趣味は仕事にしない。人気セルフネイラーの大学生が、ドラッグストアではたらく理由

2022年3月24日

ネイル界ではアートバリエーションが豊富なジェルネイルが主流ですが、ネイルアーティストとして活躍する大学生のぱんなさんは、あえてネイルポリッシュを使い、だれでも気軽に真似できるネイルアートをSNS で発信しています。

ぱんなさんはTwitterで1万人以上のフォロワーを持ち、本物の果物の皮などを模したネイルが18.4万いいねを獲得するなどバズったネイルも多い人気ネイルアーティストにもかかわらず、あえてネイリストにはならず、今春からはドラッグストアで販売の仕事を始めるそうです。

大学時代の活動は、就職活動にどんな影響を与えたのでしょうか。ネイルを始めたきっかけから人気を集めるまで、そしてなぜネイルを仕事にしないのか、ぱんなさんに伺いました。

本物そっくりのフルーツネイルがバズり、世界中から反響が届いた

――ネイルを始めたきっかけを教えてください。

2016年、私が高校2年生の時に、セルフネイラーのしずくさんが書いている『ほぼ100均ネイル』というアメブロを見て「私もやってみたい!」と真似したのがきっかけです。すぐにTwitterを開設して、翌年にはインスタグラムでもセルフネイルを発信するようになりました。

――はじめて反響を呼んだネイルはなんですか?

皆さんもよくご存じのお菓子をイメージしたネイルです。包装紙の柄の部分をハサミでカットして、ネイルに貼り付けて作りました。

アイスをイメージしたネイルも反響がありました。アイスクリームの質感を表現するために、両面テープを剥がした後に残る剥離紙を使って細かい凹凸を作り、マニキュアでも立体感が出るように工夫しています。

最初からこういうちょっと変わった個性派ネイルのデザインを作っていたので、ちょっとずつフォロワーさんが増えていって、高校生のうちに1,000人を超えました。

――その当時、SNSは頻繁に更新していたのでしょうか。

いえ、テスト期間はネイルを塗る暇がなかったですし、大学受験前は数か月放置していました。大学3年生くらいまでは、自分なりに納得できるネイルが完成したら載せるくらいで、ゆったり更新していたんです。だからフォロワーの伸びもゆっくりでした。

――フルーツネイルで一気にバズったんですね。

はい、2022年1月にフルーツネイルを4つまとめて写真で投稿したツイートがバズり、2,000人くらいだったフォロワー数が一気に1万人を超えて……本当にびっくりしました(笑)フルーツネイルを投稿するのは今回が3回目で、1回目と2回目も約1万いいねされるくらいの反響はあったんですが、今回の投稿はTwitterの画面にフルーツネイルの画像がキレイに4つ並んで見栄えが良かったので、あっという間に10万いいねを超えました。

――2022年3月時点で、18.4万件ものいいねがついています。すごい反響ですね。

22時ごろにツイートして、翌朝起きたらとんでもない反響があってびっくりしました。「いいねが1万件を超えたらいいな」くらいに思っていたので、あれよあれよという間に10万件を超えて、あわあわしていました。

あれだけバズると、リプライに外国語が混ざってくるんです。英語とか中国語だけじゃなくて、見たこともない文字が出てきて。「地球にはこんなにたくさんの人間がいるんだな」って不思議な気持ちになったくらいです(笑)

あと、女性だけじゃなくて男性からもリプライをもらえたのがうれしかったですね。もともとネイルに興味がない人にも魅力を感じてもらえたんだなって。

ネイルは「作品」だから、仕事にはしない

――大学や就職先はネイルと関係していますか。

いえ、まったく(笑)。今年の4月から社会人になるのですが、ドラッグストアでの販売に携わります。もともと文学が好きで、大学ではその勉強をしていたのですが、これまでに親などの身近な人が病気を患ったことがあり、就活するにあたって改めて自分の人生を振り返った時に「人の健康を支える仕事に就きたい」と思うようになりました。

でも、大学では一般科目の専攻なので、医師や看護師にはなれません。ほかの仕事で人の健康を支えられないかと考えて、ドラッグストアに興味を持ちました。ほかにも病院の事務や介護などできる仕事はいろいろありますが、ドラッグストアは日常的に利用する身近な存在だし、親身になって話をきくこともできます。多くの人の力になれるかなと思ったんです。

――販売を選んだ理由はありますか?

大学に在学している4年間、100円ショップで接客販売のアルバイトをしていて、人と関わるのが好きだと感じたからです。老若男女問わずいろいろなお客さまがいらっしゃって、たくさんの人と幅広く触れ合えることが楽しかった。そういった点はドラッグストアもきっと同じで、楽しめそうだなって思えたんです。

――コロナ禍での就職活動には苦労しませんでしたか?

友達との情報交換はあまりできなかったですね。大学3年生になった時にはコロナが流行り始めていて、リモート授業に切り替わり、ほとんど大学に行っていませんでした。だから友達の就活がどれぐらい進んでいるかなどは分からなかったです。後になって聞いた話ではみんな夏くらいからインターンに行き始めたらしいんですけど、私は5月に就活をスタートしていました。

――エントリーシートや面接などでネイルについて紹介しましたか?

