【タイのはたらき方】人気の仕事や生き方がコロナで変化。転職理由は給与以外にも……?

2022年3月1日

連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

今回は、タイのはたらき方をご紹介します!

タイ王国 Data(2020年)
国内総生産ランキング(GDP) :26位/194ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :54位/149ヵ国中(日本:62位)

<お話してくれた方>
ナルエモーン・センサナーンさん
タイ国籍|42歳|ホテルアメニティ企業・マーケティング業務

タイ東北部に位置するスリン県で生まれ育ち、就職を機に首都バンコクに上京。パッケージなどの包装を手掛ける企業のもと、大学時代に培った英語力を駆使し、世界各国の顧客とやりとりを経験。勤続16年目の2017年に英語での観光ガイドを目指すべく退職し、翌年からガイドとしてはたらくものの、コロナ禍により活動を休止。2020年にホテルのアメニティを扱う会社に就職し、現在、勤務しつつ、ガイドとしての再起を図る。

Q.あなたはどんな人?

――まずは、ナルエモーンさんの現在のお仕事について教えてください。

コロナが流行る前は、ガイドとして旅行者をタイの観光名所へご案内していました。私は英語を専門にしていたので、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ヨーロッパに加え、アジア諸国といった世界中の方々も担当していました。ここ2年間はコロナの影響で観光客の数も激減し、ガイドをする機会がなくなったため、2020年にホテルのバス用品やインテリアを扱う「SETH Intertrade」というホテルアメニティ企業に就職しました。

ちなみに普段、私は「ワング(Wang)」と呼ばれているんですよ。タイでは、自分の本名は複雑で呼びにくいため、一般的にニックネームが使われています。

――では、ワングさん。英語のガイドになったのは、もともと英語がお好きだったからですか?

好きだったこともありますが、タイでは英語が話せると就職に有利になります。バンコクで仕事を得る目的もあって、大学では英語を専攻しました。地元のスリン県ですと、そもそも仕事自体が公務員しかありません。タイでは公務員の給料が民間企業より低いので、多くの場合、大学や高校を卒業すると、仕事を見つけるために企業が集中するバンコクを目指します。

――キャリアのスタートは、どんなお仕事をされていたのでしょうか。

バンコクにある「Wongeak Industry」という会社で、セールスサポートとして採用され、日用品のラベルやパッケージなどの包装資材を提供していました。海外とも取引をしていたので、この企業なら大学卒業後も英語力をさらに向上できると思ったのです。

就職後はアメリカ、香港、ベトナムなどの企業とやりとりをしていましたが、同じ英語でもその国ごとに言い回しや発音も異なるので、とても勉強になりました。仕事は面白かったし、社内のポジションや給料も年々上がっていったので、気が付いたら社歴も16年目に突入していました。

――16年間も在籍していたのですね!

長く勤めたほうだと思います。自分自身でも「良くはたらいたなぁ」と実感しました。しかし、そのまま同じ会社ではたらき続けることに疑問を持ち始めました。そこで次のキャリアを考えた時に、語学力が活かせて給料も高い、英語の観光ガイドになろうと決めたのです。

――観光ガイドはどうやったらなれるのですか?

大学などの教育機関で、ガイド育成のためのカリキュラムを受けることができます。1~2年間かけて講義を受け、タイ全土を視察しながら、その土地の文化や歴史を学びます。
カリキュラム受講後に実施される筆記、口述試験に合格すると、正式に観光ガイドとして認定され、その後は旅行会社を介して仕事の依頼を受けられるようになります。

バンコク北部に位置するアユタヤのワット・プラ・マハータートにて

タイは観光大国なので、ガイドの仕事は需要がありました。しかし、2020年以降はコロナの影響で仕事が減ってしまったのです。そこで平日はSETH Intertradeではたらき、ガイドの仕事は週末や祝日のみに切り替えました。

――会社は副業(ガイド業)を認めているのですか?

SETH Intertradeに採用されるときに、観光ガイドの資格があり、会社は平日限定ではたらきたいことを伝えていたので問題ありません。

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――タイのはたらき方について教えてください。

タイ人の多くは高校もしくは大学を卒業してからはたらき始めます。学生時代は勉強に専念させるため、はたらく時間がないのです。

企業の採用情報は、転職サイトや企業のホームページで見つけることが主流ですが、私が最初にはたらいたWongeak Industryは、新聞で見つけました。最近ではインターネットが主流で、転職サイトも多いですね。興味のある企業をみつけたら自分の履歴書を送り、数回の面接を経て、採用されるのが一般的です。

今でも、TVや新聞などのマスメディアを使って募集をかける企業もあります。

――タイの転職事情について教えてください。

個人によって異なります。私のように、1社に16年間も居続けることは珍しいのですが、去る理由が特にないのであれば転職はしませんよね。

同僚と考えが合わなかったり、職場にとけ込めなかったりしたら、はたらき始めて1~2ヵ月目でも辞めることはあると思います。

――それはどうしてですか?

