“ひょっこり猫テーブル”の開発者に聞く、欲しいものを形にするために大切なこと

2021年10月21日

ダイニングテーブル中央の穴から、ひょっこりと猫が顔を出す――。今年8月、通販大手・ディノスがリリースした愛らしい商品が、ツイッター上で話題になりました。

本来、ペットと食卓は親和性のない組み合わせに思えますが、「オーク天然木のネコとくつろぐダイニングテーブル」(定価15万9,500円)はいったいどのような経緯で実現した商品なのか?ディノスを運営する株式会社DINOS CORPORATIONのペット家具担当、河野美里さんにお話を聞きました。

「オーク天然木のネコとくつろぐダイニングテーブル」(商品は中央のテーブル、椅子などは別売り)

時代とともに変わりゆく“食卓の役割”に着目

――爪を研ぐ習性がある猫は本来、インテリアや家具と相性の良くないイメージがあります。今回のダイニングテーブルは、どのような着想から生まれた商品なのでしょうか?

おっしゃる通り、猫を飼っている人であれば誰しも、家具と猫の相性は最悪であることをご存知だと思います。食事中、テーブルにのぼろうとする猫をどうしつけるか、皆さん苦労されているのではないでしょうか。

そうした意識がある一方で、コロナ禍による在宅ワークの定着で、ダイニングテーブルが必ずしも食事をするためだけの場ではなくなっている事実もあります。ノートパソコンを広げて仕事をしたり、その隣で学校から帰ってきたお子さんが宿題をしたり。あるいは、オフの時間に動画を観たり、ネットサーフィンをするようなこともあるでしょう。

そうした生活習慣をイメージすると、ダイニングテーブルは家族が寄り添う場所でもあるわけで、そこにペットが溶け込むことができたら楽しいのではないかと考えたことが、この商品の着想につながりました。

――価格は15万9,500円と、なかなかの高額商品ですが、これにはどのような狙いが?

これはまったくのゼロから開発した商品ではなくて、こうした穴の開いていない既製品がベースになっているんです。素材にもこだわった国産品で、多少お金をかけてでも良いものを使いたいというディノスの中心顧客層の傾向を踏まえ、この仕様を採用しています。

実は当初の企画では、中央の穴の部分をガラス張りにして、その下の棚でくつろぐ猫の姿が見える構造を考えていました。しかし、もしもガラスが割れてしまった場合、猫にも家族にも危険が及ぶのではないかということで、メーカー側と相談の上、同じ素材の蓋をつくって取り外しできる設計に変更した経緯があります。

テーブルの素材には、厚みのあるオーク天然木無垢材を使用。国内の職人が角を丸く仕上げている。

最後までネックになった、猫と食卓の相性問題

――今回の猫テーブル、開発プロセスにおける苦労点を挙げていただくとすると、どのような点でしょうか。

私がこれまで担当した商品の中では比較的スムーズに運んだケースになりますが、それでもご指摘いただいたペットと食卓の相性は、やはり企画段階でネックになっていました。正直、発売が決まってからも、「猫を食卓にあげるとはけしからん」といったご批判もあるだろうと覚悟していましたので。

――その点について、社内から反対意見が出ることはありませんでしたか?

社内での調整に関しては、幸いにして私自身がそれなりの決定権を持つポストにあるため、反対意見が入り込む余地がなかったというのが実情かもしれません(笑)。唯一、直属の部長が少し渋い顔をしていましたが、それでも「あまり売れないと思うけど、やりたいことはやってみれば」と言ってもらえました。

それに、売上目標を達成できなかったとしても、こうしたユニークな商品を手掛ける会社であると認知されることは、ディノスにとってプラスであるとも思っていたんです。「宣伝目的と思えば、意味のある商品ですよ」と部長にも伝えて、最終的な決定に至りました。

穴の下には、円形の棚を配置。ネコがくつろげる仕様に。

――リリース後の売れ行きはいかがですか?

