【スペインのはたらき方】変化を受け入れながら自分にあったはたらき方を探す。Happyに生きるための仕事観

2022年9月15日

連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

今回は、スペインのはたらき方をご紹介します!

スペイン(スペイン王国) Data(2021年)
国内総生産ランキング(GDP) :15位/194ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :28位/149ヵ国中(日本:56位)

<お話してくれた方>
ルーカス・モラグス・ムズンスキさん
スペイン国籍|34歳|経営者

地中海に面したスペイン、バレンシア州のガンディア在住。バレンシア・ポリテクニク大学(UPV)と提携するスペイン語教育プログラムのオーナー。スペイン人の父とドイツ人の母を持ち、ドイツ、スペインそれぞれの国で住んだ経験がある。国ごとの異なる価値観や文化に興味があり、高校卒業後はエジプトやトルコに1年ずつ留学したこともある。趣味は登山やカヤック、ダイビングなどのアウトドアや映画鑑賞。婚約者と出かけることも多い。

Q.あなたはどんな人?

――まずは、ルーカスさんのお仕事について教えてください。

スペインのトップレベルの大学のひとつであるバレンシア・ポリテクニク大学(以下、UPV)に付属する語学学校で、スペイン語教育プログラムを提供する会社のオーナーをしています。つまり、経営者ですね。

スペインに住む外国人向けに、UPV付属の語学学校で約9カ月スペイン語を真剣に学べば、UPVに試験なしで進学することが可能になるプログラムを提供しています。UPVはスペイン以外の国の人も、学費はスペイン人と同じなんです。学部にもよりますが、大学の学費は1年15万円前後からリーズナブルに、高い教育を受けることができるんです。私は教師ではないのでスペイン語を教えるわけではありませんが、この素晴らしい機会を世界中の人たちに知ってもらえるように、告知活動に力を入れています。

――具体的にはどういう仕事をするのでしょうか。

学生たちと対話をしながら、座学での語学教育だけでなく、いろんなアクティビティを組んでプログラムとして提供しています。教師ではないので、実際に教室でスペイン語を教えることはしませんが、オーナーとして、学生たちがどんなニーズを持っているのか、スペイン語を身につけた後どういう進路を歩みたいのかを聞き出しながら、教育プログラムを組んで彼らのサポートをしています。

私は親の国籍がそれぞれ違うので、国ごとの教育や価値観、文化の違いについて考えることが多く、異文化間コミュニケーションは関心のある分野でした。

バレンシア・ポリテクニク大学での授業の様子

――どういう経緯でバレンシア・ポリテクニク大学のプログラムオーナーとしてはたらき始めたのですか?学生の方は語学学校の後、大学に進学するのですか?

以前はアラブ首長国連邦の化学会社のパートナーとして、営業職に就いていましたが、意見の不一致や会社に対する不満が積み重なり、自分のメンタルヘルスのために仕事を変えることを決意したんです。

前の仕事を辞める前からずっと、自分のやりたいことを考え続けて、かねてより興味のあった国際教育の分野で起業することを決意し、スペインに住む外国人向けにスペイン語学習のプログラムを提供する事業を始めたんです。

スペイン語がある程度できるようになれば、UPV大学では年間15万円~の学費で大学教育が受けられます。UPVは世界の大学の中でも上位にランキングする大学で、質の良い教育が受けられることはもちろん、日本のように学費が高い国の人たちにとって、金銭的にも大きなメリットだと聞きます。

こんな良いプログラムをぜひ多くの人に知ってもらいたいと思い、日々告知活動にも力を注いでいます。

――仕事を変える大きな転機があれば教えてください。

会社ではたらいていた時は、毎月給料がもらえるので生活は安定していましたが、ストレスが溜まり、「仕事が楽しくない」と感じていました。

そんなとき、祖母がよく「あなたがHappyになることをしなさい」と言っていたことを思い出しました。「お金がすべてではない」とも言っていましたね。お金のためだけにはたらいて、お金持ちになったときに寿命がきて死んでも意味がないですから。そんな祖母の言葉を胸に、仕事を変えることを決意したんです。