タイでは人間関係を大切にする文化があるからです。一緒にはたらくのであれば心地よい関係を築きたいので、争いはもちろん、相性が悪い相手との付き合いは避ける傾向にあります。

――なるほど。ところでタイの初任給はどれくらいですか?

現在の初任給については分かりませんが、私の時は大体8,000バーツ/月*でした。

*1バーツ3.40円換算で、約27,200円

大企業や有名企業だと給料はもっと高く、福利厚生も充実しているのでそれだけで人気があります。ただし、そういう企業に入社するためには、タマサート大学のような名門大学を卒業し、高学歴であることが必須条件です。しかし、「大企業に勤めたい」という考え方も、コロナ前後で変わってきていると感じています。

――どう変わってきたのでしょう。

多くの民間企業がコロナの影響を受けて苦しい状態にあります。倒産や解雇の恐れもあるので、それならば、安月給ではあるものの、仕事と給料が安定している公務員の方が良いと注目されているのです。

そして、「生き方」についてもタイでは変わってきていると思います。従来は自動車や持ち家を所有し、高い給料を得ることが成功のシンボルと言われていましたが、今では「健康」であることが重要視され、国全体でランニングブームが起きているほどです。

――国全体のブームですか!?

高層ビルが密集しているバンコクですが、住民が気軽にランニングできる公園の数も多く、きれいに整備されています。私も2年前くらいから健康や運動を意識し始めて、仕事後や週末に1~2時間ほど走るようになりました。マラソンやハーフマラソンの大会も頻繁に開催されていて、週末はタイの至るところでランニング関連のイベントが行われています。

コロナも影響していると思いますが、健康であることが生きていく上で大切なんだと多くの人が気付いたのだと思います。走ると心身ともにリフレッシュできて、前向きな気持ちになれますしね。

大会にも精力的に参加するワングさん <画像:Sport Authority of Thailand>

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 タイの順位。※調査結果は、2021年に発表した第1回目調査のデータ。

――「日々の仕事に喜びや楽しみを感じている」と答えた人の割合を見ると、116か国中、タイは50位でしたが、ワングさん自身は仕事に関してどう感じていますか?

私は観光ガイドとホテルアメニティ企業での仕事、両方とも楽しんでいます。特に観光ガイドとしては、海外からお越しの方にタイの文化や歴史を知ってもらえるのがうれしいですね。

たとえばタイには、ワット・アルン、ワット・プラケオをはじめ、たくさんの寺院がありますが、どれ1つ見ても同じものはありません。その美しさを紹介していると、自分がタイ人であることを誇りに思えます。50位というタイの順位に関しては、妥当かなと思いました。

世界各国から訪れた人たちをご案内するワングさん(写真右)

――結果について納得ということですか?

はい。タイ人は仕事に関して、そこまで一生懸命はたらくわけでもなく、かと言って仕事が大嫌いというわけでもないので、全体の真ん中辺りの順位は妥当だと思いました。勤務時間が過ぎたら、すぐに帰る人がほとんどで、残業する人は少ないですしね。

――Q2「自分の仕事は人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は62位でした。

これも最初の問いと同じで、仕事は生きてくための手段だと思っている人が多く、仕事の意味について深く追求することも少ないので、Q1と似たような順位になったのだと思います。

――ワングさんご自身は、仕事が人々の生活に役立っていると感じていますか?

ホテルアメニティ企業での仕事では、3つ星ホテルから5つ星ホテルまで幅広いホテルと取引をしていますが、ホテルが求めるニーズはそれぞれ異なります。私たちの会社には、今まで蓄えてきたノウハウがあり、各ホテルに見合った適切な商品をおすすめできるので、お役に立てている実感はありますね。

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」については28位と、上位のほうにランクインしていますね。

この結果だけ順位が高いですが、確かにバンコクにいる限り、はたらき方の選択肢は多いと思います。と言うのも、バンコクはタイの中心地なので人口が集中していますし、仕事の種類も豊富だからです*。

私には2人の姉妹と2人の兄弟がいますが、4人ともバンコクに上京し、仕事に就いています。

*タイ王国の人口は約6,980万人で、バンコク周辺には全人口の10~22%が集まっている

高層ビルが立ち並ぶバンコク市街

――ワングさんも仕事を選べていると思いますか?

そうですね。私自身も英語を学べる仕事を見つけることができ、その後も英語を活かせる仕事に就けています。今は副業としてのガイド業ですが、将来はメインにしてたらくことが夢です。どんな状況でも前向きに、笑顔で乗り切るのがタイの文化ですから、きっと叶うと信じています。

――コロナ禍で健康を意識するなど、はたらき方だけでなく「生き方」に関する考え方の変化が起きていて、ライフワークバランスの重要性がワングさんの話から感じられました。本日はありがとうございました!

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライター浅井みらの
イタリア生まれ、ドイツ育ちの日本人。アメリカの大学でジャーナリズムと国際関係を専攻。
新卒で旅行会社H.I.S.に入社し、団体旅行部門で企画、営業、添乗を経験。現在は旅ライターとして見知らぬ魅力的な場所を開拓中。
SAGOJOをはじめ、トラベルjp、楽天トラベル、自身のサイトなどで執筆中。

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