【アメリカのはたらき方】自分のキャリアは自分で築く!その意気込みは転職方法にも……

2022年3月15日

連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

今回は、アメリカのはたらき方をご紹介します!

アメリカ合衆国 Data(2020年)
国内総生産ランキング(GDP) :1位/194ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :19位/149ヵ国中(日本:62位)

<お話してくれた方>
ダニー・ボズートさん
アメリカ国籍|36歳|保険仲立人(保険ブローカー)

アメリカ西海岸カリフォルニア州のサンノゼで生まれ育ち、今もサンノゼに在住。大学では生化学を専攻し、卒業後は研究職としてはたらく。その後、父親が創設したBozzuto Insurance Servicesに転職し、現在はサンノゼ、サンフランシスコを含むベイエリアを中心に、カリフォルニア州内外で多数の顧客を抱えている。2018年にはたらきながら大学院でインターネットビジネスの修士号を取得。

Q.あなたはどんな人?

――まずは、ダニーさんの現在のお仕事について教えてください。

保険仲立人(保険ブローカー)と呼ばれる職種に就いています。保険会社と契約者の間に立ち、契約者に最適な保険プランをご提案し、契約締結までサポートをする仕事です。その後も既存プランの見直し、保険金の請求手続きなどを行います。

――保険代理店と似たお仕事のように聞こえますが…?

いえ、保険仲立人は、あくまでも「契約を結ぶお客さまの代理人」です。保険代理店は「保険会社の代理人」なので、この点が大きく違いますね。

僕は法人向けの保険を扱っているので、お客さまは企業になりますが、それぞれの事情や予算などを詳しく伺った上で、僕が契約している60社ほどの保険会社の中から最適なプランを探し出してきます。この業界は競争が激しいので、信頼関係が大切です。「金額が安い」という理由だけでお勧めするのではなく、しっかりとニーズを踏まえてご提案しています。

――どのような経緯で保険仲立人になったのですか?

大学では生化学を専攻していたので、卒業後は医薬品を研究する道に進みました。しかし、同じ実験を200回以上繰り返し、記録をし続けるという仕事内容で、毎日が同じ作業の連続でした。

そんな時、父に「今の自分の仕事が嫌いだろ?」と言われたんです。学生時代から複数の仕事をしてきた僕の姿を見て、楽しそうに取り組んでいたのは営業や販売の仕事だったそうです。

日々新しい人と出会い、自ら売上げを上げることを僕が好んでいると父は思ったらしく、保険仲立人を手掛ける企業、Bozzuto Insurance Servicesでの仕事に誘ってくれました。父が興した会社ですし、子どもの時から保険というものを身近に感じていたことも大きかったですね。

ダニーさんがはたらくBozzuto Insurance Servicesのホームページ

――転職した感想を教えてください。

前職とは異なり、毎日が変化に富んでいて、発見と学びの連続です。予期しない出来事や連絡が連日発生しますが、問題を解決することが好きな性格なので、今の仕事を楽しんでいます。

転職直後は保険に関する知識と経験が乏しい状態だったので、1日10~12時間くらい、がむしゃらになってはたらきました。

――10~12時間も!?

この業界ではたらき始めたばかりだったので、吸収できるものはなんでも吸収しようと思っていました。現在は在職10年以上と中堅の立場になりましたが、それでも仕事の幅が広がったことで1日8~10時間ほどはたらいています。新型コロナウイルスの影響を受けた2020年は異例で、本当に大変でした。

――2020年は、どう大変だったのですか?

コロナ禍で経済が大打撃を受けたため、顧客企業からは「保険料を下げることで会社の支出を抑えられないか」、「従業員を解雇しなければならないので保険で退職金をまかなえないか」といった相談を連日受けていたほか、毎週のように変わる法律や規制に保険プランも適応させないといけないので、その手続きもこなしていました。

2020年1月ごろからコロナの対応に追われ、ようやく丸一日休めるようになったのは9月になってからでした。

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――アメリカでは、一番はじめの就職先をどのように選ぶのですか?

