「元号ロゴ」作者に聞く アイデアの発想法と“落とし込み力”とは?

2022年6月7日

明治、大正、昭和、平成──日本の古きよき時代を味わい深く表現した「元号ロゴ」が、SNSで話題になっています。

Twitterユーザーからは、「なんとも趣がある」「明治はまさに“開花”ですね」と関心する声や、「令和はどうなるのか楽しみ」と期待する声が寄せられ、2022年5月時点で29.6万いいねと、4.5万ものリツイートがつく爆発的ヒットとなっています。

「元号ロゴ」を制作したのは、Twitterを中心に活動するデザイナーの「みっけ」さんです。みっけさんは元号ロゴのほかにも、「ポケモンの名前ロゴ」や「推しを語彙豊かに褒めたいときの形容詞集」など、テーマにロゴを制作。伝えたい要素を、みごとにデザインに落とし込んでいます。

数日に一度、投稿されるたびに話題となるみっけさんのロゴ。一体、どのように制作されているのでしょうか?ご本人にお話を伺うと、その貴重なエピソードから、多くの人々を惹きつけるヒントが見えてきました。

漢字は一から手書き。発想源はTwitterのトレンド

──みっけさんは、デザイナーが本業なのですか?

本業は別にあるんです。高校でデザイン科に通っていて、本当はそのころからデザインのお仕事に就きたかったのですが、1990年代生まれの私が卒業するころは就職氷河期で、そもそも就職先の選択肢が少なくて……。

一度は接客のお仕事に就いたのですが、やはり自分のペースで作業できるクリエイティブな仕事のほうが私には合っていたようで、数年で地元・香川県の写真関連会社に移りました。そこで写真の加工を主に担当していて、今6年目になります。

──Twitterで話題の元号ロゴも、趣味で作られたということでしょうか?

はい、休日に息抜きとして作ったものが多いです。ただ最近は、企業さまからご依頼をいただくこともあります。

最近ではフォント制作会社・フォントワークスさんからのご依頼で「フォントに関する豆知識や技術」をTwitterで投稿させていただいたり、2月にはヴィレッジヴァンガードさんとコラボして、Tシャツや帽子などのグッズを販売させていただきました。

ゲーム制作会社さんやVTuberさんから、タイトルロゴ制作のご依頼をいただいたこともあります。

──「元号ロゴ」は何から発想を得たのでしょうか?

最近、街でよくレトロなデザインを見かけるようになって、「レトロブームが来ているのかな?」と思っていました。

もともと1970年代風の古着やアンティークなものが好きで、デザインも自然と昔風のものが多くなっていたのですが、あるときTwitterで「平成レトロ」がトレンド入りしているのを見たんです。

平成も懐かしい部類に入るんだ……と感慨深くなって調べると、「平成ポップ」や「昭和レトロ」のように、元号にもそれぞれに言い回しがあることを知りました。おしゃれだなぁ、と思ったのと同時に、「それぞれの解釈をイメージ化してデザインに落とし込んだら、その時代ごとの背景を表現できるのでは?」と思いついたんです。

──Twitterのトレンドが発想源だったんですね。そこから、どうやって制作されたのでしょうか。

Illustrator(イラストレーター)というデザインソフトで、漢字の部分は手書き、英文字は既成のフォントを使用しました。その時によって紙やパソコンにラフスケッチを描くこともありますが、元号ロゴはIllustratorにぶっつけ本番で描きました。

みっけさんのデスク。左下に見える「ペンタブ」にタッチペンを走らせると、パソコン画面にイラストが描ける

これが実際の制作画面です。

──貴重な画面をありがとうございます。「明治」「大正」「昭和」「平成」は、フォントではなく“手書き”なんですね!

そうなんです。最初に漢字を作ったので、英文字はあとから、漢字の雰囲気に合うフォントを選び挿入しました。

「どのフォントを選ぶかはフィーリングに頼る部分が大きいです」(みっけさん)

──手書きの漢字の形のイメージは、どのように考えられたのですか?

