店舗での接客を大切にしてきたアパレルもオンライン接客導入へ。人気販売スタッフkomiが語る最新事情

2020年12月21日

一昔前までお店で買うものだった洋服も、今ではオンラインショッピングが当たり前になっています。とても便利で手軽なので、ついつい買いすぎてしまった、なんて人も多いのではないでしょうか。

さらに最近では、コロナ禍で外出を控える人に対応するため、オンラインで接客するブランドも登場しているようです。でも、オンライン接客って一体どうやるのでしょう?

ならばすでに実践している人に聞くのが一番! 今回はInstagramでフォロワー3.1万人、ローリーズファーム(LOWRYS FARM)の販売スタッフkomi(小山瑞樹 @kooooomi64)さんに、アパレル業界のニューノーマルなはたらき方について聞きました。

komi(小山瑞樹)。株式会社アダストリア 販売スタッフ。高校卒業を機に上京後、原宿のローリーズファームで3年間アルバイトスタッフとしてはたらく。2020年から社員として同社に入社し、横浜ジョイナスの販売スタッフとして勤務。インスタグラムでは3万人を超えるフォロワーを擁するインフルエンサーでもある。コロナ禍の店舗営業自粛期間にオンライン接客を開始。

SNSと自社WEBストアを活用して服の魅力を伝える。用途を絞った提案が接客の鍵

──さっそく本題に入りたいのですが、オンライン接客はどのように行っているのでしょうか。 ZoomやLINEなど、ビデオチャットを使うのですか?

将来的には個別に対応したいと思っているのですが、いまはSNSと自社WEBストアの投稿コンテンツを通じた1対多数のスタイリング提案が中心です。コーディネートの写真を投稿していて、SNSはInstagram(以下、インスタ)、自社コンテンツは『STAFF BOARD』です。

──それはご自身がモデルになっているんですか?

はい、三脚を立てて、リモコンで撮影しています(笑)。私は身長が150cmなので、「低身長コーデ」がテーマです。

──『STAFF BOARD』は初めて聞く人も多いと思いますが、これはどのようなサービスなのでしょう。

これは私が勤めるアダストリアが運営する、WEBストア内でスタッフのスタイリングを閲覧できるサービスです。当社はグローバルワークやローリーズファーム、ニコアンドなど30以上のブランドを運営していて、各ショップのスタッフが自社商品のモデルになっています。

──なるほど、店舗に行くと販売スタッフさんが自社ブランドを着て「こんな着こなし方ができますよ」と提案していますね。これをオンラインで行っていると。

はい。『STAFF BOARD』にはグループのスタッフ約2, 000名が参加していて、さまざまなスタイリングを提案しています。また、WEBストア内から着用アイテムのオンラインショッピングもできます。さらに一部のスタッフはインスタと連携しているため、インスタの投稿を見て自分に合ったスタッフを探すことができます。DMで商品やコーディネートについての質問がくることもあります。

「〇〇のトップスには、何を合わせればいいですか?」「30代のママですが、お出かけ用の服を探しています」など、お客さまからさまざまな相談を受け、コミュニケーションをとっています。

──オンラインならではの難しさはありましたか?

オンラインでは、お客さま一人ひとりに合う服を選ぶのが難しいですね。店頭では目の前にお客さまがいて、プライベートな話ができます。体型のどこに悩みがあって、どのようなシチュエーションで、誰とどこに着ていく服なのかを聞けるので、おすすめしやすいんです。でも、オンラインではそうはいきません。反応が目に見えないし、お客さまも目の前にいないので、工夫が必要です。

──具体的にはどのような工夫をしているのですか?

基本は店頭と同じですが、DMで質問が来た際にはお客さまに話を聞いて用途を絞っています。具体的には、「普段はどんな服を着ていますか?」とか「どこに着ていく服ですか?」と質問していくんです。それである程度はおすすめの服が提案できます。

あとは何種類かのコーディネートを提案しています。「これもかわいい」「これも合いますよ」と複数の写真を用意して送っているんです。ダイレクトに反応が見られるわけではないので不安はありますが、他店舗のスタッフとも協力して、どんなスタイリングの投稿がお客さまに支持されるか、どうすればお客さまにより満足いただけるかなど、オンライン接客のノウハウを共有しながら、なるべく良い買い物をしてもらうために頑張っています。

「見られている意識」を持ちながらも手の届く存在でありたい!

──オンライン接客はいつごろからスタートしたのでしょうか?

以前から『STAFF BOARD』での投稿はしていましたが、力を入れだしたのはコロナ禍の自粛期間中です。外に出かける人が少なくなりましたし、お店も営業を自粛していたので、その間に販売スタッフにできることを模索していました。『STAFF BOARD』をもっと活用するために個人のインスタアカウントとの連携を始めたんです。

──営業自粛中のオンラインの活用はスムーズにできましたか?