3つの方法があります。1つ目は友人や家族に紹介してもらうケース、2つ目は企業に自らコンタクトして、履歴書を送ったり、面接を受けたりするケース、3つ目は学生時代のインターンシップを通じて、卒業後に正式雇用されるというケースです。

ベイエリアにある大学では、企業がソフトウェアの授業を受け持ちます。その際に、講師が自社の文化に合いそうな学生に声をかけ、インターンに誘うこともあります。

――初任給はどれくらいですか?

詳しい金額は分かりませんが、ベイエリアは全米屈指の物価が高い地域なので、全米平均といわれる50,000ドル/年*よりは高額です。

※1USドル114円換算で、約570万円

ベイエリアの物価はほかの地域に比べて4倍も高いと聞きました。つまり、1ドルは25セント程度の価値なのです。ここでは、1世帯あたり最低でも150,000ドル/年*の収入がないと暮らしていけません。

※1USドル114円換算で、約1,710万円

都会でありながらすぐ近くに自然豊かな国立公園があるのもベイエリアが人気の理由

――すごい物価の高さですね!

はい。コロナ禍でテレワークが広がり、物価が安い町や州に移る人たちが増えています。金銭的には暮らしやすくなる一方で、同僚と同じ職場ではたらく機会が減り、仕事上のコミュニケーションがとりにくいこと、会社としても企業文化が育たないといった問題点が挙げられています。

――アメリカでは、ダニーさんのように長時間はたらく人たちが多いのですか?

アメリカは広いので、はたらき方も地域によってさまざまです。僕が住むサンノゼは、周辺のサンフランシスコ、オークランド、シリコンバレーを含めて「ベイエリア」と呼ばれていますが、「ハッスルカルチャー」が根付いています。ハッスルカルチャーとは、副業を持ったり、はたらいた後に学校に通ったりすることを意味します。

僕自身も、業界の最先端にいたいと思い、保険仲立人の資格だけでなく「保険カウンセラー」の資格を取りました。この資格を取得するには、保険の専門性を高める5つのコースを受講してテストに合格するだけでなく、最後の関門である論文試験も7割以上のスコアを獲得しないと突破できません。

――大変な資格ですね……。ところで、なぜハッスルカルチャーがベイエリアで生まれたのですか?

多くのスタートアップ企業がベイエリアに集まっているからだと思います。ここにいる起業家たちは自分たちでゼロから事業を興し、一生懸命はたらいて軌道に乗せます。そして、大企業に合併や買収されたら、また新しいビジネスを始めるのです。

――どんな職種がベイエリアには多いですか?

シリコンバレーには、Apple、Google、Meta、LinkedInといった企業があるので、インターネットやテクノロジー関連の職種が多いですね。それにベイエリアの人口は900万人以上とカリフォルニア州では2番目、全米でも5番目の規模を誇る広域都市圏なので、建設業や保険仲立人を含むサービス業も盛んです。

アメリカは広いので、東海岸は金融業が多いですし、アメリカ全土を見てみると、荷物を運搬するトラック運転手など物流に関する仕事が多いです。

ベイエリアの港では大型のコンテナ船が発着し、雰囲気も活気的

――アメリカの方はよく転職するのでしょうか?

