【チュニジアのはたらき方】理系と文系で就職格差がありつつも、国が多くの就職支援を提供

2023年3月20日

連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

今回は、チュニジアのはたらき方をご紹介します!

チュニジア共和国 Data(2021年)
国内総生産ランキング(GDP) :90位/194カ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :120位/149カ国中(日本:62位)

<お話してくれた方>
アミン メサウードさん
41歳|エンジニア・トレーナー

チュニジアの第二の都市・スファックス在住。スファックス大学工学部の電気・機械工学科に入学し、卒業。その後、修士号を取得した。現在はチュニジアの職業訓練校にて、ホームオートメーションの技術トレーナーとして勤めている。ライフワークとしてKNX(ホーム・ビルオートメーション)協会のチュニジア支局代表を務める。

Q.あなたはどんな人?

――まずは、アミンさんの現在のお仕事について教えてください。

2008年より、チュニジア職業訓練機関にて高度技術者のトレーニングを行っています。主に「ホームオートメーション」という、BluetoothやWi-fiを介して住宅の家電や照明の制御を自動化する技術を教えています。

常に最新技術を学び、人々に知識や情報を伝えている

技術が急速に発展している業界なので、常に学びを深めているのはもちろん、世界で行われるホームオートメーションのカンファレンスに参加し、最新技術や知識を得て、それを生徒や仲間に伝えています。

エンジニアのトレーナーが本職ではありますが、職業訓練校ではたらく時間は週に18時間。そのほかの時間は、ライフワークに費やしています。

――ライフワークとは何ですか?

2022年にKNX(ホーム・ビルオートメーション)のユーザークラブのチュニジア支部を2022年、正式に創立し、会長及び広報担当を務めています。KNXユーザークラブはベルギーから始まった組織で、電気工事業者やコンサルタントの生産性や製品品質の向上を目的としています。チュニジア支部設立は、3年前から準備していました。

知識、経験などの情報交換や、教育や技術訓練の促進及びサポートをするためのプラットフォームとして機能しており、ホームオートメーションに関するカンファレンスやイベントを開催することもあります。

仕事も趣味も同じだというアミンさん。チュニジアにユーザークラブを設立。

――常にホームオートメーションに関わっているんですね!どのような経緯でエンジニアという職業に興味を持ち始めましたか?

私が幼稚園生のころには、すでに何かを作る仕事に興味がありました。オモチャを誰がどのようにして作っているのかに興味を持ったこと、また叔父がエンジニアだったことがきっかけで、ハードウェアを開発する機械系エンジニアになりたいと思っていたんです。

小学校を卒業し、試験を受けて12歳でセカンダリースクールに進学しました。当時は文学、数学、経済学、化学、テクノロジーという5つの専門分野に分かれていたスクールで、私はテクノロジーという専門分野を専攻していました。その後、国際バカロレアと呼ばれる大学入学資格試験を受け、予備校に入学。それからスファックス大学工学部に進学し、電気機械工学を専門として勉強しました。

当時「エンジニア」というと、コンピュータプログラミングやデータ処理が人気で、多くの人が情報工学を専攻していました。しかしエンジニアという学問は、自動車や鉄道、電気製品など、身の回りのものを作る上で欠かせない分野です。就職にも繋がりやすいと考え、私は電気・機械工学の分野を専攻することに決めました。

大学在学中、その中でも電気機械科というニッチな学問を専攻した私は、石油・ガス会社の面接を受け、就職しました。石油会社ではHES、つまり衛生、安全、環境を守るための方針作成や取り組みを実行する部署に属し、マネジャー職も経験しました。

その会社では1年間はたらきましたが、自分自身が興味あることに費やせる時間が減ってしまったため、転職活動を始めたのです。そこでチュニジアの職業訓練機関がエンジニアのトレーナーを募集しているのを発見し、応募。2008年からはトレーナーとしてはたらくようになりました。

――なぜエンジニアではなく、トレーナーの道を選んだのですか?

