「初期衝動」を原動力に!話題の“海底カーテン“が新卒チームから生まれた理由

2021年12月23日

今年の夏、部屋が海底のように変わるカーテン「Water Shadow Curtain」がSNSで話題になったことをご存じでしょうか?「コロナ禍で外出自粛をしている間も、部屋を海底のようにして自然の美しさを楽しめたら」という想いから生まれたこのアイデアは、多くの人の心を掴み、6.8万件のリツイートと25.8万件のいいねを獲得しています。

現在開発中の「Water Shadow Curtain」を生み出したのは、2020年に広告会社に新卒入社した4人から成り、社外活動をするクリエイティブユニット「tokeru」です。「tokeru」は、昨年の秋に結成したばかりですが、自分たちの「やりたい、作りたい」という思いを早くも実現しています。そこで、ユニットの発起人であるデザイナーの宮崎琢也さん(写真左)と、プランナーの川又 音さん(写真右)に「Water Shadow Curtain」の開発背景や、会社に縛られずやりたい仕事を実現する秘訣を教えてもらいました。

会社や業界の枠にとらわれず新しい表現をするため、入社1年目で結成

――部屋が海底に変わるカーテン「Water Shadow Curtain」は、どういったものなのでしょうか?

宮崎さん:太陽光が当たると水面のような美しい影が床面に映り、部屋がまるで海底のように見えるレースカーテンです。日の当たる角度や風の強さによって、影の場所や揺れ方も移り変わっていくので、室内でも自然の移ろいが感じられます。


音さん:考案したきっかけは、デザインコンペ「TOKYO MIDTOWN AWARD」です。同期4人で結成したクリエイティブユニット「tokeru」で受賞に向けて取り組みました。2021年6月に開催されたコンペのテーマは「これからのウェルビーイング(THE NEXT WELLBEING)」で、次の幸福を考えるというもの。「コロナ禍で外出機会が減っている今、カーテンを開けて日の光を取り入れて自然な美しさを楽しめたら、ストレス解消になるんじゃないか」と思って考案しました。

――結果はいかがでしたか?

音さん:入賞はできなかったのですが、Twitterに公開したらすごく反響があって。これだけ世の中に求められているなら作ってみようと、自分たちで実用化に向けて動くことにしました。現在は人力でもCGでも布を揺らすシミュレーションをしながら、光の透明感と軽やかさを両立させる素材や製法を探ったり、協力してくれる企業を探したりしながら、資金調達に向けて動いています。企業から声をかけていただくこともあって、どこと組めば良いものができるんだろう、といったことも悩みながら進めている段階です。

――企業からも声がかかるほど注目されているんですね。クリエイティブチーム「tokeru」の皆さんは広告代理店の同期とのことですが、チームを結成して社外活動に取り組んでいる理由についても教えてください。

宮崎さん:結成した理由は大きく2つあって、1つは会社の仕事以外の個人的な制作活動を続けたかったことです。SNS時代の今は、個人でもやりたいことを小規模にでも始めて発信していけば、世の中を動かすほどの影響力を発揮できることもあります。個人でも活動してどんどん生み出す経験を積んでいったほうが、最終的には仕事にもプラスになるだろうと考えたんです。


宮崎さん:もう1つは、エンジニアやテクノロジストと制作してみたかったから。僕が専攻していたグラフィックデザインの分野では、テクノロジーやエンジニアリングの分野にあまり興味を持っていない人が多くて、自分はデザイナー×エンジニアだったり、デザイナー×テクノロジストで新しい体験がデザインできるんじゃないかと思って、それが実現できそうな同期メンバーを集めて自分たちでチャレンジしようと思いました。デザインコンペ「TOKYO MIDTOWN AWARD」に「Water Shadow Curtain」の案を出したのも
こうした取り組みの一環です。

――tokeruには4人のメンバーがいらっしゃいますが、どんな方に声をかけたんですか?