ありがたいことに発売から3日目でバズったので、予想以上に好調です。高額商品なのでそこまでのセールスは期待できないだろうと思っていましたが、3カ月の目標を最初の1週間でクリアしてしまいました。これには私もメーカーさんもびっくりしています。

自分自身が“お客さまの代表”になって企画を検討する

――河野さんは今回のテーブルのほかにも、さまざまな猫家具を手掛けていますが、そのこだわりはどのようなところから生まれているのでしょうか。

私自身が愛猫家であることが一番です。それに加えて、まだ世の中に存在していない新しい家具を生み出すことは、非常に難しいというのも理由の一つです。それよりも、すでにある椅子やテーブルといった家具に、新たな価値を追加するほうが現実的で、昨今の猫ブームを意識して、こうした商品を展開したいと考えました。これはディノスが扱う商品の裾野を広げる取り組みにもつながっていると思います。

――新たな商品を生み出す際、ニーズのリサーチはどのように行なっていますか。

担当者によってスタイルや手法は異なりますが、メディアやインターネットなどから世のトレンドは常に追うようにしています。また、今回でいえば普段から猫を飼っている方のインスタグラムをよくチェックしているので、そこから自然にニーズを知ることは多いですね。誰かの室内の写真を見ながら、「ここにキャットタワーにもなる本棚があったら便利だろうな」といったように。

それに、ディノスのお客さまは基本的にファミリー層なので、自分の家族や友人との何気ない会話の中に、けっこうヒントが眠っているものなんです。自宅で過ごしているとき、どんなことに悩んでいるのか、どんな部分に不便を感じているのか、それとなく聞くように心掛けています。

――では、頭の中にあるアイデアを実際に商品化に向けて動き出すか否か、判断基準はなんでしょう?

お客様の生活をどう良くしていくか。この点に尽きます。たとえば、お客さまが日ごろから感じている悩みが、その家具があることで解消されるかどうか。あるいは、その家具が部屋にあることで、お客さまの気分が上がるかどうか。利便性なども踏まえながら、自分もユーザーの1人となってイメージを膨らませるようにしています。その意味では、私自身がお客さまの代表として、欲しい物を検討していると言えるかもしれません。

最終的な判断基準は、ユーザーに寄り添う「思いやり」

――実際に商品化されるアイデアと、そうでないアイデア。両者を分けるものはなんですか。

独りよがりになっていないかどうか、ではないでしょうか。そのための最終的な判断基準は、「思いやり」だと私は考えています。実際に使う人の立場になって考え、それが本当に役に立ち、求められる商品なのかどうか、とことん慎重に検討する必要があると思います。

それに、その商品の企画意図が、端的かつ明確に言語化できることも重要です。そのアイデアのコンセプトがシンプルな言葉にまとめられないのは、ターゲット層や利用シーンがはっきりとイメージできていないからですし、お客さまにも商品の魅力を明確に伝えることができないと思います。

――愛猫家である河野さんが、こうして猫家具を手掛けるようになった過程には、思うように仕事が進められない壁も存在したのでしょうか?

小さな壁は今もたくさんありますが、基本的に現場がやりたいことを尊重してくれる社風なので、わりと自由にやらせていただけています。誰かが出したアイデアに対しても、「面白そうだね、やってみなよ」と言い合えることが多く、少々攻めたアイデアでも、気軽に口にしやすいのはありがたい環境ですね。

ただ、家具を製造する現場には、その道何十年というベテランの職人さんも大勢います。そのため、企画段階で「こんなの売れないよ」と突っぱねられてしまうようなこともないわけではありません。でも、そこにはプロの方の貴重な知見があるはずですから、アドバイスをいただきながら仕様をブラッシュアップして、少しでも良い商品に仕上げていければと常に思っています。

――やりたいことを実現するために、最も大切なことはなんでしょう。

声に出してそれを言うこと、ではないでしょうか。私が猫家具を始めた時もそうですが、やりたいことは日ごろから声をあげたほうが絶対にいいと思います。何も言わずに黙っていてはチャンスはもらえませんし、もしかするとまったく関心のない部門に異動させられてしまうことだってあるかもしれません。

もちろん、何がなんでも実現したいことがあっても、会社がそれを認めてくれないことだってあるでしょう。そこで大切なのは、裏付けとなるデータを持ってプレゼンするなど、「やりたい」という主観だけではなく、ちゃんと客観性を担保する努力をすることです。

私が猫テーブルを実現した際も、数年前に日本で犬の飼育数を猫が超えたという事実や、ペット関連商品の展示会の入場者数が年々増えていることなど、具体的な数字を添えてプレゼンしました。せっかくやりたいことがあるなら、そうした工夫を怠ってはいけないと思います。

(文・友清哲 写真提供:DINOS CORPORATION)

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ライター&編集者友清哲
紙もWebもオールジャンルで寄稿中です。主な著書に『日本クラフトビール紀行』『物語で知る日本酒と酒蔵』『作家になる技術』『消えた日本史の謎』『一度は行きたい「戦争遺跡」』ほか。
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