「パーソル パ・リーグTV」の中の人に聞く 転機は、あの選手の“空振り”だった

2020年12月22日
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福岡ソフトバンクホークスの優勝で幕を閉じた、今年のプロ野球。
異例の無観客試合でスタートした特殊なシーズンとなりましたが、球場に足を運べない分、中継や事後配信など、動画で試合を楽しんだというファンの方も多いのではないでしょうか。

そんな中、ここ数年で大幅に視聴者数を伸ばしているのが、パ・リーグの試合動画を配信する「パーソル パ・リーグTV」の公式YouTubeチャンネルです。今夏の「YouTubeチャンネル総再生数ランキング(※)」では、名だたるユーチューバーを抑えて3位に輝きました。

独自目線での編集によってファンの心をつかみ、さらには野球に関心のなかった人からも支持されている同チャンネル。一体、どんな方が運営しているのでしょうか。その裏側を、はたわらワイド編集部が直撃取材しました。
(※)株式会社BitStarによる集計調査。2020年7-9月の期間が対象。

人気YouTubeチャンネルの舞台裏

東京都中央区にある、パシフィックリーグマーケティングのオフィス。受付奥の扉を開けると、数々のモニターと多数のパソコンが配置された「パ・リーグデジタルメディアセンター」と呼ばれるスタジオが現れます。

このスタジオでは、パ・リーグ6球団の公式動画配信サービス「パーソル パ・リーグTV」などを運営。スタッフが試合の進行状況を確認しながら、配信映像の管理や試合データの更新を行っています。

そして試合後のファンの楽しみといえば、おなじみのYouTubeチャンネル『(パーソル パ・リーグTV公式)PacificLeagueTV』。その日のハイライトシーンはもちろんのこと、試合中に選手が見せる何気ない仕草などを独自の視点やクリエイティブで表現し、一躍人気チャンネルとなりました。

このYouTubeチャンネルの動画制作をしているのが、中村 達広さんです。動画のシーン選定や編集、サムネイルの制作、BGMの選定までの作業など、YouTubeチャンネルにアップしている動画の多くを担当しています。

「ファンの皆さんからはSNSで『ライオンズの編集担当は、〇〇のような映像が好みなのでは?』などいろいろと推理いただいていますが、実は、球団ごとの担当はおりません(笑)。シーズン中は1日最大3試合開催されますが、私が全試合を見て、編集しています」(中村さん)

中村さんがメディアセンターに出社するのは、夕方の4時ごろ(ナイターゲームの開催日)。日中は自宅で事務作業などを行ない、出社後は試合に向けた準備を行いながら、集中力を高めます。
いざ試合がはじまってからは、モニターの前に付きっきりに。3試合の映像を同時にチェックしながら、さらに並行して編集作業までこなしているというから驚きです。

「『今、あの選手はどんな表情をしているのかな?』と気になることがあれば、その場ですぐにマルチアングルビデオ(球場の様子を多数の角度から撮影するパーソル パ・リーグTVのカメラ)を使ってチェックします。球場全体で今何が起こっているのかを、一つ一つのプレーから想像するように心がけています。」(中村さん)

あの選手の“空振り”が転機に

もともとテレビ番組制作の仕事に携わっていた中村さん。今から遡ること6年前、縁あってパ・リーグTVの仕事に本格的に携わるようになります。

そのころの中村さんは、実は、普段の生活の中で野球に触れる機会がほぼありませんでした。ニュースなどで取り上げられる有名な選手以外は知識すら無かったため、書店で選手名鑑を手に取り、頭の中でその内容を再生できるほど読み込んだといいます。

―――

そうしてパ・リーグTVに携わり1年ほど経った、2015年4月16日のこと。
いつものようにメディアセンターで試合を見ていた中村さんは、あるプレーに目を奪われました。

それは県営大宮球場で行われていた、埼玉西武ライオンズ対東北楽天ゴールデンイーグルス戦での一場面。華やかなホームランでなければ豪速球でもなく、当時2年目だった森 友哉選手(西武)が見せた、豪快で力強い“空振り”でした。

「『わあ、すごいな……。』って、感覚的に惹かれたんです。19歳の選手がこんなスイングをするんだぁ、って。私が野球に詳しくなかったからこそ、純粋にアスリートとしての“凄み”を感じたのだと思います。映像としても迫力があり、ファンの方々とこの気持ちを共有したいと考えました」(中村さん)