人に教えることが好きだからです。トレーナーは常に最新の技術を追っていけことが楽しく、この道を選びました。

ボランティアのトレーナーとしても参画しているKNX協会は、常に最新の技術をアップデートするための施策を行っています。たとえば、2022年にはホームオートメーションの世界的な展示会である「Light + Building」がドイツで開催されるのですが、そのようなカンファレンスやワークショップに参加することで、テクノロジーを磨くことができるのです。世界各国を巡り、私にとって同じ分野で活躍する人々とつながることができるトレーナーの仕事は、とても魅力的な職業です。

――アミンさんがトレーナーとして楽しくはたらいているのが伝わってきます。今は1日をどのように過ごしていますか?

スケジュールは日によって異なります。ホームオートメーションのカンファレンスや、海外のイベントに参加することもあるんです。職業訓練のトレーニングがある場合は、朝から職業訓練所でトレーニングを行います。トレーニングがない日は、自分のオフィスで新しい技術習得にむけて勉強をします。

KNXユーザークラブに参加している大学生が訪ねてきたときは、KNXのトレーナーとしてボランティアで技術に関する質疑応答を行うこともありますね。また、新たな情報を提供するためのイベントを開催することもあり、その資料を作ることもあります。

海外でホームオートメーションに関するカンファレンスやイベントに参加することも

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――チュニジアでは通常、勤務時間はどのくらいでしょうか?

チュニジアでは、勤務時間は原則週48時間までと定められています。しかし7月と8月の行政機関及び民間企業の夏季のスケジュールは、月曜日から木曜日が午前8時から午後2時30分まで、金曜日はモスクでのお祈りがあるため、午前8時から午後1時30分と定められています。

ラマダンの時期も同様で、断食があるため早く仕事を切り上げます。午後に仕事をすることを禁じられているわけではありませんが、実働時間は週48時間でないといけないと決められていること、断食を行う月であることから、仕事を早めに終える人がほとんどです。

夏は仕事終えてビーチで楽しむ人もいますが、外は暑すぎるので、大体の人は家でゆっくりしていると思います。

私は職業訓練やKNXユーザークラブ以外にも、チュニジアの青年会議所の議員や協会でのボランティアワーク、トレーニングによるスキルアップなどを行なっているため、常に何かしらの活動を行なっています。とはいえ家族がいますので、空き時間には妻や子どもたちとの時間をつくるようにはしています。1日何時間あっても足りないぐらいです。

職業訓練センターでは人々が仕事に就けるように、手厚いサポートを行う

――チュニジアではどのような職種が多いですか?

2011年に起こった民主化運動「アラブの春」によって大きく改革が起こり、チュニジアではサービス業、生産業、観光業、農業が盛んになりました。

近年は政府がスタートアップへの投資に力を入れているため、会社を作るなど、新しいプロジェクトを始める人も多くいます。

――チュニジアでは最初の職業をどのように選びますか?

学生のころからインターンシップを行い、卒業後はその会社ではたらく人もいます。またチュニジアでは大学でのクラブ活動が盛んであり、コンテストやワークショップを行うんです。コンテストやワークショップに企業側がやってきて、優秀な人を採用するケースもあります。

しかし、医学、コンピュータサイエンス、電気通信、建築などは就職率がいいものの、そのほかの分野では大学を卒業していても仕事がなかなかありません。近年は社会問題にもなっています。

――チュニジアの初任給はどのくらいですか?

私が調べたところによると、初任給の最低額は約500チュニジア・ディナールです。給料は他国に比べると、さほど高くはありません。エンジニアの場合は、約1,660チュニジア・ディナールを稼ぐことができます。この金額は、首都圏でなければチュニジアに住むのに十分な額だと思います。首都圏に住みたいのであれば、家賃が630チュニジア・ディナール以上になるため、もう少し稼ぎがないと厳しいかもしれません。

*1チュニジア・ディナールは43円換算で、平均の初任給は月収約21,500円。

――仕事をする上で性別格差はありますか?