自分が何をしたいのか、何をしたくないのかを良く考えた結果、この道を選んで、今は幸せに過ごせています。

――素敵なおばあさまですね。

そう思います。祖母はドイツ人で、定年してからスペインに住むことを決めたそうです。ドイツ人は定年後にスペインに住む人が多いんです。ドイツより日照時間が長いですし、食文化も豊かですから。

祖母はドイツに住んでいる時、自分がやるべき事、やらないといけない事を常に考えて、一生懸命はたらいたそうです。スペインに住むようになって、自分がしたいことやHappyな事をやれるようになった経験を僕に話してくれました。

「幸せになるために何をするべきか」はどの国の人でも考えると思いますが、スペインではより重要視する傾向にあるかもしれません。

――仕事のモチベーションはなんですか?

教育に関する仕事は、とても充実しています。生徒たちが自分の夢や進むべき道、目標を達成するための手伝いができることはとても素晴らしいことです。彼らの手伝いができていると思うと、自分の仕事をとても誇りに思います。

――オフはどのように過ごしているんですか?

海沿いを散歩したり、泳いだり、カヤックなどを楽しんでいます。バレンシアは美しい地中海に面していて、いろんな種類の魚がいるんですよ。スペインには「タパス」という、さまざまな一品料理をだすバル(酒場)があるのですが、バルでシーフードを食べたりワインを飲んだりしながら過ごす時間も好きです。

カヤックやハイキングなどのアウトドアな趣味を楽しんだり、長めの休暇では海外旅行であちらこちらの国に行き、その国ならではの建物や景色を鑑賞したりするのもいいですね。日本のサムライ文化やお寺などの建物、アニメも好きなので、婚約者とハネムーンで日本に行きたいねという話もしています。

地中海に面するバレンシアは美しい海が広がっている。

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――スペインのはたらき方について教えてください。

スペインは仕事もプライベートも、ゆったりした雰囲気がある国です。ドイツやほかのヨーロッパ諸国に比べると休憩時間も長いですね。でも、その分仕事時間も長いんです。

最近、都市部でははたらき方に変化があり、休憩時間を取りすぎないようにするなど、労働時間を減らすよう努力をし、成果が出てきているようです。私は経営者なので、平均的な労働時間よりも長くはたらいています。私もそうですが、スペイン人は仕事とプライベートのバランスの取り方を知っているので、休憩時間と労働時間を自分で調整するよう努めています。

――休憩時間が多いんですね。そういえば、スペインではシエスタの文化が有名ですよね

そうですね。スペインにはシエスタ(昼寝)文化があって、ランチのあとに2時間以上の休憩をとるのが一般的でした。日差しの厳しいスペインでは、暑い時間帯の午後は休憩した方がいいという理由からです。

でも、シエスタをする分、帰宅時間が遅くなり、労働時間が長くなる原因にもなっていました。長くシエスタを取ると夜寝るのが遅くなり、朝起きるのが遅くなるというように生活リズムが乱れるので、私はシエスタを取っていません。寝るのは好きなんですけどね。

最近はこんなに長くシエスタを取る人はほとんどいません。短い昼寝として15分程度取る人はいますけれども。私の知っている人では、長い人でも45分くらいですね。

ランチの後は眠くなるので、短時間のシエスタであれば効率が良いとは思います。スペインのシエスタ文化は、良い方向に変化しているのではないでしょうか。

――シエスタが時代に合わせて変わってきているんですね。一般的なスペインの労働時間はどれくらいなんですか?

