【カザフスタンのはたらき方】縁故主義から個人の能力の時代へ。生まれて30年の国の新しいはたらき方

2022年2月8日

連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

今回は、カザフスタンのはたらき方をご紹介します!

カザフスタン共和国 Data(2020年)
国内総生産ランキング(GDP) :53位/194ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :45位/149ヵ国中(日本:62位)

<お話してくれた方>
キリル・チェルネンコさん
カザフスタン国籍|35歳|生活関連サービス業・ディレクター

カザフスタン北部の村マイカインで生まれ、幼少期にカスピ海に面した港湾都市アクタウに移り、現在も在住。高校卒業後、ロシアの首都モスクワの大学でエンジニア・エコノミーを専攻し、2020年に再度モスクワにてMBA(経営学修士)を取得。現在は工業地域におけるケータリングやクリーニングなど生活関連サービス業ではたらくと同時に、卸売業、倉庫事業と複数の仕事をこなす。

Q.あなたはどんな人?

――まずは、キリルさんの現在のお仕事について教えてください。

大学卒業後にはたらき始めたのが、僕の家族が経営しているAltyn Dan Tradeという卸売業の会社です。生鮮食品や日用品を飲食店やケータリング業者に提供していて、現在は開発マネージャーという立場です。

あと2019年から、SCSという企業にも勤めています。カザフスタンのカスピ海沿岸は石油産業が盛んで、労働者は共同施設に長期間滞在している場合が多く、SCSはそんな彼らの食事、洗濯、掃除などの暮らしにまつわるサービスを担っているのです。

カスピ海沿岸エリアは油田開発の拠点として発展し、大規模な雇用も創出

――どういう経緯で、SCSではたらき始めたのですか?

もともと僕はAltyn Dan Tradeとして商品をSCSに卸していましたが、アクタウと並んで石油産業が盛んなアティラウという都市で新たに事業拡大することをきっかけに、SCSにディレクターとして雇われました。現在はアクタウとアティラウの2ヵ所を行き来し、現場を見て回っています。

その2つの仕事に加え、2021年から倉庫のスペースを貸し出すビジネスを自分で始めました。1,000種類以上の品物を扱うAltyn Dan Trade用に倉庫を探していたのですが、条件が合うものが見つからなくて……。そこで、自前で新しく大きな倉庫を建てることにし、未使用のスペースは別の企業2社に貸すことにしたのです。

子供時代から現在に至るまで、キリルさんが暮らしている港湾都市アクタウ

――キリルさんのように複数の仕事を持つことは一般的ですか?

いいえ。友人の何人かは2~3個の仕事を掛け持ちしていますが、少ないですね。1つの仕事に就いている方がほとんどです。

――企業側はキリルさんが複数の仕事を持つことを認めているのですか?

はい。Altyn Dan Tradeと貸し倉庫の仕事量は多くないので、SCSも認めてくれています。仕事の割合的にはSCSがメインなので、平日の日中はSCS、夜はAltyn Dan Trade、週末は貸し倉庫の仕事をする感じです。

――常にはたらいているんですね!?

はたらく時間は1日10時間くらいでしょうか。それよりも少ない場合もありますが、8時間で仕事を切り上げるということはないですね。確かに大変だなと思う時もありますが(笑)、仕事は面白いですし、はたらき盛りの若者には良いことだと思っています。

――MBAを取得されているとのことですが、どのように取得されたのですか?

MBAは毎日学校に通って取得するのが一般的ですが、僕の場合は2ヵ月ごとに1週間、モスクワにある大学に通学し、あとは自宅で学習するスタイルでした。さまざまな国からクラスメイトや教授陣が集まっていて、経験してきた業界もそれぞれ異なるので、耳にする内容のすべてが新鮮でした。

――カザフスタンではMBAを取得する人は多いのでしょうか?

多いですよ。僕のようにモスクワの大学に通う人もいますし、アメリカやヨーロッパなどに行く場合もあります。企業が資金面をサポートする機会も増えています。僕の場合も、学費の半分は自己負担ですが、残りの半分はAltyn Dan Tradeが払ってくれました。社員は良い教育が受けられるし、企業も自社の成長につながるので良いことだと思います。

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――カザフスタンのはたらき方について教えてください。

従来、特徴的な点としてよく挙げられているのが「縁故主義」ですね。両親もしくは親戚が政府機関や大企業に勤めていれば、簡単にそこに入社できて、さらにマネージャー職に就くことができるなど、血縁関係が重視されてきました。

しかし、その風潮も最近になって徐々に変わってきています。若い世代はインターネットや教育を通じて世界中のビジネスモデルなどをリサーチして、親族の縁を頼るのでなく自ら事業を立ち上げることが多くなりました。企業側も、専門的な知識や技術を持つ人を積極的に採用するなど、個人の能力を重視するようになってきています。

――たとえばどんな人が雇用されやすいのですか?

