【アイスランドのはたらき方】ワークシフトのためには復学も自由!生きやすいはたらき方を追求する

2023年3月6日


連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

今回は、アイスランドのはたらき方をご紹介します!

アイスランド Data(2022年)
国内総生産ランキング(GDP) :110位/193カ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :3位/146カ国中(日本:54位)

<お話してくれた方>
ハラルドゥル・ルナル・エイナルソンさん
アイスランド国籍|27歳|医療関係者
アイスランドの首都レイキャビクにガールフレンドと住んでいる。大学で心理学の学士号を取得。現在は精神病院で患者さんを観察し、治療方針を決定する観察チームで医療従事者としてはたらいている。 趣味は旅行とハイキングとバンド。バンドではギターを担当している。大学進学前はデンマークのミュージックスクールに短期間通っていたこともあり、現在はバンド仲間とミュージシャンとしての活動もしている。

Q.あなたはどんな人?

――あなたの仕事について教えてください。

私は医療従事者として大学病院の精神科に勤めています。最初は患者さんやスタッフのケアをしていました。患者さんの行動や治療後の言動などを観察し、治療方針が適正であるかどうかを分析する観察チームが新設されて以降、そのチームの一員としてはたらいています。

ハラルドゥルさんの勤めている病院

――どういう経緯で、今の仕事を始めたのですか?

高校卒業後、自分が何をしたいか分からなかったので、2年ほど「ギャップイヤー*」を取りました。

最初はなんとなくガーデニング会社ではたらいてみたのですが、労働環境が良くなかったので転職。自分の好きなことに集中したいと考え、カフェではたらきながら、デンマークの短期ミュージックスクールに2年ほど通っていました。その後アイスランドに戻り、またカフェではたらきながらバンド活動をしていたんです。

自分の好きなこと、興味があることを探っているうちに、人の行動原理や「どうして人は精神的にしんどくなるのか」ということに興味が湧いてきました。

アイスランドはヨーロッパの中でうつ病患者が最も多いと言われています。ギャップイヤーを終えてから、人の心について学ぶべく、アイスランドの大学で心理学を専攻しました。

大学在学中に今の病院で実践的に学ぶ機会があったこともあり、卒業後は同じ病院ではたらき始めました。病院勤務は2022年で3年目。大学での知識を活かしつつ、大学病院の観察チームでさまざまな症例を分析するなど、やりがいを持ってはたらいています。

*ギャップイヤー:高校卒業後や大学在学中や大学卒業後など、人生の節目に1年や2年ほど(もっと長い場合もある)旅行やワーキングホリデー、インターンシップなどを行う期間のこと。

――仕事のモチベーションはなんですか?

快適な生活をおくることができる労働環境と給料があることです。仕事にやりがいを感じても、生活が疎かになってしまうと精神的に良くないですから。高い志を持って仕事をし、家では快適な生活をおくるということに焦点を当てて過ごしています。

――オフはどのように過ごしているんですか?

長い休みは旅行を楽しんでいます。日本にも何回か行ったことがありますよ。

週末はハイキングに出かけることが多いですね。あとは音楽が好きなので、時間があったらギターを鳴らしています。月に何回か、市内のバーやカフェなどの一角を借りてバンド仲間とコンサートを開くなど、ミュージシャンとしての活動もしています。

ミュージシャンとしても活動しているハラルドゥルさん。担当はギターでバンド仲間と市内のバーでコンサートを開いている

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください

――アイスランドのはたらき方について教えてください。

アイスランドの労働時間は1日8時間以内、週5日勤務と法律で決まっています。多くの職場では、始業時間や就業時間は個人の裁量に任されていて、勤務開始は朝9時でも10時でもOK。昼休憩は30分程度で何時にとるかは自由です。しかし、アイスランドはほかの北欧諸国に比べて1番労働時間が長いようです。

アイスランドは高緯度地域に位置するので、夏は夜遅くまで明るく、冬は昼過ぎに暗くなります。生活リズムが崩れやすいんです。だから、自分の生活サイクルに合わせてはたらける環境がある、ということがとても重要なんですよ。私のような病院勤務だと、時間に対する自由度は少ないですが。

アイスランドでは、フルタイムか短時間勤務かを自分で選べます。給料は異なりますが、保険などの待遇は平等に扱われます。フレキシブルにはたらける反面、実力主義なので、求められる成果を出せなかったらフルタイムでも時短勤務でも、解雇されることがあります。



アイスランドの首都、レイキャビクの街

――アイスランドはどうやって仕事を探すんですか?

