一度夢をあきらめた女性が、話題の新感覚メガネ「チークカラーレンズ」を開発するまで

2021年11月26日

おしゃれ目的の伊達メガネや目の負担を減らすブルーライトカットメガネなど、「よく見えるようになる」というメガネ本来の機能を超えた付加価値を持つメガネやレンズが多数登場しています。そのひとつが2021年10月14日にJINSから発売された「チークカラーレンズ」です。

ターゲットである女性の潜在ニーズを汲み取ったこの商品。カラーはピンク・ピーチピンク・ボルドーの3色展開で、レンズの下部分にグラデーションの色味を入れることで頬の部分に血色感を与え、チークを付けたような視覚効果をもたらします。目の部分はクリアなレンズなので視界は良好で、見た目も自然なのが特長です。

メガネでメイクができるという新しいメガネ体験を実現したチークカラーレンズは、どのようにして誕生したのでしょうか。開発担当者のKさんに企画発案から発売に至るまでの話と、ご自身が本商品を開発するまでに経てきた道のりについて伺いました。

「メガネでメイク」を叶えるなら、チークがベストと判断

チークカラーレンズは、コロナ禍ならではの「マスク着用でメイクが取れてしまう」「オンライン会議時などのデジタル画面越しでは色飛びしてしまう」「買い物や会議など、わずかな時間のためにメイクするのは面倒」といったニーズに合った商品ですが、実は、コロナ禍になる2020年前から開発に着手していました。

「一般的なメガネとは違う機能性を持つ弊社の商品として、「ブルーライトカットメガネ」が以前から人気でした。しかし、青い光を吸収したり反射したりする関係上、レンズが黄色っぽく、肌色を綺麗に見せづらいという課題もありました。特に女性は顔映りを気にされる方が多いので、『女性向けのレンズを作れないか』と声をかけられた時に、見た目を良くするレンズを作れないかな?と考え始めたのが誕生のきっかけです」(Kさん)

開発に取り組む以前にも、レンズの目元部分に色を入れてアイシャドウのように見せるカラーレンズを作れないかと考えたことはあったものの、人によって目の形や似合う色が違うことや、目を閉じた時に不自然になってしまうことから断念したことがありました。「個人のこだわりが強いアイメイクは邪魔せず、視界もクリアに保てるレンズがいい」と判断したKさんが、最終的に目をつけたのがチークです。

「アイデア段階では、自分で透明のレンズの下側だけにマニキュアで薄く色を塗ってみて、レンズとして成立するのか鏡の前で試していました(笑)。企画が通ってからはレンズメーカーさんと何度も打ち合わせしたり、社内のスタッフの顔に定規を当てて、レンズの色を入れるのにベストな位置を探したりして、地道に進めていきました。ちょうどコロナ禍でレンズメーカーさんと頻繁には打ち合わせできず、出社している社員も少なかったので、イメージを互いに共有することに苦労しましたね」

特に大変だったのは、メイクならではの微妙な色味の違いを、レンズメーカーの男性担当者に伝えること。「もっとこんな色にしてほしい」と要望を伝えた際に「全部同じ色じゃないですか?」と首を傾げられることも多々ありました。

「もっと青みが強いピンク色にしてほしいと伝えた時も、メイク用語の“青み”とメーカー側の“青み”ではイメージする色が違っていて、意志疎通に苦労しました。コロナ禍で対面の打ち合わせがなかなかできなかったこともあり、事前にイメージを共有するのが難しかったので、実際に作ってもらって試着しながら何度もフィードバックして、理想の色味に調整していきました」

メガネのレンズならではの課題にも直面しました。度付きのレンズだと度数が高いほどレンズが厚くなり、カラーレンズの色味が変わってしまうのです。

「度数に応じて色の濃度を変えることができないので、たとえレンズが厚くなっても自然なグラデーションになるよう、この部分には何%くらいの濃さが入れば自然かを考え、濃度を指定する必要があるのです。

どれくらいの濃度ならどの厚みでも万人になじむのか、最適な平均値を出すのにも時間がかかりました。自分だけでなく社内のスタッフ十数名に1~2週間ほど試着してもらって、視界は良好か、マスクに色がかかって気になったりしないかなど、細かい使用感までヒアリングしながらベストな濃度を探り、ようやく最適解を見つけました」

プチプラコスメ感覚で手に取れる気軽さを意識

カラー展開はかわいく柔らかい雰囲気の「ピンク」、ヘルシーで明るいイメージの「ピーチピンク」、クールで知的な印象を生む「ボルドー」の3色です。ここに至るまでにも、さまざまな紆余曲折がありました。

「最初は5色くらい用意したかったのですが、カラーレンズで再現できる色に限界があったので3色に絞りました。最近はその人本来の肌と調和する色であるパーソナルカラー診断をもとに、肌をブルーベースとイエローベースの2種類に分けて自分に合った色味でメイクする傾向があります。なのでイエローベースとブルーベースそれぞれのメイクに合うカラー展開を前提にしつつ、理想の自分を演出できるよう、かわいい・ヘルシー・クールの3系統をイメージしてピンク・ピーチピンク・ボルドーの3色に決めました」

