日本初の技術「妊活タイミングをチェックできるおりものシート」とは。

2024年4月26日

「妊活おしらせ物質」から、最適なタイミングを把握——。

はたらく女性にとって、妊活は想像以上に大変なこと。産婦人科への通院も、仕事のスケジュール調整が必要なため、容易ではありません。心にモヤモヤを抱える女性が多くいる中、2023年11月に発売されたユニ・チャームのある商品が「画期的」と称されています。

それは、ショーツにつけて過ごすだけで妊活のタイミングが分かる『ソフィ 妊活タイミングをチェックできるおりものシート』。日本初の技術を用いて開発されたもので、SNS上では「すごい技術」と驚きの声が挙がっています。

開発の中心となった人物は、ユニ・チャームの共生社会研究所に在籍する吉政渡さん。約5年かけて市場調査と研究が行われ、商品化された『ソフィ 妊活タイミングをチェックできるおりものシート』は、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

1961年の創業以来、生理用品や紙おむつに特化してきたユニ・チャームが初めて「妊活」を応援するアイテムをつくったきっかけ、そして、開発段階でぶち当たった壁を深掘りします。

日本で初めての技術

「ユニ・チャームの生理用品ブランド『ソフィ』は昨年、50周年を迎えました。“女性の生涯に寄り添う”ことをミッションに掲げてきた当ブランドですが、そのミッションをより実現していくためには、これまでの事業領域のみならず、より女性の生活に寄り添った事業を展開する必要性を感じ、妊活市場への参入を決めました」

吉政さんはこう話します。

「妊活」とは一般的に、「排卵日」と呼ばれる“妊娠しやすい時期”に性交渉をすることで、妊娠につなげるための活動を指します。その排卵日の予測を、自宅でセルフチェックできる手段として有名なのが、女性の低温期と高温期を見分けるための目安になる「基礎体温」を毎日記録することと、排卵日予測検査薬を用いることの2つです。

(写真はイメージ)尿中の成分から排卵日を予測する、排卵日予測検査薬。第一類医薬品のため、病院で処方してもらうか、薬剤師による確認がないと購入できない

一方で、基礎体温は起床後すぐに計る必要があり、排卵日予測検査薬も、毎日決まった時間に使うことが推奨されている上、一箱あたり(10本入り)2,000円〜3,000円と決して安くはないのが現状です。

2019年に研究を始め、2021年、市場調査で、妊活中の女性の78%がなんらかの悩みを抱えていること、悩みの大半が妊活のタイミングにまつわるものだと分かりました。

「はたらく女性や既にお子さんがいらっしゃる方にとって、忙しい朝の時間帯に基礎体温を計ったり尿を採取したりするのは大変であり、経済的な負担も大きい。私の所属する共生社会研究所では、日々さまざまな研究や開発を行っており、生理やおりものについても分析しています。そこである時、おりものの中にも、実は体からの大切なメッセージが含まれているのでは?という仮説を立てたのです」

クレインバイオ社とおりものの成分の調査をすると、おりものの中に尿中の成分と同じものが含まれていると判明。これは日本で初めての発見です。

ユニ・チャームはこれを「妊活おしらせ物質」と名づけ、商品化に向けて、本格的に動き出したのです。

「付着しない」「判定サインが薄い」……立ちはだかった2つの壁

ところが、おりものによる妊活タイミングの把握は業界初の試み。開発段階では、2つの壁が立ちはだかりました。

一つは、おりものの成分がシート内部に入り込みにくいということ。

シート内の反応部分におりものが付着すると、判定サインが現れる仕組み。青いラインが1本なら「今は妊活タイミングではない」、2本なら「妊活タイミング」だと分かる

「通常のおりものシートと異なるのは、シートに内蔵されたテスターに妊活おしらせ物質が付着しなければ、判定サインが現れず意味がないということです。おりものは尿に比べて量が少なく、粘度も高い。最初の段階では、まったく付着せずに絶望しましたね」

開発の中心メンバーは吉政さんともう一名の男性社員のため、実験の手段として、おりものと同濃度の試験液をつくり何度もテストを重ねました。

2歩、3歩進んだかと思えばまた2歩戻る……。こうした試行錯誤を繰り返し、約1年かけて、粘度があっても妊活おしらせ物質をテスターに付着させることに成功。シートに工夫をするなど、ユニ・チャームがこれまで培ってきた技術を駆使したと言います。

またもう一つの壁は、「判定サインが薄くて見えにくい」ということ。妊活おしらせ物質がシートに内蔵されたテスターに付着しても、物質の濃度の関係で、判定サインが十分な濃さで現れなかったのです。

