「食用昆虫の養殖」は難しい?「むし畑」の農園長に聞いてみた

2023年7月11日

以前は食べるとなると「ギャーッ!」という反応をされるのが一般的だった昆虫食。しかし近年では栄養価が高く、環境負荷も少ない「サステナブルな食品」として、世界的に注目されつつあります。

昆虫の加工食品を製造・販売する株式会社TAKEOの三橋亮太さんは、食用トノサマバッタの養殖に挑戦する「むし畑」の農園長。今回は三橋さんに「昆虫の養殖」の大変さ、そして昆虫食を普及する仕事のやりがいについて、話を伺いました。

コオロギは養殖が簡単、でもバッタは…

――まず、TAKEOの製造・販売する「国産昆虫」シリーズは、バッタのほか、さまざまな産地のコオロギを扱っていらっしゃいますよね。

コオロギは大量に養殖するのが比較的簡単なんです。特別な環境を用意しなくても、衣装ケースがあれば育てられます。農業や食品業に直接関係のない人でも着手しやすいと思います。

日本国内の昆虫食ではコオロギがメジャー。ぼくが把握しているだけでも30以上の事業者が存在するんです。

TAKEOの製造・販売する昆虫食品

――確かに昆虫食は、コオロギの加工食品が目立ちます。昆虫でも魚介類のように「天然モノ」と「養殖」で差異があったりするのでしょうか?

必ずしも「天然だから価値がある」というわけではありません。種によっては野生を採集する労力に対し売り値は安いから……という理由で、養殖を選ぶケースもあります。

逆にハチやアリのように仲間内で役割を持って行動する「社会性昆虫」と呼ばれる昆虫は、人工的に社会を構成することが難しく、養殖も難しいと言われています。弊社で販売しているスズメバチの加工食品も、100%天然モノです。

三橋さんはTAKEO株式会社で製造や食品開発、広報などを担当する傍ら、「むし畑」でバッタを養殖する

――なるほど。ではコオロギのほかに養殖がしやすい昆虫を挙げるとするなら?

日本では海外よりも需要が少ないのですが、ハエの幼虫であるマゴットや、アメリカミズアブの養殖は比較的簡単で、大量生産に向いていると言われています。これらは生のおからなど、湿った状態のエサがあれば飼育することができますし、コオロギよりも省スペースで飼育できる、と考えられています。

――では、三橋さんが養殖しているトノサマバッタ(以下バッタ)はいかがでしょうか?

それが、バッタの大量生産はかなり難しいんです。ぼくは2019年にバッタを育て始め、今年2023年で4年目を迎えます。デスクワークの片手間でやっているとはいえ、いまだに大量生産のできる目処が立っていません。

バッタの養殖の難しさは「エサ」にあった!

――具体的に、バッタの大量生産はどういったところが大変なのでしょうか。

厳密にいうと、ぼくが選択している飼育方法が難しくて。現在はエネルギーを使わない、屋外のビニールハウスでの飼育を選択しています。コオロギと同様、室内で飼育すればまだ楽かもしれませんが、ビニールハウスの場合、温度管理の面でまだまだハードルが高いです。

また、フレッシュなイネ科の草を大量に食べるので、常に草を確保し続ける環境が必要になります。

――エサはどれくらいの頻度であげるのでしょうか?

秋から冬にかけてはバッタの活動力も落ちるので、2〜3日に1回与えるだけで問題ありません。逆に活発な夏場になると、1日に1回のペースでエサを与えています。

三橋さんの実家の庭に建てられた「むし畑」のハウス。三橋さんのご両親も協力しながらバッタを育てている

実は、通年で生えているイネ科の雑草ってないんです。だから、季節ごとに複数種を組み合わせながら、エサとなる雑草を確保する必要があります。

試行錯誤するなかで、ススキは他のエサに比べ可能性を感じました。茎を食べはしないものの、バッタの食べる葉の部分が大きくてバッタも良く育つんです。田んぼや畑にたくさん生えているので、確保しやすいところも魅力だと思います。

――イネ科の植物ならなんでもいいんですか?

栄養価が低過ぎてバッタが成長しない草や、与えると毒になってしまう草もあるので注意が必要です。コムギの葉は良いけど、オオムギは成長を阻害する、という研究があったりもします。

いまは春の草と夏の草、夏の草と秋の草……のように、常に並行して数種類の草を栽培し続けながら、時期ごとに最適なエサを追求しているところです。そして、通年で誰でも、簡単にバッタを栽培できるような「食事メニュー」の最適解を整えようとしています。

――意外とバッタはグルメなんですね。どの草を与えれば美味しく育つ、といった研究もされているのでしょうか?

まだエサと味の関係性は証明されていませんが「サトウキビで育てたバッタは甘くなる」と仲間から聞いたことはあります。

ただ、正直「どの草を食べるのか」で今は精一杯。弘前大学とも共同で「効率良くバッタを育てられるエサ」を研究開発しているので、これから解明できれば、と思っています。

ちなみにコオロギはエサを変えることで風味がかなり変わります。アーモンドを食べればアーモンドの風味がつくし、鶏のエサや魚粉由来のエサでも育てると、少し癖がある味になるんです。

むやみに命を奪わないようにするために

――先ほど「温度管理が難しい」とおっしゃっていましたが、ハウスの中はどれくらいの温度を保っているんですか?

