社内で約100人の「耳」を撮影……「ナイトミン 耳ほぐタイム」大ヒットを生んだ担当者の奮闘

2022年2月18日

日中、仕事で高いパフォーマンスを発揮するには、やはり良質な睡眠をとることが大切。しかし、寝つきが悪かったり、眠りが浅かったり、睡眠に関する悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか。

そこで大きな反響を呼んでいるのが、小林製薬が2021年に発売した「ナイトミン 耳ほぐタイム」です。耳栓にカイロを組み合わせたこれまでにないアイテムで、発売からものの2カ月で50万個を売り上げる大ヒットとなりました。

(小林製薬 YouTubeチャンネルより)

耳を温めながら音声を遮断するというアイデアは、いったいどのようにして生まれたものなのか。商品設計を担当した小林製薬の氏家彩奈さんに、開発の舞台裏をお聞きしました。

着想は「耳をあたためると気持ちいい」という体験から

――耳栓+カイロの組み合わせで瞬く間に大ヒット商品となった「ナイトミン 耳ほぐタイム」は、どのようなきっかけから誕生したアイテムなのでしょうか。

この「耳ほぐタイム」の前に、私は同じ「ナイトミン」シリーズで鼻呼吸テープの開発に携わった経験があります。こちらは睡眠時の口呼吸のトラブルに着目した製品でしたが、マーケティングの過程で、ほかにも睡眠時のさまざまな困り事を抱えている人が多く存在することを知りました。

そこで、社内で複数の部門を横断したプロジェクトチームを発足し、さらにいろいろな角度から睡眠時の課題をあぶり出そうと議論がはじまりました。

ある日、メンバー間で睡眠について雑談している中で、「美容室であたたかいタオルで耳を覆ってもらうと、気持ちよくて眠くなるよね」とか、「赤ちゃんって眠くなると体温が上がって耳が赤くなるよね」といった声が上がったことが、耳を温めるという着想につながっています。

――雑談から商品化へのアイデアにつながるというのは、よくあるケースなんですか?

そうですね。最初のアイデア会議では、なんとなく最低限のお題は設定されているものの、わりとみんなで自由に話しはじめることが多いです。メンバーそれぞれの実体験であったり、身近で感じていることであったり。

睡眠に関しては特に、寝付きが悪かったり浅かったりすることで、多くの人が睡眠負債(寝不足)を抱えています。そこで耳を温めてみれば気持ちよく入眠できるのではないかという発想と、そもそも外的な環境音が眠りを阻害するという実体験が組み合わさり、今回の「耳ほぐタイム」の構想が生まれました。

――開発にはどのくらいの期間がかかっているのでしょうか。

私自身がプロジェクトに加わったのは、仕様が固まってからなのですが、最初にアイデアが生まれたのは2018年のことです。発売が2021年ですから、開発に3年強を要した製品ということになりますね。

なお、リリースに際しては、まず2021年2月に一部地域でテスト販売を行ない、そこでSNSを中心に大きな反響が得られ、満を持して10月から全国展開を開始しています。

数百人分の耳を分析して“心地良さ”を追求

使用前に発熱体(白い部分)を耳栓にセットすることで、じんわり耳を温めることができる

――設計においてもっとも苦労されたポイントはどこでしょう?

耳栓の形状ですね。ひとくちに耳栓といってもさまざまな形状がありますし、何より発熱体と組み合わせるのに適した形状を模索する必要がありました。そこで市販の耳栓を50種類ほど集め、片っ端から試すことからはじめているんです。

また、耳というのは一人ひとり形が異なっているので、万人にフィットする耳栓をつくるのは、実はすごく難しいことです。それでも、できるだけ多くの方が違和感なく着けられる形状を探し当てるために、社内で延べ100人近くの耳を撮影して、サイズや形状を分析し、共通点を探りながら最終的な仕様を決定しました。

――100人近くも……!その耳栓にセットする発熱体について、これは使い捨てカイロのようなものなのでしょうか?

機構としては同じですが、発熱体の素材にもいくつかの種類がありますので、その中から心地良さを損なわず、温度が20分ほど持続するものを採用しています。

──なぜ20分なのでしょうか?

寝つきが悪いと自覚している人へのアンケート結果から、多くの方が寝付くまでに20分かかるということが分かりました。そこで20分という時間を目標値としたのです。適切な温度を20分ほど持続させる処方をつくるのが大変で、完成に至るまでに何度も試行錯誤を重ねました。

――そうした苦労の甲斐があり、発売から2カ月で50万個を突破。この反響は想定内ですか?