職種や教育によりますし、ギャップイヤーを取る人が多いのではたらき始めるタイミングも人によって異なります。なので一概には言えませんが、高校を卒業してすぐに職を探すのではなく、自分の興味のある仕事を少しずつ経験しながら、自分らしく生活できる仕事を見つける、というのが一般的です。その上で、必要な知識を得るために学校に行くということです。

履歴書を書き、仕事に応募するのが一般的な職探しの方法ですね。ほかのヨーロッパ諸国と同じように即戦力やスキルが求められるので、まずはカフェやバーなどではたらいて少しずつ社会経験を積み、希望する職場に応募するというケースが多いです。

または、在学中に就きたい分野に関する企業を探し、アルバイトやインターンシップを経て仕事に就くこともあります。「専攻分野に関する企業ではたらく」ことがカリキュラムに含まれている大学のコースもあり、学びながら実務経験を積むことができるんです。

――大学のカリキュラムで実践力を鍛えられるのはうれしいですね。

とてもありがたいです。しかもカリキュラムの一環とはいえ、ボランティアではなくきちんと給料が出るんですよ。正規ではたらいている人よりも少し給料は低いですが、ほとんど同じ扱いで実務経験を積ませてくれます。私の知る限りでは、どの分野でもこのカリキュラムではきちんと給料が出ています。給料をもらって責任をもってはたらく意識を養えるので、良いシステムだと思っています。

このカリキュラムはとても有効で、学んだことがどういうふうに仕事に活かせるかイメージしやすく、また大学で学んだ分野に関連した職に就きやすくなります。私の周りではほとんどの人、少なくとも私の大学時代のクラスメイトは、専攻した分野ではたらいています。

大学まで出たら専攻した道にそのまま進む人が多いですね。一方で、はたらき始めて別の分野に興味を持ち、大学で学びなおす人も少なくないです。

――アイスランドでは分野やキャリアが大きく変化することもあるんですね。

そうですね。アイスランドは高校までが学費が無料で、大学の学費も年間で10万円もしないので、「学び直す」ことに対する経済的なハードルが低いんです。就職した後でも、ほかの仕事に興味が湧いたら復学することもよくあります。近隣諸国であるデンマークやノルウェーの学校に行く人もいます。

とはいえ、自分のやりたいことが見つかっても途中で頑張れなくなり、精神的にしんどくなってしまう人もいます。前述した通り、アイスランドは精神疾患を持つ人の割合がとても多いんです。

――精神的に辛い思いをする人が多いんですね。

アイスランドは冬の日照時間がとても少なく、「朝11時前に日の出、午後15時過ぎに日没」、という日もあり、いわゆる「冬季うつ*」になりやすいのです。夏は21時間も太陽が出ているので良いのですが、季節によって環境が大きく変わるため、そのギャップでリズムを崩す人もいます。

私も冬はしんどくなりやすいので、長期休暇は明るいスペインに逃避旅行へ行くことが多いですね。誰でも落ち込んでしまうことはあるので、私もそうならないようにできるだけ日々の生活を快適に、豊かにしようと心がけています。もし辛くなったら、迷わず病院に行ってケアをします。アイスランドで生きていくには、メンタルケアが不可欠なのです。

※冬季うつ:日光を浴びることで生成される「セロトニン」という精神を安定させる作用のあるホルモンが不足して気分が落ち込みやすくなる症状。セロトニンは睡眠ホルモンである「メラトニン」の原料でもあるので、良質な睡眠がとれず、体がだるくなることも多い。

――ハラルドゥルさんはどうやって日々の生活を豊かにしているんですか?