宮崎さん:テクノロジーを起点に新しい分野で作品を作りたかったので、全員エンジニアリングに精通している人を選びました。新入社員研修の段階でそういう人はいないかなって探してたんですよ。

音はインタラクティブなアートを学生の時に作っていたし、いわゆるグラフィックデザイナーとは違う視点からのアイデアを出してもらえるんじゃないかと思いました。あとは、エンジニアとしても内定をもらってた同期とか、会社の研修で自己紹介をAIに代わりやってもらうみたいなことをしていた同期を誘いました。

社会人一年目でも挑戦できる原動力は「やりたい」と渇望する好奇心

――本業もお忙しいかと思います。そんな中tokeruを結成し、社外活動で「やりたい」を形にする原動力はなんでしょうか?

音さん:突き詰めると、好奇心でしかないと思います。小さいころからモノづくりが好きで、大学でもロボットを作ったりメディアアートを作ったりしていたんですが、出身の東大の研究室で、教授に「世の中や社会を良くしたいという思いだけではモチベーションは続かない、自分の好奇心と向き合うことでしか人は動けない」と聞いて、自分は何をおもしろいと感じるんだろう?と考えるようになりました。そこで自分はモノや体験を通して人の心を動かすことに興味があるんだ、と気付いたんです。

そこからさらに「じゃあ、そのためには何をつくったらいいんだろう?自分がワクワクドキドキするものはなんだろう?」と深掘りして、人工の物を生き物や自然物のように動かすことに強い興味があると気付きました。

音さん:部屋が海底に変わるカーテン「Water Shadow Curtain」もまさにそうで、人工の床が自然な波のように揺らめいて見えたらおもしろいなと思ったんです。自分の「おもしろい」という感情から強い好奇心を抱く対象を見つけられたら、自分の中に原動力が生まれてくるのだと思います。

宮崎さん:会社の仕事を終えてから深夜までtokeruの活動をしていると「なんでこんなに遅くまでがんばっているんだろう」と不思議に思うこともあるんですが、それでも自分を突き動かすのは「やりたい!」と感じた瞬間の初期衝動だと思います。

僕は東大出身の音のようなエリート街道を歩んできたわけじゃなくて、私大の社会学部を中退してから美術大学に入学したんですが、最初の大学の時代にとりあえずなんか作りたいと思って、34回払いでMacBookを買ってアプリを作ったのが初期衝動でした。何のスキルもありませんでしたが、無理くり作ったあの経験が「やりたい!」を形にする人生の起点になったと感じています。

――パソコンも持っていない段階で、いきなりアプリを作ろうと思ったんですね。

宮崎さん:「とにかく何か作りたい、表現したい」って感じた瞬間のパワーってすごく大きくて、自分を突き動かしてくれます。逆にそれがなければ、自信やスキルがない段階でチャレンジするのは難しいと思います。
ただ待っているだけじゃやりたいことは見つかりません。何かやりたいなら、とにかく自分から動いて片っ端から手を出して、強い好奇心を持てる対象を探すのが良いと思いますね。

僕自身、大学時代に「何かやりたいけどやりたいことが見つからない」と悩み、少しでも興味を惹かれる授業は片っ端から全部受けました。時間割はかなり非効率で飛び飛びになりましたが、そうやってアンテナを広げたからこそ広告の授業に魅力を感じて、広告クリエイティブを仕事にするきっかけになったんです。無理にやりたいことを見つけなくてもいいんですけど、見つけたいなら自分で動くべきかなと思います。

音さん:宮崎はエリート街道だって言いますけど、東大生はみんな自分よりはるかにすごい技術や経歴を持つ人ばかりで、どの分野にも格上の人がいたので「純粋な熱量やスキルじゃ戦えないな」と思って凹んだ経験があるんですよ。ただ、それでも「やりたい」と思えるくらい好きなものが見つかれば、その過信にも似た初期衝動を基に行動できて、上手くなっていくし熱量も増していくと思います。そうすると、まわりも「そんなことやってるんだ」っておもしろがってくれたり認めてくれたりして、成功体験が増えていきました。そうやって成功体験を積み重ねていくうちに自信や実績が生まれて、それがやりたいことを継続する力になったんです。

作りたいのは「もの」ではなく「体験」

――今後、tokeruではどのようなプロダクトを作っていきたいですか?