20~30代のはたらく女性がメインターゲットであり、メイク代わりになるカラーレンズという立ち位置を踏まえ、価格設定はプチプラコスメと近い価格帯の3,000円(税抜)に設定しています。女性がメイク感覚で気軽にカラーレンズのメガネを試せるように、という狙いがあります。こうした商品へのこだわりや価格設定が功を奏し、ターゲットを絞っているにも関わらず反響は上々で、SNSでも多くの話題を集めました。

「ツイッターでのいいねやコメントの数が多かったです。私がもともとファンだった美容系YouTuberのサラさんにも全色レビュー動画を上げていただき、ちゃんとメイクの立ち位置で受け入れられて評価されているのだと感激して……。売上などの数字も大事ですが、こうしたSNSでのリアルな反響が一番受け入れられた、という実感を得られました。コロナ禍でうまくいかないことも多い中、約2年かけて開発した甲斐があったなと感じます」

夢をあきらめてメガネ販売員になり、分かったこと

こうして話題を集めたチークカラーレンズですが、Kさんが商品開発を担当するのは、今回が初めてだったそうです。

「JINSには店舗スタッフとして入社し、2年間はたらいて店長まで経験してから、自ら本社の教育グループに応募し、部署異動を経て現在のレンズグループに所属しました。店舗に立ってお客さまの声を聞いたり、教育グループで接客や商品知識に関する指導を行っていた経験から、現場の目線を活かして女性向けレンズの企画を考えてほしいと声がかかり、今回のチークカラーレンズの開発に至っています。入社してからの経験をすべて活かすことができました」

着実に理想のキャリアを積み重ねているように見えるKさんですが、JINSではたらくまでには挫折もありました。

「20代半ばまではラジオパーソナリティになるのが夢だったのですが、うまくいかなかったんです。

もともと私は、日常をそっと彩ったり、夢や悩みに寄り添う存在になって誰かを支えたいと思っていて、ラジオパーソナリティならそれが叶えられると感じていました。

ただ、私が高身長で目立つからか、指導を受けていた先生から『役者になったほうがいい』と勧められて、自分が思い描くものとは裏腹にどんどん表舞台に出て行き、他人ではなく自分というものへのアプローチばかりをするようになりました。そうした経緯から、もともと裏方仕事でサポートしたいという気持ちが強く、20代後半を迎えるにあたってキャリアを見直しました」

そこで仕事を辞め、アルバイトから社員登用を目指せるJINSではたらきだしたKさんは、お客さまやスタッフに対して親身に寄り添う社風に惹かれて、社員になったそうです。

「JINSではたらくようになってから、自分の目指すはたらき方も明確になりました。私はだれかが喜んでくれる仕事が好きで、縁の下の力持ちとして活躍したいのです。だからお客さまやスタッフから『ありがとうございます』と言われるのが何よりもうれしくて。職種や仕事内容はやりたいことを叶えるための手段でしかないので、そこに囚われなくていいのだと気付きました」

店舗スタッフ、店長、教育担当、レンズ担当とさまざまな業務にチャレンジしているKさんは、自ら「やりたい」と挙手して新しい部署へ異動しています。手を挙げるタイミングは「その仕事をやり切った時」だそうです。

「その場その場で自分がやりたいことを選んでいった結果が今のキャリアですが、中途半端なまま仕事を変えることはありません。この場所でできることはやり切ったなと思えたら『じゃあ次はどうしよう?』と考えて、新しい一歩を踏み出しています。レンズグループに異動してからは2年しか経っておらず、経験も知見も足りていないので、まだまだこれからです」

経験や知見が足りていない段階でいい企画を考えるのは簡単ではありません。Kさんは、ふだんから他人の話をよく聞いて、自分目線だけでなく他者目線も取り入れることが良い企画を生み出す条件だと言います。

「プライベートの何気ない日常会話で聞いたちょっとした悩みが、企画の種になったり課題解決の糸口になったりするものなので、あまり自分と関係がないと思う話でもしっかりと聞くようにしています。

たとえば友達が出産してからの話も、私には出産の経験がないので今のところ関係ない話ではありますが、聞いていると『育児中ってそんなに時間がないんだ、だったらすっぴんでも綺麗に見えるレンズがあったら便利なのかな』とニーズが分かるようになります。なので人から聞いた話も具体的にイメージして自分事にして、記憶にストックしているのです」

自分が経験した出来事しか頭の引き出しに入っていないと、どうしても発想が貧相になってしまうものですが、人の経験も自分の経験のようにして取り込むことで、より豊かな発想ができます。

「これからは、もっとレンズの魅力や機能をお客さまに分かりやすく伝えられるようにコミュニケーションしていきたいです。メガネのフレームは色やデザインなどが視覚的にわかるので特徴が伝わりやすいですが、レンズは見ただけだと機能が伝わりません。お客さま一人ひとりにとって必要な機能はもちろん、その方には不必要な機能までわかるように提案して、お客さま自身が『自分でこのレンズを選んだんだ』と納得できる買い物をしていただきたいです。その上で、うれしさや喜びを感じていただけたら本望ですね」

トレンドやニーズを敏感にキャッチして常に新しいメガネを提供し続けるJINSが、これからどんなメガネを届けて豊かな体験を創造するのか、期待が膨らみます。

(文:秋カヲリ 写真提供:株式会社ジンズ)

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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