今の時代だと、システムエンジニアなどのIT関連です。カザフスタンでは在籍中は勉学に励み、卒業と同時にはたらき始めます。

就職は、学生から企業にコンタクトするのが主流ですが、ITの専門高校に進学した学生は卒業前から企業がスカウトに乗り出すなど、人材の争奪戦が始まっています。カザフスタンでは初任給が大体300~400$/月*ですが、IT関連だと初任給も平均より高いです。

※1USドル113円換算で、約34,000~45,200円

――ほかに、“はたらく”に関して、近年変わってきていることはありますか?

以前のカザフスタンだと、女性は就職を経ずに専業主婦になる方が多かったのですが、今では女性の社会進出も進んでいます。僕の妻も、結婚する前はエンジニアとしてはたらいていました。今は3歳の息子と4ヵ月の娘がいるので仕事はしていませんが、子どもたちが大きくなったら、社会復帰をサポートしたいと思っています。

長女が生まれる前に撮影した家族写真

――カザフスタンでの転職事情について教えてください。

5年くらいを目途に転職することが多いですね。転職先は企業の知名度や仕事内容というより、給料が重視されます。そのため、カザフスタンよりも給料が高いロシアやヨーロッパ諸国ではたらくことが今の流行りになっていて、優秀な人材が国外に流出してしまうと問題視する声もあります。

――人気の職業は何ですか?

カザフスタンは石油産業が盛んなので、石油関連の仕事が人気であり、一般的な職業でもあります。一方で、若い世代は大企業ではたらくより、飲食店や旅行業などサービス業を中心に起業する人が増えています。

――それはどうしてですか?

「自分たちで何かしたい」という気持ちが強いからだと思います。僕もそうですが、企業が定めた通りにはたらくより、自由なはたらき方に憧れます。自分の知識やスキルで未来を切り拓いていくので、自立して生きているんだという実感をより強く持てるのです。

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 カザフスタンの順位

――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、カザフスタンは116ヵ国中72位でした。

順位を見ると結構下位の方にいる印象ですが、カザフスタンの結果だけ見てみると、全体の83.2%が「楽しんでいる」と肯定し、否定しているのは10.2%ですね。確かに10人中1人くらいなら仕事を楽しんでいない人もいると思います。

――キリルさんご自身は、仕事に喜びや楽しみを感じていますか?

僕自身は、自分の存在意義や人生の意味をはたらくことで見出しています。だから、自分の仕事ぶりが企業の成長につながるのはうれしいですし、SCSの売上げを増やすことで、仕事のやりがいを感じています。会社の業績が上がれば従業員の給料も増えますので、車や家を所有でき、子どもにも良い教育を受けさせられますから。

――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は89位でした。

順位が低いですが、納得ですね。というのも、カザフスタンが国として独立したのは1991年と、まだ30年しか経っていません。若い国なので、広い視野を持てておらず、はたらくことの「意義」や周囲への「影響」について深く考える機会が少ないのだと思います。どちらかというと、自分たちの仕事だけを気にしている傾向です。

僕自身は、自分の仕事が人々の生活の役に立っていると思います。アティラウの石油精製工場には約1,000人が作業員としてはたらいており、その人たちの食事、洗濯など、身の回りのことをSCSがサポートしています。多くの利用者から「快適に過ごせる」という喜びの声を聞くと、自分の仕事は人々の役に立っているんだなと実感できます。

現場ではたらくスタッフと一緒に撮った一枚

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は107位でした。

あまり良い順位ではないですよね。内訳を見てみると、半分の人たちが「仕事を選べない」と思っていることが残念です。しかし、これは考え方次第で、これから変えていけるのかもしれません。

――と言いますと?

独立以前のカザフスタンは、ソビエト連邦の一部でした。社会主義の影響が強く、政府が経済を管理していたため職業の自由は制限されていましたし、仕事を簡単に変えることもできませんでした。30年も前の出来事ですが、未だに当時の名残があります。選べるかどうかというより、自分たちで職業を選ぼうと意識がまだ根付いていないのだと思います。

でも、もっと多くのカザフスタン人が、積極的に自分の仕事や人生に取り組んでほしいと願っています。僕自身は、世界は誰にでも開かれていて、自分次第で好きなようにはたらき、生きることができると思っていますから。

――キリルさんの今後の展望について教えてください。

SCSでのキャリアがひと段落したら、家族でモスクワに移住して、新たなビジネスを立ち上げたいですね。現地の食品を扱う事業を考えています。アクタウも良い街ですが、カザフスタンよりロシアの方が良い教育を受けられるので、ロシアに住むことは子どもたちの未来のためでもあります。

――自国の社会や会社に貢献することがやりがいと感じつつ、起業を通して自分自身の可能性を試そうとする、自立への強い想いが感じられました。本日はありがとうございました!

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
約1,000名/国×116カ国に調査。国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライター浅井みらの
イタリア生まれ、ドイツ育ちの日本人。アメリカの大学でジャーナリズムと国際関係を専攻。
新卒で旅行会社H.I.S.に入社し、団体旅行部門で企画、営業、添乗を経験。現在は旅ライターとして見知らぬ魅力的な場所を開拓中。
SAGOJOをはじめ、トラベルjp、楽天トラベル、自身のサイトなどで執筆中。

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