結構工夫が必要でした。お店が開いていないし、自分で持っているアイテムには限りがあるので、1枚のトップスを複数のコーディネートで着回すなど、バリエーションを出すのに最初は苦労しましたが、店頭での接客時にいただいていたお客さまの声や今までの経験を生かして活用できたと思います。

──Instagramと『STAFF BOARD』では投稿する写真は違うのでしょうか?

まず着る服が違います。個人のInstagramでは他社のブランドも交えて、『STAFF BOARD』では自社ブランドの服のみでスタイリングしています。個人のInstagramは「映え」が重要なので外で撮ることが多いです。あとは雰囲気づくりですね。服だけじゃなくて、ネイルやカフェの食事もアップして、できるだけ私のライフスタイルが伝わるように工夫してお客さまに共感してもらえる投稿を心がけています。

──それぞれ投稿の内容を変えているんですね。komiさんは販売スタッフとしてはたらいていますが、オンライン接客を始めてから、はたらき方は変わりましたか?

大きく変わったのは「見られている意識」かもしれません。個人のインスタと『STAFF BOARD』を連携してからは、お店で「いつもインスタ見てます!」と声をかけていただいたり、DMで「今日お店で見かけたんですけど、緊張して話しかけられませんでした……」とメッセージをいただいたりすることがあるんです。店頭に立つときは「常に見られているかも」と気を配るようになりました(笑)。

──販売スタッフではなく、タレントみたいですね。

そういう側面もあるかもしれないです。でも、私は手が届く存在でいたいと思っていて。一昔前は109のカリスマ店員のように、「憧れているけど手が届かない存在」がお店にいました。私はもっと身近な存在として気軽に話しかけてもらいたいですし、積極的にコーディネートの相談に乗りたい。

今では投稿をきっかけに、千葉など遠方から「会いたくて」とわざわざ横浜のお店に足を運んでもらったり、リピーターになってくださるお客さまもいるので、それがすごくありがたいしうれしくって。

やっぱり実店舗があることってすごく大事で、店頭の接客があるから、お客さまの身長や体型、洋服の系統などを把握できますし、手触りや風合いなど商品の魅力を知ってもらえる。そして、オンラインでも購入してもらえる。私がオンラインで発信することがお店やブランドのファンを増やすことに結びついているので、投稿を続けるやりがいになっています。

オンラインでも対面でも、一つ一つの機会を大切に

──ところでkomiさんは、なぜアパレルの世界に入ったのでしょうか?

私は高校卒業後に上京して、当時は美容師の世界に憧れていました。でも、気持ちが定まりきっていなくて、ファッションやスタイリングの勉強のために原宿のお店ではたらくことにしたんです。

そうしたら、本当に楽しくって。洋服が好きですし、接客も好きなので、どんどんのめり込んでいきました。はたらくうちに馴染みのお客さまができたこともやりがいになっていましたし、一緒にはたらく仲間にも恵まれましたね。当時の店長は憧れの人で「こんな人になりたい」という気持ちが、今でもモチベーションになっています。

そうして3年間アルバイトスタッフとしてはたらいたあとに、アダストリアの社員になり、今はたらいている横浜のお店に異動しました。

──今までお話を聞いてとても仕事熱心な方だと感じています。komiさんにとって「はたらく」って、どんな存在ですか?

私にとって、この仕事は趣味でもあるんです。もともとファッションや洋服が好きで販売スタッフになりましたし、お店が閉まっていた自粛期間中もずっと「はたらきたい」と思っていました。仕事がないと生活が楽しくありません。

──仕事が趣味や生活の一部になっているんですね。最後に、今後の目標を教えてください。

今はSNSの時代なので、もっともっと影響力をつけていきたいです。インフルエンサーじゃないですけど、「この人が言うなら買ってみよう」と思ってもらえるような販売スタッフになりたい。最近では、スタッフが投稿した動画をまとめて見られる「ドットエスティ・チャンネル(.st CHANNEL)」も始まりました。人前に立つ機会も増えてきたので、一つ一つの機会を大切に更新を続けていきたいです。

ニューノーマルのはたらき方のヒント
 
●オンライン販売では、情報が少ないからこそお客さまを想像して、幅広く提案しよう

●オンラインでも一つ一つの出会いを大切に

(文/鈴木雅矩 インタビュー・編集/BrightLogg,inc. 撮影/河合信幸)

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ライター鈴木雅矩
1986年生まれのライター。過去に350名以上の取材記事を執筆。著書に『京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)』。

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