仕事以外にも自分の居場所や、好きなことを楽しめる環境づくりをしています。バンド活動のほか、郊外に出掛けてハイキングを楽しんでいます。天気がいい日は外に出て、たくさん太陽の光を浴びて体を動かすようにしています。

日々の生活をどうやって豊かにするか、快適にするかというのは人によって変わりますし、ライフステージによっても変化します。自分自身のことをよく観察して、どうすれば良いのか考えることが多いですね。こういう生活ができると、人生が楽しくなるのでとても大切だと思います。

アイスランドは自然が豊かな国 休日はハイキングに出かけることが多い

――そういえば、アイスランドでは一部の公的機関で週休3日制にする実証実験がされたと聞きました。

レイキャビクの一部の機関で実験されたみたいですね。リモートワークもそうですけど、給料がそのままで休日が1日増えるという新しいはたらき方をトライすることは良いと思います。

会社の経営状況にもよりますが、オフィス勤務の人たちは実現しやすそうです。病院勤務もシフト制なので、スタッフが増えれば実現できそうですが、今はまだ難しいかもしれません。

私の職場では昼勤と夜勤の希望を出すのですが、週休3日よりも、希望する時間帯のシフトではたらきたいという人が多いですね。もう少しはたらく時間帯を選べるようになって余裕が出れば、週休3日も実現できるかもしれません。

――アイスランドの初任給はどれくらいですか?

職種やスキル、学歴によって変わりますが法律で最低賃金は386,000ISK*で、ここから税金が引かれます。アイスランドはほかの北欧諸国と同じく高福祉国家なので税率が高く、収入によりますが50%近く徴税されることもあるんです。税率は、過去2カ月の平均的な賃金から計算されることになっています。

消費税も25%と高く、世界的にみても税金が高い国の一つでしょう。

*アイスランドクローネ0.95円計算で、約36万7千円

――アイスランドの一般的な職業はなんですか?

医療関係や営業職の人が多い印象です。国内で1番GDPが高い産業は観光と漁業で、これに携わる人も多いですね。アイスランドは鱈やサーモン、オヒョウなどがよく獲れる良い漁場を持っているんですよ。

――観光業が盛んなのですね。

元々アイスランドは金融立国を目指していたんですが、リーマンショックで大打撃を受けました。通貨の暴落をきっかけに、観光業を発展させる方向にシフトしたのです。今では物価の高い国として知られているアイスランドですが、活発な火山があって温泉も湧いていて、氷河も見られるので、「火と氷の国」と呼ばれ、いろんな国の人が来てくれています。

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 アイスランドの順位 ※調査結果は、2022年に発表した第2回目調査のデータ。

――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、アイスランド122ヵ国中18位でした。この結果を受けて、どのように思われますか?

私は楽しんで仕事をしています。ただ個人的な経験談になってしまいますが、ワークライフバランスが取れないと仕事を楽しむ余裕がないので、そういう職場が多くないとYESと答えられないと思います。前にいたガーデニング会社は労働環境が悪く、仕事を楽しむ余裕はありませんでした。

――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は122ヵ国中49位でした。

興味深い結果です。人々の生活をより良くするためにはたらくことは、モチベーションにもなると思うんですが、思ったより低いですね。

順位が低い理由はよく分かりませんが、いろんな経験を積んで自分にあった職を見つけられれば、順位も上がりそうです。

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は36位でした。

私としては想定より低い順位ですが、妥当だと思います。希望する職種に就けても、求められるパフォーマンスを発揮できないと簡単に解雇されますから。

ゆっくり時間をかけて就きたい職を見つけても、解雇されてしまうとそこではたらけなくなります。似た職種で新しい仕事先を見つけられると良いのですが、うまくいかない場合もありますし。

ただ、アイスランドはEEA(欧州経済領域)に加盟しているので、ほかの加盟国ではたらくこともできる強みもあります。文化の近いノルウェーやデンマーク、スウェーデンで仕事を探す人もいます。国内だけでなく国外に視野を広げれば選択肢が増えますし、経験を積んでアイスランドに戻って来ることもできる。広い視野をもち、はたらくことに向き合う人が増えることを期待しています。

――興味深いお話をありがとうございました。

日本の人にアイスランドのことをもっと知ってほしいので、話せてよかったです。私も日本のことをいろいろ知りたいですね!日本とアイスランドは漁業が盛んで温泉が多いなど、意外な共通点があるので、ぜひアイスランドに遊びに来てください。

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライター伏見碧
大学院で機械工学を専攻し、終了後はメーカー企業の研究所で勤務。
数年働き、北欧アウトドアを体験するために退職し、北欧デンマークに1年間滞在。
現地の学校でアウトドアを学ぶ。
現在は北欧アウトドアライターとして記事を書き、その魅力を発信している。
自身のサイトではデンマーク生活を漫画形式で紹介。
また、デンマークの旅行代理店と提携し、日本人向けに北欧ネイチャーツアーの企画立案も担っている。

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