「我々開発メンバーが見て分かる程度ではなく、実際に使う方が、一目見て分かる判定サインの濃さにしなくてはなりません。そこで、着色料の種類を検討した結果、粒子の大きいものを使うことで、十分な濃さのラインを出すことに成功しました」

判定サインの「色」についても議論がなされました。というのも、当初検討されていた判定サインの色は「赤」。これは、テスターに使われている紙素材に、妊活おしらせ物質に触れると赤色に反応する特殊成分が含まれているためです。排卵日予測検査薬やウイルス検査キットの判定サインも、この特殊成分がテスト部分に含まれているために赤色をしていることが多いそうです。

(写真はイメージ)判定サインが赤色のウイルス検査キットの例

ところが社内では、「赤だと経血に見間違う可能性があるのでは?」との声も挙がりました。そのため、ある方法を用いて「青」に変更することに。長年、生理用品を開発してきた「ソフィならではの発想」だと、吉政さんは振り返ります。

発売当初は、問い合わせが殺到

発売にあたり、パッケージデザインを手掛けたのはマーケティング部門です。パッケージの中でも特に際立つのが、25字にわたる『ソフィ 妊活タイミングをチェックできるおりものシート』という長い商品名。なぜ、こうしたネーミングになったのでしょうか。

シートは、テスターを湿気から守るため一枚ずつアルミパックに包まれている

「この商品は、ドラッグストアで生理用品と同じ棚に置かれています。そのため、(ナプキンでも通常のおりものシートでもなく)“なんのための商品なのか?”を端的に伝えることで、『こんな商品があるんだ。ちょっと試してみようかな?』と気軽に手に取っていただけるのではないかと、マーケティング部門で工夫しました」

価格も、5枚入りで(店頭想定価格)600円前後。普通のおりものシートのように、つけたまま過ごせるため、検査のためにトイレに行く必要もありません。

「夜勤のあるお仕事をされている方からは、『基礎体温をいつつけたらいいの?』という声も聞かれました。また、ご本人には妊活の意思があってもパートナーが積極的ではなく、タイミングを調整するのが難しいという声も。そうした時に、ある程度簡単に、信ぴょう性のあるタイミングを知ることができたら……、というニーズに答えられたと感じています」

2023年11月、約5年の歳月を経て、『ソフィ 妊活タイミングをチェックできるおりものシート』が発売。すると、店舗には問い合わせが相次いだと言います。

「こうしたらお客さまに喜ばれるのでは?」踏み出した新たな一歩

開発者である吉政さん自身は、これまでどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか。

1992年にユニ・チャームに入社し、商品開発部門を経てリサーチ部門へ。リサーチ部門時代には数年間、中国・上海にも駐在したと言います。

「リサーチ部門では消費者のニーズや市場の調査を担っていたのですが、ある時、リサーチの結果から見えてきたことを、従来の事業領域に捉われず、もっとお客さまの役に立つよう形にできないだろうか? と思うようになったのです。他部門と連携しながら学術的な知見をベースに商品化・サービス化につなげる共生社会研究所であれば、それまで手の届かなかった新事業の立ち上げに携わり、それが実現できると思いました」

2019年、共生社会研究所へ異動した吉政さん。社内で案として挙がっていた『ソフィ 妊活タイミングをチェックできるおりものシート』の開発にすぐに着手し始めました。

「残念ながら、今回のような新しい商品の提案活動では多くの失敗も経験してきました。
開発段階で『いけそうだ』と思っても、目標のレベルにまで仕上げることができず、商品化には至りませんでした。そのような場合は、自分なりに考えた方法を関係者と共有しながら最善の選択をし、自分の見立てや仮説の立て方に甘さがあったと反省し、学びとして次のテーマに取り組むようにしています。

今回のように、研究開発の目標を達成し、結果的に世の中に出すことができて、画期的な商品だと好評をいただくのは本当にうれしいですね。悩みを抱える方のお役に少しでも立てているのであれば、私どもも本望です」

これまでの事業領域では実現し得なかった、『ソフィ 妊活タイミングをチェックできるおりものシート』のアイデア。もちろん、社内のほかのメンバーや共に開発を進めてきた外部メーカーなど、多くの人の手で生み出された商品ではありますが、はたらく中で抱いたモヤモヤをそのままにせず、自ら行動を起こした吉政さんだからこそ、ユーザーに寄り添った開発を主体的に進めることができたのではないでしょうか。

(文:原 由希奈 写真提供:ユニ・チャーム株式会社)

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ライター原 由希奈
1986年生まれ、札幌市在住の取材ライター。
北海道武蔵女子短期大学英文科卒、在学中に英国Solihull Collegeへ留学。
はたらき方や教育、テクノロジー、絵本など、興味のあることは幅広い。2児の母。
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