国民的人気シリーズ「たまごっち」、スマート化であえて残した「らしさ」とは

2022年2月14日

1996年の発売以降、携帯型育成玩具というジャンルを確立し、国民的タイトルとなった「たまごっち」。2021年11月23日に新シリーズ「たまごっちスマート」が発売されました。25年間、多くの人に愛される「デジタルペット」はどのように生み出されているのでしょうか? 「たまごっちスマート」の企画を担当した株式会社バンダイ 安田江利果さんにインタビューしました。

令和時代の“スマート”な「たまごっち」

───たまごっちシリーズの最新作となる「たまごっちスマート」が昨年11月23日に発売されました。発売日にはおもちゃ屋さんに長蛇の列ができるなど話題となりましたが、どのようなコンセプトで開発されたのでしょうか?

「たまごっち」は1996年発売の初代たまごっちのDNAを受け継ぎながらも、現代に合わせてアップデートされてきました。最新作「たまごっちスマート」は、その名の通り“スマートなたまごっち”というのがコンセプトです。

ポイントとしては、腕時計の形をしたウェアラブル型デバイスになったこと。画面をタッチしたり、マイクで話しかけることで、キャタクターとコミュニケーションをとれること。そして、それらのコミュニケーションを通じてユーザーに「懐いてくれる」という機能を搭載したことが特徴ですね。

──なぜ、「たまごっちがユーザーに懐いてくれる」という点に着目したのでしょうか?

開発当時、コロナ禍でペットロボットがすごく流行っていました。多くの人が自宅に籠もる中で癒やしを求めていたのだと思います。

そうした様子を見ながら「たまごっちらしさを失わずに、ペットとして進化させるにはどうしたらいいだろう?」と考えたときに、自分のことをもっと認識して懐いてくれる感覚を得られる、そんなたまごっちが今の時代にふさわしいのかなと考えました。

玩具メーカーの企画職ってどんな仕事?

──安田さんはいつからたまごっちシリーズの企画に携わっているのでしょうか。

2018年に発売された「たまごっちみーつ」というシリーズから関わりはじめました。それ以前は営業で1年間、市場開発を担当していました。

──バンダイさんのようなメーカーでは「企画職」はいわゆる花形なイメージがありますが、具体的にどんな業務をされているのでしょうか?

企画職って、外から見ると「自分のアイデアが形になってかっこいい」なんてイメージがあるかもしれません。あくまでも個人的な肌感覚ですが、実際の仕事の大半は交渉や調整なんです。

私の場合は工場やデザイナーさんと交渉や相談をしたりする時間が多く、その他の時間でこういう色味にしたいとか、こういうロゴにしたいとか、アイデアを考えています。

大人数が関わる中で一つのプロダクトを生み出すというのはこんなに大変なんだって、企画部に異動してきて初めて気付くことができました。

──営業とは業務内容が大きく変わったかと思いますが、不安などはありましたか?

不安……はあまりなかったかもしれないですね。私は、まずは自分の企画を良いと思ってもらって商品化に進めるよう、「社内のメンバーへ営業(自分の企画をプレゼン)する」というような感覚があったので。営業時代の経験が活かされている部分も多くあります。

たとえば、営業だった時に、「資料を読む人の目線に立って作りなさい」と当時の上司に良く言われていました。企画職でも工場やデザイナーさんと交渉するときに「〇〇さんはこういう点を気にするからこういう話し方をしよう」と考えたり、商品を買ってくれる人はどのような点を求めているかなど、相手の立場に立って考える点は同じで、 業務内容は違うものの通じるところはあると思います。

──では異動後、企画職としての仕事はスムーズにいったんですね?

そうでもありません(笑)。最初はデザイナーさんにも「こういうデザインにしてください」とか、私が思うことをそのまま投げていたんですよ。でも、どうも思うようなデザインにならなかったり、デザイナーさんの能力が発揮できていない感覚があったり。それで、私が良いと思うデザインではなくて、私が何に悩んでいるか、課題を共有するようにしました。

そうして課題を共有していくうちに、だんだんと上手く仕事がまわるようになってきて。一緒に課題に向かってくれる仲間と呼べる存在も増えてきました。今回の「たまごっちスマート」にも何十人という人が関わっていますが、同じ目標に向かう仲間を増やしていくということは、この数年間で徐々にできるようになってきたことだと思います。

絶対に変えてはならない「たまごっちの本質」とは?

──「たまごっちスマート」の企画を行う上では、どんなところから着手されたのでしょうか?

「たまごっち」というコンテンツの本質が何かを学ぶところからスタートしたのですが、その作業が大変でした。というのも、私は元々たまごっちで遊んだことがほとんどなかったんです。6歳の時に親に買ってもらったことはあったのですが、あまりプレイしないうちに誤って洗濯してしまい壊してしまって(笑)。なので、本当にゼロからたまごっちのことを勉強するという姿勢で、過去の開発資料を読み込んでいきました。

画像提供:バンダイ

──過去作から受け継がれているのはどんな点でしょうか?

