キツい仕事にやりがいを見出すには?“日本一有名なゴミ清掃員”となったマシンガンズ滝沢さんに聞いた

2023年4月11日

自分が本当にやりたいことを仕事にできているという人は、残念ながら多くはないのかもしれません。

お笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一さんは安定した収入を目当てにゴミ清掃員の仕事を始めました。しかし、SNSで発信する「#ゴミ清掃員の日常」が注目を集め、いまやメディアで引っ張りだこの存在に。

「日本一有名なゴミ清掃員」として充実した日々を送る滝沢さんに、前向きに仕事に取り組むためのヒントを聞かせてもらいました。

ハードワークの日々、鏡に映った自分に衝撃

──滝沢さんは芸人としての活動の傍ら、2012年からゴミ清掃の仕事を始めたそうですね。

はい。妻の出産費用が必要になって、ゴミ清掃員をしている友達に紹介してもらいました。

──今でこそゴミ清掃芸人としてブレイクを果たしましたが、初めゴミ清掃員の仕事に就いたときはどんな気持ちだったんでしょうか?

最初は素直に「ラッキー!」でしたね。金銭的に厳しく、もうお笑いを辞めるしかないと思っていたので、収入の目処が立ち、これでお笑いを続けられると安心しました。でもやっぱり2年、3年経ってくると、だんだん嫌になってくるんですよね。ゴミ清掃ってハードワークなんですよ。パッカー車(ゴミ収集車)の後ろをずっと走ってついていくはめになったりして、マジで死ぬかと思ったことは何度もありましたよ。奥歯を噛み締めて、なんとか耐えました(笑)。

「ゴミ清掃員は朝早いぶん昼ごろには終わる仕事」みたいなイメージを持っている方は多いかと思いますが、いやいや、ほとんど1日がかりです。自分の担当地域だけで1日10トンから12トンのゴミが出るわけですよ。それを2人で集めたりするわけだから、清掃員ひとりで1日あたり約5トンのゴミを扱うことになりますかね。2トンのパッカー車がすぐ満杯になってしまうので、清掃工場まで6往復くらいします。

──それだけハードな仕事だったら、お笑いとの両立は難しいのでは?

ゴミ清掃の仕事のあとにお笑いライブに出る日もありましたが、正直ヘトヘトでお笑いどころじゃないですよね。ふと鏡を見たら自分の目が真っ赤なんですよ。どうも過度の疲労で目の毛細血管が切れたらしくて、そんな目が充血した人間が漫才したところで、そりゃウケません。お客さんからしたら、ただ怖いっていう(笑)。

自分なりに課題を見つけるようにすると、仕事が楽しくなった

──そこからどのようにして、ゴミ清掃の仕事に前向きに取り組めるようになったのでしょうか?

テレビで、元M-1チャンピオンがひな壇の隅に座っているのを見たんです。「売れっ子の芸人がこの位置に座っているなら、自分の居場所ってテレビにあるのか?」と冷静に考えたんですよね。

そこから「じゃあ目の前のことを一生懸命やるしかないよな」と逆に前向きになれました。ハードワークだからとゴミ清掃の仕事をいやいやするんじゃなくて、一生懸命やっていれば芸人としての活動にも何か良い影響があるかもしれない。

「せっかくだし、ゴミのことをたくさん知ろう。日本一のゴミ清掃員になってやろう」と決めたとき、世界の見え方が変わりました。

──前向きになった結果、日々の仕事はどう変わりましたか?

日本一になると決めたら、一気に楽しくなりました。ゴミ清掃の現場は理不尽なクレームも多いんですよ。こっちは絶対に回収したはずなのに「ゴミが回収されていなかったので今から取りに来てください」とか言われたり。腹立つでしょう?でもただ腹を立てたって仕方ない。どうすればクレームがなくなるか考えて、「顔見知りになっちゃえば、クレームを入れにくくなるだろう。じゃあ通りすがる人全員に挨拶しよう」と試してみたりするようになりました。

もちろん試したこと全部が上手くいくわけじゃありません。でも仕事に対して受け身じゃなくなった時点で、気持ち的にすごく楽になれるんです。ただ上司から「あれをやれ、これをやれ」と言われるだけだと、仕事は辛いですよね。でも自分なりに課題を見つけるようにすると、目の前の仕事が楽しくなってきました。

事務所の先輩・有吉弘行さんの意外なアドバイス

──SNSで「#ゴミ清掃員の日常」のハッシュタグを使って、ゴミ清掃員のあるあるネタやゴミの捨て方について発信するようになったのはいつごろですか?