基本的には年間を通し40度くらいを保てることが理想です。でも、ただのビニールハウスなので温度のコントロールができず、太陽の力に頼るしかなくて。現状では春から秋までしか飼育することができません。

――エネルギーを使わない場合、冬の飼育はまだまだ難しいんですね。

寒波の影響で、育てていたバッタの一部が死んでしまうこともありました。冬場だけではなく、夏場も温度調整が難しいです。真夏日はハウスの内部が50度を超えてしまうこともあります。

孵化も大学の研究室などで行えばスムーズに繁殖できるのですが、設備の整っていない環境下ではやっぱり難しくて。卵を2〜3週間ほど、孵卵器のような機械で温め続けて孵化させるのですが、生まれてきた幼虫の生命力も弱いんです。

むやみに命を奪わないようにするためにも「専門的な研究室ではない環境下で、どこまでやったら死んでしまうか」は、しっかり把握すべきだと思っています。

――なぜ、わざわざ飼育の難しいビニールハウスでの栽培を行うのでしょうか。

養殖のハードルをいかに下げるかは、ぼくがバッタを養殖する目的の一つでもあります。バッタを養殖する設備を、すべて100円ショップで揃えるなど、誰でも着手できるような産業にしたくて。

確保しやすいエサの研究も含め、ぼくが養殖の方法を体系化することで「バッタの養殖」が手の空いた農家さんのお小遣い稼ぎにもなれば良いな、と考えています。

バッタを養殖するゲージ。「農家さんが倉庫に吊るして育てられるようになったら理想です」(三橋)

昆虫食市場の行く末を見届けたい

――三橋さんは、もともと昆虫がお好きだったんですか?

それが、意外とそういうわけではないんです(笑)。今も昆虫食が好きかと言われたら「う〜ん」という感じです。実は昆虫食に興味を持ち、初めて虫を口にしたときも半泣きでした。大学の畑で採ったスズメガの幼虫が、ぼくのファースト昆虫食です。

――なぜ昆虫食に興味を持ったのですか?

2008年、大学に通っていたときにたまたま昆虫食についての文献を読む機会があって。研究テーマとして、まだ開拓の余地がある分野だと思いました。それまでは野菜を育てる農家を目指していたのですが、次第に昆虫学を学ぶようになり。大学院進学後、いよいよ昆虫食の研究を行うようになりました。

――研究を行なっていた当時、昆虫食は一般的にどういった存在だったんですか?

海外の研究で昆虫食の可能性は示唆されていましたが、世間的にもまだまだ「ゲテモノ」の扱いでした。世界的にブームが起きたのは2014年。FAO(国際連合食糧農業機関)がプロテインの代替としての昆虫食を提唱したことを機に、「昆虫食」という言葉が浸透していきました。

それにしても、まさか自分が昆虫食の会社に就職するとは思っていませんでした。

乾燥し、粉末状にする前のバッタ。
三橋さんがバッタの養殖を普及させたい真の理由は「ほかの食べ物に形容しがたい『バッタ味』を楽しめるから」

――新卒で昆虫食の会社に就職されたんですか?

いえ、はじめは香料のメーカーで食品開発などの仕事をしていました。2019年に弊社の代表である齋藤(齋藤 健生氏)から声をかけられ、現在に至ります。

――昆虫食業界に仕事として携わるようになり、どういったところに仕事の魅力ややりがいを感じますか?

15年も昆虫食に向き合ってきたぶん、単純にワクワク仕事ができる時期は過ぎました。ただ長く昆虫食市場を見続けてきたからこそ、最近では「自分が昆虫食の未来を見届けなくて、誰が見届けるんだ!」という意地が芽生えてきました。

自分自身が生き字引になるつもりで業界に立ち続けることが、昆虫食業界ではたらき続けるモチベーションになっているかもしれません。

――今後、昆虫食がどのようにお茶の間へ浸透していくことを期待しますか?

日本は伝統的にイナゴなどを食べてきたからこそ、昆虫食文化としては世界でも先進国だと言われています。その一方で昆虫食大国のタイに比べると、品質管理のレベルで決してリードしているとは言えません。

日本でもSDGsの観点から昆虫食への投資額が少しずつ増えていますが、欧米圏などに比べるとその額は桁違いに小さいです。

その上で、昆虫食が普及するまでのシナリオは色々と考えられます。いまだに昆虫食は「エンタメ」の要素が大きく、多くの人にとっては特別な存在。ですが、昆虫がいつもの食卓のおかずの一品になることは目指したいです。

――「エンタメ」ではなく「グルメ」へとポジションチェンジを図りたい、ということでしょうか?

主菜としてたくさん食べなくて良いと思っています。それに昆虫食の「エンタメ」要素は否定したくありません。仲間とワイワイしながら食べる楽しさも、昆虫食の価値のひとつだからです。

とはいえ「エンタメ」も進化し続けないと、すぐに飽きられてしまいます。まずは「恐る恐る食べてみたら、案外美味しいし楽しかった」と思ってもらえるよう、もっと昆虫食の楽しさを探求していきたいです。

(文:高木望 写真:小池大介)

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ライター高木 望
1992年、群馬県出身。広告代理店勤務を経て、2018年よりフリーライターとしての活動を開始。音楽や映画、経済、科学など幅広いテーマにおけるインタビュー企画に携わる。主な執筆媒体は雑誌『BRUTUS』『ケトル』、Webメディア『タイムアウト東京』『Qetic』『DIGLE』など。岩壁音楽祭主催メンバー。
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