していません。ドラッグストアの面接でネイルの話をしたら「ネイルの仕事じゃなくていいの?」と言われてしまうんじゃないかなって。ネイルはあくまで自分の趣味で、無理に仕事にしたいとは思わなかったです。でも、はたらくようになってからも続けたい大切な趣味ではありますね。

――ドラッグストアの販売員だと、ご自身でもあまり個性的なネイルはできなさそうですが、それは気にならないのですか?

私はおしゃれするためにネイルをしているのではなく、ネイルで作品を作りたいだけなので、気になりません。「この5つの爪とネイルポリッシュを使って何が作れるかな、どんな表現ができるかな」って考えながら、おもしろくて素敵な作品を作りたいだけなんです。

だからいつも片手にしかネイルしないんですよ。数時間かけて完成させたネイルも、写真を撮って記録したら、すぐに落としちゃいます。あくまで作品であってファッションじゃないから、実際に人に見せることもほとんどありません。ちょっともったいないかもしれませんが(笑)

――もったいないです(笑) 個性的なネイルデザインなのは「人と違った作品を作りたい」という思いがあるんでしょうか。

「人と違うことをしたい」っていうより、もともと絵を描いたり手芸で何か作ったりするのが好きで、ネイルもその延長線上にあります。だから、私がやりたいネイルは仕事にしにくいんです。オフィスで好まれるワンカラ―ネイルやフレンチネイルみたいに、一般的なネイルをしたいわけじゃないので、ネイリストは向いていないと思うんですよね。中途半端な仕上がりで納得できないものは世に出したくないですし……趣味として楽しむのが合っているんです。

得意な趣味は、仕事にしなくても支えになる

――SNSでネイルを発信するようになって、成長を感じたことはありますか。

企画力や行動力がついたと思います。ネイル関連の投稿をしている方は、よく「このテーマのネイルをいつまでに作って、このハッシュタグをつけて投稿しましょう」といったイベントを企画するんです。いろいろな人が発起人になるので、テーマも参加条件も毎回違います。私もちょこちょこ参加していて、自分でも何度かイベントを企画しました。

――楽しそうですね!どんな企画を考えたんですか?

自分が好きなネイルポリッシュでネイルして、そのポリッシュと一緒に紹介する企画を考えました。よくアイドルなど自分が応援している人を「推し」って言うじゃないですか。それのネイルポリッシュバージョンなので「推しポリネイル祭り」というハッシュタグにしました。

実際に使っているネイルポリッシュといっしょにネイル紹介したら、そのネイルを「やりたい!」って思った人がすぐ真似できていいなって思ったんです。だからわかりやすくアイテムを紹介したくて、テンプレートを作成して購入場所や価格まで一目でチェックできるように工夫しました。

人によっては開催者のフォローが参加条件だったりするんですけど、だれでも気軽に参加できるようにしたかったので、特に参加条件は設けずに開催しました。推しポリネイル祭りをきっかけに知り合った方もいて、新しいつながりができてうれしかったです。このようなイベントを企画するのは初めてで、いい経験になりました。

――ほかにも「発信していてよかった」と思ったことはありますか?

ネイルを始めるまでは、「私にはこれがある!」って言える強みも特徴もなかったから、自分のことがあまり好きじゃなかったんです。絵を描くのは好きだったけど、私より絵が上手い人はたくさんいるし、胸を張れるものではありませんでした。

そういう時にネイルと出会って「楽しい!」と感じて、普通のネイルとは違ったネイルアートをするようになって、見た人から「おもしろい」「かわいい」って言ってもらえて、すごく自信がついたんですよね。SNSで発信していたからあれだけの反響をもらえたので、やっていてよかったって思います。

自信がつくにつれて自分のことが好きになれて、自己肯定感が上がりました。今ではネイルが心の支えです。ドラックストアでの仕事に直結するわけではありませんが、これからはたらく上でネイルの存在は私にとって、すごく役に立つものだと思います。

――これからはどんな活動をしたいですか?

SNSでの発信以外で、何かネイルにまつわるものをいつか形にできたら素敵だなと思っています。本なのか、ネイルグッズなのか、あくまでも夢なので、本当に実現できるかもまだわからないですが……。何にせよ、ネイルを始めるきっかけを提供したいですね。私自身、セルフネイラーのしずくさんの“100均ネイル”を見て「100円のプチプラアイテムでもこんなにかわいいネイルができるんだ」と思って始めたので、自分もそんなきっかけをつくりたいです。

私がネイルポリッシュで作るネイルにこだわっているのも、気軽にネイルを楽しんでほしいっていう思いがあるからです。最近はジェルネイルが人気ですが、準備するアイテムが多く、塗るのもオフするのも時間がかかります。ネイルポリッシュを爪に塗って乾かすだけだし、リムーバーですぐに落とせるので、気軽に楽しめるかなと。

――これから入社するドラッグストアでは、どんなはたらき方がしたいですか?

「人の健康を支えたい」という思いが軸にあるので、体調不良の方や、その家族の方に寄り添った接客をしたいです。その上で、ネイルをする時間も大切にして、週に1回はネイルアートを投稿していくのが理想ですね。ネイルは自分の「一番好きなもの」。これからもプライベートで楽しみます。

(文・秋カヲリ 写真提供・ぱんなさん)

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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