が大学に通いながら企業ではたらくことで、大学での学びをそのまま実践するのが目的です。長期間で1社のみの学生もいれば、短期間で複数の企業を渡り歩く学生など、人それぞれですが、ここで築いた企業とのつながりを活かして、卒業後にそのまま就職する場合が多いです。

――初任給はどれくらいですか?

スキルや専攻分野にもよりますが、平均的な初任給は1,800€/月*ぐらい。一般的に多い職種として、営業職が挙げられますね。僕を含め、周りの友人らも営業職に就いています。

※1ユーロ130円換算で、約235,000円

――その後の「転職」については、どのように考えていますか?

1つの企業に長年勤務するというのは珍しく、目安として1つの企業に3年ほど在籍したら転職を意識し始めます。給料は確かに大切なことかもしれませんが、フランス人にとって重要なことは、その仕事が好きかどうか。決して仕事が好きではないという性分ですが、どうせはたらくのであれば、自分の好きなことや前向きに取り組める仕事をしたいと考え、それがはたらくモチベーションにもつながっていきます。

例えば、月給が5,000€貰えるけど好きではない仕事と、月給が2,000€と安いけど自分の好きな仕事に就けるなら、ほとんどのフランス人は後者を選ぶでしょう。

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 フランスの順位。※調査結果は、2021年に発表した第1回目調査のデータ。

――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、フランスは116ヵ国中67位でした。

好きな仕事ではたらくことにこだわりを持っているフランス人なので、もう少し順位が上かと思っていました。しかし、先ほど言ったように、はたらくことがフランス人はそもそも好きではないと感じるので(笑)、それゆえの結果なのだと納得です。

――スワンさんご自身は、仕事に喜びや楽しみを感じていますか?

はたらき始めて、フランスではまだ3週間しか経っていませんが、「自由」を満喫し、「人との出会い」を楽しんでいます。

――自由、ですか……?

はい。就労時間が特に決まっていないので、好きな時に出社して、好きな時に退社できます。仕事中でも、私用の電話が掛かってきたら出られますし、お客さまと会う際はスーツですが、そうでない場合、服装は自由です。

――人との出会いも今のお仕事の魅力なんですね。

自分の語学スキルを活かしながら、多くの人たちと話せるのが楽しいです。Device-ALabの売上げのうち、85%が海外企業によるものなので、この仕事を続ける限り、世界中を飛び回れますし、英語や日本語も活用できます。

グルノーブルはアルプス山脈に近く、週末にはハイキングやロッククライミングに出掛けることも

――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は45位でした。

僕は日本とも縁があるので、調査結果はフランスと日本の2ヵ国を比較して見たのですが、日本は5位ですね。日本ではたらいていたときにも感じたのですが、日本人は仕事に対して献身的で、自分の仕事が社会でどう役に立つのかを重視していましたが、多くのフランス人にとって仕事は生活のためにお金を得ることが目的です。2ヵ国のはたらくことに対する考えの差が順位に出たのだと思います。

―― スワンさんご自身はいかがですか?

少なくとも、取引をしている企業の役には立っているのかなとは思います。赤外線カメラのおかげで暗闇の状況も把握できますし、さまざまな業界で需要があると感じています。

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は80位でした。

フランスでは大学で何を学んだかが重要で、それを基に職種が限定されます。先ほど紹介したフランスのサンドイッチコースでも、自分の専攻に関連する企業を中心にコンタクトするため、自ずと選択肢も狭まってくるのではないでしょうか。新卒の場合、日本の方が卒業した学部に関わらず、幅広い職種に就けると感じました。

――スワンさんご自身は、どう感じますか?

僕の場合は日本で経験した職種が「営業」だったので、フランスでの仕事も、それに近い職種に限定されています。企業によっては僕の語学や経験に興味を持ってくれますが、エンジニアとしての知識がなかったため、面接していた企業から断られることもありました。

――転職できる職種は限定的なんですね。

そうなります。そのため、僕の周りでは個人事業主としてはたらいている人も多いですし、僕も将来的にはウェブデザイナーの勉強をして、フリーランスとしてはたらきたいと思っています。

――ウェブデザイナーですか?

すでに友人と日本の駄菓子を海外向けに販売するウェブサイトを立ち上げていますが、もう少し本格的にウェブデザインの勉強をしたいです。将来的にはパソコン1つで世界中のどの場所からも仕事ができればよいなと思っています。そうすれば、自分の好きな旅を続けながら、はたらくことができますから。

Swanさんが作成したウェブサイト「KONBINISAN」

――はたらくことが好きではないと明言し、仕事は生活に必要なものと割り切りながらも、自分の好きなことができる仕事に就き、両立させようとする姿が印象的でした。本日はありがとうございました!

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライター浅井みらの
イタリア生まれ、ドイツ育ちの日本人。アメリカの大学でジャーナリズムと国際関係を専攻。
新卒で旅行会社H.I.S.に入社し、団体旅行部門で企画、営業、添乗を経験。現在は旅ライターとして見知らぬ魅力的な場所を開拓中。
SAGOJOをはじめ、トラベルjp、楽天トラベル、自身のサイトなどで執筆中。

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