たとえば、大正は「髭」がモチーフなのですが、昔の“書き文字”を集めた本を参考にして、「いいな」と思ったものを組み合わせたり、自分なりにアレンジしたりして、最終的にオリジナルのものにしました。

フォントや“書き文字”の本が多く並ぶみっけさんの本棚

平成は、唯一私が生きた時代なので、自分の中の平成の印象をそのままロゴにしています。

あくまでも私の体感ですが、流行の発信源がテレビや雑誌だった昭和に対して、平成はネットが普及して、流行があちこちで生まれている状態があたり前になっていたと思うんです。なので、まとまりがあるというより、多様な図形が一つになったような「ごちゃごちゃしつつも楽しい雰囲気」を表現したくて、こういったデザインにしました。

「活字が苦手」だからこそ閃く、伝わるデザイン

──頭の中にイメージがあっても、それを形にできる人はごく僅かだと思います。みっけさんの発想力は、たとえば読書などで培われたのでしょうか?

いえ、その真逆なんです。実は、小説のように文字のたくさん書いてあるものは苦手で……。

学生時代に“朝読書”の時間があったのですが、私は何度も読んだような箇所をくり返し読むだけでしたし、夏休みに読書感想文の宿題が出たら、本を読みたくないあまりに「図鑑」で書いたりしていました(笑)。

だからきっと、「難しくない、ぱっと見てわかるものが好き」という気持ちが根底にあるんだと思います。

──みっけさんご自身が「分かりにくいものが苦手」だからこそ、誰にでも伝わるデザインが閃くんですね。

そうかもしれません。特に今の時代は、何かをじっくり見たり読んだりするより、スマートフォンでぱっぱっと流し見しながら「いいな」と思う情報を探す方が多いと思うので……。アイデアが複数あって迷ったときにも、見る方に「伝わるかどうか」を基準に取捨選択しています。

たとえば下記は、宇宙の惑星の光が地球に届くまでの年月を、スマホのアプリ風の画面で表現したイラストです。ただ、最終的に却下としました。

モチーフは音楽アプリの再生画面。太陽の光・月の光が届くまでの時間を表現したが……

なぜ却下したのかというと、スマートフォンの画面が2つあることで、見る方の視線が散って、本来伝えたい「光が届くまでの年月」の数字に目がいきにくいと感じたからです。それで、こちらを新たに作り直しました。


新しいデザインは、インスタのDM画面をモチーフにしました。こんな風に、みんなが普段見慣れているものをモチーフにすると、見る人の視線を惹きつけやすいと言われているんです。

それに合わせてテーマも、月よりも数が多い「星座」へ変更。「私たちはいつの光を見ているのか」を、必要な情報だけを抽出しつつ、遊び心も取り入れたデザインにしました。

──こうした魅力的なアイデアは、どうやって生まれるのでしょう?

普段から、デザインに使えそうなネタを探す癖はあるかもしれません。たとえばショッピングの際も、「1周目で自分の欲しいものを見て、2周目でデザインの引き出しを増やす」と決めて見て回っているんです。気になるものを見つけたら、スマホにメモします。

インターネット検索を使うこともありますよ。何を描こうかな、と思ったら、興味のある物事をざっくり検索します。いろいろな情報がヒットしますが、私はWikipediaと「ニュース」のタブを主に見ています。

Wikipediaは関連するワードを拾いやすいですし、「ニュース」のタブはそのワードの最新情報やトレンドが分かるんです。そこからは連想ゲームのように、前述の「私たちはいつの光を見ているのか」で喩えると「月→惑星→星座」のような感じで、ピンとくるものを探していきます。

──Wikipediaとニュースタブを駆使されるんですね!その後ロゴ制作に入るわけですが、みっけさんがロゴを作る際の「こだわり」はなんですか?