チュニジアにはまったくありません。イスラム国家には性別の格差があるところもありますが、チュニジアはフランス領だったこともあり、男性も女性も平等です。女性の医者、政治家やエンジニアなども活躍しています。

2022年時点において、チュニジアの女性議員比率は26.3%。日本は14.3%*ということで、日本よりは多いようです。

*世界の女性議員割合 国別ランキング・推移 ―資料:GLOBAL NOTE

――チュニジアは週に何日ほど休みがありますか?

週休2日で土曜日と日曜日です。ほかのイスラム国家は、モスクに行く金曜日と土曜日を休みにするところが多いですが、フランスの文化の影響を受け、土曜日と日曜日が休日なのです。

――チュニジアの転職事情について教えてください。

私が職業訓練機関に所属しているということもありますが、チュニジアは職業訓練への支援が手厚いため、転職がしやすいといえます。技術レベル等に関係なく、転職を支援する仕組みが整っているからです。

私自身も、電気機械工学から、健康安全環境品質に関する仕事を挟み、そして現在のホームオートメーションへと専門性を変えた転職を実現してきました。

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 チュニジアの順位。※調査結果は、2021年に発表した第1回目調査のデータ。

――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、チュニジアは116ヵ国中99位でした。

残念ながら、給料が十分ではないため仕事を楽しめる人が少ないのかもしれません。チュニジアの通貨は、世界的に見ても強くはありません。外国から輸入しなければならないものの原価も上がってきているため、給料を十分に支払うこともできません。そのため、人々は仕事に満足しきれないんだと思います。

――アミンさんは仕事を楽しんでいますか?

もちろんです!自分が興味のある分野の仕事ができて、さらに人々に技術を伝えられることがとても楽しいです。新しい技術を学ぶことは私の仕事であり、趣味でもあります。また、世界中でトレーニングができる資格を持っているため、出張を兼ねてさまざまな国に行けることも楽しみの一つですね。

――Q2の「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は98位でした。

ランキング的にはあまり良くないですね。お金を得るために仕事をしている人が多いのかもしれません。お金を得るためだけだと、どんな仕事をしているかは関係なくなってしまうからです。

しかし仕事というものは、人々の生活を便利にするためのサービスや商品を提供し、それを購入した人から利益を得るというものです。どの仕事も、人々の生活をより良くするためにあると言えるのではないでしょうか。

――アミンさんはご自身の仕事についてどう思いますか?

私の仕事は職業訓練のトレーナーなので、自分の仕事を変えたかったり、自分の仕事を失ったりした人にチャンスを与えられる仕事だと思っています。専門的で、高度な知識を人々に提供することで、彼らははたらく機会を得ることができます。そして何より、人生に前向きになれることが重要です。そういうことからも、私の仕事は人々の生活を良くすることに、確実につながっていると考えています。

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は94位でした。

大学を卒業しているかどうかにもよります。大学を卒業していない人は選択肢が多くないかもしれません。チュニジアの大学進学率は約35%。必然的に、選択肢のある人は少なくなります。しかし、生きるためにはたらくのか、はたらくために生きるのかは自分次第で決められることです。人生は一度きりですから、ぜひ自分のやりたい道を選んでもらえればと思います。

――職業柄、チュニジアのはたらく人々、チュニジアではたらきたい人々を見てきたアミンさんだからこその視点でお話いただきました。今後、アミンさんの指導を受けた多くの技術者が、世界で活躍するかもしれません。本日はありがとうございました!

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライターFujico
2015年にフリーライターとして独立。「地球の歩き方Japan 島旅シリーズ 15 伊豆諸島Ⅰ」を始めとし、
冊子からウェブサイトまで幅広く執筆を行う。
伊豆諸島への訪日外国人誘致プロジェクト「Tokyo Islands」の運営や翻訳・通訳業も行う。

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SAGOJOライターFujico
2015年にフリーライターとして独立。「地球の歩き方Japan 島旅シリーズ 15 伊豆諸島Ⅰ」を始めとし、
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