5、6年ほど前ですかね。「『お笑いのことをつぶやかずに何つぶやいてんだよ』って芸人仲間にツッコまれたらおもしろいかな?」くらいの軽い気持ちでツイートしたら、事務所の先輩の有吉弘行さんがリツイートしてくれて、結構すぐ話題になりました。有吉さんには本当に感謝です。

──ツイートが話題になった結果、滝沢さんのもとには「これは可燃ゴミですか?不燃ゴミですか?」のような質問も多く寄せられていますよね。いつも丁寧に回答されていますが、正直なところ、「その質問もう5回目だよ!」みたいにイライラする瞬間はありませんか?

まぁ、ありますね。「2日前に同じこと言ったばかりだよ!」とか(笑)。でもそれは本当に知りたいのだろうから、そこまで腹立たないですけど、テメーらは黙ってごみだけ拾ってりゃいいんだよ、みたいな中傷は腹立つこともありますよ。

でも何年も前に有吉さんに「何を言われても絶対にキレるな」というアドバイスをいただいているんで、そこは絶対に守っています。有吉さんはそういう人が現れるのを見越していたと思うんです。

やっぱり一度キレると、「この人の話を聞くのはイヤだな」と感じる人がどうしても出てきちゃう。自分の目指すゴールは、ゴミの分別への世間の理解を一歩でも進めることですからね。まっすぐゴールにたどり着くためには、たとえイラッとしてもグッと堪えるのが大事です。

──一度キレてしまうと、話を聞いてもらえなくなる。多くの社会人に刺さりそうな話題ですね。

ゴミに関する周知活動をしていて、「同じ強度で繰り返し言い続けるのが大事」というのは実感します。たとえば、「宅配ピザの箱を資源で出す人がいるけど、あれは可燃ゴミなんです」っていう話はもう今まで10回近くツイートしてきたんですけど、この前初めてバズったんですよね。発信する側はつい「この話は一度したから、もうみんなわかっているだろう」という感覚になってしまうけど、実際まだ世間には全然伝わっていないわけですよ。だから「この情報をまだ知らない人が世の中のほとんどなんだ」ということを肝に命じて、伝えたいメッセージは、何度でもしっかり発信しないといけません。

錐(きり)で空けた穴から、自然と世界の広がりが見えてくる

──滝沢さんはゴミ清掃員の仕事に本気で取り組んだことで、メディアで引っ張りだこの存在になりました。もしも誰かに「仕事がつまらないんですけど、どうしたらいいですか?」という悩みを相談されたとしたら、どうアドバイスしますか?

1日の大半がはたらいている時間なのに、それを楽しめないのはもったいないじゃないですか。「仕事はつまらないけど、この部分だけは好きだな」みたいに少しでもやりがいを見つけて、せっかくなら一生懸命に仕事したほうが楽しいはずです。愚直にやっていると、きっと周囲のあなたへの接し方も変わってくる。そしたら仕事がまた少し楽しくなる。そう信じてみるのが大事なんじゃないでしょうか。もちろん、ブラック企業とかだったらすぐ辞めたほうがいいですけどね。

──滝沢さんは芸人ですし、目の前のことにおもしろさを見出すのが上手なんだと思いますが……。

いやいや、そんなことないですよ!僕だって初めは生きていくために無理やり仕事をおもしろがってみたようなものですから。窮地に立たないと、なかなか人間は本気を出せません。目が真っ赤になるほどのハードワークの中で、僕もやっと「このままじゃ人生つまらないぞ」と焦りました(笑)。別に自分は楽しいことを見つける天才でもなんでもなくて、ただ少し見方を変えてみただけです。「よし、楽しいことを見つけよう!」と思った時点で、きっと何かが開けるんじゃないでしょうか。

僕は小説を書いたりなんかもしていて、作品を添削してくれる先生がいるんですよ。その方の言葉を座右の銘みたいにしています。

──どんな言葉ですか?