職種によって大きく違いますが、たとえば、朝の7時から夜の19時まで、休憩をたくさん取りながら長時間はたらく知人がいます。スペインでは夜20時ごろまではたらくのも普通ですね。店舗などのサービス業だと、10時から夕方の18時までが開店時間のところが多いように思います。

職種によって違いはありますが、スペインでは会議が多く、開始時間も終了時間も遅れがちなので労働時間が長くなる原因になっています。私は経営者になって、こういう会議のスタイルを変えて、労働時間が短くなるようにしています。

労働時間が長くなって家族や友人と過ごす時間が減ると、QOL(Quality Of Life:生活の質)が下がってしまうので、バランスを取りながら、Happyな生活を送るのが大事だと思っています。

――“はたらくこと”に関して、スペインで近年変わってきていることはありますか?

昔の学生は、冬は学校に行き、夏ははたらくというスタイルが一般的で、私の叔父もそういう生活をしていたそうです。でも今は、16歳以下ははたらいてはいけない、16歳以上でも未成年であれば親の許可が必要、というルールができたので、はたらき始める年齢が上がりました。

大学生は自分の専攻分野に関連する職種にアプローチして仕事先を探す、というスタイルが多かったんですが、最近では早い段階で、企業側からスカウトするようになってきました。いろいろな経験を大学で積めるので、ビジネスアイデアを考えて起業家になる学生も増えてきているように思います。

――時代に合わせてルールや考え方が変わってるんですね。

より良い方向に変化をするのはとても重要ですね。特に16歳以下ははたらいてはいけない、というルールはとても大切だと思います。子どもが早い段階ではたらき始めることは、いろんなリスクがありますから。子どもは知識や経験を学校などで積んで、自分のやりたいことをじっくり考える時間が必要です。

やりたいこと、やりたくないことを自分自身で理解するのは、大人になってはたらく上でも、とても大切なことです。

――スペインの人ははたらくことに関して、変化を受け入れているのでしょうか。

全体的に見れば、そうだと思います。変わること、変化を受け入れることは怖いですが、それ以上に「自分の生活をより良くしたい」という考えが広まってきているんだと思います。私も学校で学生たちに「何をするべきか」ではなく、「何がしたいか」に焦点を当てて対話をするようにしています。

学生たちの「やりたいこと」を引き出せて、その道筋を一緒に考える、ということはとても意味のある仕事だと思うので、私は自分の仕事にとてもやりがいを感じています。

――仕事にやりがいを感じているんですね。

もちろんです!最近のスペインでは「やるべきこと」から「やりたいこと」を仕事にしようというように変わってきていると思います。私の叔父は生活のためにはたたらいていたそうですが、大学で接する学生たちを見ていると変化が起きていると感じています。

変化といえば、私の住むバレンシアでは、週休3日制がトライアルで導入され始めました。選択肢が増えると自分に合ったはたらき方がしやすいので、このトライアルが上手くいくことを期待しています。それぞれが自分に合った仕事、労働時間ではたらくことができれば、より自分らしく、Happyに生きることができますから。

ルーカスさんの住むバレンシアでははたらき方の選択肢が多く、週休3日制などのトライアルも盛んに行われている

――スペインの初任給はどれくらいですか?

職種によって大きく変わりますが、最低でも月に1,000€程度でしょうか。大学を卒業して会社に入る場合は、平均で1,200〜1,500€*くらいです。ほかのヨーロッパ諸国に比べて物価が安いので、十分な額だと思いますが、スペインでは年代はもちろん、地方によっても収入に格差があるので、一言で言うのは難しいですね。

※1ユーロ142円換算で、約17万円~21万円

――地方によって収入に格差があるんですね。

スペインは北部に工業地帯が、南部に農村地帯が広がっているので、南北で給料格差が出てしまうんです。たとえば、スペイン全体の平均月収は年々少しずつ上がって1,695€(約24万円)なのに対し、アンダルシアなどのスペイン南部の町の平均月収は1,400€(約20万円)以下になります。

ノルウェーやスウェーデンなどの北ヨーロッパに比べてスペインは物価が安いので、首都のマドリードなどの賃料の高い都市以外では十分生活できますが、南北で給料格差が出るのはスペイン内で問題になっています。

お金がすべてではないですが、選択肢が少ない状態で給料格差が出るのは良くないと思っています。

――スペインで一般的な職業を教えてください。

営業職が多い印象ですね。私も以前は営業の仕事をしていました。

最近スペインでは、ヨーロッパのエネルギー政策として太陽光や風力などのエネルギー分野に投資しています。エンジニアの需要も多くなっていると思います。

――そうなんですね。ところでスペインではどうやって最初の仕事を探すのですか?

