現役小学生ママが開発。話題の軽量ランドセル、誕生の舞台裏

2023年5月8日

「時間はかかっても、いきなりは売れなくても、絶対にニーズがあると思ったんです」

岡本直子さんは、小学3年生の息子さんを育てる母親であり、2021年から反響を呼ぶ、ある商品の開発者でもあります。その商品とは、「NuLAND(ニューランド)」というランドセル。従来の固定概念をくつがえし、これまでになかった機能性とデザインを兼ね備えたランドセルです。

それまで、広告代理店やテレビ局、米国の大手テレビネットワークの日本法人やSNSメディアと、多彩なキャリアを歩んできた岡本さん。なぜ、NuLANDを開発することになったのでしょうか?

「すぐ欲しい」と思ったから、「すぐつくろう」と思った

「ランドセル」といえば、新小学一年生が背負って歩く姿が可愛らしい、春の象徴的な存在です。ですが近年、その重さや高額化が問題視されています。

教科書がB5サイズからA4サイズになったり、水筒やタブレット端末が持ち物に加わったりしたことで年々ランドセルの総重量が増え、場合によっては8kg近くなることもあります。また、ランドセルの購入金額帯は、一般社団法人日本鞄協会 ランドセル工業会の調査によると、5万5,000円以上が半数以上だと言います。

2019年春、岡本さんは、息子さんのランドセル選びで悩んでいました。

「ランドセルって高いなぁ……と思いました。最初は安いものでいいや、と思っていたんです。ただ周りを見渡すと、あたり前のように高額なランドセルを買っていて。なんとなく(安いものだと)息子に悪いんじゃないか?という気持ちになって、両親からもお祝い金をもらったので、周囲の皆さんが持っていらっしゃるような価格で、私が気に入ったものを購入することにしたんです」

(写真はイメージ)

息子さんが入学したのは、2020年4月。コロナによる休校が続き、本格的に学校生活が始まった時はすでに初夏でした。

「重たいランドセルを背負い、帰宅後は背中まで汗びっしょり。下校中にゲリラ豪雨に遭って、ランドセルごとずぶ濡れで帰ってきたこともありました。なにより熱中症が心配でしたし、高価なランドセルを常に『傷つけないで〜!』とか、『雨カバーして!』とつい、子どもに言ってしまう自分もいて……」

そんな時、近所に住む小学生がランドセルではなく、リュックサックで通学するのを見かけたのです。「なんだ、これでいいんだ!」岡本さんはそう思い、ランドセルの代わりとなるリュックサックを探してみることにしました。

けれども、岡本さんの探し求める商品はなかなか見つかりません。

そこで岡本さんは、当時事業部代表を務めていたママ向けSNSメディア「ママタス」の事業として、ランドセルをつくって販売できないか?と考えました。ママタスの通信販売部門でそのころ、オリジナルマザーズバッグが人気を集めていたのです。
岡本さんが目指したのは、ランドセルを2021年春の入学シーズンに発売することでした。開発期間は、約5カ月です。

「すごく早いと驚かれるのですが、私自身が『すぐ欲しい』と思ったので、すぐにつくろう、と思いました。これは今思うと、過去にはたらいていた外資系企業で当たり前だったやり方なんですね。常にゴールを定めて、そこから逆算する。固定概念にとらわれるな!がスローガンだったんです」

まず行ったのは、ママタスで延べ8,000人以上の保護者と小学生にアンケートを取り、ユーザーの課題とニーズを探ることでした。すると、保護者たちから次のような願いがあったのです。

「とにかくランドセルを軽くしてあげたい」
「ひっかかり事故防止のためにも、教科書・体操服・上履き・水筒・リコーダなどをすべてランドセルの中にしまって、両手を空けてあげたい」
「タブレット端末は、衝撃を感じないところにしまいたい」
「お弁当を傾けずに入れたい」
「マスクや家の鍵、交通系ICカードをすぐに取り出せるポケットが欲しい」……