宮崎さん:やりたいことをしないと会社での仕事と変わらなくなってしまいますから、自分たちが「かっこいい」「おもしろい」と思えるかを軸に、好きなものを作っていきたいです。そして単なる“モノ”を作るんじゃなくて、その先で誰かの素敵な生活や体験をつくれたらいいなと思っています。「Water Shadow Curtain」を考案したのも、ただのキレイなカーテンやおしゃれな部屋を作りたいわけじゃなくて、”体験”を作りたかったからです。

音さん:広告ではバズって目立つものが良しとされがちですが、「Water Shadow Curtain」のように生活に馴染むものを作りたいです。最新のテクノロジーを使えばメディアに取り上げられて話題になりやすいものの、ライブ演出のような派手なテクノロジーはふだんの生活には浸透しづらいですよね。暮らしに取り入れられる穏やかなテクノロジーを通じて、今の生活が豊かになる新しい体験を届けたいと思っています。

――最後に、これから会社や個人でどのようにはたらいていきたいか、理想のキャリアを教えてください。

音さん:会社の枠にとどまらず、自分の好奇心で自由にはたらけることは、とてもやりがいになるので、少しずつ個人活動の幅も広げていきたいと思っています。とはいえ、自分がやりたいだけで社会のニーズがないアイデアは仕事になりません。社会で活躍できる人になるには、自分がやりたいことと社会のニーズが重なる接点を見つけるのが大事です。入社当時、実は上司に「きみは作家性はあるけど、商業性はないね」と言われてグサッときて。だから会社ではアイデアをビジネスとして成立させるスキルを学びつつ、好奇心を軸にした個人活動でも新しい体験をデザインする、という相乗効果を発揮していきたいです。

宮崎さん:僕も個人活動は続けますが、会社を辞めるつもりはありません。会社員だと個人ではできない大きな仕事がたくさん経験できますし、尊敬している先輩も多いので早く追いついて、追い越したいと思っています。会社という環境でたくさん学びながら、まずは一人前のデザイナーになれるようがんばります。

(文:秋カヲリ 写真提供:tokeru)

※ この記事は「グッ!」済みです。もう一度押すと解除されます。

31

あなたにおすすめの記事

同じ特集の記事

  • シェア
  • ツイート
  • シェア
  • lineで送る
エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

人気記事

日本で最初のオストメイトモデル。“生きている証”をさらけ出して進む道
スタバでも採用された「最強のカゴ」。老舗工具箱屋が、アウトドア愛好家から支持を集めるまで
SNSで話題沸騰!『おたる水族館』の、人びとを笑顔にする“グッズ開発”の裏側
自分で小学校を設立!北海道で“夢物語”に挑んだ元教師に、約7,000万円の寄付が集まった理由
「歌もバレエも未経験」だった青年が、劇団四季の王子役を“演じる”俳優になるまで
  • シェア
  • ツイート
  • シェア
  • lineで送る
エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

人気記事

日本で最初のオストメイトモデル。“生きている証”をさらけ出して進む道
スタバでも採用された「最強のカゴ」。老舗工具箱屋が、アウトドア愛好家から支持を集めるまで
SNSで話題沸騰!『おたる水族館』の、人びとを笑顔にする“グッズ開発”の裏側
自分で小学校を設立!北海道で“夢物語”に挑んだ元教師に、約7,000万円の寄付が集まった理由
「歌もバレエも未経験」だった青年が、劇団四季の王子役を“演じる”俳優になるまで
  • バナー

  • バナー