一番分かりやすいのは外見のデザインです。卵型のシルエット、三つのボタン、四角い液晶の画面というのは実は25年前から変わっていないんです。このデザインは海外の方にもひと目で「たまごっち」だと認識していただけるほど浸透しています。タッチパネルだからボタンをとってしまうということはせず、ブランドの資産と判断して残しました。

──なるほど。「スマート」なのにボタンがあるのはそういうことなんですね。

あと、昔からたまごっちには電源のボタンがないんです。一度電池を入れてスタートさせると、ユーザーと同じ時間軸で進んでいく。プレイヤーの都合でたまごっちの育成を途中でやめることができないところですね。つまり、ペットと同じように一度始めたら24時間お世話をしてあげなきゃいけないんです。

プレイヤーの都合の良いときに遊べる方が良いのでは?という社内の意見もありましたが、実際のペットは電源をオンオフできないものなので。そこは変えずに残しました。

──本質を守りながら、アップデートする部分を決めていったということですね。企画において特に苦労したことはありますか?

「スマートなたまごっち」というコンセプトが決まるまではずっと頭を悩ませていました。2020年の春から開発に取り組んでいたのですが、「ウェアラブル」「タッチパネル搭載」という断片的なアイデアはあったものの、それらがバラバラに散らかっているような状態で……。会議でも「何がしたいかわからない」と言われていました。プロダクトとしてのまとまりがまったくなかったんです。

そんな状態が何ヵ月も続いていたある日、「スマート」という言葉が頭に浮かんできたんです。この言葉があればウェアラブルもタッチパネルも、「スマート」というコンセプトで結びつけることができると思い、すぐ「スマートでいきましょう!」と同僚に電話しました。

──「スマート」な機能は、過去のたまごっちシリーズから今回大きく変化させた部分ですよね。変える部分と変えない部分のバランスはどのように決めていったのでしょうか?

直感的な部分も多分にあるのですが、たまごっちの本質がなんであるかを理解したら、変えなくてもいいところと変えるべきところの線引きが私の中ではっきりとしたんです。

たとえば、タッチパネルを採用しても初代たまごっちから受け継がれている卵型のフォルムやボタンを残すなど、たまごっちのアイデンティティとも言える部分は引き継いでいくようにしました。

ヒットするおもちゃは「子ども向け」につくられていない

──発売後の反応はいかがでしたか?

おかげさまで発売直後からご好評をいただいています。母親から「こんな責任ある仕事で、売れへんかったらクビになるんちゃう?」と冗談まじりに言われはしたものの、ひとまずクビはまぬがれそうでホッとしています(笑)。

発売後におもちゃ売り場に足を運んでみたのですが、目の前で買ってくれているお客さんを見てうれしい気持ちになりました。SNS上の反応を見ていても、開発時の思いがしっかり伝わっているようで安心しています。

──特に印象的な声などはありましたか。

上司のお子さんがたまごっちを死なせてしまって「もうこんなことにならないように、次からはちゃんと育てるんだ』と言って泣いていた」という話はとても印象深かったです。おもちゃの中のキャラクターではありますが、ちゃんとペットとして扱ってもらえているんだと思い、おもちゃをつくることへの責任を強く感じました。

──子ども向け製品の企画を考えるにあたって安田さんが意識していることはありますか?

子ども向けの製品だからといって、子どもらしいものにしすぎないということですね。

──どういうことでしょう?

たとえば『鬼滅の刃』という作品は、幅広い年代を魅了して大ヒットとなった作品です。これは大人と子どもの間で、コンテンツの垣根がなくなっている証拠だと思うんです。なので子どもに寄り添いすぎるよりも、大人でも欲しいと思うようなものを追求していくことで、かえって子どもたちにも響く作品になるのではないかという思いがありました。

──なるほど。それは、大人向けの製品と同様に企画するということではありませんよね。具体的にはどのような点で子どもへの気配りをされているのでしょうか。

「たまごっちスマート」では、キャラクターにあげるごはんがデリバリーされてきます。コロナ禍で、子ども達はきっと大人がデリバリーを注文する姿を家で見ているはずです。そして、それをやってみたいと思っているんじゃないかな?と想像したんです。企画というのは、相手の立場に立って「何が楽しいかな?」と考えることなんだと思います。

──デリバリーとは、とてもおもしろい視点ですね。最後に、安田さんの今後の展望を聞かせていただけますか。

今後はデジタル玩具の分野で、もっと楽しめるタイトルを世に送り出していければと思います。特にたまごっちシリーズは北米や欧州でも好評を得ているので、デジタルペットというものが世界的に根付くようにしていきたいです。

(文:高橋直貴 写真:玉村敬太)

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編集者/ライターハヤオキナオキ
広く、深く、いろんな現場に出没します。朝の取材が得意です。
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