さらに、小学校高学年の子どもたちからは、

「授業が終わったら早く荷物を入れて、早く家に帰って遊びたい」

という、子どもの視点ならではの声が寄せられました。

子どもたちの声から、「上からでも横からでもパッと教科書やノートを出し入れできるようした」という

2021年11月、岡本さんは一大決心をします。「会社を辞めて、ランドセルづくりをしたいんです」と、社長に伝えたのです。

「事業部代表としてやらなければいけない仕事もある中で、片手間でできそうにないとも感じました。それに、ランドセルづくりはあくまで私がやりたいこと。会社にもミッションがある中、自分だけの想いでどっぷり注力するわけにはいかない、と思ったんです」

2021年1月に独立し、合同会社RANAOSを立ち上げた

会社と相談し、一時は会社の仕事とランドセル開発を両立した岡本さんでしたが、1カ月も経たないうちに体調をくずし、入院してしまいます。この時、「両方やるのは無理だ」と、2足のわらじをスパッとやめることにしたのです。

どうすれば「ランドセル見え」するか?

岡本さんは、あるデザイナーに声を掛けました。女性用下着ブランド「ピーチ・ジョン」の広告や、アイドルグループ「嵐」の展覧会のアートディレクション、著書絵本『パンのおうさま』シリーズなどを手掛けるクリエイター、えぐちりか氏です。

「何人かのデザイナーさんにご相談していたのですが、やはり“自分ごと”としてやってくださる方がいいと思いました。えぐちさんには3人のお子さんがいて、上のお子さんは小学生、2番目のお子さんはラン活(ランドセル選び)を終えたぐらいの時期だと知り、きっと共感してくださると思ったんです。ご多忙なことは承知しつつも、『起業し立てで知名度もないブランドですが、ぜひお願いしたいんです』というラブレターを、Instagramに書かれていたお問い合わせ先に送りました」

結果は、Yes。岡本さんがランドセルをつくることになった経緯に、共感してもらえたのです。製造を担うパートナー工場も見つかり、さっそく、サンプルの制作に取り掛かりました。岡本さんとえぐちさんがディレクションし、制作はパートナー工場が手掛けます。

「小学生の保護者の方たちにヒアリングをした時、機能面でたくさんのリクエストがありました。ただ、保護者の立場からすると、あまりにも(ランドセルの見た目と)かけ離れると、子どもに買いたくても買えない。『機能も大切、でもデザインも重要』というのが、皆の望むことだったんです。ランドセルの形って、可愛いですよね? あの丸さをどう表現したらよいか、どんな素材ならランドセル見えするか?という部分に、すごく時間をかけました」

そうして完成した、第一弾のサンプル。一方それは、機能面を満たしていたものの、岡本さんやえぐち氏が思い描いたよりも、リュックサックに近い形状でした。

「どうやったらゴールできるのかな……?と不安もありつつ、私とえぐちさんでアイデアを出し合って、『どうにかしてランドセルっぽく見せたいんです。いい素材や加工方法はありませんか?』と、パートナー工場に何度も相談しました」

短期間で試作を複数回くり返し、たどり着いたのが、荷物が多い日はランドセルの奥行きを広げられる「拡張機能」がついた、丸みを帯びたデザインのランドセルでした。

素材は「RENU(レニュー)」という、使い終わった古着や、工場での生産時に出た廃棄生地を原料とする再生ポリエステル。子どもの体だけではなく、環境にも配慮している。価格は平均購入額の5〜6割に抑えた

「NuLANDの特長は、『軽いけれど、大容量』なんです。たとえば革製のランドセルは、厚みがあるので、外寸は大きくても内寸のマチ幅が平均12〜13cmなんですね。NuLANDは『普通のランドセルより小さい』とよく言われるんですけど、マチ幅16cm、拡張すると20cmになるので、体操着や運動靴、水筒も全部中に入ります。軽さ重視のために削ぎ落とされがちなポケットも、全部で8つつけました」

こうして、896gという業界最軽量レベルの軽さを機能性を落とさずに実現しつつ、「ランドセルならではの可愛らしい見た目」も叶えることができたのです。

ネーミングは、岡本さんの「ランドセルとLand(土地)を掛けて、『ランド』は入れてほしい」という要望をもとに、えぐち氏が考案。「New」とRENUの「NU」を合わせ、「新しい未来の大陸へ行く」という意味の「NuLAND」になりました。