ほかのヨーロッパの国々と同じだと思いますが、新卒でも即戦力が求められるため、インターンシップやパートタイムの仕事で経験を積みながら就職先を探します。

しかしスペインでは失業率が15%とEUの中でも高く、若者(30歳以下)の失業率で言うと30%を超えています。大学を卒業しても必ず就職できる訳ではないので、問題も多いと感じています。

そのような状況でも、自分に合ったはたらき方、自分らしい生き方を探す人が多いので、学生の手助けができれば良いと思っています。

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、スペインは116ヵ国中68位でした。この結果を受けて、どのように思われますか?

個人的には、思ったより高くないと感じます。もっと高くなるべきですね。若い世代の人々は、自分が何をしたいか、何ができるかを理解しきれないので、低くなっているのかもしれません。

経験を重ねるとこれが分かってきて、自分のやりたい仕事ができるようになるので、早い段階、たとえば教育などで自分のやりたいこと、やりたくないことが理解できればもっと高くなると信じています。

私も前の会社では楽しみを感じる余裕がなく、ストレスを溜めていましたので、自分も若い時なら「No」と言っていたかもしれません。今では100%「yes」と言えるのがうれしいです。

――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は116ヵ国中80位でした。

思ったより大分低くて、とてもショックですね。正直に言うと、なぜこんなに低いのかわからないです。もっともっと高くならないとダメですね。失業率が高いのが良くない結果につながっているのかもしれません。スペインはいろんな文化や言語を持つ国なので、それも関係しているのかもしれませんね。

スペインは直接的な物言いをする人が多く、声を上げることに抵抗がありません。Yesと答えた70%の人たちが良い状況にいるのであれば、これから良くなると信じています。

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は57位でした。

妥当な結果かもしれませんが、個人的には低い結果だと感じます。失業率が高いという問題はありますが、前も言った通りはたらき方に選択肢が増えてきているので、自分に合わないと思えば、変えることは難しくないと感じます。実際に私も、仕事を変えることができましたし。

スペインでは自分自身のためにはたらく人が多いので、変化することに抵抗がないとは思います。少しずつ変化していって、より良い結果になるくことを期待しています。

――ルーカスさんは仕事を変えて自分らしく過ごせているんですね。

もちろんです! ティーンエイジャーのころは今よりとてもシャイで、周りの人たちの評価がとても気になっていました。家族がエジプトやトルコで留学する機会を与えてくれ、興味の幅が広がって自分に自信がついたこと、これまで知らなかった考え方や価値観に触れられたことで、人の目を気にしすぎることがなくなりました。

両親の国籍が違うことで、「国によって価値観が異なるので違いがあって当たり前」と子どものころから知ることができましたし、国だけでなく、人によってもたくさんの意見や考え方があると気付くことができました。

今のHappyな生活があるのは、家族のおかげでもあるので、とても感謝しています。自分の経験や仕事を通して、スペインがより良くなれる手伝いができればとてもうれしいです!

異なる文化を持つ家族の中で育った経験が、今のHappyな生活につながっている。日本人の方もスペインの大学に通っているのだそう。

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
約1,000名/国×116カ国に調査。国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライター伏見碧
大学院で機械工学を専攻し、終了後はメーカー企業の研究所で勤務。
数年働き、北欧アウトドアを体験するために退職し、北欧デンマークに1年間滞在。
現地の学校でアウトドアを学ぶ。
現在は北欧アウトドアライターとして記事を書き、その魅力を発信している。
自身のサイトではデンマーク生活を漫画形式で紹介。
また、デンマークの旅行代理店と提携し、日本人向けに北欧ネイチャーツアーの企画立案も担っている。

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