僕はつい作品にいろんなことを詰め込みたくなっちゃうんですが、先生から「錐で刺した1点だけを書いてください」とアドバイスされました。「錐で空けた穴から、自然と世界の広がりが見えてきますから」って。今、本当にその通りだなと実感しています。僕はゴミ清掃員を一生懸命やったことでオファーが増えましたし、ゴミを通して世界の環境問題や貧困問題も見えてきました。一つのことを愚直にコツコツやると、ある瞬間から一気に広がるんですよ。

ひとつのことを真剣にやれば、いろんなものが後からついてくる

──今はどのくらいの頻度でゴミ清掃員の仕事をしていますか?

ゴミ清掃はもう「好き」の領域なので、ほかの仕事が忙しくても週1、2日は出勤を続けています。一般社団法人を立ち上げたりして、最近ちょっとバタバタしてはいるんですよね。

──どんな社団法人ですか?

“ゴミ屋敷片付け芸人”っていうのが後輩にいるんですよ。ほかにもお坊さん芸人とか葬儀屋芸人、行政書士の資格を持っているやつもいて、「みんなで組んだら、終活のサポートができるじゃん!」と考えたんです。高齢化が進み、これから日本ではゴミ屋敷がどんどん問題になっていきそうです。一人の人間が生きているあいだに溜め込むモノの量は膨大ですが、身体が弱ってくると掃除や片づけは重労働。そこで僕らが終活のお手伝いをできたらと思って始めた社団法人です。

──ひとつのことを突き詰めた結果、組織のトップにもなってしまったんですね。

ゴミのことを一生懸命やっていたら、同じくゴミに一生懸命な人たちが協力してくれるんですよ。ひとつのことを真剣に誠実にやっていたら、いろんなものが後からついてくるもんだなぁと感じています。……実はいろんな人から「政治家になれ」と勧められているんですが、それはイヤなんですよね。ゴミのことだけやれるならいいんだけど、絶対ほかのこともやらなきゃいけなくなって、それこそ“錐の1点”がブレちゃいそうですから。

──ゴミ清掃員として話題になった結果、芸人としての夢も叶った……なんてことはありますか?

一点をやり続けることによって、人に求められるようになったことですかね? それまではどこにいってもいらない人間扱いされていたんで、今がとても有り難いですね。たけしさん、ダウンタウンさんにもお会いできたんで自分でも信じられないです。

ゴミ業界のトップになったから、お笑い界のトップにも会えたわけですね。

あの時、日本一のごみ清掃員になろうと思って良かったです(笑)。

(文:原田イチボ 写真:小池大介)

※ この記事は「グッ!」済みです。もう一度押すと解除されます。

67

あなたにおすすめの記事

同じ特集の記事

  • シェア
  • ツイート
  • シェア
  • lineで送る
編集/ライター原田イチボ
1990年生まれ。編集プロダクション「HEW」所属。アイドル、プロレス、BL、銭湯サウナが好き。

人気記事

日本で最初のオストメイトモデル。“生きている証”をさらけ出して進む道
スタバでも採用された「最強のカゴ」。老舗工具箱屋が、アウトドア愛好家から支持を集めるまで
SNSで話題沸騰!『おたる水族館』の、人びとを笑顔にする“グッズ開発”の裏側
自分で小学校を設立!北海道で“夢物語”に挑んだ元教師に、約7,000万円の寄付が集まった理由
「歌もバレエも未経験」だった青年が、劇団四季の王子役を“演じる”俳優になるまで
  • シェア
  • ツイート
  • シェア
  • lineで送る
編集/ライター原田イチボ
1990年生まれ。編集プロダクション「HEW」所属。アイドル、プロレス、BL、銭湯サウナが好き。

人気記事

日本で最初のオストメイトモデル。“生きている証”をさらけ出して進む道
スタバでも採用された「最強のカゴ」。老舗工具箱屋が、アウトドア愛好家から支持を集めるまで
SNSで話題沸騰!『おたる水族館』の、人びとを笑顔にする“グッズ開発”の裏側
自分で小学校を設立!北海道で“夢物語”に挑んだ元教師に、約7,000万円の寄付が集まった理由
「歌もバレエも未経験」だった青年が、劇団四季の王子役を“演じる”俳優になるまで
  • バナー

  • バナー