※発売当初の重量。2023年モデルはフラップ付きで約930g、フラップを外すと約700g

他社を参考にしなかったわけ

2021年3月に発売を発表し、いよいよ3月25日からブラックの販売を開始。4月には全カラーのサンプル完成と同時に、新宿マルイのポップアップストアに約1カ月間の出店も予定していましたが、コロナによる臨時休業で、延期による延期となってしまいます。

一方、母親たちからは、「早く見たいです!」「いつ実物を見られるんですか?」という声が相次ぎました。SNSで複数のインフルエンサーがNuLANDを絶賛し、それがバズっていたのです。岡本さんは、新宿マルイに交渉。「臨時ポップアップストア」として、週末の3日間、2週にわたって出店することが決まったのです。

「通路に長テーブルやパーテーションを置いて、“ニューランド特設展示会”と横断幕を貼ってやったんです。『来てもらえるかな?』と本当にドキドキしたのを、今も覚えていますね。けれど初日から皆さん来てくださり、『待っていたんですよ!』とおっしゃってくださって……。SNSを見て来てくださった方がほとんどですが、意外だったのは、『4月に入学したばかりなんですけど、重くてダメなので買い直したい』という一年生のママさんがすごく多かったことです」

この日、息子さんが突然父親と展示ブースへ遊びにきたことも、岡本さんの記憶に焼きついています。「ママのお店を見に行きたい」と、息子さんから言ったのだそうです。息子さんはいよいよ、岡本さんと日本中の親子の想いが詰まったNuLANDで通学できるようになりました。

「息子には何度も試着や撮影に協力してもらい、めんどくさいと思われていると思うんですけど(笑)、クラスのお友達がNuLANDを使っているのを見るとうれしいようで、いつも報告してくれます」

SNSで認知度が急上昇したこともあり、2021年モデルは全色完売。2022年モデルも岡本さんの想像を超える量の注文があり、7月に数量限定で販売した「ピンク」をはじめ、各色がすべて完売しました。

「どうしても欲しい」という要望に応えて、1位と2位の売れ行きだった「ブラック」と「ネイビー」を10月と12月に再販。2022年11月に100個限定で販売した「アップルレザーモデル」も、「ものの45秒で売り切れた」といいます。

「大変な反響の大きさに、喜びと、より大きな責任感も感じる出来事でした」と、岡本さんは当時の気持ちを振り返ります。

驚くことに岡本さんは、NuLANDの開発にあたり、他社製品をほぼ参考にしませんでした。競合調査には開発のヒントが詰まっていそうなものですが、一体なぜなのでしょうか?

「答えはユーザーの中にある、と思っているんです。今はマス(大多数)の時代じゃなく、個の時代じゃないですか。今ランドセルを使っているユーザーさんにどのような希望があるのか。保護者の方や子どもたちの意見を聞いて、サンプルをつくるたびに徹底的に取り入れました。

発売後にも、思った以上に小柄なお子さんが多く、『チェストベルトが欲しい』というお声をすごくいただいたんです。なので、追っかけで黒のチェストベルトを販売したところ、今度は『いろいろな色が欲しい』とご要望があって。さらに追加で販売すると、色の変更を希望される方が続出して(笑)。大変ではありましたが、購入者の方全員にご連絡して、ご希望の方すべてに交換を承ったんです。お客様の要望でつくってみて良かった! と思った瞬間でした」

もともと自身の息子さんのことを思い、ランドセルづくりに挑戦した岡本さん。ところが開発を進めるうちに、「息子のためイコール、息子のお友達。そして、世の中の子どもたちのため」と視野が広がり、のめり込んでいきました。

「私もまさか、自分でつくるとは思いませんでした。ただ、自分の中で“やりたい”と思った時は、行動することで何かにつながるタイミングだと思うんです。固定概念にとらわれずに、ためらわずチャレンジしてほしいな、と思います」

(文:原 由希奈 写真提供:NuLAND)

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ライター原 由希奈
1986年生まれ、札幌市在住の取材ライター。
北海道武蔵女子短期大学英文科卒、在学中に英国Solihull Collegeへ留学。
はたらき方や教育、テクノロジー、絵本など、興味のあることは幅広い。2児の母。
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