そうですね……。1つ目は、楽しさと分かりやすさの両方がある、「伝わる」デザインであること。2つ目は、見る人が興味をそそられてしまうような、話題性のあるテーマであること。3つ目は、私自身が楽しんで作れることでしょうか。

特にクライアントさんからいただいた「お仕事」の場合は、先方が私のデザインを通じて何を知ってほしいのか、それを伝えたいターゲットは誰なのかを明確に表現できるよう気を付けています。たとえば、20〜30代の方に向けて子どもっぽい雰囲気のデザインを発信しても、「これは自分に向けたものではない」と誤解されて、見てもらえない可能性があります。

「芸術」は自己表現の世界なので、伝わるか伝わらないかは自由です。でも「デザイン」は、伝える対象がいて初めて成立するものだと思っているので、そもそも見てもらえなければ意味がないんですよね。

2022年3月、15.8万いいねのついた「ポケモンの名前ロゴ」

──Twitterで、ユーザーからの「もっとこうしてはどうか?」という意見に一つひとつ真摯に対応されているのも、そうした理由からですか?

はい。あと、これは関係ないかもしれませんが、私はAB型の左利きで(笑)、仕事もクリエイティブなものしか長続きしない、少数派でちょっとクセのある性格だと思うんです。

そんな私の表現を「好き」と言ってくださる方や、ご意見をくださる方がいるのはありがたいことで、「苦手」「嫌」と思う方がいるのは好き嫌いの範疇なので仕方ありません。なので、直すべきところは一つひとつ直していきたいです。

本業ではないからこそ、Twitterを「好きな空間」にできる

──みっけさんはなぜ、フォントに興味をもたれたのですか。

イラスト好きな父の影響で、私も昔から絵や漫画を描くのが好きだったんです。中学生のとき、CGイラストが描いてみたくなって、両親にお願いしてパソコンを買ってもらいました。そのCGソフトに、いろいろなフォントが入っていたんです。

就職してからも趣味で絵を描いていましたが、2〜3年前、思うような絵が描けなくなったことがあって。「フォントを使えば、イラストのようにゼロから描く必要がない。いい息抜きになるかも?」と思い、好きな曲のタイトルをデザインしたのが始まりでした。楽しくて、ほかの曲のタイトルを作ったりして、デザインの幅を広げて現在に至ります。

──みっけさんのTwitterのフォロワーは、8万人以上を数えるほどになりました。デザインを本業にはされないのですか?

いつかは本業にしたいですね。

ただ、デザイナーが本業だったら、今のTwitterアカウントは続けてこられなかったと思います。本業じゃないからこそ、Twitterを自分の好きな空間にできているというか。

フォロワー数も見ないようにしているんです(笑)。「こんなにいるんだ」と緊張してしまいますし、一度、一気に何十人も減ってしまったのを見たことがあって……。

──好きな空間で好きなことを発信できるのは、本業が別にあるからこそなんですね。最後にみっけさんにとって、「はたらく」とは何か教えてもらえますか。

第一に生活するための手段、その次に自分が楽しむための道、でしょうか。

「生活のためにはたらかなくては」と思うとしんどいですが、収入が安定するぶん、休日に思いっきり好きなことをやれるメリットもあるんです。なので、本業の中に多少でも「これがあるから続けられる」という要素があるのなら、割り切って続けてみるのもいいと思います。

私も、本業で必ずしも希望の職種に就いているわけではないのですが、自分のペースではたらけてお休みも比較的取りやすいことが、続けられる要素になっています。地方在住なので、現職と同じような待遇で、しかもデザイナー職となるとほぼ見つからないんです。

なので、好きな仕事に就けなくても、そこに続けられる理由があり、かつオンオフをうまく切り替えられる環境なら、楽しく両立できることもある──と伝えたいですね。

(文・原由希奈 画像提供・みっけさん)

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ライター原 由希奈
1986年生まれ、札幌市在住の取材ライター。
北海道武蔵女子短期大学英文科卒、在学中に英国Solihull Collegeへ留学。
はたらき方や教育、テクノロジー、絵本など、興味のあることは幅広い。2児の母。
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