テスト販売の時点で高い反響を得られていたので、ある程度の期待はありました。それでも、開発当初の販売目標は30万個だったので、やはりびっくりしましたね。

私、SNSでのエゴサーチが趣味なので、発売直後はSNS上の声を毎晩チェックしていました(笑)。そこで「魔法のようにすとんと眠れました」とか、「長年不眠に悩んでいたので助かりました」といったポジティブな感想を見つけるのが、何よりうれしかったです。

――素晴らしいことですね。こうした快眠アイテムというのは特に、ネットユーザーとの親和性も高いイメージがあります。

そうなんですよ。実際、睡眠に悩んでいる人がいかに多いか、エゴサーチをしていてあらためて実感しました。そこで「気持ちよくて毎日リピートしてます」なんてコメントを見つけると、本当にうれしい気持ちになります。個人的に、世の中の人々の身近な困り事を解決したいというのが、この業界を志した理由の一つだったので、なおさらですね。

常に意識しているのはユーザー視点

――世の中の人々の身近な困り事を解決したい。そんな想いを実現するために、氏家さんが製薬業界を選んだ決め手はなんだったのでしょうか。

就活の際にはほかの業界も視野に入れていましたが、私がもっともやりたかったのは、自分が開発した商品が店頭に並び、それを世の中の人に使ってもらうことでした。

その点、小林製薬の製品は私自身もユーザーでしたし、生活の一部としてなくてはならないものが少なくありません。同じように、自然に人の生活に溶け込むような製品をつくりたいというのが、一番の志望動機になりました。

――一方で、消費者が日常で使う製品を開発するというのは、それだけ配慮すべき点が多く、難しい仕事なのではないかと思います。

そうですね。そこで大切にしているのがお客さまの視点に立つことですが、おっしゃる通りこれはすごく難しいことです。試作品が完成するたびに、一般の消費者になった気持ちになって何度も使い、会社の同僚に使ってもらって意見をもらうなどしています。

今回の「耳ほぐタイム」にしても、いろんな人から意見を募った結果、最初の試作品と比べて、だいぶ異なる形状に進化しているんですよ。つけ心地や温度の持続性など、ギリギリまでできる限りの改善を重ねて、最終的なモニターチェックを経て完成しています。

あるいは、こうして発売したあとも、お客さまのご意見を伺う機会は設けていますので、今後も必要に応じてアップデートやリニューアルを重ねていくことになると思います。

――その意味では、氏家さんが趣味としているエゴサーチも、リアルなユーザー視点を知る大切な手段ですよね。

本当にそう思います。喜んでもらえていたり、困っていたことの解決につながっていたりすれば、私自身の元気の源になりますし、逆に不満や批判のご意見があったなら、それは次の開発に活かさなければなりません。もちろん、不評の声を目にするのはショックなことではありますが、気持ちを切り替えて前向きに受け止めたいと思っています。

――しかし、開発者としてキャリアを重ねるほど、純粋なユーザー視点から遠ざかってしまう不安はありませんか?

そこは日ごろから気をつけていて、たとえば普段の生活のなかで当たり前のように使っている製品に対して、疑問を持つことも大切だと思います。無意識であってもどこかに使い勝手の良さがあるからこそ、いつもその製品を選んでいるわけで、その理由をちゃんと考えてみる必要があります。

――なるほど。日常の中にも意外なヒントが隠されているんですね。

それはプライベートでドラッグストアを訪れたときなども同様で、店内を見ていてふと目にとまったり気になった商品には、それなりの理由があるはずです。そうした身のまわりから得た発見が、自分の仕事に生きることは少なくありません。

――まさにそうした日々の積み重ねが、「耳ほぐタイム」の大ヒットにつながったといっても過言ではなさそうですね。

こうしてメディアの取材を受ける経験もそうですが、「耳ほぐタイム」はこれまでの社会人生活になかった経験をたくさん与えてくれました。何より、お客さまの役に立ちたい、喜んでもらいたいという目標を、一番実感させてくれた製品でもありますし、一人の開発者として大きな自信になりました。

おかげで今、仕事が楽しくて仕方がないんですよ。「耳ほぐタイム」が予想以上の反響をいただいたことで、次の製品へのプレッシャーもありますが、期待に応えられるよう頑張りたいと思います。

――氏家さんの目線がすでに、次に解決するべき世の中の困り事に向いている様子が窺えます。

そうですね。睡眠一つをとっても、今回は寝付きの部分に着目した開発を行ないましたが、それ以外にも睡眠を取り巻く問題はたくさんあります。つまり、こちらの着眼点次第で、まだまだいろんな切り口が考えられるはずなんです。

そこで最新の研究を知るために学会に参加したり、周囲の人たちの体験に耳を傾けたり、いろいろな方法で情報収集に努めています。ニーズベースでシーズを探すのが小林製薬らしさでもあるので、今後も既成の市場にとらわれない斬新なアイデアで、皆さんのお役に立てればうれしいですね。

(文・友清哲 写真提供:小林製薬)

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ライター&編集者友清哲
紙もWebもオールジャンルで寄稿中です。主な著書に『日本クラフトビール紀行』『物語で知る日本酒と酒蔵』『作家になる技術』『消えた日本史の謎』『一度は行きたい「戦争遺跡」』ほか。
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