転職は盛んで、2年に1回のペースで転職する人が多い気がします。10年以上も在籍している僕は本当に珍しいと思いますよ(笑)。たとえば、自分が目指したいキャリアを上司に反対されたら、そこに長く在籍するのではなく、すぐに競合他社に事情を話し、自分を雇ってくれないかと動くのが一般的です。

自分の人生は自分でコントロールするものだと思っていますから。

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 アメリカの順位。※調査結果は、2021年に発表した第1回目調査のデータ。

――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して、アメリカは「楽しんでいる」と回答した割合が116ヵ国中61位と順位が全体の真ん中あたりですね。

低い順位ですが、驚きません。新型コロナウイルスをきっかけに、仕事やはたらき方を考え直したり、離職したりする人たちが急増しています。400万人近い人が仕事を辞めたということで、現在のアメリカは「大退職時代」と呼ばれています。

そんな状況ですから、仕事に対して前向きな感情を持つのは難しいのではないでしょうか。今後の先行きも分かりませんし、機械化が進み、失業の恐れも消えません。

――ダニーさんご自身も先行きに不安を感じますか?

僕のいる業界は競争が激しく、ライバルが僕の顧客に営業の連絡を週2~3回もしてくるほどです。しかし、僕はこの環境が好きだし、厳しい環境で成果を上げることにやりがいを感じています。

お客さまの話に耳を傾け、真摯に対応するよう心がけていると、その姿勢をお客さまが評価してくださるので、新規契約が結べたり、契約を更新できたりするとうれしいですね。

それに、感謝されることもやりがいにつながります。社用車が故障したと聞けば保険で代車を手配し、会社の売上金が盗難に遭ったとなれば保険でカバーするなど、お客さまのビジネスをサポートできるのはこの仕事ならではの喜びです。

――それはQ2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目にも通じますか?

そうですね。たとえば、ビルを新しく建てる際も、アメリカでは保険がないと工事を始められません。そんな時に、保険仲立人である自分の存在に意味があるんだと思うことができます。

ほかにも新型コロナウイルスの影響で営業活動ができない顧客企業がいましたが、自粛中は社用車も使えませんので、その期間中の自動車保険は無駄な支出となってしまいます。そこで僕が保険会社と交渉し、社用車を使用しないことを条件に、盗難や故障のみを補償することで、保険料を70%も下げてもらえました。

これでお客さまは節約でき、保険会社も解約されずにすんだので、双方にとって良い結果になったのです。こんなふうに、僕自身も一つひとつの仕事に意味を感じていますよ。

――まさにwin-winな状況になったのですね。全体の順位も15位と上位にランクインしています。

大いに納得です!というのも、僕の知る限り、目的がない仕事には、アメリカ人はまず興味すら持たないからです。その仕事に価値や意味があるのかどうか、これがはたらくうえで大変重要になってきます。

――なるほど。そして、Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は16位でした。

転職やはたらき方に関しては自由だと感じています。特にベイエリアは大都市圏なので、仕事の選択肢も多いですし、はたらく時間や場所も好きなように選べます。僕の職業も特に縛りはないので、大学院に通っていた時期は、16時まで仕事をし、18時から授業を受けるというようなスケジュールでした。

最近は夕方に2時間ほど子どもと時間を過ごした後、再び仕事に取り掛かると言うダニーさん

――大学院では何を学んだのですか?MBAですか?

いえ、もっとインターネットに特化した知識を得たくて、インターネットビジネスを専攻しました。この業界は平均年齢が50~60代と高いので、まだまだ変革の余地があると思います。手始めに、まずはデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組みたいですね。あとはお客さまとの関係も強固にしたいですし、マネジメント能力も身に付けたいなど、やりたいことはたくさんあるので、自分自身の成長をこれからも目指していきたいです。

――自身のキャリアを分析する冷静な一面があると同時に、仕事は自分の一部だと自負する姿からは情熱がみなぎっていました。本日はありがとうございました!

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライター浅井みらの
イタリア生まれ、ドイツ育ちの日本人。アメリカの大学でジャーナリズムと国際関係を専攻。
新卒で旅行会社H.I.S.に入社し、団体旅行部門で企画、営業、添乗を経験。現在は旅ライターとして見知らぬ魅力的な場所を開拓中。
SAGOJOをはじめ、トラベルjp、楽天トラベル、自身のサイトなどで執筆中。

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