しかし、それまで同チャンネルが配信していたのは、試合のターニングポイントとなるプレーが中心。わざわざ空振りのシーンを切り取って動画をつくることには「選手やファンに、嫌な思いをさせてしまうのではないか」という葛藤もあったと話します。

それでも中村さんは、自分の感覚を信じ、上司にこのシーンを取り上げることを提案。承認され、「ファンの方に怒られないかな……」とどきどきしながらも、アップロードのボタンを押しました。

実際に配信した動画(森選手のスイング)のワンシーン(動画はこちら

動画の公開後、中村さんの不安とは裏腹に、ファンからは「見ていて気持ちが良いフルスイング!」「豪快!」など好意的な反響が相次ぎました。
そんな声を聴いて胸をなでおろしたと同時に、この動画がきっかけとなり、中村さんの頭の中には「自分が感じたことを、そのまま表現しよう」という指針ができたといいます。

そして現在、同チャンネルでは、アスリートとしての魅力や迫力はもちろんのこと、選手が試合中に見せる独特の仕草や会話を取り上げるシーンも増えてきました。
くすっと笑えるような映像もありますが、これも、中村さんが純粋に感じた「面白い」という気持ちに基づいて編集されたものです。

「昔の自分のように、野球をあまり詳しく知らない人にも、面白さを伝えたくて。パシフィックリーグマーケティングは『プロ野球の新しいファンを増やすこと。』をミッションに掲げているので、私はYouTubeなどでの配信を通じて、それを実現したいですね。
試合の中で、何を“楽しい”と思うかは人それぞれでいいんです。選手の表情や、ちょっと独特な仕草とか、そういうものも大切な視点だと思っています。」(中村さん)

「まとめるほどでもないまとめ」を編集した動画。この日は、選手のドリンクの飲みっぷりの良さに注目。かるた風のサムネイルも、もちろん中村さん作。

絶対に「やらない」こと

そのような動画を配信する一方で、中村さんは「選手に対するリスペクトだけは、絶対に欠かさないようにしています」と語ります。

「私が「面白い」と感じたとしても、該当の選手が明らかに調子を落としていたり、大きなエラーをしたりすれば、そのシーンは使わないこともあります。
動画を公開すれば再生回数は増えるかもしれないですが、選手の立場に立つと、あまり良い気はしないですよね。そういうリスペクトの気持ちさえもっていれば、自分がやって良いことと悪いことの線引きが、自然と見えてくる気がします。」(中村さん)

また、選手だけではなく、ファンの声も常に気にかけています。仕事の合間や自宅で、SNSに寄せられるコメントなどを逐一チェックしているそう。ただし、意見や感想は耳に入れつつも、自分のフィルタを通して実際にどうすべきかを考えるよう意識しています。

「選手、ファン、そして自分という3つのトライアングルのバランスを取ること。それが一つでも欠けると、何かに流されたり、自分が暴走したりしてしまう危険があります。」(中村さん)

ファンや選手と一緒に、ストーリーを紡いでいく

とはいえ、ファンの声はうれしいもの。日常でのモチベーションを聞くと、「やはり、動画をご覧いただいた皆さんからの意見や感想が、一番の喜びですよ」と即答しました。

最近では選手からも「パーソル パ・リーグTVにとりあげられた!」と、選手自身のSNSアカウントで発信してもらえるケースも増えたそうです。
そのようなファンと選手からの声を力にして、今後も動画の配信を続けていきます。

「球場で起きている出来事の積み重ねが、いつしかストーリーになっていくのだと感じています。今は今で楽しいですけれど、5年10年経ったら、また新たな魅力を持つ選手も誕生することでしょう。
長い期間をかけて、皆さんと一緒に野球の楽しさ、凄さ、面白さを共有していけるとうれしいですね」(中村さん)

相手へのリスペクトを持ちながら、自分の感性を信じて動画配信を続ける中村さん。
来年もまた、私たちをわくわくさせる動画を見せてくれそうです。

中村 達広さん
パシフィックリーグマーケティング株式会社 事業開発本部 制作シニアディレクター

テレビの番組制作会社などを経て、2014年から同社事業に携わる。現在に至るまで同社の映像系事業のコンテンツディレクションに従事。3児の父。

(取材・執筆:石山 貴一  撮影:金 恩玉)

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編集長石山 貴一
「はたわらワイド」編集長/パーソルホールディングス株式会社
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